※この作品はR-18です。

雀野さんはドスケベビッチ   作:モブガサ

5 / 10
あれ?これ1話完結じゃなくね?と気がついたので短編から連載へ変更しました
それと文字数が結構増えてしまったので、あともう一話だけ続きます



ドーピ淫グガンハメヌープだ…… 

 男たちの張り上げる怒号に晒されながら、少女が森でただ踊る。

 懐中電灯を女の手に奪われ男たちを覆うのは深い闇。

 夜間での戦闘訓練を施されていた雀野は敵の姿をはっきりと捉えることができ、一方彼らはお互いの位置も覚束ず鈍器を安易に振り回せない。少女には圧倒的な地の利があった。

 そして何より、雀野には気配遮断術の心得がある。男たちは少女の居場所すら認識できない。

 すらりと伸びた四肢のどこかが振るわれるたび、悪漢の声は一つまた一つと沈黙していった。

 

「クソ、今のうちに……!」

 

 雀野宅の前で会話していた二人組の片割れが、眠る少女のいるであろう方向へ走り出す。

 偉そうにふんりがえっていた先輩連中は物の役にも立たずあっという間に倒された。この状況で頼れるのは自分の力のみ。

 彼らの狙いはあくまで白髪で、黒髪を相手にする必要性はどこにもないのだ。

 

 女を無視して、いざ目前に迫らんとした青年が不意に大きく跳んだ。

 

「……ってぇ!」

 

 ふと足がもつれて、着物女から逸れ前額部が土くれと接吻を交わす。

 じわじわと痛みの広がる足元には弾丸が転がっていた。回収したゴム弾を女が指で弾いたのだ。

 仲間の様子を見るために前を向くと、鷹を想起させる瞳で男の双眸が埋め尽くされた。ハイライトのない蒼眼は幽鬼のよう。左右から頭部を無造作に掴まれ、男が臆病な鳴き声をあげる。

 今更になって暗黒へと順応し、横たわる仲間を朧気に見つめつつ男は気を失った。

 頭を中心にシェイクされる薄気味悪い刺激に襲われながら。

 

 ──こうして一方的な蹂躙劇が幕を閉じた。

 会敵して凡そ1分にも満たない出来事であった。

 

 着物をはだけさせ、露出する弾痕へそっと雀野は掌を置く。

 肌は赤く染まっているが体内を巡る気脈にあまり乱れはなかった。臓器の損傷や骨折の心配はないと判断し、ほうと安堵の息を吐く。これならこの場から少女を動かしても問題はないだろう。

 無論、病院で一度検査を受けさせる必要はあるが。

 

 和装を整え帯を回し、少女を連れて帰ろうとしたところで、雀野はピタリと手を停止させた。

 背中側から人の気配を再び察知し静かに目線を向き直す。

 

「────電波が悪いんで見にきてみればこの有様たーなぁ」

 

 身長は目算180を超えている。声の低さも相まって男性であることは疑いようがない。

 漫画に出てきそうな黒いマントで巨躯を隠蔽しており、覆い被さる仮面が地顔を秘匿していた。

 雀野が息を呑む。

 リアルでこのような服装を拝めることへの驚きもあるのだが、それ以上に。

 

 ──仮面がださい。すっごください。罰ゲームか何かだろうか。

 

「使えねぇ奴らだ。近頃の若い衆はこれだからよぉ」

 

 ダサ仮面が粗野に吐き捨てては転がる男に蹴りを入れる。

 規則的な大きい打撃音と、喪神した男が零す小さな喘ぎに眉を顰める少女。

 

「あなたがこの人たちの言ってた上司の若頭代行さん?」

 

 下品な連中であったが死体蹴りは不愉快で見るに堪えない。制止も兼ねた声掛けに、マント男があーと独り言ちた。

 

「そうだよ。こいつらは一応俺の手下だ。……なぁお前知ってるか?」

 

