静かな夜だった。満室に近いはずだが、隣の部屋から人の気配を感じない。防音に優れているのか、とっくに寝てしまっているのか。いずれにせよ、俺たちも大きな声を出すべきではないだろう。
テーブルに買ってきたジュースを並べて、隣同士に座った。薄い浴衣越しに、卯月ちゃんの柔らかな腕の感触がする。何故かノーブラだったので、襟から手を入れて触りながら理由を聞くと、卯月ちゃんはそっけなく言った。
「暑いし、どうせすぐ外されますし」
今日はときめく台詞が多い。桃の絵が描かれた炭酸ジュースと、葡萄の絵が描かれた炭酸ジュースの蓋を開けて乾杯する。卯月ちゃんが美味しそうに飲んでから、缶をテーブルに置いてほぅっと息を吐いた。
「ジュースですね」
お腹はそんなに空いていなかったが、満腹というほどでもなかったので買ってきたポテチを開けた。卯月ちゃんが1枚つまんで口の中に放り込んだ。
「太るといけないので、私はこれくらいで」
「いや、1枚しか食べてないから」
「こんな時間にお菓子を食べるなんて、背徳的で心が痛みます」
そう言いながら、ボリボリ頬張ってジュースで流し込む。目がとろんで来たのは、雰囲気のせいだろうか。
「この後たくさん運動して、カロリーを消費する」
「せっかくお風呂に入ったので、今日はもう店じまいです。ピロートークで夢を語り合って寝ます」
「さっき、ブラジャーを外されるって言ってた」
「○○さんは夢はありますか?」
卯月ちゃんが俺にもたれかかりながら、眠そうに聞いてくる。俺の飲んでいたジュースを取ってぐびぐび飲むと、何やら怪しげに微笑んだ。こっちの方が口に合ったのだろうか。
「卯月ちゃんとずっと一緒にいられたら、他のことは割とどうでもいいけど」
「他人に依存する生き方はダメですね」
「卯月ちゃんは?」
「○○さんと小さな一軒家で一緒に暮らします」
「トップクラスの棚上げ力は健在だな」
冷静に突っ込むと、卯月ちゃんは嬉しそうに顔を綻ばせた。
襟から手を入れて浴衣を剥ぐと、抱きかかえながら布団の上に転がった。卯月ちゃんが俺の背中を引き寄せて、膝の間に自分の太ももを割り込ませてくる。むさぼるようにキスをしながら、胸を触った。手の平に吸い付いてくる感じがとても良い。
浴衣を全部脱いで、全裸で抱きしめ合う。お尻の方から股間に触れると、たっぷりと濡れていた。2回目なので多少長くできるだろうと、先端を入口に導いて中に入れる。一番奥まで入れて細い体を抱きしめると、卯月ちゃんが甘えるように俺の肩に顔を押し付けて吐息を零した。
「私、こうして中に入れてギュッてするの、すごく好きです」
「それはもちろん、俺もだけど」
繋がったまま卯月ちゃんを上に乗っけて仰向けになると、卯月ちゃんは俺にしがみついたまま柔らかく目を閉じた。
俺もこのまま寝たいが、さすがに無理そうだ。いくら軽いと言っても、40キロの重みを感じながらは寝られない。色々なところを撫でて楽しむ。中折れの心配はない。
30分はそうしていただろうか。そろそろ体が痛くなってきて、もぞもぞと動いていたら、卯月ちゃんがうっすらと目を開けた。だらしなく唇を開けたまま、ぼんやりした瞳で俺を見る。
「私、寝てました?」
「たぶん。わからないけど」
「そうですか。こうして○○さんの上で寝るの、少ししてみたかったのでとても満足です」
しばらくキスをしてから、よく我慢できましたと褒められたので、30分以上お預けを食らっていた股間を解放に導く。2回目も卯月ちゃんの口に出すと、たっぷり焦らされたせいか、涸れるかと思うくらい出た。
