暗い、暗い、舗装されてない獣道を力強く踏みしめ駆け抜ける。
鳥たちの囀りと、風に揺らされ生まれた枝木の囁き声が少女の耳をくすぐった。
澄んだ空気が心地良いらしく、鼻歌混じり。不安定な足場を歯牙にもかけず、鋭い風切り音を出しながらも女は息ひとつ切らしていない。
傾斜のある坂道を難なく登っていき、やがて少女は開けた場所にたどり着いた。俯きがちに歩を進め、やがて行き止まりの柵が視界に入るとピタリと足を止め手を前に伸ばす。
やや古ぼけた転落防止柵を握りながら、少女は独り目を瞑った。強風に煽られ黒髪が舞い、くちゅんと可愛らしく音を出す。もう少し着込んでくればよかったと内心後悔していた。
同じ姿勢のまま、約15分。今か今かと待ちわびていたその瞬間が、ようやく彼女に訪れる。
──瞼を刺激する熱に反応して、少女はゆっくりと瞳を開いた。
「わぁっ……!」
『お前は母親ゆずりの、俺の故郷と同じ目だな』
昔、父が語った言葉を彼女は思い出した。
雀野たちが住まう島は環状となったサンゴ礁によって囲まれている。それにより礁湖と呼ばれる、外海とは色合いの異なる美しい空のような海を眺めることが出来るのだ。
水色の海と深い藍色をした海の境界線が明瞭とし、非常に綺麗だったことから。
──この島は、青藍島と呼ばれるようになった。
ここは雀野が住む家近くに聳える山間部、その山頂。大海原を一望することができる最高の絶景スポットだ。
色取り取りの珊瑚が。双海の織り成すグラデーションが。煌々と照り付ける太陽が。視界に映る総てが美しい。
日の出に照らされた眺望は筆舌に尽くし難い。心の底から沸き上がる激情を抑えられず、感情は涙へと変換され少女の瞳からボロボロと溢れ出る。
雀野は時を忘れ、涙を拭うこともなく唯々眺望し続けた。
「もし……」
一体どれだけの時間が経過したのか定かではないが、太陽が昇り少女の昂りは漸く沈み始めた頃。
不意に声を掛けられて、雀野はその場から距離を取った。魅入っていたとはいえ、音もなく気配もなくこれほどの接近を許すとはかなりの達人だと内心唸る。
しかし、視線の先にいたのは雀野の一回り小さい線の細い子供だった。美しい白髪に着物を身に纏った、どこか神秘的な少女は静かに頭を下げる。
「驚かせてしまい……誠に……申し訳……ございません……」
途切れ途切れに言の葉を紡ぎ、雀野へ歩み寄っては静かに手を差し出した。
「よろしければ……手巾で涙を……」
「しゅ……ああ、ハンカチか。すまない、感謝する」
家族のお下がりであろう一、二世代前のレトロな絵柄だが生地はおろし立てと見紛うほどしっかりしていて、それだけで彼女の人柄が見えてくるというもの。これを受け取らないのは却って失礼だと、雀野は四角布を受け取り頬を拭った。
洗濯し返却しようと考えたが、私の考えを見透かしたのか小さなかんばせが横に揺れる。感情をあまり匂わせない、ある種機械的な表情だが力強い意思をどことなく感じた雀野は再び礼を言って、彼女の手にハンカチを置いた。
「あの……」
あまり会話に慣れていないのか、言うべきか悩んでいるのか、白き少女は二文字の言葉を呟いて沈黙する。雀野は当然、少女を待った。
吹き荒ぶ風が鳴りを潜め、それが切欠となったのか。
彼女は絞り出すように口を開いた。
「あなたは……島のことを……どう……お思いでしょうか……?」
その質問に、雀野は僅かながら悩んだ。
観光客でないことはわかる。背丈だけで判断すれば、この少女は十中八九B等部の学生。自分の素性はまず間違いなく知られていると考えるべきだ、と。
『ドスケベセックスができる最高の場所』と返答するのが最適解だと理解はしている。
だが。どうにもそんな気になれなかったので、黒髪の少女は素直に心の内を伝えることにした。
ハンカチの恩義もあるが、彼女の朱眼を見つめていると雀野は不思議とそう思ってしまったのだ。
「そうだな……我にとっては中々に生きづらい土地だ。時折死にたくなることもある」
