そうして迎えた土曜日、朝から遊ぶ予定がなくなったので、夕方までは退屈な時間を過ごす。卯月ちゃんとは朝から電話をしたが、仕事はなるべく早く終わらせると、俄然やる気になっていた。終わらせると言っても、事務仕事ではあるまいし、卯月ちゃんの努力で早く終わるものでもないだろう。そう突っ込んだら、卯月ちゃんは力強く言った。
『何も言わずににこにこして頷いていれば、少しは早く終わるかもしれません!』
「いや、それもう誤差だから、ちゃんと仕事して」
『苦渋の選択ですね……』
相変わらず愉快な子だ。いずれにせよ、後の二人が黙っているとは思えないので、長引く可能性は十分ある。本人が一番やきもきするだろうから、せめて俺は余裕の対応をしよう。
荷物を預かって欲しいと言われたので、仕事の前に少しだけ会ってバッグを受け取った。冗談で中を見てもいいかと聞いたら、退屈をさせるから好きにしてもいいと言われた。信頼されているのか、緩いのか、見られたいのか、試されいるのか、相変わらずよくわからない。
荷物が増えてますますやれることが減ったので、ネットカフェでマンガを読んで時間を潰した。一応卯月ちゃんの荷物を見てみたが、着替えとスキンケア用品が入っているだけだった。下着は着用中もしくは着用後にしかときめかないという知見を得た。一度卯月ちゃんの部屋に行った時にも同じことを思ったので、改めて卯月ちゃんに伝えよう。
仕事は予想に反して、予定通りの時間に終わった。会っていた番組プロデューサーの方が忙しかったようで、時間になったら飛んで帰ったと、卯月ちゃんは頬を膨らませた。全体的にテキトーだったらしい。
「意味のある打ち合わせには感じませんでした。あれなら、当日の朝でも良かったんじゃないかって思います」
まだ箱根への思いが捨て切れないのか、合流するや否や卯月ちゃんがため息をついた。熱心に夜までやられるよりだいぶマシだと思うが、大人しく共感しておく。
「未央ちゃんたちはどうだった?」
「番組ですか? やる気満々ですよ。二人に任せます」
「あの子、存在感なかったねって思われない程度に」
「主役は芸人ですから、女の子がアイドル衣装を着て、後ろに立ってキャーキャー言ってれば、誰でもいいんですよ」
冷たい口調で卯月ちゃんが言い放った。珍しく辛辣だ。品川に移動しながら、その芸人が嫌いなのか聞くと、卯月ちゃんは驚いたように顔を上げて首を振った。
「いえ、楽しい人だし、会うのは楽しみですよ?」
「この仕事に対する乗り気のなさがすごいから」
「コンセプトですかねぇ。私である必要を感じない仕事っていうのもありますが、それを言ったら、私である必要のある仕事なんてほとんどないし……」
自分でもよくわからないと、卯月ちゃんは苦笑いを浮かべた。しばらく話した結果、予定を潰されたからネガティブな印象を持っているだけという結論に至り、俺はほっと息をついた。そんな俺を見て、卯月ちゃんが探るような顔をする。
「こんな私は嫌いですか?」
「どんな卯月ちゃんでも好きだけど、仕事は楽しくやってる印象があった」
「仕事ですから、嫌なことも気が乗らないこともあります。言わない方がいいですか?」
「あっ、いや、どんどん言って。ごめん」
慌てて否定すると、卯月ちゃんは安心したようにほっと息を吐いた。意外だったというだけでまったく嫌ではないし、愚痴の相手に選んでくれるのなら、喜んで付き合いたい。
品川で新幹線に乗り換えると、話題も旅行モードに変わった。すっかり笑顔で卯月ちゃんが空席を見つけて座る。
「私、自分のお金で新幹線に乗るの、初めてです。大人になりました」
「実際、なかなか大した高校生だと思うよ?」
「800万円稼いでますからね!」
「養って。頑張って料理を覚えるから」
車体がゆっくりと動き出す。新幹線には詳しくないが、のぞみよりシートがチープな気がする。各駅でどんどん抜かされていくのも鈍行感があるが、それでも新幹線は新幹線だ。
スマホで夕食処を調べていたら、あっという間に熱海に着いた。席を立ってホームに降りる。
「こだまも、通過待ちがなかったらもっと早いでしょうね」
