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自分の単推しアイドルにして、彼女でもある島村卯月は、大手の芸能事務所346プロに所属している。
346プロには数多くのアイドルが所属しているが、彼女たちの特徴から大きくキュート、クール、パッションの3つのチームに分けている。属性といった方が的確かもしれない。
元気な子や少し変わった個性の子がパッション、控えめだったり冷静だったりする子がクール、そして可愛さを前面に押し出したアイドルがキュートだ。
卯月ちゃんに言わせると、「アイドルはみんな可愛いから、パッションでもクールでもない子がキュート」とのことだが、前に『LIVE CARNIVAL -SO CUTE 12STARS-』で見た棟方愛海ちゃんや中野有香ちゃんは、個性的にはパッションでもおかしくないが、確かにキュートアイドルという感じがした。
「卯月ちゃん、自分の謙遜に、他のキュートの子たちを巻き込んでるよ?」
軽くそうたしなめると、卯月ちゃんはむくれたように頬を膨らませていた。
よくある話だ。「私、眼鏡かけてるから可愛くない」みたいなことを言うと、他の眼鏡をかけている子が全員、可愛くないみたいに聞こえてしまう。
卯月ちゃんは可愛い自覚があるのだから、もっと胸を張って可愛さを主張すればいいと言ったら、それは自分のキャラではないと却下された。それはそうかもしれない。
346プロに所属するアイドルはいくつものグループを掛け持ちしているのが普通である。例えば、トップアイドルの一人である小日向美穂ちゃんは、ピンで活動する傍ら、卯月ちゃんたちとピンクチェックスクールを組んでいるし、李衣菜ちゃんたちとMasque:Radeを組んでいる。
また最近では、同じプロデューサーの担当アイドルである乙倉悠貴ちゃんと一緒に、ソラーナ・チーカというユニットを始めた。これはピンチェが響子ちゃんを売り出すためのグループであるのと同様、悠貴ちゃんを売り出すためのユニットなのだろうが、そういう抱き合わせ的な話は卯月ちゃんは好きではないだろうから、心の中で思うにとどめている。
卯月ちゃんはピンチェの一員だが、元々はニュージェネレーションズという、シンデレラプロジェクトの1グループとしてデビューした。シンデレラプロジェクトには14人のアイドルがいるが、それぞれが別のグループを掛け持ちし始めて、最近ではニュージェネも他のグループも、活動機会が減ってきていた。
それを打破すべく、この春、CPのすべてのユニットがライブをすることになり、その第一弾として「原点回帰」と銘打ったニュージェネのライブが先日開催された。
もちろん最前列で観戦し、大いなる満足を得たのだが、今回はさらに、アスタリスクとキャンディアイランドのライブも観に行く予定をしている。チケットも入手済みだ。
アスタリスクは今となっては友達と言っていい二人から、必ず来るよう言われた上、チケットまでもらったので行かないわけにはいかない。ハロウィンのイベントは楽しかったし、俺自身も楽しみにしている。
ライブの日は卯月ちゃんも時間を作れそうとのことだが、一緒に観られるかはわからない。会場にはCPの箱推しが多いだろうから、後からライブの感想を語り合うくらいで満足しておいた方がいいかもしれない。
キャンディアイランドの方は自分でチケットを購入した。去年の夏にCPのライブで聴いた『Heart Voice』を、もう一度近くで聴いてみたかっただけだが、卯月ちゃんは冗談か本気かわからない顔でこう言った。
「あれだけ塩対応されて、それでも智絵里ちゃんに会いに行く○○さんのマ……勇気に脱帽します」
「いや、今マゾって言いかけなかった?」
「私、そんな言葉知りません」
卯月ちゃんがいたずらな瞳で笑う。本当に曲が聴きたいだけで、握手会に参加する気はないと伝えると、卯月ちゃんは「その方がいいかもしれませんね」と無念そうにため息をついた。
何だかんだと他のアイドルと会わせたがる卯月ちゃんをもってしてその反応なので、よほど俺と智絵里ちゃんは合わないと感じているのだろう。実際にどうかはわからないが、それを確かめるつもりもない。
ライブの順番的には、まずゴールデンウィーク後半にアスタリスクのライブがあり、同じ月の最終週にキャンディアイランドのライブがある。その間に蘭子ちゃんとラブライカの合同クールライブと、パッションアイドル3人の凸レーションのライブがあるが、行く予定はない。
みりあちゃんの『Romantic Now』は結局一度も聴けていないので、ダンスも含めて見てみたい思いがないわけでもなかったが、メンバーも含めてそれ以外に興味がないし、ライブの連戦は金銭的にも厳しいので回避した。