多人数との性行為を推奨し、処女であることは恥ずべきことだと歪んだ性教育を施す島の思想には首を傾げてしまう。
だが、そういう島だとわかってやって来て、雀野家の都合のため──当然本人自身のためでもあるが──性行為に及ばず純潔を守ろうなど、ただの我儘に過ぎない。
また、身から出た錆とはいえ噂から生まれた雀野薙帆をあたかも真実であるかのように振る舞い、嘘をつき続けるというのは辛いものがある。
しかし、と女は断りを入れて。
「ここは笑顔で溢れている。セックスを通じて、という枕詞が不格好ではあるがな」
青藍島の犯罪率はなんと1%にも満たない。性欲からの解放が直接犯罪抑止に繋がっているのだ。当然、取り沙汰されないこの島ならではの人間トラブルもあるだろうが、その数字を誇るべきだと女は思う。
少女から視線を離し全てを呑み込む無限の海へと身体を向け、思いの丈を、どこまでも続く地平線に向かって咆哮した。
「──我は、青藍島が好きだ! 美しい景色のこの島が。幸せでいっぱいのこの島が!」
「左様に、ございますか……」
言い切ったあと雀野は無性に顔が熱くなった。紛れもない本心であったが、あまりに大声を出しすぎたし何より今のは勢い任せで後々思い出したら恥ずかしい類の発言だと、目の前にいる少女の淡々とした口ぶりではっきりと自覚してしまったからだ。
そんな羞恥で赤みがかかった彼女の右手を、少女の小ぶりな両手が包み込む。まるで主人に仕える従者が慈しみをもって接する情愛の所作。
無機質じみた少女の顔には、思わずドキリとさせられるような柔らかな微笑みが浮かんでいた。
「わたしも、同じ想いにございます……」
素敵な体験だったと、雀野は帰宅し自宅前でストレッチをしながら思い返していた。普段はランニングや滝行を行うために山へと赴いていたのだが、今回は勝手が違う。数日前祖父の部屋の掃除を行っている途中で、山間部の見取り図や山頂へのルートが書き記された地図を雀野が発見したためだ。休日に訪れてよかったと少女は心底安堵する。平日であれば、一時限目がとっくに始まっていた筈だから。
「そう言えばあの子の名前を聞いてなかったな……またどこかで会えないものか」
可憐な少女を脳裏に浮かばせながら屈伸運動を終え門扉をくぐろうとしたところで、遠くから呼び鈴の音色が響いてきた。
「ち~~~~ほ~~~~ちゃ~~~~ん!!」
続いて大声で叫ばれる自身の名前を耳にして、雀野は音源の方向へと視線を送る。
その先には自転車を駆る、紫の髪色をした女の子。彼女は減速せず突貫してくるものの、雀野のいる手前の位置でクルクルと車体を回転させ、大道芸のようにピタリと止まる。
その道で稼ごうとすればいくらでも稼げるのではないかと思わせるほどの見事なドライブテクニックだった。
「おはよう。どうしたんだ
「お、おはようございます! どうしても見せたいものがあって、飛んできました!」
自転車を止め、背負ったリュックサックを地面に下ろしガソゴソと中身を漁る。現れたのは薄い黄土色のひょうたんの形をした大きめの野菜。
「これピーナツカボチャって言うんです! 知ってますか!?」
「いや、名前を聞いたことはあったが実物を見るのは初めてだな」
美岬と呼ばれた少女は、続けてスマートフォンの画面をスクロールさせ、画像ファイルを雀野の双眸に提示する。そこには、真っ二つに切られたピーナッツカボチャ。半分となったカボチャの形状を把握して、彼女の意図を雀野は何となく理解する。
「ほら極太チ〇ポみたいですっごく卑猥じゃありませんか!?」
美岬の目は、これ以上ないほどに輝いていた。
「……もしかして、貴女はそれを言うためにわざわざここに?」
「はい!」
「はいじゃないが」
「
「……どこかとは敢えて訪ねないが。もし挿入ったとしたら我は本格的に貴方との交友関係を見直すぞ」
「だ、大親友にチンコアップですか!?」
どうして今の会話でランクアップできると思えるんだろうか。ポジティブすぎる。先ほどの余韻を返せと雀野は頭を抱えたくなった。