 雀野に話しかけたと思えば。

 脈絡もなく、少女へと突進した。

 

「これぐらいのガキはよぉ、首を絞めながらピストンすると最高に締まりが良いん、だぜっ!」

 

「っ……! どいつもこいつも……!」

 

 振りかぶられた拳が少女を襲う。

 だが大振りも大振り、拳骨を耳まで引き力任せに押し出すお手本のようなテレフォンパンチなど雀野に当たるはずもなく、空虚な風切り音を生み出すのみ。

 男の殴打は稚拙だ。武道を嗜んでいるとは到底思えない型もへったくれもないゴリ押しの連打。初めに仕留めた三人の方がよっぽど強かっただろう。

 

「ビビッてんのかぁ!? あぁ!?」

 

 耳元で砲声を轟かせるマント男。

 実戦とはとどのつまり度胸である。格闘技を学ぶ者であってもアウトローに喧嘩を吹っかけられ、口汚い過激なトラッシュトークを浴びせられれば誰だって心が怯むだろう。

 場慣れしていなければ能力を活かせず負けることなど決してあり得ない話ではない。

 男は戦意喪失を狙っているのだろうが、それは幼少の頃既に雀野が通った道だ。虚仮威しにしか聞こえず少女は内心呆れ返った。

 

「これでも食らって、反省しなさ──」

 

 鈍重な右ストレートを半歩横に逸れて回避し、少女の右足が鋭く上がる。

 目標位置は隙だらけの下半身、その中央。男性にのみ与えられた人体急所。

 熱に弱い精子を育てるために体温と遠ざける目的で外部へ剥き出しとなった生殖器。

 俗に言う、金玉である。

 

 

 蹴りと睾丸がぶつかりあった瞬間。

 

 

 ────右足から、突如として激痛が伝播した。

 

「えっ」

 

 少女の口から信じられないという声色が漏れる。それは、途轍もなく奇妙な感触だった。

 柔らかな精巣に触れたにもかかわらず、雀野が感じたのは鉄(・)の(・)硬(・)度(・)。

 一体何が起きた? 思案に埋没する一瞬の空白を男は見逃さなかった。

 

 雀野が弾き飛ばされる。マントの下から伸びた剛脚が、少女の脇腹を襲ったのだ。

 同一の妙竹林な感覚と強烈な衝撃が細身を駆け巡る。

 

「ッゲホッ……演技がとっても上手いんだね、あなた」

 

 痛みに耐え体勢を立て直しながら男へ投げ掛けた。

 仮面の繰り出した蹴撃は鋭利で、名のある武闘家でも放てる者はほとんどいないだろうと断言できるほどの、流麗な一撃。

 見せつけるように、ゆったりと残心し姿勢を整えていく。その風貌は紛れもなく達人のそれ。

 

 男は弱者を装う強者だった。

 

「そういうお前もなぁ雀(・)野(・) (・)薙(・)帆(・)」

 

「…………! 看破された上での賛美など嫌味にしか聞こえないのだがな」

 

「いやぁマジで褒めてるんだぜ? さっきまでのオーラのない死人みたいなお前と普段のお前を結び付けられる奴はそういない。だが俺は人間観察ってのが得意でね。素顔を見さえすれば、どれだけ変装しようと俺の眼は欺けねぇんだよ」

 

 存在感を消していた少女の目に光が戻る。

 正解と言わんばかりにマスクと眼鏡を放り投げ、得体の知れない外敵に強いまなざしを向けた。

 教員や清掃員含めた職員の男性全員から性産的行為に誘われたことのある雀野は、水ノ月学園に通っている者でないと断定する。男の声は聞き覚えがなかった。

 街中のどこかですれ違ったのだろうか──いや、今はそんなことどうでもいい。

 黙考と平行して呼吸術を駆使し、腹部の痛みを滅却した。傷がなくなることはなく、ただ誤魔化しているに過ぎないがこの戦いにおいては無用の長物。

 