卯月ちゃんはそれを舌に絡めながらゆっくりと飲んでから、机の上のジュースを取った。グビグビと飲んで、赤らんだ顔で息を吐く。
「○○さん、本当に飲ませるの大好きですね」
「否定はしないけど、口に出してるだけで、飲んでとは言ってない」
「そういう、政治家の答弁みたいなのはいいんですよ」
「卯月ちゃん、飲むの好きかと思って」
「嫌いではないです。まったく美味しくはないですけどね。ポテチはいいですね」
呂律の怪しい口調でそう言って、広げたポテチをボリボリと頬張る。せっかくなので何か話そうと思ったが、卯月ちゃんは眠そうにまばたきをして、もはや口を開こうともしない。もう寝る提案をすると、卯月ちゃんは無機質な動きで頷いた。
歯を磨いて明かりを消して、同じ布団に潜り込む。卯月ちゃんは俺の腕にしがみつきながら、すぐに小さな寝息を立て始めた。寝ているのかはわからないが、少なくともお喋りをする気はなさそうだ。
火照った体が熱い。なかなか寝付けなかったが、こうして卯月ちゃんの体温や柔らかさや重さを感じながら夜を過ごすのも悪くない。そうして目を閉じて静かに卯月ちゃんを感じていたら、いつしか俺も眠りに落ちていた。
目覚ましはかけていなかったが、程よい時間に目が覚めた。閉められたカーテンの隙間から日差しが溢れている。天気は良さそうだ。
卯月ちゃんは柔らかく目を閉じて、気持ち良さそうに眠っている。何となくキスをして、唇の感触を楽しんでいると、卯月ちゃんがうっすらと目を開けた。
「起こされた……」
「起こす気はなかった」
布団から出てカーテンを開けると、遠くの海がキラキラと光っていた。なるほど、昨夜は暗くてわからなかったが、こういう景色の楽しめる部屋だったのか。せっかくだし、チェックアウト時間までのんびり過ごすかと海を眺めながら考えていたら、背中から卯月ちゃんに抱きしめられた。押し付けられるおっぱいが大変心地よい。
「いい天気ですね」
「俺の心がけがいいから。二日酔いとか平気?」
「はい。ジュースですから」
いつもの笑顔だ。
外から見られる心配のある構造ではなかったが、落ち着かないので窓から離れて抱きしめ合った。舌を絡めていると、股間が元気になってくる。薄い浴衣越しに卯月ちゃんの柔らかな肌に押し付けていると、卯月ちゃんが呆れたように笑った。
「朝から元気ですね」
「朝型だから」
「私は弱くはないですけど、夜の方が活動的かもしれません」
どうだろう。卯月ちゃんはいつだって元気に見える。
布団の上に転がして浴衣を脱がせた。昨夜エッチしたままなので、下着は着けていない。明かりの下で綺麗な裸体を眺めていると、卯月ちゃんが胸を隠しながら頬を赤らめた。
「恥ずかしいので、○○さんも横になってください」
体を起こして手を引かれたので、覆いかぶさるように横たわった。キスをしながら体中に指を這わせると、卯月ちゃんが気持ち良さそうに身をよじった。しばらく全身を撫でてから下の方に指を導くと、すでにたっぷり濡れていた。
「朝から元気だね」
「これは生理的な反応です」
「それは俺も同じだから」
中に入れてギュッと抱きしめる。体を動かすと、突く動きに合わせて、卯月ちゃんが「んっ、んっ」と小さく声を漏らした。途方もなく可愛い上、大変気持ちが良く、すぐにイキそうになると、卯月ちゃんは何かを感じ取ったのか潤んだ瞳で俺を見つめた。
「3回目なので、長くできますね」
「いや、今日1回目だから! 朝ご飯にも行きたいし、もうイこうかな」
おどけるように言ったが、卯月ちゃんは冷めた目で俺を睨んでため息をついた。