◆
あれは、ひと月ぐらい前の出来事だったかな。
私の住む雀野家は青藍島でもメインストリートから外れた山沿いの集落の中にある。
そのコミュニティは昔からこの孤島に住み続けている老人たちばかりで構成されており、セックスに誘われることもない。この一帯は私にとって文字通り聖域だ。
たまにお尻を触ろうとしてきたり、このキュウリは結構収まりがいいぞと親切心で手渡されることもあるけど。それにさえ目を瞑れば、下ネタに染まった島には似つかわしくないどこにでもありそうな田舎風景だ。
そうしたのどかな光景を眺めながら散歩していると、微かに何かが聞こえてきた。うめき声だ。
水乃月学園ならSMプレイか何かだと聞き流しそうになるが、この集落での出来事となると話は別。ご老人が心臓発作で倒れたり、転んで怪我をしてしまうことなど大いにあり得る。
手遅れにならないよう努めて冷静に、耳をそばだて小さな音を辿っていくと、その先にはポツンと大きな一軒家。表札には
『うっ……ぐっ……あっ』
女性のくぐもった、痛苦に悶える声色をはっきり捉えた私は半身に力を入れ、2階まで跳躍しベランダへたどり着く。窓の向こうには、扉を開け一階に降りようと必死に藻掻いてる女の子の姿があった。幸い窓には鍵がかかっておらず、私はすぐさま彼女に駆け寄る。
「大丈夫か!?」
なんでこの部屋こってり豚骨ラーメン屋の臭いがするんだろう、と疑問に思ったが今はどうでもいい。
たすけて……とか細い声に頷いて私は彼女を安心させるよう手を握りながら、すぐさま救急車に連絡を入れる。
彼女の身に何が起こったのか。
じっくりと観察──しようとしたが、一目で異常を理解してしまった。
まず女の子は下半身を露出させていた。そして。
──お尻から、小さな両足が生えていた。
え? なにこれ。
『あ、畔さんの末っ子さんですね。大体わかりましたー』
ありのままの状況を説明したらあっさり話を受け入れてもらえた。まるでこの子が既に何度もお世話になっているかのような迅速な対応。
そのまま暫く時間が経ち、彼女は救急搬送されていった。
これが私の友人、
「いやー、薙帆ちゃんにはとても恥ずかしいところを見せてしまいましたね」
昔話に花を咲かせながら、人通りの少ない歩道を横並びで歩いている。私たちは今、島の中心街へ向かっているのだ。
美岬ちゃんは本日発売のとある本を買いたいらしく、私も足りない食材や調味料を補充したかったので同行したという次第である。私の視線に気づき、照れ臭そうに頬を掻いた。
去年も体イク祭当日に同じミスをして学校を休み病院のお世話になったそうだ。
人として本当に恥ずかしいと思う。
「あの頃の私はまだまだ
ガッツポーズで意気込みを熱く語る友人。
「我は最初美岬が誰かにいじめられてああいう状況に陥ったのかと本気で心配したんだぞ……」
「す、すみません、これが出来たらアナルマンとしてやっと二流、というネットの煽りに触発されてしまいまして」
美岬ちゃんは根が素直な子なんだけど、青藍島純粋培養な下ネタ大好きっ娘で極度のアナル狂いでもある。お尻を開発して少しずつ大きなモノを呑み込めるようになっていく達成感がたまらないとか。
ちなみに言うと件の美少女フィギュアはM字開脚しているエロ系だ。
物理的に入るわけないでしょそんなもん。
「どんなサイトを閲覧すればそのような怪しげな情報を手に入れてしまえるんだ」
「
超有名SNSのパチモンみたいな名前が出てきた……。
「……もしかして、そのサイトも青藍島生まれなのか? 淫スタのような」
Inkeisasuttagram。略して淫スタ。ドスケベセックスの内容をネット上にアップするSNSアプリで、淫スタ映えする島の人気スポットはいつも観光客でごった返ししている。
ユーザーランキング──ハメともランキング──で一位に輝いているのは当然片桐さんだ。自己申告制で義務はないため私は全くの手つかずです。現在私のスマホは機能していないからどっちみち使えないけど。それと似たようなものではないかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。美岬ちゃんは大きく首を振っていた。