「ったく手間かけさせやがって。手加減せず蹴ってればそこで試合終了だったのによぉクソ甘ちゃん女が。……あービッチのお前が金玉をぶっ潰すわけもねぇか」

 

 そうだ。心の中で少女は男に同意する。

 男の想像する意図とは違うがその通り陰嚢を粉砕しようなどとは微塵も思っていなかった。

 暫しの間悶絶させられれば、それでいいと。

 だが。

 もしもあの時、怒りに任せて蹴りを放っていたとしたら。

 

 

(私の右脚の骨は間違いなく金玉に折られていた──!)

 

 

 少女の額を、冷たい汗がじわりと濡らした。

 青藍島では性人年齢に達していない幼き少年少女との性行為を固く禁じられている。

 性に緩すぎるこの島の住民にとってそれは絶対的な境界線であり犯してはならない禁忌で、長年本土で生活を送っていた雀野も同様である。

 白髪の少女がそれに抵触しているかどうかは定かでないが、彼の発言で未性年を意識させられていたのは確かだ。

 ごくごく単純な煽りによって、雄の象徴へと誘導させられた。男の掌で踊らされていたことに気づき、少女は軽く舌打ちする。

 

 緩慢な動作で前進する男へ、今度は雀野が飛び出した。しなやかな腕が伸び、ボクシングのジャブを思わせる速射砲が男を襲う。威力を犠牲にし速度に特化させた、拳の弾幕。

 ところが──拳打をぶつけるたびに、攻めを担う雀野の顔に苦悶の色が差していく。

 どこに打ち込んでも、恐ろしく硬いのだ。生身である筈なのに、金属を叩いてるようなちぐはくさ。少女の両手に疼痛が着実と積まれていく。

 

「どうした痛いどころか気持ちよくすらねぇぞ! 腰の動かし方もわからない処女の騎乗位かぁ!?」

 

 ノーガードから男の一閃が解き放たれた。掌が上から下へと反転し、螺旋の軌道を描きながら少女の胸部へと肉迫する。

 雀野は腕を交差させブロックしバックステップ、反動を活かし空中で鮮やかな一回転を決めて、被害を最小限に押し留めた。 

 マント姿の男が如何にも面倒だという物言いで少女に対し開口する。

 

「これでわかっただろう? 無意味な反抗をやめて大人しく降参しろ」

 

「いや、意味がなかったわけでもないさ。3つほどわかったことがある」

 

「ほー言ってみろ」

 

 まずは一つ。少女が口ずさみ人差し指が立てられる。

 

「今しがた見せた、空手の正拳突きによく似た技から察するに──貴方の流派は崋山(かざん)心眼流(しんがんりゅう)だ」

 

「へぇ、マイナーもマイナーだと思ってたんだがな」

 

「そして崋山心眼流の多くがとある大組織に属していると聞いている。恐らく貴方たちは本土からやってきた、そう──ヤクザだろう? これが二つ目」

 

 雀野薙帆という女は父親の伝手により様々な格闘家との手合わせを行っていた。任侠団体に籍を置く一人とも対戦済みである。もっとも、過去に戦った男とマント姿のレベルは段違いだが。

 確証はなかったがどうやら推論は正しかったらしく、僅かに男が静止した。

 

「最後。貴方の戦い方は肉体に宿る気を操作する──一般的に内功、気功術と呼ばれる技法に近似している。パッと思いつく限りでは、隣国に伝わる硬功夫(イーゴンフー)か、それとも沖縄空手の上地流か」

 

 硬功夫。それは中国独自の鍛錬法だ。

 頭から足先まで、五体を毎日極限まで虐め抜いて虐め抜く。幾星霜を経て修練を重ねた者は、煉瓦を指で貫き鉄棒を頭で受け止める凄まじい頑強さを得られると雀野は聞き及んでいる。

