※この作品はR-18です。

卯月とファンの恋物語『2』~   作:水原渉

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 動画は結局1週間で完成した。完成させたと言うべきだろう。のんびりとライフワークにしようと思っていたが、クライアントからいつ出来るのかとしきりに追い立てられた。

 長さは各コーデ20秒ずつにして、計1分。BGMは346の曲は使わずに、雰囲気に合わせてフリーの曲を3曲用意した。

 YouTubeにアップするわけではないので、タイトルは無しだが、シーンの変わり目にはトランジションを使った。

 色々ダメ出しをもらうかと思ったが、卯月ちゃんは一発OKでツイッターとインスタにアップした。一発OKと言っても、実際には一度だけ編集作業を見に遊びに来て、あれこれと注文していった。

 初めてのことばかりで大変な一週間だったが、その時に色々とご奉仕してもらったので良しとする。卯月ちゃんの方も、あの日指一本触れていないことに物足りなさを感じていたそうだ。可愛い。

 ツイッターに上げた動画は、一日で100のいいねが付いた。リプの方でもなかなか好評だが、時々「誰と行ったのー?」みたいなリプもあって冷や冷やした。卯月ちゃんはいいリプにも難しいリプにも一切反応していない。

 動画と言うと、一部俺のことを知っているアイドル仲間には話したようで、響子ちゃんからこんな電話がかかってきた。

『動画、良かったです。私のも作ってください!』

「しんどいからパス」

『ピンチェの3人ならどうですか? 卯月ちゃんもいたらやる気出ます?』

 立て続けにそう提案してくる。とりあえず、響子ちゃんだとやる気が出ないわけではないと否定すると、響子ちゃんは可笑しそうに声を立てた。

『そういうところ、○○さんですね』

「からかわれた?」

『褒めたつもりです』

 ちょっとそうは思えないが、響子ちゃんが楽しそうなので良しとした。

 ピンチェの撮影なら、俺からもお願いしたいくらいだが、卯月ちゃんがどうと言うより、美穂ちゃんがOKするとは思えない。率直にそう言うと、響子ちゃんはなるほどと理解を示した。

『美穂ちゃんがOKならOKってことですね。わかりました!』

 そんなことは一言も言っていないが、まあ実現するとは思えない夢の企画を、あまり強く否定するのも悪い。

 響子ちゃんと言うと、『乙女るラジオ』について話したいことがあった。先日の卯月ちゃんとの撮影で、色についての話題が出たが、色をテーマにしたコーナーを作ってはどうだろう。

