※この作品はR-18です。

卯月とファンの恋物語『2』~   作:水原渉

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 街はすっかり夜だった。水野からライブはどうだったかとメールが来ていたので、それに返信しつつ、電車に乗って指定された駅に向かう。少し前に、混みそうだったから先に入ったとみくちゃんから連絡があった。立って待たせるのは心苦しいので、そうしてくれるのは有り難い。

 卯月ちゃんには、みくちゃんに連行される話は事前にしてある。みくちゃんが誰を連れてくるかは聞かされていないと素直に伝えたが、果たして卯月ちゃんはそれが美穂ちゃんだと知っていたのだろうか。また今夜聞いてみよう。ひとまず「ライブお疲れ様」とだけメールをしておいた。

 送られてきた地図を頼りに、繁華街から少し外れたファミレスに行くと、奥の席で女の子が3人座って、楽しそうに談笑していた。もう一人は誰だろうと思ったら、響子ちゃんだった。仕事が終わって合流したのだろう。

「俺の場違い感、すごくない?」

 開口一番そう言って、みくちゃんの隣に座った。ドリンクバーでくだを巻いていたと言うので、料理を注文してからドリンクを取りに行く。

 一息ついてから向かいに座る響子ちゃんを見ると、綺麗な服を着て、いつもより少し濃い目のメイクをしていた。戦闘モードのいかにもオタクスタイルの俺との差がひどい。

「今日は撮影の仕事だったの? いつも以上に可愛いよ」

 何気なくそう聞くと、隣でみくちゃんが「浮気にゃ」と呟いた。そのフレーズが気に入ったのだろうか。

 響子ちゃんははにかみながら頷いた。

「はい。今日は夕美さんと撮影でした。相葉夕美さんは知ってますか?」

「名前は聞いたことがある。パッションの子だっけ?」

「はい。曲があるわけじゃないんですけど、宵月花乙女ってユニットでちょっと企画が進んでいます」

「響子ちゃんのプロデューサーって、キュートアイドルのエキスパートだろ? 珍しい組み合わせだね」

「キュートアイドルのエキスパートって……」

 美穂ちゃんが苦笑する。ピンチェでお世話になりつつも、一度プロデュースを断っている過去があるので、どういう距離感で仕事をしているのだろうか。下世話な好奇心はあるが、今の関係でそれを聞くのはいささか不躾だ。

「雰囲気ですかねぇ。私にもわかりませんけど、プロデューサーさんを信じてついて行きます」

 響子ちゃんが真っ直ぐな瞳で力強く頷いた。羨ましい信頼関係だ。

「それで、握手会はどうだった?」

 みくちゃんがそろそろいいかと切り出す。確かに、せっかくだからライブの話がしたいし、Sレアアイドルがいるのだから話もしたい。美穂ちゃんだけ特別扱いするのはみくちゃんと響子ちゃんに失礼かもしれないが、二人はもう俺の中でも友達枠にいる。

 何でもない話をして、凛ちゃんにタオルを買わされた話をしたら、美穂ちゃんがくすっと笑った。

「ファンの人の話って、新鮮で面白いです。直接聞くことってないから」

「それがみくが○○チャンを友達にしてあげてる理由にゃ」

 みくちゃんが偉そうにそう言って胸を張った。随分な扱いだが、アイドルの子がファンと話せる機会など、握手会の一瞬くらいしかない。ファンの代表面をするには俺は特殊だと思うが、価値があるなら使ってくれればいい。

「ライブはどうだった? 二人はセトリは知ってたの?」

 運ばれてきたハンバーグにナイフを入れながら聞いてみる。みくちゃんが同じようにチキンステーキを頬張りながら頷いた。

「順番は知らないけど、何を歌うかはレッスンとか見てればわかるにゃ」

「直接聞いたりはしないの?」

「別に聞いてもいいけど、せっかくだから知らない方が楽しめるでしょ?」

「それはそうだな」

 俺も当日にワクワクしたいから、卯月ちゃんに聞かないようにしているし、卯月ちゃんも特別な理由がない限り、俺に言わないようにしている。俺が曲の予想をしているのが面白いとも言っていたが、それは少々悪趣味だと思う。