 少女が話し終えるとマントは手を叩いた。まばらで嫌味や嘲りが混合された、乾いた拍手だ。

 

「似ているかもなぁ、御明察と言ってやりたいが……それがわかったところで何になる? お前の攻撃が一切通じないことに変わりはねぇ」

 

「なに、何事もやってみてなくてはわからんよ!」

 

 力強く唸り、再び少女は攻勢に出た。

 足場を踏み込み、仮面の眼前で雀野が廻る。ワンテンポ遅れた形で、仮面の男もまた廻る。

 軸となる右の踵が相対者に向けられ、双方無防備な背部を曝け出した。

 遠心力を高め利用する蹴り技──後ろ回し蹴り。まとめられた一房をはためかせながら、仮面男の横っ腹を刺す。始動の速い雀野の技が先に決まるのは道理だった。

 けれども。 

 

「効かねぇっつてんだろうがよぉ! その程度の火力如きがぁぁ!」

 

 それでも男は止まらない。桁違いの耐久力が、打撃を浴びながらのカウンターを可能にした。

 最初の蹴りとは比較にならない仮面の全力を纏った流星が、空を裂いて雀野の側腹に飛来する。

 男の両目に、腕を差し込みガードを図ろうとする少女の姿が見えたがその程度で殺し切れるほど生易しい代物ではない。腹も腕も深手を負うことは必至だ。

 敢えて女と同じ技を使用し、ねじ伏せる。男は仮面の下で雀野を嘲笑い。

 直後、驕り高ぶっていた男が驚愕で目を見開く。

 

「なっ──」 

 

 仮面の背中が、地面に叩きつけられた。

 蹴り足を両側から腕でホールドし男を押し倒したのだ。回し蹴りで片足立ちとなった男は不安定な態勢であり、崩すのは雀野にとって造作もなかった。

 完全な予想外の反撃により硬直する男の股座に、雀野の足が纏わりつく。両腕で抑え込まれた脚が、少女の太腿に挟み込まれた。

 名を膝十字固め。膝を極めるために作り出された関(・)節(・)技(・)。

 膝関節の可動方向と真逆に捻ることでこの技は完成する。 

 片足さえ動かせなくすれば逃走の余裕ができる。雀野の最終目的はあくまで少女を安全に避難させることで、男を打ちのめすのは必須条件ではない。回し蹴りはそのためのブラフだった。

 

 後方へ倒れ込もうとしたその刹那──雀野の視点が上昇した。

 

 男は常人ならざる背筋を推進力に変え、女ごと持ち上げたのである。不意を突かれた急浮上に僅少ながら女の拘束が緩まった。尻を地べたから離したことで可動域が広がり、足を雀野の腕からスルリと引っこ抜く。

 男と女がほぼ同時に起き上がり、後退。闇の中を静寂が包む。

 一呼吸置いて、少女が短く溜め息を吐いた。

 

「貴方がいくら堅くとも、関節技ならあるいは……そう思ったのだがな」

 

「間違っちゃいないぜ。はっきり言っちまえば、俺の技はただ体を硬質化させ暗示みたいなもので痛覚を鈍くしているだけだ。神経や靭帯は人と然程変わらない」

 

 ただな、と男は繋ぐ。

 

「弱点をそのままにしておく馬鹿がいるかよ……! ありとあらゆる締め技、関節技への対処方法を俺の身体は学習済みだ。薬物投与や肉体改造で身に着けた筋力もある。俺にベーシックな技は通用しねぇ」

 

 ハッタリではない。力ずくのようで、経験に裏打ちされた技術を少女は肌で感じ取った。

 雀野にとって関節技は本来専門外のスキル。奇襲に失敗した今、自身の力量でこの男を捕らえるのは困難を極めるだろう。寧ろ逆に関節技で返される可能性の方がずっと高い。

 それこそ寝技のエキスパートでもなければ、マント男の牙城は崩せない。

 男の言明を認め、少女はゆっくりと首を縦に振る。

 