「いえいえ! ドスケベ総合掲示板として名高い
「違うものが混じっていた気がする」
例えばですねー、と私のツッコミをスルーし美岬ちゃんがOnatterの画面を見せつけてきた。非常に細かくジャンル分けがされており、彼女がオナホールを選択すると、そこには大量の文章を投稿している二つのアカウントが。
手淫を皮つるみと呼んでいた時代の話から始まり明治時代に生まれたオナニー有害論、果てはオナホール誕生からその未来まで。二人は多角的な視点でありとあらゆる熱い議論を交わしていた。履歴から察するに討論は早朝からずっと続いている。
「ここ数年で家庭用3Dプリンタもかなり普及しましたし、それを利用してオリジナルのディルドやオナホールを作ってみよう! というのが昨今のドスケベネット業界での一大ムーブメントになっておりまして! このjunonanistとMIUHIKI_Aはオナホカテゴリで知らぬ人なしと謳われるほどの逸材なんです!」
何でこの子オナホ関連までこんなに詳しいの?
「我の知らない世界が沢山あるのだな……」
……思い返してみると、先ほど名前の挙がったサイトは何回か検索に引っ掛かっていた気がする。怪しすぎると思って開かないよう避けていたが、なるほどそういうことだったのか。
「でも、薙帆ちゃんがこの手の話題に詳しくなかったのはビックリです」
「……貴方も知っている通り、我はビッチでもなんでもないぞ。ネットのエロコンテツを見ているのも青藍島に適応するため仕方なく……」
個性的な性格をしているのに、彼女はとんでもなく影が薄い。何度か図書室で他生徒に誘われていたことがあったのだが、美岬ちゃんは毎回私たちの目と鼻の先にいて本を読んでいた、らしい。
らしいというのは私を含め誰も彼女に気づけなかったのだ。彼女曰く修学旅行で一人取り残されたり、図書室で利用時間いっぱいまで本を読んでいたら図書委員に気づかれず鍵をかけられ閉じ込められたりなど日常茶飯事とのこと。
極々自然体で、武道の達人レベルの気配遮断を彼女は常時発動しているのだ。
病院へお見舞いに行った際彼女にオナホコキの件を指摘されて、私は観念し真相を明かした。
彼女自身とある理由が原因で性産的行為から逃げ回っていたのでもしや、と考えていたらしい。
こうして私たちは各々の事情を打ち明け合い、似たような境遇の者同士で登下校や食事を共にする仲になったのだが。
「あっそうなんですかプッ。へーそーなんですかー」
ニヤケ面から後半部分の発言を全く信じてないのがありありと伝わってくる。その顔めっちゃ腹立つなー。
美岬ちゃんはどうも私がエロに興味津々なムッツリスケベだと思い込んでいる節がある。なんとも失礼なやっちゃ。
私だってお、オナニーはするけど美肌効果が期待できるってネットに書かれていたからやってるだけだし……一日平均10回はオナニーすると豪語している美岬ちゃんに比べたら、週6の自慰行為など物の数ではない。女の子なら誰だってそれくらいやってるでしょ。私は普通なのだ、うん。
「む……そろそろ繁華街にたどり着くな。美岬、準備はいいか?」
「ラジャラジャです!」
──姿勢を整え、深呼吸。
息を吐く度に私を形作る筋肉が、体内を循環する血液が徐々に徐々に緩やかとなっていく。雀野薙帆という一個体は希薄となり、肉体から溢れる"気"を全て内に秘めることでこの技は完成する。これでよっぽど意識でもしなければ、私のことを誰も気がつけなくなった。習得するまでに何年もかかったがこの島ではとても便利な技である。
片や相方はというと。
「忍っ!」
忍術っぽく、人差し指中指を伸ばした左手とグーの右を重ねて掛け声を呟く。本人もよくわかっていないが彼女は自分の存在感を負の方向限定で調整できるらしい。
その一言だけで、彼女は透けるように存在感が……あれ?
