都内の某所に、最近346プロが専用のホールを作った。オールスタンディングの小さなホールで、まだ駆け出しのアイドルのライブや、トークショーなどの小規模なイベントに使われるらしい。いつかニュージェネやピンチェのイベントで行くことになるだろうとは思っていたが、まさか初めてが響子ちゃんのライブになるとは思わなかった。
タイトルは『LIVE CARNIVAL -SO CUTE 12STARS-』で、10人の新人アイドルにゆかりちゃんと有香ちゃんの計12人が、一人30分の持ち時間でソロライブを行う。チケットは前半と後半に分かれていて、チケットを持っていれば出入りは自由。他のアイドルのライブの最中に、物販や握手会などを行う形式なので、通しで見ることは想定していないようだ。
前半は10時スタートで、14時半終了。後半は15時半スタートで20時終了。卯月ちゃんにはなるべくたくさんのアイドルを見るよう言われ、チケットも午前と午後の両方取ったが、名前も知らないアイドルのライブを10時間も見続けるのは苦行に近い。幸か不幸か、卯月ちゃんから出演者全員の説明を受けたので多少興味は湧いたが、それでもほどほどにさせてもらおう。
響子ちゃんの出番は前半の4番手。この順番には深い意味はなく、単純に年齢順に並んでいると本人が言っていた。卯月ちゃんと美穂ちゃんと一緒にいる上、しっかりしているので、どうも先輩っぽいイメージがあるが、響子ちゃんはまだ15歳である。
『トークと合わせて4曲歌います。私は自分の曲はまだ1曲しかありませんし、持ち歌のない子もたくさんいますから、346プロの色んな曲を歌うんですけど、1曲もかぶらないようにしてあるので、50曲くらい聴けますよ』
昨日電話越しに、響子ちゃんがそんなことを言っていた。50曲もあれば、当然誰かが卯月ちゃんやニュージェネの曲も歌うだろう。それは楽しみだ。もちろん、響子ちゃんが歌ってくれたら一番嬉しい。何故なら、ピンチェの響子ちゃんが、卯月ちゃんのいる場所で、卯月ちゃんやニュージェネの曲をソロで歌うことはないからである。是非こういう機会に歌ってほしい。
開場は9時で、それを少し過ぎたくらいに着いたが、列は出来ていなかった。何人並んでいたかはわからないが、すでに全員中に入ったようだ。
ちらりと物販のボードを眺めてから、ひとまず中に入ってみた。薄暗いホールの中には、前の方に40人ほど。他には壁際や後ろの方に、合わせて20人くらいだろうか。まだこれから増えるだろうし、外にたむろしていたファンも入ってくれば、開始時点で100人は超えるだろう。
1番手は白菊ほたるちゃん。それに、柳瀬美由紀ちゃん、棟方愛海ちゃん、響子ちゃん、栗原ネネちゃんと続き、前半のトリは水本ゆかりちゃんが務める。響子ちゃんの出番までにどれくらいの人が入るか。ゆかりちゃんの人気もわからないので、予想がつかない。
外に出て、物販で響子ちゃんのリストバンドを買って腕につけた。スマホを見ると卯月ちゃんとみくちゃんからメールが来ていた。卯月ちゃんからは、後から感想を聞くのでしっかり見るよう念を押す内容だった。わかったと簡潔に返事をする。
みくちゃんからは、後半の途中から行けるので、一緒に見ようと書かれていた。時間的には4人くらいしか見れないが、それでも2時間以上だと思うと来る価値はあるのだろう。正直なところ後半は知っている子もいないし、全然興味がなかったので、みくちゃんが来てくれるのは有り難い。周りにバレないように気を付ける必要はあるが、一人で見るにはあまりにも退屈だ。幸か不幸か、今日は俺のことを知っているドルオタ仲間はみんな不参加である。
みくちゃんにメールを返してから、346プロのサイトで出演するアイドルのプロフィールを眺めていたら開演時間になった。結局100人くらいは集まったので、さすがは346プロと言うべきか、それとも白菊ほたるという子が、俺が思うよりも人気なのか。
もちろん中には、俺のように箱推しではないファンもいるだろう。実際に、ほたるちゃんがステージに上がってもフロア全体が熱くなる感じではなかった。