「私は行けないから先に聞いてたけど、余計に行きたくなっただけでした」

 響子ちゃんが残念そうにため息をついた。美穂ちゃんは、半分くらいは把握していたが、『リトルリドル』は意外だったと笑った。

「あの曲、面白そうだけど、私には回って来なそう」

 そう言って、美穂ちゃんがいかにも残念そうに息を吐いた。曲調が元気方向に可愛いし、そもそも一人で歌う曲でもなければ、Masque:Radeの雰囲気でもない。そういえば、美穂ちゃんは他にどんなユニットを持っているのだろう。

 聞いてみると、美穂ちゃんは可愛らしく首をひねった。

「346は色んな子と組んで、そのたびに名前もつけるから、すごくたくさんあるかな。でも、曲まであるのは、やっぱりピンクチェックスクールとMasque:Radeですね」

「Masque:Radeは、李衣菜ちゃんにも見に来いって言われてるし、智絵里ちゃんも知らない仲じゃなくなったし、美穂ちゃんともこうして知り合えたし、オタク仲間がまゆちゃんを推してるし、今年1回は見に行きたい」

 考えてみると、縁深いメンバーだ。美穂ちゃんが「1回と言わず」と笑うと、響子ちゃんが身を乗り出して微笑んだ。

「実は私も行ったことがないから、一緒に行きましょう! 連れて行ってください」

「チケットが取れたら。それか、みくちゃんが李衣菜ちゃんからチケットをもらって、俺と響子ちゃんが行く」

 我ながら名案だと訴えると、みくちゃんがわかりやすく半眼になった。

「みくは?」

「みくは相棒のために、自力で買って」

「おかしい。○○チャン、間違ってる」

 みくちゃんが無念そうに首を振る。響子ちゃんが可笑しそうに顔を綻ばせた。いつもは素朴な空気の子だが、今日は研ぎ澄まされた可愛さだ。思わず見惚れると、みくちゃんが「浮気にゃ」と俺の脇腹をつついた。

 それから時間も忘れてライブの話をしていると、ポケットでスマホが震えた。見ると卯月ちゃんからだった。

 卯月ちゃんとのデート中に、他の子からメッセージが来ても放置するが、逆はそうではない。3人に断ってアプリを開くと、解放されたがどうしているかと書かれていた。

『まだファミレスでみくちゃんたちと喋ってるけど、会えるなら切り上げる』

 ひとまずそう送って様子を見ることにした。卯月ちゃんの方から来てくれても構わないが、「それならいいです」と言われるのは、俺の望む展開ではない。この状況でも、俺の優先順位は揺るがない。

「卯月ちゃん、元気なら呼んだら?」

 みくちゃんが軽いタッチでそう言った。もちろんそれが一番理想的だが、何だか偉そうな感じがするし、ライブで疲れている卯月ちゃんに無理をさせたくない。

 返事はすぐに来て、『みくちゃん一人? 美穂ちゃんも一緒?』と書かれていた。やはり今日、美穂ちゃんが来るのは知っていたようだ。

『美穂ちゃんも付き合ってくれてる。後は響子ちゃんもいるから、卯月ちゃんが来たらピンチェ大集合』

『とても楽しそうですけど、さすがに疲れたからやめておきます。でも、遠慮せずに楽しんできてください。生美穂ちゃんの感想、楽しみです』

 いたずらっぽい笑顔が浮かぶような文章だった。純粋に楽しんでいるのは、美穂ちゃんが恋愛的に俺になびくことはないと確信しているからだろう。それはみくちゃんや響子ちゃんも同じだと思うが、その点に関しては、卯月ちゃんは若干思うところがあるようだ。

「卯月ちゃん、さすがに疲れたから来ないって」

 そう報告すると、響子ちゃんが仕方なさそうに頷いた。

「ピンチェが揃うチャンスだったけど、仕方ないです。ライブって、すごく疲れますから」

「ずっと踊ってるしね。ミスもできないし、俺にはステージ側は想像もできない」

「楽しいですよ。地味な私でも、キラキラできるんだって、何だか不思議な気分です」

 そう言って、響子ちゃんが明るく笑った。今自分でも言ったように、どちらかと言えば地味な子だし、およそアイドルをしそうな子ではない。それでもやはり何かしら光るものがあって、本人にも素質と気持ちがあったから、スカウトもされて、デビューしていきなり美穂ちゃんとユニットを組めたのだろう。