美岬ちゃん物理的に消えていってない?
慌てて手を伸ばし、完全に見えなくなる前に彼女の腕をグッと掴むと、私はなんとか彼女を再認識できるようになった。半透明どころか9割ほど透明化が完了したところから、巻き戻しをかけたように元の姿へと戻っていく。
「あ、危なかった……薙帆ちゃんに握ってもらわなかったらうっかり消滅してしまうところでしたよ」
どういう肉体構造をしているんでしょう、この子は。
「騎乗位で責められるなんて最低に屈辱的だよね!? 赤ちゃん産んでおじさんの人生もっともっと辱めてあ・げ・る♡」
「催眠アプリで操られてるのに気づかずいい気なもんだないじめだと思い込みながら孕めオラ!」
「ふふふ……おじさん、こんな性人したてまんこなんかに夢中にへこへこしちゃうんだ♡ 無様な
「日々メスガキに射精管理され尻をエネマグラで開発されメスイキさせられても負けを認めぬ醜さ……侍の姿か? これが……」
先程まであった静けさは影も形もなくなって、喘ぎ声と孕めオラ大合唱の環境音を耳に入れながら私たちは人込みに紛れ街中を練り歩いていた。こういった人通りの多い場所では、下手に周囲の様子を窺いながらコソコソとしているよりも、気配を消して堂々と歩いた方が遥かに安全だということをこの半年間で嫌というほど学んだ。
催眠アプリ持ち種付けおじさんとWメスガキ女子ちゃん、それと鏡で地獄絵図みたいな自身の姿を見つめながら、神妙な顔で腰を振っている生き恥長男おじさんの前を通り過ぎ、目的地にたどり着く。
私は基本的に生活必需品を購入するスーパー以外には立ち寄らないことにしていた。
身の安全のためでもあるが、この島は流通の関係でどうしても漫画の新刊入荷が遅くなる。私はいい機会だと引っ越してからは電子書籍派に乗り換えた。
だから青藍島の本屋自体初めて。ちょっとワクワクする。
扉をくぐるとA等部の少年少女二人がカードを手に持ち向かい合っていた。この建物は手前にカードショップ、奥に書店がある構造のようだ。
男の子はいくつになってもハマる人はハマると聞くけど、年ごろの女の子がカードゲームとは中々珍しい。私も漫画やアニメを見たことはあるがカードゲームは全くの手つかずだ。周囲で応援している幼い子供たちは少女に似た顔立ちで、もしかしたら妹や弟と一緒に遊ぶためやっているのかも。
姉妹仲良く、どこに行っても変わらないほのぼのとする情景だ。
「NO.1919、亀頭皇ンホォウ♡の
なんか思ってたのと違う。
「血迷ったようだね! 自分モンスターの生ハメストップとはとんだパコリングミスだよ!」
「にっひっひ、それはどうかな!」 「な、なんだって!?」
「早漏魔法発動! ハラム・チャンス・アップ! 挿入行為が中断となったとき、そのモンスターのチンポの大きさを2倍にして再び
「うああああああ!」
錐揉み状で男の子が通路を渡っている私の前に吹っ飛んできた。闇のゲームかなにか?
