※この作品はR-18です。

卯月とファンの恋物語『2』~   作:水原渉

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 Masque:Radeの謎解きゲームは、公式サイトでは150分となっていたが、食事をしたり謎に頭をひねったりしていたら、最後のライブ会場に辿り着くまでに、実に5時間もかかった。11時の部でスタートして、すでに16時を回っている。決して遅い時間ではないが、こういう季節なのですでに西の空が夕日で赤く染まっていた。

 ゲームは楽しかった。謎はともかくストーリーが抜群に面白くて、最後の最後でずっと仲裁役を務めていた美穂ちゃんがセンターを持って行く展開には、思わず笑いが零れた。

 新曲もノリが良くて好きなタイプで、一度Masque:Radeの現場にも行ってみたくなった。水野が推しているまゆちゃんや、卯月ちゃんがピンチェでユニットを組んでいる美穂ちゃんのことを知ることができたのも収穫だった。

 大満足して会場を出ると、卯月ちゃんがくすっと笑った。

「○○さん、とっても楽しそうです」

「うん。これはいい企画だった。ニュージェネでもやってほしい」

「私たちの知名度ではお客さんが集まりません。今回も、美穂ちゃんとまゆちゃんの力が大きいですね」

「じゃあ、ピンチェなら?」

「ピンチェは、美穂ちゃんにおんぶに抱っこのユニットにはしないっていうのがプロデューサーの方針なので、どうでしょうね」

「そうなんだ」

 相槌を打ちながら仲間に目をやると、響子ちゃんが困ったように微笑み、みくちゃんが得意気な目で俺を見上げた。

「ピンチェは響子ちゃんのプロデューサーがやってるから、美穂ちゃんを使って響子ちゃんの人気を上げたいけど、自分のアイドルを前面に出したいそのもどかしい感じが楽しいユニットにゃ」

「いや、それ楽しくないだろ。ギスギスじゃん!」

 俺が驚いてそう言うと、卯月ちゃんが呆れたように笑った。

「プロデューサーさんたちがどう考えてるかはわかりませんけど、私たちは仲良しです」

「はい!」

 響子ちゃんが嬉しそうに頷いて、卯月ちゃんの手を取った。みくちゃんだけ仲間はずれで可哀想なので、手を繋いであげようかと思ったが、何かとんでもないことになりそうだったので止めておいた。

 ゲームの満足度が高かった上、もう夜になってきたので、早めの食事にすることにした。食事と言っても、昼が遅かったこともあり、まだそんなに腹は減っていない。

 ファミレスに入ってポテトとドリンクバーで感想戦を始めると、みくちゃんが少しだけ真剣なトーンで言った。

「来年はみくもああいうのやりたいにゃ」

 李衣菜ちゃんのことを言っているらしい。ゲームはもちろんみくちゃんも楽しんでいたが、時々李衣菜ちゃんに妬いているような発言をしていた。アスタリスクでデビューして、片方だけ別のユニットで活躍しているとなれば、心中穏やかではないだろう。

「競争心は大事だな」

 無難なコメントをすると、みくちゃんはチラッと俺を見てから、重くならないようにため息をついた。

「このあいだのライブもそうだけど、李衣菜ちゃん、最近Masque:Radeのお仕事が多くて、みくは一人のことが多いにゃ。どうしたらいいんだろ……」

 場がシンとなる。他の二人に目をやると、卯月ちゃんが何か言えと言わんばかりに俺を見た。無茶振りだ。一介のファンには難しい悩みだが、二人が口を開かないのでプロデューサー役を続けてみる。

「何か、積極的に提案してみたら?」

「やりたいことは言えるよ? クイズ番組にも出たいし、食レポとかもしたいし、卯月ちゃんたちがやってたみたいな学園祭のステージとかにも興味があるし。でも、自分で営業なんてできないし、プロデューサーに任せるしかないけど、シンデレラは人数が多いから……」

 確かに、あのプロデューサーは一人で14人ものアイドルを見ている。俺が知らないだけで、他にも担当アイドルがいるのかもしれない。必然的に、卯月ちゃんや李衣菜ちゃんのように、他のユニットと二足のわらじでやっていると、軸足がそちらに移っていく。俺自身、卯月ちゃんにはピンチェよりもニュージェネを頑張って欲しいが、最近はピンチェの仕事の方が多い。