卯月ちゃんが大阪方面に走っていく列車を見送ってから、他に降りたごくわずかな人の背中を追うように歩き出した。普段あまり意識していないが、この子は割と自分から一歩目を踏み出すことが多い。試しに半歩後ろをついていくと、卯月ちゃんが不機嫌そうに俺を睨んだ。
「どうしたんですか?」
「何が?」
「明らかに私を先に行かせてますよね?」
あっさりバレた。改札をくぐると駅前は思ったより栄えていた。手を繋いで商店街を歩く。まだそれほど遅い時間ではないので観光客も多いが、店によっては閉まり始めている。
新幹線の中で決めた店に行ってみると、雰囲気も良さそうだったのでそのまま入った。刺身定食と店の名前の入った定食を頼む。がっつり肉が食べたいお年頃ではあるが、そういう場所ではないだろう。
「卯月ちゃんって、行動力があると思うんだよね」
先程の話を掘り下げると、卯月ちゃんは可愛らしく首を傾げた。
「そうですか?」
「結構、先に歩き出すことが多いと思う」
「ホームから改札に行くくらいはしますけど、基本的にはついて行くのが好きです」
もっともな意見だ。行動力と主導権の話をしていると料理が運ばれてきたので、食事に専念する。飲みたくなったのでビールを頼むと、卯月ちゃんがまた店員の目を盗んでグラスを半分ほど空けた。
「これは、好みの分かれる味ですね」
「口に合わなかった人のする表現だ」
「人目が気になります。宿で飲ませてください」
不良だ。青少年を正しい道に導く義務を感じるので、今夜は正しいお酒の飲み方を教えよう。
料理はとても美味しかった。刺身は肉厚でこりこりしていたし、天ぷらはサクッと揚がっていた。俺が貧弱な語彙で美味しさを表現すると、卯月ちゃんがくすっと笑った。
「私も、こんな美味しいお刺身を食べたのは初めてです」
「年末にも同じようなことを聞いた。絶対にもっといいもの食べてるでしょ」
「誰と食べるかが重要な気もしますね」
それはとても嬉しい考察だ。今度二人で牛丼屋に行ってみたい。
十二分に味わって店を出ると、随分と駅前の人も減っていた。コンビニで飲み物とお菓子を調達して、ホテルのある駅の北側に移動する。卯月ちゃんは何やら上機嫌で俺の腕にしがみついていたが、細くて暗い山道を見て眉をひそめた。
「いきなり住宅街になりませんでした?」
「合ってる。大丈夫」
他に人がいなければ不安になりそうな道だが、観光客と思しきカップルや家族連れが登っていくので大丈夫だろう。ついて行くのが好きだという卯月ちゃんを引っ張ってホテルに向かう。
よくぞこんな場所に建てたと言いたくなる高低差のあるホテルにチェックインすると、部屋にはすでに布団が敷かれていた。遅めのチェックインで素泊まりだったので、用意しておいてくれたのだろう。卯月ちゃんがバッグを置いてコートを脱ぐと、布団の上にダイブした。
「もう一歩も動けません」
テンションの上がった小学生のようだ。上からの景色がなかなか良かったので、写真を撮ってから傍に腰を下ろした。スカートの上からお尻を撫でる。滑らかな肌触りと程よい弾力が素晴らしい。卯月ちゃんが顔を上げて、部屋の向こうの方を見ながら言った。
「お風呂、どうしますか? 私はまだお腹いっぱいで動けません」
「腹ごなしに運動がしたいって言った?」
「言ってません。トップクラスの曲解力は健在ですね」
卯月ちゃんがふふっと笑う。スカートをまくると、滑らかな素材の薄緑の下着が鮮やかだった。やはり下着は着用中が一番いいと伝えながら、両手で下ろす。卯月ちゃんが呆れたように吐息をこぼした。
「いいって言う割には、すぐ脱がすんですね」
「一瞬楽しんだ」
悪びれずにそう告げて、卯月ちゃんのお尻を撫でた。そっと膝を開かせて、湿り気のある中央部に指を這わせる。温かい液体が指先に絡みついて、速く動かすと水っぽい音がした。卯月ちゃんが熱っぽく息を吐いた。
「お風呂に入ってからにしましょう」
「さっきと言ってることが違う」
「綺麗とは思えませんし。そもそも、私はするとは言ってません」
どうだっただろう。昔のことなので忘れてしまった。