なかなか体験したことのない空気だ。ニュージェネは単独もしくはCPのメンバーとしかライブをやらないので、数は少なくても、来ている人間は少なからずニュージェネに興味がある。こういう、数は多いがステージに興味がない人もいるというライブは経験がない。
まばらな拍手で始まったライブは、1曲目から知らない曲だった。後から曲紹介で『ステップ&スキップ』というタイトルだと知った。可愛らしくて元気な曲だったが、ほたるちゃんは大人しくて控えめな子だった。どこか智絵里ちゃんを彷彿させるが、幼いせいか智絵里ちゃんよりもずっと弱々しく見える。
儚げな雰囲気、不安そうな表情、か細い声。顔は可愛いが、どこかぎこちない笑顔。しかし、緊張している感じではなかった。実際プロフィールを見ると、年齢の割に芸歴が長いのがわかる。不思議な子だが、タイプかと言われるとそうでもない。そもそも13歳という年齢は、異性として見るにはいささか若すぎる。
ほたるちゃんのライブが終わると、入れ替えのために10分間の休憩に入った。その間に外ではほたるちゃんの握手会やサイン会が行われ、ほたるちゃんのファンはフロアを出て行く。この形式だと、一つ前のステージの子が人気だと、フロアに残る人数が少なくなる。果たして響子ちゃんの前の棟方愛海ちゃんはどうなのだろう。
次に登場した柳瀬美由紀ちゃんは、ほたるちゃんとは違って元気の塊のような女の子だった。小学生に見えるが、14歳らしい。飛んだり跳ねたり、ステージの上を走り回って笑顔も明るい、いかにもアイドルという感じの子だ。キュートというよりはパッションという感じもするが、346プロのパッションは個性的なアイドルが多いので、やはりキュートだろうか。
ここまでタイプが違えば、ほたるちゃんとあまりファンがかぶらないかもしれない。確かに単純に年齢順に並んでいるようだが、一応そういう配慮がされているのだろう。ほたるちゃんの握手会に参加すると美由紀ちゃんのステージが見られないというのは、この形式の最大の欠点である。俺も響子ちゃんの後の栗原ネネちゃんのライブは、恐らく見ることができないだろう。
少し美由紀ちゃんが気になったので、握手会の様子を遠巻きに眺めてから、3人目の棟方愛海ちゃんのライブを見るためにフロアに戻ると、前の二人とは明らかに異なるフロアの熱量に、思わず息をのんだ。
こいつはヤバイ。歌っているだけなのにわかる。明らかに前の二人とは違う。可愛さとか、歌の上手さとか、表現力とか、そういうものではない。圧倒的な個性。強く惹きつけられるが、逆に強く嫌悪する人もいるかもしれない。批判的な意見に堪えられるのであれば、その個性はアイドルとして勝ちなのだろう。
歌が終わってトークが始まると、やはり何かが違った。CPにはいないキャラクターだ。どうやら胸が好きらしい。今日の出演者の胸について熱く語り、ファンが真顔で頷いている。しかし、セクハラめいた内容ではなく、子供が将来の夢を語るような純粋さで話が繰り広げられている。
俺は卯月ちゃんの単推しから始まり、ニュージェネの二人を知り、CPのメンバーを覚え、だいぶ346通になった気でいたが、所詮CPは巨大な346プロの中の1プロジェクトでしかないと気付かされた。愛海ちゃんのような強烈な個性を持ったアイドルが、346プロにはたくさん在籍している。
あっと言う間の30分が終わると、フロアが拍手に包まれた。歌は結局3曲しか歌わず、トークショーのようになっていたが、とても満足な内容だった。自分のように、まったく興味がなかったが、今日初めて知って興味が湧いたというファンも少なくないだろう。
フロアが明るくなると同時に、ファンがゾロゾロと外に出て行く。しかし、逆に入ってくるファンもいて、人数としては愛海ちゃんと同じくらいだろうか。
俺はほっと息をつきながら、入れ替えのタイミングで最前列に移動した。ファンの数は決して少なくはないが、フロアが埋まるほどでもない。アスタリスクのハロウィンイベントは一番後ろから見たが、今日は率先して友達を応援しよう。
フロアが暗くなると同時に、ピンチェのペンライトを点ける。ピンチェパーカーに、最初に買ったリストバンド。今日この30分だけは、響子ちゃんのTOになろう。俺は気合いを入れてペンライトを握った。