「来年、この3人で何かやれたらいいですね。私もピンチェしかないから、みくちゃんと一緒にお仕事したいし」

 響子ちゃんが神妙な面持ちでそう言って、みくちゃんは少しだけ頬を緩めて頷いた。今のところユニットでは絡みがないが、寮ではよく一緒にいるというし、一緒に仕事をしたいというのは響子ちゃんの本心だろう。

 目だけで卯月ちゃんを見ると、にこにこしたままじっと年下の二人を見つめていた。こういう時の卯月ちゃんは、本当に何を考えているのかまったくわからない。悪いことを考える子ではないし、突き放すタイプでもない。単純に温かく見守っているだけかもしれないが、みくちゃんは明らかにアドバイスを求めていた。何か壁のようなものを感じるのは俺の勘違いだろうか。

 気を取り直しゲームの感想を語り合い、お腹が空いてきたのでパスタを注文した。二人にいつ実家に帰るのか聞いたら、二人とも明日だと答えた。

「響子ちゃんは初詣はどこに行くの? 鳥取のことはまったくわからないけど、有名な神社とかあるの?」

 鳥取というと砂丘しか思い浮かばないが、響子ちゃんは砂丘の近くに住んでいるのだろうか。一口に鳥取と言っても、米子も鳥取だし、南の山奥だって県内だ。

 響子ちゃんは懐かしむように目を細めた。

「鳥取だと、白兎神社っていう神社が有名ですね。海が見えて。でも、基本的にバスか車がないとどこにも行けないので、私は近所で済ませちゃいます」

「そっか。みくちゃんは通天閣だろ?」

 テキトーに振ると、みくちゃんは「そうそう」と頷いてから、気色ばんで突っ込んだ。

「ンなわけないにゃ!」

「大阪って言っても広いからなぁ。京都タワー?」

「それ、大阪でも神社でもないから!」

 くだらない言い合いをしていると、卯月ちゃんがくすっと笑った。

「年末って感じがしますね」

「卯月ちゃんは、初詣はどこか行くにゃ? ○○チャンと行くの?」

「そうですね。そんな話もしています。東京タワーですかねぇ」

「そのネタ、引っ張らなくてもいいにゃ!」

 みくちゃんが疲れたように言って、みんなで笑った。最後は明るい空気になって良かった。

 結局2時間近くファミレスで喋り、年末の決め台詞、「良いお年を」を投げ合って別れた。二人の背中が見えなくなるまで手を振ってから、卯月ちゃんが小さく息を吐いた。

「楽しかったけど、疲れました」

「同じく」

 二人で笑い合って、駅に向かって歩き出す。急に別れた二人が戻ってくるといけないので、手は繋がずに歩きながら、これからどうしたいか聞くと、卯月ちゃんは1秒も考えることなく答えた。

「まだ早いし、もうお店は十分なので、○○さんのお部屋ですかね」

「大歓迎だよ」

 それが単に人目のない場所で過ごしたいという意味なのか、それともイチャイチャしたいという意味なのかはわからないが、それは部屋に着いてから考えればいい。昨日さんざんエッチなことをしたが、もちろん今日もしたい。

 電車の中で卯月ちゃんがゲームのことを話し始めたので、俺が抜けた後、どうだったかを聞いてみた。卯月ちゃんは思い出したように微笑んだ。

「そういえば、そんなこともありましたね。普通にゲームを楽しんでましたよ?」

「ならいいけど」

「そんなに視線が気になりましたか?」

 卯月ちゃんがからかうように笑った。全然怒ってはいないようだ。大丈夫だとは思っていたが、俺は改めて安堵の息をついた。

「人に注目される人生を送ってないから」

「仕方ないですね。ステージに立つと、見られていない方が悲しくなります」

「それは俺には一生縁のない感情だな」

 ゲームの話をしながら家に帰り、とりあえず抱きしめ合ってキスをする。ムラムラしたのでそのまま布団に倒れ込むと、卯月ちゃんも最初からそのつもりだったのか、俺の背中に手を回して、膝の間に自分の膝を割り込ませた。