よく見ると彼は最近何度も会っているデータ系男子くん。目が合って互いに軽く会釈する。
「お兄さんよわよわっすね~!」
「そんな……こんなタクティクス僕のデータにな……い……ウッ!」
ビクンビクンと小刻みに振動し、男の子は沈黙した。
彼は本当にデータキャラなんだろうか、疑問を抱き始めた私です。
大の字のデータ系(?)男子くんをかわし、私たちは本屋へとたどり着いた。
「貴方は何が目当てなんだ?」
「えへへーそれは後のお楽しみです」
美岬ちゃんは可愛らしく前屈みになる。それだけで、彼女の豊満な胸元がたゆんと揺れた。でかい。いいなー。
この島は一年中常夏の環境下で、みな薄着で通気性の良い露出度高めの服装を好んでいる。
露出に関してはスムーズにセックスするためだったり男性の劣情を煽ることが主目的になっているけれど。
青藍島住民は全体的に発育が途轍もなく良い。私も高校生にしてはそれなりに大きい方だと自負していたけど、彼女らの平均胸部装甲を目の当たりにし私の自信は粉々に打ち砕かれました。
美岬ちゃんはその中でも更に上をゆく。男の子の掌でも絶対に収まりきらないほどのダイナマイトボディで、ノースリーブの薄手のパーカーが彼女のおっぱいをより強調している。同性から見ても美岬ちゃんは可愛いしとっても男受けしそうな体つきなのに、どうしてこの子は目立たないんだろう。最近一段と酷くなっているらしいし……。
私の方はというと白のワンピースに袖を通し、ドスケベビッチを象徴するロングストレートから僅かながらでも遠ざけるため髪を後ろで一本に細かく編み込んでいる。フィッシュボーンという髪型だ。更にタレ目メイクで印象カバー。ちょっとしたお嬢様気分だ。
ポニテ+ジャージの女を捨てた格好でも個人的にはよかったのだが、そういった放課後の部活系女子の装いは一部で大変人気があるらしい。目立って一度酷い目に遭いそうになったことを教訓とし、お買い物で街を出歩く際は封印することにしたのであった。
お昼ご飯を食べる時間帯だからか、店内に人気はなく書店員さんも奥に引っ込んでいるようで少し安心。美岬ちゃんに引っ張られて、漫画コーナーにやって来た。私の知っている少年漫画もそこそこある。青藍島でもあの作品は大人気なんだろうか。
「美岬、アレを見かけなかったか? 最近アニメ化で話題になった、さっきも路上でやってた鬼滅の──」
「あ、それならこっちにありましたよ! これでしょう!」
ハイ、と反対側の棚から見つけ、元気よく手渡される。見馴れた絵柄だが少し、いや大分違う。鬼っぽい女の子の服ははだけているし普通に乳首を露出させている表紙絵で。
「キツ雌の
「面白いですよねーキツ雌! 最初は低迷気味でしたけど
ガバ穴前立の詳細がちょっと気になる。
単行本付近の手書きPOPには『頑張れ
原作ファンの人に見られたら怒られそう。
「我の知ってるのとちがう」
「あぁーもしかして鬼詰のオメコですかね? メとコで刃に見立てるとは流石我らの雛形、圧倒的マンコナイズセンス……!」
「他にもあるのか……いや違うが」
「え? それ以外にまだあるんですか!?」
原作の方を知らないの!? こっちが驚きだよ!
よく見たら私の知る普通のコミックスはコンビニの駄菓子コーナー程度のスペースしかなく──
『
『姪探偵はガバマン』
『RAPE』
『
『まんこたいむびらら』
反対に、こういった単行本や漫画雑誌は端から端まで山積みである。サンプルを読んでみたけどどれもこれも原作を軸にとにかくセックスしていくストーリーへ改変されていた。
もしかしてこれまで何度も視界に入れたパロ系セックスって実はこっちが元ネタなんじゃ。
店内をグルリと回ってみたが絵本から美容雑誌に至るまで全てが青藍島色に染め上げられており、本島の方はどれも片隅に小さく追いやられていた。