「──貴方は強いな。掛け値なしに。やり方はどうあれ、我は努力する人が好きだよ」

 

「俺もお前のことは気に入った。青藍島の超が付くほどの有名人をどう始末しようか悩んでいたんだがな────俺の部下に加えてやる」

 

「ふっ、世迷言を……仮に負けたとして、我があっさり恭順するとでも思っているのか?」

 

 称賛の微笑を浮かべていた雀野は打って変わって冷淡な表情に切り替わり、呆れてものが言えないとかぶりを振った。

 しかし、面の隙間から光る両眼は不思議と力強さに満ち溢れていて。

 

「ああ思っているぜ。断言する。俺のイチモツを突っ込みさえすれば、お前は俺に逆らえなくなる。一生な」

 

 荒唐無稽な戯言。一笑に付す妄言に、雀野が息を呑む。

 男は、先ほどと変わらず揺るぎない自信を以って少女に語り掛けたのだ。

 まるで本当に女をいとも呆気なく屈服させる、チン堕ちさせる力を男が備えているような。

 ──それは、如何程の絶技なのだろうか。やはり、凄く大きいのだろうか。

 

「流石は島でも一、二を争う淫売だな。チンコの話をしただけですっかりヤる気になってやがる」

 

「真剣勝負の最中だぞそんなことあるわけないだろう常識的に考えて」

 

「心理学齧ってなくてもわかるぞ。すげー早口で言ってそう。図星だな、ってな」

 

「……………………ちなみに聞くが、貴方の部下とやらになったら我に何をさせるつもりだ?」

 

「やらせたいことは山ほどあるが……そうだな。いつの世も裏の世界ではガキを使った商売ってのが人気でね。お前はガキ受けがいい。どいつもこいつも声を掛ければお前に付いていくだろうさ。つまりはそういうこった」

 

 そうか。少女は低く呟き。

 トントンと。少女が小さく跳ねた。足周りに落ち広がった木の葉が子気味良い音を立てる。

 鋭い呼吸音はやがて揺れを鎮まり返し。

 

 雀野が、初めて構えを取った。

 

「……人に向かって、使いたくはなかったのがな」

 

 ──女から醸し出される空気が明らかに変質した。

 未知のプレッシャーに、荒事に慣れていた男の全身が総毛立つ。

 

 

 男が発動している技は"漢勃(おとこだ)ち"。

 男は元々短小だった。不出来な息子を抱えているのが嫌で嫌で仕方がなかった。

 それを解決すべく、男が取り組んだのはペニトレである。

 勃起した陰茎だけで全体重を支え、上下させるイチモツ勃て伏せ。

 バーベルを紐で股間に巻き付けるチンコースクワット。重りを付けてチン垂。

 並々ならぬコンプレックスが常軌を逸した負荷修行を生み──執念の果てに、紙のナイフを鉄の剣へと昇華させたのだ。

 ペニスの勃起力を総身へ転化させ、男を鋼に変異させる。それが漢勃ちの原理。

 

 少女は男を右脚で蹴り、男の右脚で腕と腹を蹴られた。最早戦えない身体の筈。

 にもかかわらず、少女は負傷などまるでないように深く腰を落とし脚を大地に突き刺していた。

 何かがある。揺らがない体幹と、未曾有の威圧感を前にして男は警戒心を最大限に押し上げた。

 

 ────イメージしろ。純白のショーツを。

 

 ────イメージしろ。事務的にたくし上げられたスカートを。

 

 ────イメージしろ。蔑むような視線で己を見下す雀野薙帆を。

 

 速やかにピースを組み立て、妄想のパズルが仮面の脳裏で完成した。

 嫌そうな顔でパンツを見せてもらうこと。それは男にとって、究極にして至高のオカズ。

 男の逸物が黒布の中でもぞもぞと猛り狂い、外套を押し上げ黒の天幕を作り出した。

 覚醒を遂げたモンスターに連動し男は更なる剛体へと進化した。

 蔑視でうっかり射精してしまわないよう、精神統一を行いリビドーを沸点寸前までに抑え込む。

 