結果的にキュートアイドルのライブにだけフル参戦することになり、卯月ちゃんには「本当にキュートにしか興味がないんですね」と呆れられたが、それは偶然だろう。そもそも卯月ちゃん以外には興味がなく、友達になるのがたまたまキュートアイドルばかりなだけだ。
李衣菜ちゃんはクールアイドルだし、卯月ちゃんが誰かパッションアイドルの子を連れてきて友達になれたら、俺はその子のライブを観に行くだろう。
そう言うと、卯月ちゃんは考えるように虚空を見上げた。
「○○さんと合いそうなパッションの子かー」
「みりあちゃんは?」
「小学生ですよ?」
「でも、おっぱい大きいし」
冗談で言ったらドン引きされた。静かに帰ろうとした卯月ちゃんの手を取ると、卯月ちゃんは大きくため息をついた。
「そもそも私、CP以外の子とそんなに親しくないですし、藍子ちゃんくらいですかねぇ。でも、かな子ちゃんと同じような合わなさを感じます」
「そもそも、かな子ちゃんと合わないのは確定なの?」
「なんでしょう。○○さん、甘えるタイプの子が合うと思うんですよ。とりあえずキャンディアイランドの握手会に参加して、かな子ちゃんと喋ってみてください」
いたずらっぽく卯月ちゃんが笑った。それは望むところだが、それはイコール智絵里ちゃんとも握手することになる。別に喧嘩したわけでも嫌われたわけでもないが、なんとなく気まずい。
「智絵里ちゃんの前はスルーしよう。あっ、キミとは握手は結構です」
「私、もしファンの人が、未央ちゃんと凛ちゃんとだけ握手して私には見向きもしてくれなかったら、心に深い傷を負います」
「そうして智絵里ちゃんの心に、俺の名前が深く刻み込まれるわけだ」
「お願いですから、いいことで印象に残ってください」
卯月ちゃんが呆れたように息を吐いた。とりあえず握手会をどうするかはまた当日に考えるとして、先にアスタリスクのライブである。
タイトルは『Play toy on May』。ファンからはプレトイと呼ばれている。みくちゃん推しの大暗黒から、久しぶりに一緒にどうかと声をかけられたが、卯月ちゃんがわからないので一旦保留にしてある。
もっとも、会場は前回のニュージェネと同じ場所で、大して大きくないオールスタンディングのハコである。卯月ちゃんはもちろん、俺も知り合いに見つかってしまう可能性が高い。
大暗黒たちは恐らく早くから並ぶだろうから、最初からギリギリに行けばあるいは大丈夫かもしれない。俺がそう言うと、卯月ちゃんは嬉しそうに手を叩いた。
「それで行きましょう。私、男装して地雷メイクで行きます!」
「いや、無理だから。卯月ちゃん、背も胸も髪も誤魔化せないし、地雷メイクとか余計に目立つから」
「じゃあ、女友達といることにしますから、○○さん、女装してきてください。写真を撮って、後でみくちゃんと笑います」
「入口でスタッフに止められるから! 不審者が来たって」
「じゃあ、どうするんですか? 私、一人で観るのは嫌ですよ?」
そう言って、卯月ちゃんは唇を尖らせた。今の「じゃあ」は、もしかしてすでに2つの案を出したつもりでいるのだろうか。否定するなら意見を出せという目で見られたが、俺の中では卯月ちゃんはまだ何も建設的なことを言っていない。
「他のアイドルの子は誰か来るの?」
とりあえず確認してみると、卯月ちゃんは可愛らしく首を傾げた。
「どうでしょう。みんなゴールデンウィークは忙しいですから。私もギリギリまでお仕事がありますし」
その質問の意図は何かと聞かれたので、もし他に誰かいるなら、アイドル仲間に見られるリスクも高まるし、最悪卯月ちゃんはその子と一緒に観ることもできる。そう言うと、卯月ちゃんは眉間に皺を寄せた。
「私は○○さんと観たいんです。私が忙しくてゴールデンウィークも全然遊べませんし、もっと一緒にいる努力をしてください」
不機嫌な顔で可愛いことを言う。実際、ゴールデンウィークは卯月ちゃんが忙しすぎて、一日中一緒にいられる日は一日もない。ただ、それはゴールデンウィークに限らないし、ゴールデンウィークはファンとの交流イベントが多い。全部行くつもりなので、そこまで寂しいという感じはない。卯月ちゃんを独り占めできる時間が多いに越したことはないが、特別なファンとしてアイドル島村卯月と会うのもとても楽しいのだ。
もちろん、そんなことを言ったところで、喜ばれるタイミングではないから、俺は静かに頷いた。
「やっぱり女装か」
「女装ですね。メイクは私がしてあげますね」
勝気な瞳で卯月ちゃんが微笑む。今までも何とかなってきたから、これからも何とかなるだろう。そんなニュアンスだ。
俺だって何も考えずに卯月ちゃんといられるならそうしたい。ただ、俺まで楽観的になって油断すると、良からぬことが起きそうな気がする。
もちろん、卯月ちゃんとは一緒に観たい。その前提で、何か考えることにしよう。