この店ただのエロ本屋ですやん……まぁ青藍島らしいと言えばらしいけど。
「む。オリジナルのエロ漫画もあるのだな」
純愛物、凌辱物、NTR物、催眠物……きちんとカテゴリ毎に区分けされており、おねショタ物でもショタおねなのか最初はおねショタでも最後の最後で逆転するのか、逆転しつつもオチで可愛らしいショタ的反応を見せるのか、ショタは仲間を呼ぶタイプなのかショタはゴブリン系なのか、と詳細が裏にラベルで張り付けられている。なんという気配り、是非ネットの通販サイトでもやってほしいものだ。
あれ? 薬を盛られ普段の力が出せなくなり調教される女格闘家の漫画を取ろうとしたところで、思いがけないジャンルが視界に入り手を止める。
それは百合。本来は別に気にかかることでもないけど、この島は青藍島。同性同士の性行為は非性産的行為として取り締まりの対象となっているので、てっきり百合や薔薇は存在そのものがなかったことにされていると思っていたのだが……。
二次元までは干渉しないのかと少し感心して、百合漫画を適当に選び私は固まった。
「何故女の子たちの間に小太りなおじさんがいるんだ……?」
どの本を見ても、金髪チャラ男や種付けおじさんが女の子に囲まれていて、いなかったとしても明らかに第三者から催眠食らってそうな虚ろ目の女の子二人組の組み合わせ。
百合のネームプレート位置を間違えてるんじゃないかと疑ったが、どの冊子にも百合と大きくラベリングされていた。
これは一体、とドスケベ博士である美岬ちゃんへと尋ねてみることに。
すると、彼女はキメ顔で言い放った。
「────百合は、チンポに屈するための前振りに過ぎない!」
誰か勇次郎さん連れてきて。この島ガイアに占拠されてる。
「全然関係ないですけど、薙帆ちゃんって最近特撮作品を見てるって言ってましたよね」
「あ、ああ、クウガという作品だな。面白いぞ」
「そうそう、それでふと思い出したんですけど、私の小っちゃい頃にSHKでも特撮番組がやっていたんですよ。たしか顔騎!」
SHKとは、青藍島専門の公共放送チャンネルである。アナウンサーがバイブを挿入れたまま青藍島の情報を読み上げるニュース番組、セックスは身近なものだと子供に伝えるための性教育エンターテインメント番組『おかあさんが知らない人といっしょに』等々が放送されている。
お爺ちゃんと年末に見ていた『メスガキの腰使いやあらへんで』は凄く面白かったなぁ……。
お爺ちゃんと言えばお昼ご飯用意しておいたけど大丈夫かな? 今日は同窓会という建前の夜通し飲み会があって今はそのために絶賛寝溜めしているからちゃんと食べてくれるかちょっぴり不安。というか行動が若すぎるでしょ大学生かよ。
「ただ、許可なく無断で放送していたそうで、本島のお偉方に叩き潰され番組は中止になったそうです」
「それは当然の結果だろう……ん?」
見たかったなぁオーチンの
しかし。
逆説的に言えば。
この漫画群や番組はちゃんと許可を得た上で出版しているというのか……!
この国大丈夫かな?
そんなこんなでいつの間にか買い物を終わらせていた美岬ちゃんと一緒にフードコートへ。
私たちは禁煙席ならぬ禁交席に座っているので食事中も一安心だ。食事処でしか見かけないが、この席に座っていれば食事中は性行為に誘われず、またその旨を店員に伝えれば提供される料理に精液や愛液を盛られることはない。大勢の観光客から非難が殺到したらしく、紆余曲折あってこのシステムが出来上がったとか。食ザー文化を強要されなくて本当によかった。
空となったラーメンの器をテーブル端に寄せて、美岬ちゃんは積まれた個包装の包みを開けながら、真剣な眼差しで私に語り掛けてくる。
「モグモグ……どうひて私は痩せられないんでしょうかね?」
それはひょっとしてギャグで言っているのか?