 突風が吹き砂埃が舞う。

 瞬きをし黒で映像が途切れ──少女は男の目と鼻の先まで接近を終えていた。 

 

「な──」

 

 漢勃ちがあるからといって馬鹿正直に攻撃を食らう義理はない。一対の腕で捌き、流す。

 男は万全の状態で待ち構えていたつもりだった。

 しかし爆裂音を伴った、雀野の人間離れした神速を仮面は目で追うのがやっと。

 振り上げられた拳を流すのは不可能だと悟り女の狙いである腹直筋にだけ神経を研ぎ澄ます。

 チンポエナジーを一点集中させたマント男の最大防御が少女を迎え撃った。

 

 何とも形容しがたい、奇妙奇天烈な衝突音が闇に響く。

 

 どちらもその場から一歩も動かない。  

 風が止み、男は仮面の下でニタリと嗤った。

 

 ──勝った。女の切り札であろう一撃を完全に防いだ。

 

 ビビらせやがってと心の中で悪態をつきながらも、肉体は女にトドメを刺すべく淡々と行動を開始していた。

 拳を突き出したままリアクションを起こさない無防備な少女へと蹴りを放とうとして。

 

 男の眺める景色が急激に変化した。

 

「あ? 何がが起こって──」

 

 少女が逃げていく。構えを解かぬまま逃げていく。

 違和感に戸惑いながら、少女の蒼眼に睥睨され──真相を直視する。

 

 

 男はたたらを踏んで、尻餅を付いていた。

 

 

 漢勃ちはあらゆる痛撃を防ぐ守りの技だが、減衰できるダメージにも限度がある。

 許容量を超過すれば技は解除され、蓄積された人体への負担が一気にフィードバックするのだ。

 たった一撃。

 たった一撃で、漢勃ちのチンポエナジーを全消費させられ解除ギリギリまで追い込まれていた。

 生まれたての小鹿のように震える脚で男は何とか立ち上がる。

 少女も拳を下げ、信じがたい物を見つめるように口を開いた。

 

「我らが業を受けてなお立ち上がるか。敵ながら見事……!」

 

「うるせぇ……! 俺に何をしやがった……!」

 

 怒気を込めた男の問いに無言で応え、少女は腕を下ろしリラックス状態を取った。 

 女がぼやけている。漢勃ちの副作用が目にも来たのかと男は早合点したが不正解だった。風景は尚も鮮明で、曖昧なのは少女のみ。

 時が経つにつれて少しずつ夢現と化していく雀野を凝視して、男は不鮮明の正体に辿り着いた。

 

 振動だ。 

 少女だけを局地的な地震が襲っているような、猛烈な超震動。 

 その姿を一言で表すとしたら──────それは、一振りのバイブであった。

 

 打撃というものは足から腰へ、腰から肩へ、肩から腕へと力を伝達させるもの。

 体の構造を把握し、内部に流れる力を外へ流出しないよう研鑽を積み徹底的に無駄を削ぎ落す。

 いかにエネルギーを効率よく拳に乗せるか。それが技の威力に直接結びつくのだ。 

 ならば、あの振動を武術に応用したら。

 パフォーマンスを維持したまま振動エネルギーを生成し、それを上乗せできたとしたら。

 

「貴方は強い。だが──我と貴方では如何せん相性が悪すぎたな」

 

 防御力を遥か上回る攻撃力によっての正面突破。

 全身を肉バイブに変えた女と全身をチンコに変えた男による一騎打ち、勝敗は一目瞭然だった。

 それでも男は少女を仮面の下から睨みつける。任侠としての意地か、男としてのプライドか。

 