 地味と言えば美穂ちゃんも同じだが、こちらは可愛さが段違いだ。昔のことを聞いてみたら、アイドルになったばかりの頃、ダサいシャツを着ていて笑われたと教えてくれた。

 3人が昔の失敗談を楽しそうに話すのを聞いていたら、すっかり遅い時間になった。いつまででも聞いていられそうな話だったし、本人たちもいつまででも話し続けそうだったから、さすがにそろそろと話を止めた。みくちゃんは不服そうだったが、3人とも同じ場所に帰るのだし、続きは寮でしてもらおう。

 会計を済ませて外に出ると、みくちゃんが明るい瞳で俺を見上げた。

「今日はありがとね。楽しかった」

「こちらこそ。これで貸し2になった?」

 陽気なノリでそう返すと、みくちゃんは一瞬呼吸を止めてから、寂しそうに目を伏せた。

「○○チャンは、貸しがあったから付き合ってくれたの?」

「あっ、いや、そうじゃない」

「もう貸し0でいいにゃ」

「違うから! 今のは俺が悪かったから!」

 慌てて言い繕うと、みくちゃんはいたずらな目で俺を見て、ニッと笑った。

「じゃあ、貸し3のままね!」

 あまりにもあっさりとそう言われて、一瞬意味がわからなかった。確認するように隣を見ると、響子ちゃんが困ったように微笑んでいた。

「もしかして、ハメられた?」

「いえ、結構ギリギリだったと思いますよ」

 美穂ちゃんが可愛らしく指を立てて、軽く俺をたしなめた。失言をみくちゃんがカバーしてくれたということか。

「今日はライブがメインだったから、今度はちゃんと遊ぼう」

 そう言いながら、なんとなくみくちゃんの頭を撫でると、みくちゃんは恥ずかしそうに俯いて、「うん」と小さく頷いた。時々こういうしおらしい反応をするのは、からかわれているのか、試されているのか。

「浮気ですね」

 美穂ちゃんがそう言って笑った後、二人に気付かれないように俺の耳に顔を近付けた。

「あんまり卯月ちゃんを心配させちゃダメですよ?」

「そういう感じ?」

「まあ、私も響子ちゃんとみくちゃんなら大丈夫だと思いますけど」

 私もというのは、卯月ちゃんもそう考えていると解釈していいのだろうか。その割にはよく拗ねられるが、からかわれているだけかもしれない。本当に心配していたら、今日だって許可していないだろう。

 それにしても、今の美穂ちゃんの距離は近かった。意識したら鼓動が速くなって、響子ちゃんがいたずらっぽく俺の顔を覗き込んだ。

「○○さん、赤くなってますよ? 美穂ちゃん、可愛いですもんね」

「いやいや、響子ちゃんも可愛いよ?」

「今、ちょっと距離が近かったですしね!」

「キミがそれを言うか。そうかー」

 からかうようにそう返すと、響子ちゃんはハグのことを思い出したのか、小さく息をのんで恥ずかしそうに俯いた。みくちゃんが「何の話?」と好奇心を剥き出しにする。

 これ以上ここにいると色々とボロが出そうだったので、くれぐれも帰り道には気を付けるよう言って、三人と別れた。

 とりあえず、電車に乗る前に卯月ちゃんにメールしておく。既読にならなかったので、お風呂に入っているか、それとも今日はもう寝てしまったのか。少し声が聞きたかったが、後者なら電話は明日にしよう。

 李衣菜ちゃんから、ライブはどうだったかとメールが来たので、それに返事をしながら一人でじっくりとライブを振り返る。

 選曲はとにかく良かった。トークで凛ちゃんも言っていたが、346は色々なアイドルがいる分、曲調も様々だ。俺はわかりやすい明るいアイドルソングが好きなので、ニュージェネやピンチェの選曲は合う。もしこれがラブライカのライブだったら、まったく違う曲ばかりになるだろう。

 ボイスドラマはいまいちだったが、トライとしては良かった。それに俺の場合、その話を直接演者から聞くことができる。卯月ちゃんから色々裏話が聞けるのは楽しみだ。

 ひとまずこれで、この春の大きなイベントがすべて終わった。誕生日は比較的地味に過ごしたから、空や海の遊びを提案しよう。

 すぐにアスタリスクのライブもあるし、美穂ちゃんのイベントにも行ってみたい。

 楽しいことで大忙しだ。

 

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