開封されたハンバーガーの包み紙は一つ二つどころではない。ラーメンも大盛りを頼んだ上で替え玉の追加も行っているというのに捕食速度は依然として変わらない。
一、二時間前、彼女に貰ったカボチャを煮物にして一緒に朝食を頂いたばかりなのだが、その出来事は最初からなかったかのよう。健啖家であることは知っていたがその食事量には毎度毎度驚かされる。今は別の意味で驚かされた。
「痩せるつもりがあったのか……!?」
「ありますよ! そのために最近はオナニーの回数を少しずつ増やしているんですから!」
「……オナニーは結構運動になるからな、その発想は百歩譲って理解できなくもないが。単純に食事量を減らすというのはどうなんだ?」
「私、思うんですよ。食欲に抗うダイエット生物としての本能に反していると。食事量を抑えるなんて、ストレスで却って太りやすくなると思いませんか?」
言い分があまりにも典型的すぎる件について。
「そもそも貴女が太っているとはとても思えないのだがなぁ」
この島の女性は皆モデル顔負けのスタイルだ。彼女らに比べたら、確かに美岬ちゃんがふくよかな体形であることは否定できない。だがそれは比較の問題で、美岬ちゃんは少し肉付きが良いだけなのだ。ちゃんとくびれはあるし十二分に綺麗なボディライン。寧ろ摂取カロリーのことを考えたら人間離れした太りにくさだ。正直ズルいと思う。
そう言うとヘッとスネたように口を尖らせた。かわいい。
「いいんですよ……そんなに気を遣わなくても……もし私に存在感があったら『うっわこの階層でデブートン出現すんのかよ見た目もゲームバランスも悪いな!』って罵倒されるんですよ。
ハハ……私は石を投げられる側なんですけどね……」
ドスコーイハッキョーイゴッツァーン! とヤケクソ気味に叫ぶ畔親方。身体のことになるとナイーブになっちゃうんだなこの子は。だらしない身体、特にお腹周りを誰にも見られたくないからセックスを拒絶していると聞いていたが、まさかここまでとは。
気に病む必要性は全くないと思うけど、これはもう当人にしかわからないデリケートな悩みで何を言っても彼女が納得することはないだろう。それならば、友達としてできることをするまでのこと。
「食事についてはひとまず置いておいて……今度トレーニングを一緒にやろうじゃないか。貴女が本気なら、我も結果が出るまでいつまでも手伝おう」
「あ、ありがとうございます薙帆ちゃん……私頑張ります! あ、そうだ!」
喋っている間に全てのバーガーを食べ尽くしていたらしい。おしぼりで手を拭いて、鞄から彼女は袋を取り出した。ギフト用にラッピングされており、それを私の前に勢い良く突き出す。
これは、もしかして私に?
「その、お友達一カ月の記念に! どうぞ!」
思わず泣きそうになってしまった。
一カ月記念。そういうのもあるんだ……!
私は何も用意していないのに、受け取ってよいものか。そう伝えると、いつも薙帆ちゃんに色々食べさせてもらってるから気にしないでください! と笑顔が返って来た。
本当にいい子なんだよなぁこの子は。また美岬ちゃん用にお昼のお弁当を作ってあげよう。彼女は高カロリーな食べ物が大好きなので、揚げ物をタップリ詰め込んで……っていけないいけない。折角やる気になったのだ。美岬ちゃんのダイエットが上手くいくよう私も心を鬼にしなければ。
「本当に感謝する……今開けてもいいかな?」
ぜひぜひ! と勧める彼女の声に頷いて、私は慎重に紙袋のテープを剥がす。
サイズからして文庫本のようだ。美岬ちゃんは図書室に足繁く通う文学少女。これは彼女が厳選した拘りの一作なのかもしれない。
ウキウキしながら取り出した表紙の中央には、少女の姿があった。長い黒髪で水色の瞳に鋭い眼光。水ノ月学園の制服を着た女の子は青藍島を背景に女王が如く君臨している。
どこかで見たことのある顔立ちだ。と同時、猛烈に嫌な予感がして私はタイトルを凝視した。
『青藍島有名人パロディ官能小説シリーズ第45弾』
『おいでませ青藍島! 学園きってのアマゾネスが童貞観光客たちを筆下ろし~旅の疲れは記憶ごと我のマ〇コで癒してやろう~ 雀〇薙〇』
私のエロ小説……だと……!? なにそれきいてない。
あと私がアダルトビデオに出演したかのようなタイトルやめろ。
「トッテモウレシイナー」
「喜んで頂けてなによりです! 自分の分も買ったので帰ったら今日はこれをオカズに30回はイきますよ! よかったら薙帆ちゃんも一緒に如何ですか!?」
「ヤラナイ」
……感極まって、美岬ちゃんのセンスというものを、すっかり忘れていた私でしたとさ。
主人公→凌辱系や調教系へ無意識に目が行く
デブ→美岬。主人公の友人で原作よりは(比較的)まともだが更に影が薄い。光が多ければ影も強くなる的なアレで雀野が目立つほど存在感がなくなっていく。しかし本人は特に気にしてない。
???→むべむべ。山の中で何度か雀野を見かけていた。
お爺ちゃん→ワシが許可した