 適当に色をチョイスしてもつまらないので、24色や36色の色鉛筆の端から順に語っていくとかにすれば、リスナーも次の色がわかるしお便りもしやすい。

 そう提案すると、響子ちゃんはいいですねと声を弾ませた。

『36色だと、すごく微妙な色の違いがありそうですね』

「今調べたら、紅色、赤、朱色とかあるぞ。青、群青、藍色とか」

『トーク中に、それは群青じゃなくて、藍色じゃないかなとか、夕美さんに突っ込まれますね』

 響子ちゃんがそう言ってクスクスと笑った。どうやら好印象なので、実際に使ってもらえたら何よりである。

 動画の反応と言えば、話題に出た美穂ちゃんからも面白かったとメールが来たし、李衣菜ちゃんからも撮って欲しいと電話がかかってきた。

「撮るって何を?」

『何でもいいけど。みくとの漫才?』

「そんなの、スマホ立てて撮って」

 バッサリ一蹴すると、李衣菜ちゃんは不満げな声を上げた。

『えー。じゃあ、何か考えてよ』

「撮って欲しいものが先にあるべきだ」

『それはそうなんだけど。何かほら、コラボとかしたいじゃん?』

 李衣菜ちゃんがよくわかっていない小学生みたいなことを言ってくる。もちろん、俺としても友達と一緒に何かを作るのは楽しそうだが、何にしろ先に目的が欲しい。

「それより、来月のMasque:Radeのライブの稽古はどう? いい感じ?」

 話を変えるようにそう聞くと、李衣菜ちゃんはまあまあだと笑った。

『加蓮ちゃんとまゆちゃんが張り合ってる。切磋琢磨って言えば聞こえはいいけど、あの二人仲良くないのかなぁ。どう思う?』

「どうと言われても、俺はあんまり二人のこと知らない。まあ、気が強そうな子たちだよね」

『私、あんまりセンターとか興味ないから、智絵里ちゃんと二人でどうぞどうぞって言ってるんだけど、もっと貪欲になってとか言われる』

 そう言われてもあまり光景の想像が出来ないのは、やはりあまりメンバーを知らないからだろう。せっかくチケットを取ったし、そろそろちゃんと調べようと思う。

 そんな感じで、友達からの評判も上々だったと、ある日のカフェで報告すると、卯月ちゃんは運ばれてきたプリンの写真を撮りながら言った。

「せっかく動画編集スキルもついたことですし、何かまた作りますか」

「いや、しばらく休ませて。そっちは反応はどうだった?」

「まあ、ただ歩いてるだけですからね。作った側としては思い入れがありますけど、そこまで面白い動画でもないと思います」

 なかなかはっきり言ってくれる。もちろん、卯月ちゃんは思い入れのある側という前提で、単にあまり反応がなかったのだろう。

「わざわざ自分から聞いたりもしませんしね」

 卯月ちゃんが小さく首を振る。それからプリンを一口食べて、驚いたように眉を上げた。

「これ、美味しいです!」

「そうか。一口いただこう」

「嫌です」

 あっさり断られて思わず目を丸くすると、卯月ちゃんが明るく笑った。笑っただけで、プリンが俺のところに来る気配はなかった。

「それで、一緒にお仕事っぽいことをして、どうでした?」

 一瞬何のことかと思ったが、元々動画が作りたかったわけではなく、何か卯月ちゃんのアイドル活動に参加したいというのが目的だった。動画はその一つの手段に過ぎない。

 果たしてアイドルらしい活動だったかと言われたらよくわからないが、一緒に動画を作るのは楽しかった。そう伝えると、卯月ちゃんは静かに頷いた。

「まあ、あれは遊びの延長でしたし。何か面白そうな企画とか思い付いたらいつでも言ってください。私も相談しますね」

 俺が望むのならと付け加えられたが、確かに、ライブのセットリストと同じで、先に知ってしまうと楽しみが減ってしまうのも確かだ。これまで、ファンとしてのその驚きを大事にするために、卯月ちゃんはあまり未来の仕事の話はして来なかった。

 やっぱり、悩み相談なら歓迎だが、少なくとも俺のためにわざわざ話す必要はない。そう言うと、卯月ちゃんは「今まで通りですね」と済ました顔で言ってから、残り一口になったプリンの皿を俺に渡してきた。プリンは濃厚だが甘さ控えめで美味しかった。

 

 店を出ると、適当に座れる場所に移動してくっついて座った。薄着だが夜になっても寒くない季節だ。触れ合う肌が気持ちいい。

 握った手をむにむにしていると、卯月ちゃんが今後の仕事の話を始めた。

「今月はもうライブはないですけど、来月CPのキュートアイドル全員でテレビ収録があります」

「それは初耳だ」

 アイドルたちの出演情報は公式サイトのカレンダーで確認でき、卯月ちゃんも大体そのタイミングで話をすることが多い。今回は放映は8月でまだまだ先だが、出演が確定したので話したそうだ。

「曲は?」

「アタポンと、『ラビューダトライアングル』っていう新曲です。島村さんがセンターです」

「島村さんか。あの子なら納得の抜擢だな」

 俺が二度頷くと、卯月ちゃんがサビと思われる部分を小声で歌った。関係者以外では、俺が世界で最初に聴いたことになるが、そう打ち震えたら、卯月ちゃんが「○○さんはほぼ関係者です」と肩をすくめた。

 ちなみに、アタポンはみくちゃんがセンターを務めるそうだ。CPのリーダーは新田さんだが、こうしてキュートメンバーだけで仕事をするのは珍しいので、誰がセンターをするのかというのも興味深い。

 ライブといえば、Masque:Radeのライブは、無事に二人で観られそうだ。今度はアスタリスクのライブの時みたいにならないよう、俺にも顔を隠せと言われている。それはそれで異様な二人組だと思うが、確かにもうああいうのは懲り懲りだ。

 卯月ちゃん自身のライブは、7月にニュージェネでの出番が2回ある。ピンチェは美穂ちゃんがMasque:Radeの仕事で忙しいため、少しの間お休みだそうだ。その間、卯月ちゃんはニュージェネの仕事があり、響子ちゃんはラジオ番組の立ち上げで忙しい。CDを出すわけではないが、宣伝のために夕美ちゃんと歌ったりもするらしい。

 Masque:Radeが忙しいと言えば李衣菜ちゃんもで、今度の収録で相方のみくちゃんがセンターなのはそれもありそうだ。もちろん、そもそもオリジナルメンバーというのもあるだろうが、それは杏ちゃんも同じだ。

 CPだと智絵里ちゃんだけがその収録とMasque:Radeのライブが重なり、てんやわんやだそうだ。知らない仲ではないので、頑張ってくれたらと思う。

「卯月ちゃんはMasque:Radeのライブは行ったことあったっけ」

 確かなかったはずだと思いながら聞くと、卯月ちゃんは小さく首を横に振った。

「練習は時々見てるから雰囲気は知ってますけどね。カッコイイ美穂ちゃんが見られる貴重な場です」

「曲もクールなのが多そう」

「いつもとは違う予習をしてきてください。私もたまにはカッコイイ曲を歌いたいですけど、イメージ戦略もありますしね。アイドルは特に」

 そう言って、卯月ちゃんはそっとため息をついた。歌えないわけでも似合わないわけでもないのだが、ほんわかキュートアイドルで売っているので仕方ない。ニュージェネはまだ、ピンチェと比べたらカッコイイ曲も歌っている方である。

 最近はカラオケも時々行くが、ライブでは歌わない曲を歌うことが多い。もちろん、俺のリクエストもあるが、本人の趣味と、練習も兼ねて歌っているようだ。

 ライブの話をしていたらいい時間になったので、軽くキスをしてから立ち上がった。

 また今度と言って駅で別れる。その今度は一週間後かもしれないし、また明日かもしれない。呼ばれたら行くし、卯月ちゃんも空いていたら連絡してくれる。それでもなかなか空いていないのが実情だ。

 まだもうしばらく梅雨が続くが、その後は夏が来る。卯月ちゃんも仕事こそ忙しくなるが、学校が休みになる。

 去年みたいに海も行きたいし、何か新しいことにも挑戦したい。動画の企画が終わってほっとしているが、まだまだたくさん、卯月ちゃんと特別な思い出を作っていきたい。

 

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