膝の間に横たわって、太腿を撫でながら敏感な場所に舌を這わせた。卯月ちゃんが体を震わせて、ギュッと枕を抱きしめる。濃い味と強い匂いがする。相手が卯月ちゃんだから脳が興奮するように変換してくれるが、お風呂に入りたがる気持ちもわかる。
ただひたすら、開口部を舐めていると、卯月ちゃんが身をよじって潤んだ瞳で振り返った。
「もう入れてください」
とろけるほど可愛い。下を脱いでうつ伏せに寝ている卯月ちゃんに覆い被さると、ひんやりしたお尻の感触がたまらなく気持ち良かった。両腕でしっかりと抱きしめながら中に入れる。卯月ちゃんが小さく声を漏らして、俺の腕をギュッと掴んだ。
横を向く卯月ちゃんとキスをしながら、入口付近を指で刺激した。動くとすぐにイッてしまいそうになるので、グッと強く体を引き寄せながら、胸と股間を触る続ける。うなじに舌を這わせると、卯月ちゃんが気持ち良さそうに息を吐きながら、眉間に皺を寄せた。
「もう、イキそう……」
それはもう大体反応でわかる。卯月ちゃんを頂上に導いてから、俺も何度か腰を振って引き抜いた。ここ数日我慢を重ねてしっかりと蓄えた性液を卯月ちゃんの口に放出すると、卯月ちゃんは苦しそうに呻いてから飲み干した。とても征服感が満たされるが、賢者タイムに冷静になると、なんだか可哀想な気もする。もっとも、本人はまったく気にしていないようだが。
「ひどい目に遭いました。明日警察にデートDVの相談に行きます」
まったくそんな気はなさそうにそう言って、のそりと体を起こす。口を洗うようにペットボトルのお茶を飲んでから、甘えるように俺の腕に体を横たえた。まだまだ夜は寒い季節だ。暖房も入れずにエッチしていたので、卯月ちゃんの体が余計に温かく感じる。
「温泉、一緒に入りたいですね」
「またの機会だな。日帰り湯であるかなぁ」
卯月ちゃんを背中から抱きしめて座りながら、スマホで検索してみた。ないこともないが、土日はやっていなかったり、高額だったりして現実的ではなさそうだ。
「まあ、明日は普通に観光ですね」
卯月ちゃんが仕方なさそうに肩をすくめた。もちろん、普通に観光するだけで充分満足である。
しばらくねっとりとキスをしてから、エアコンを入れて浴衣に着替えた。ジュースを冷蔵庫に入れて少し片付けてから風呂に向かう。先に少し館内散策をしたが、これと言って何もなかった。土産物屋はすでに閉まっていたが、明日街に行くので問題ないだろう。
「まあ、どこの誰にも私が熱海に行くことは言ってませんから、お土産は買っていけませんけどね」
卯月ちゃんがいたずらっぽく笑った。確かにそうだ。俺はそもそも配る相手がいないし、卯月ちゃん経由で友達になったアイドルの女の子たちにあげたら、根掘り葉掘り聞かれて面倒なことになりそうだ。
浴場の前で卯月ちゃんと別れる。たぶん俺が先に戻るだろうから、部屋の鍵は預かった。
風呂は広々として気持ち良かったが、一人だと大してすることがない上、卯月ちゃんが先に上がらないか不安になって、少しくつろいですぐに出た。
部屋に戻ると、窓の外に街の明かりが見えた。遠くは海だろうが、真っ暗で何も見えない。ジュースを開けたかったが、卯月ちゃんが戻るまで我慢する。
さっきまでエッチしていたベッドに横たわると、卯月ちゃんの香りがした。メイクを落とさずに枕に顔を埋めていたから、枕カバーが汚れている。仕事の後だったのを忘れていたのだろうか。
気にせず卯月ちゃんと化粧品の匂いを嗅ぎながら目を閉じていたら、いつの間にか眠りに落ちていた。ビールを飲んだせいもあるかもしれない。
背中から柔らかくて熱い重みを感じて目を覚ました。いつの間に戻って来たのか、卯月ちゃんが俺に覆いかぶさって耳元で囁いた。
「まだ来たばかりですから、もう寝たらもったいないですよ?」
「待ちくたびれた。もう少しゆっくり風呂にいても良かった」
「初めての旅行ですしね。私も大体の時間を伝えておけばよかったですね」
とりあえず抱きしめて合ってキスをした。
実際、それほど遅い時間ではないし、夜はまだまだこれからだ。