 結局2回エッチしてから、裸で布団に潜り込んだ。しっとりと汗ばんだ卯月ちゃんの体を抱きしめて、背中を撫でていると、卯月ちゃんが俺の肩を枕にして眠そうに言った。

「このまま泊まっていきたい」

「諸問題がクリアできれば大歓迎だけど」

「諸問題がクリアできませんね。お休み中はまだまだ一緒にいたいので、怒られない時間に帰ります」

 残念だがそれが無難だろう。まだ高校生だし、無茶を言ってはいけない。すでに十分遅くなっているが、一体何時まで怒られないのだろう。

 卯月ちゃんの髪の匂いを嗅ぎながら、少しだけ汗に濡れた髪を撫でる。

「今日はどうだった?」

 囁くように聞くと、何を考えているのか、卯月ちゃんは俺の腋の辺りを甘噛みしながら答えた。

「楽しかったですよ? みんなで遊ぶのもありですね」

「本当にそう思ってる?」

「はい。ここで嘘をつく理由がありません」

 そう言ってから、卯月ちゃんが潤んだ瞳で俺を見上げた。そのまま首元に顔をうずめて、うなじをぺろりと舐める。ねっとりとした舌の感触に、下の方が熱くなってきた。

「男女の差かもしれませんね。女子って、自分の彼氏を友達に紹介したり、一緒に遊んだりするものです」

 それはそうかもしれない。既婚女性のグループで全員が旦那を連れてきて、他人同士の旦那が困り果てるみたいな話を聞いたことがある。卯月ちゃんもそういう感覚だと言われれば、理解できなくもない。

「○○さんが褒められるのは、私も嬉しいです」

「でもみんな、俺を卯月ちゃんの従兄弟のお兄さんだと思ってるよ?」

「それはどうでしょうね。自分からは聞けないのでわかりませんけど、今日○○さんが頻繁に私をちゃん付けで呼んでも、二人とも全然気にしてなかったし、美穂ちゃんと同じで、薄々気付いてそうな気はします」

 それに関しては、響子ちゃんは怪しいが、みくちゃんは確かにそうかもしれない。従兄弟にしては俺たちは仲が良すぎるし、そもそも普通はあーんして食べさせたりしない。

「卯月ちゃんは気付かれたいの?」

 なんとなく聞くと、卯月ちゃんは「もちろんです」と即答した。

「○○さんが私の彼氏だってわかった上で受け入れてもらえたら、それはそれが一番嬉しいです。私も楽だし、嫉妬とか心配とかも要らなくなるし。でも、やっぱり美穂ちゃんと同じで、それは絶対に言葉にしないんですよ」

「騙し合い?」

「それは言葉が悪いですね。このドキドキ感、私は結構好きですよ?」

 いたずらっぽく笑ってから、卯月ちゃんが唇を押し付けてくる。

 きっと、そのスリルが楽しいのは、最悪バレても大丈夫だと思っているからだ。危険がないとわかっているコースターのようなもので、今日俺があのビルのフロアで感じた恐怖とは種類が違う。

 結局のところ、卯月ちゃんは難しく考えていない。舌を絡めながらそう指摘すると、卯月ちゃんは可笑しそうに声を立てた。

「私、いちいち深読みしてる○○さん、大好きです。大体何を考えてるかわかるから、私そんなこと考えてないのになって思いながら見てます」

 完全にからかわれている。

「でも、気分によっては、みくちゃんと喋ってると嫉妬するんだろ?」

 一矢報いるように言うと、卯月ちゃんは平然と頷いた。

「それはもちろんです。今日、みくちゃんのおっぱいに触れてよかったですね」

「腕が当たってただけだから。卯月ちゃん、気にしてなかったでしょ」

「そうですね。あの時は平気でしたけど、思い出したら気になってきました」

「頼むから思い出さないで!」

 慌てて懇願すると、卯月ちゃんは楽しそうに笑った。少なくとも今日は機嫌が良さそうだ。

 でも、明日はわからない。天気のようにころころ変わる卯月ちゃんの気分と付き合うのも嫌いではない。

 危険のないコースター。仲さえ安定していれば、少々の理不尽も可愛く思えるものだ。

 

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