通算3回目も口に出すと、卯月ちゃんは苦しそうな顔で飲み込んだ。とてもそそる。昨日、別に飲まなくていいと言ったばかりだが、やはり飲みたいのだろうか。
物足りないだろうと思い、抱き寄せて股間を触りながら聞くと、卯月ちゃんは熱っぽく息を吐きながらかすれる声で言った。
「口の中の物を出したくないだけです」
確かに綺麗な行為ではない。口の中に指を2本入れて掻き回すと、透明な唾液がだらだらと太ももの上に落ちた。前言撤回。とても綺麗だ。
唾液まみれの手で胸を揉み、もう片方の手で股間を攻めながらキスしていたら、やがて卯月ちゃんは強く俺の背中を引き寄せて体を震わせた。
「はぁ、はぁ……」
エッチな匂いの充満する部屋で、卯月ちゃんが荒い息を吐いて座っている。汗と唾液でベタベタの体がとてもイヤらしい。スマホを見ると、そろそろご飯に行かなくてはいけない時間だった。何となく卯月ちゃんの写真を撮ってから、浴衣を直す。卯月ちゃんは陶然としたまま動こうとしないので、下着を着けてあげた。
「ご飯行く?」
「少し余韻に浸りたいですが……」
「気持ちはわかる」
静かに頷くと、卯月ちゃんは仕方なさそうに息をついて立ち上がった。浴衣を着て、顔を洗う。少し髪を直してから、一緒に部屋を出た。
「ご飯の後はお風呂に行きましょう。一緒には入れませんけど」
「そうだね。チェックイン遅かったし、時間ギリギリまでここにいよう」
同意を示すと、卯月ちゃんは嬉しそうに頷いた。初めての旅行だが、基本スタンスは同じようだ。
食堂でよくあるタイプの和食をいただいて、チェックアウトしていく他の客を眺めながら一度部屋に戻った。歯を磨いて、少しキスをしてから風呂に行く。今日は長めに入ったが、それでもやはり卯月ちゃんよりだいぶ早く部屋に戻った。
チェックアウトまではまだ時間があるが、卯月ちゃんはメイクをしたいと言っていたし、もうイチャイチャする時間はないだろう。浴衣を着替えて、部屋の片付けをしていたら卯月ちゃんが戻ってきた。
「あれ? 私を置いて一人で行こうとしてますか?」
「キミの曲解力もなかなかのものだ」
大いに頷くと、卯月ちゃんは鏡の前でメイク道具を開けた。壁にもたれてその様子を眺めながら、今日のプランを話す。熱海と言えばビーチである。サンビーチからムーンテラス、そして遊覧船だと事前に調べた知識をペラペラ喋ると、卯月ちゃんが苦笑いを浮かべた。
「寒そうですね」
「一理ある」
「夏にまた来ましょう。少しビーチを見に行ったら、後は足湯にでも浸かって、昨日の商店街で食べ歩きしたり、海の見えるカフェでお茶したり、そんなのでいいですよ」
それも楽しそうだ。3月とはいえ、まだ肌寒い。そういえば、ちょうど梅が見頃かもしれない。時間と相談しながら提案してみよう。
どこに行くにしても、何をするにしても、卯月ちゃんとなら楽しめる。
メイクを終えた卯月ちゃんが満足そうに微笑んだ。俺にはよくわからないが、会心の出来らしい。ステージメイクではないのでナチュラルだが、すっぴんと比べるとお姉さん度が随分と増す。
「今日は例のワンピースを持ってきたので着ますね。まだ寒いから上は着ますけど」
そう言いながら浴衣を脱ぎ捨てて、懐かしいワンピースに体を通した。久しぶりに見たが、やはりこれは卯月ちゃんのために作られたと言っても過言ではない。
初めて一緒に泊まった部屋で記念写真を撮る。来てから今まで、ひたすらエッチしかしていない気がするが、気のせいだろう。
「じゃあ、行こうか」
チェックアウトして外に出ると、卯月ちゃんが嬉しそうに手を握ってきた。本当に可愛い。
今日もきっといい日になる。いやむしろ、今日はとっくに始まっていて、すでにいい日だ。