「テメェ……爪を隠してやがったな……! 舐めやがって……!」

 

「侮っていたわけではない。我の流派は、古くは戦国より続く殺人拳。一撃一殺を旨とするこの技は容易く人の命を奪ってしまうのだ。故に貴方の技をまずは体感しなければならなかった」

 

 だからこそのジャブ。だからこその回し蹴り。効果範囲を確認し、守備力を見極め、その上でバイブレーションの出力を雀野がコントロールできる最下限まで調節し魔拳を撃ち放った。

 筋肉を瞬間的、連続的に緊張&弛緩させ振動を発生させる。静乱流の基礎にして奥義を雀野家は地狼(ちろう)と呼んでいた。

 技の本当の由来を、雀野は知らない。

 

「降参しろ。貴方に勝機は残されていない」

 

「……いいものかよぉ! 女如きに舐められるなどぉぉ!」

 

 男が女の周囲を旋回する。まだ何かをするつもりかと仮面を警戒しながら少女は追従した。

 途中で走行をばたりと中断した男が外套のなかで何かを探る。

 仮面が引っ張り出した武器を一目見て、雀野は深い、深い嘆息をもらした。

 

「動くんじゃねぇぇ! いくらテメェでも鉛玉は防げねぇだろうが!」

 

「中身はゴム弾だろう? 少女の確保のために、殺傷力のある実弾を用意するとはとても思えん」

 

「チィ……! だがなぁ、例えゴム弾でもこの距離ならかなりの破壊力になるんだぜ。

 ここでもし避けたら、お前の代わりに大切な大切なお姫様が大怪我負っちまうぞぉ!?」

 

 雀野は少女の身を守るべく常に男と挟まれる形で戦闘状況を保っていた。

 男の狙いはできうる限り間合いを縮め、このシチュエーションに持ち込むこと。

 乱れたポニーテールを指簪で整えながら、少女は身構えもせずに男の正面に立ち塞がる。

 

「──好きにしろ。どこまでも足掻く姿勢は嫌いじゃない。ただし先に言っておくぞ。我にライオット弾は届かん」

 

「吠えてろやメス豚がぁぁ!」

 

 怒声とシンクロするように引き金を折らんとする強力さで人差し指は内転した。

 銃口から弾丸が射出され、闇夜で発砲炎が花開く。

 技能に乏しいまま銃を扱うなどあり得ない。妥協を許さない男は当然訓練にも力を入れていた。結果、身に着いたのは驚嘆に値する正確無比の精密射撃。

 仮面の狙い通りに、少女の脚部を凶弾が撃ち抜いた。

 次弾発射はすぐに行わない。少女が痛苦に悶え暴れるかわからないからだ。男が求めるのは確実な勝利。

 ゴム弾を一発も浪費してはならない。焦燥に駆られた男に残る一欠けらの判断力が自然と慎重な態度を生んでいた。

 しかし男がその機会を得ることは永遠になかった。

 

 ────女は、微動だにしていない。二本の足でしっかりと立ち退屈そうに男を眺めていた。

 

「続きはいいのか?」

 

 銃弾の雨霰が雀野を襲う。薬莢もろとも理性が体外へと放出され、男は思考を放棄しただトリガーを握り続けた。典型的なトリガーハッピーだ。

 火花舞い、重い衝撃音が静閑な森林地帯を駆け抜けるが、すぐに指を引いても砲火の光が散ることはなくなった。

 ライオット銃の上部が横にスライドしている。それは弾切れの証明であり、仮面を現実へ強引に連れ戻す。何度目かもわからない、男の叫び声が山々に木霊した。

 

「どういうカラクリだ! 何故通用しねぇ!」

 

「……我の流派は内気功にも精通している。気を集中すればそれなりの防御力にはなるさ。そして」

 

 雀野が転がり落ちていた小石を拾い上空へひょいと投げた。重力に従い、地と平行に伸ばされた腕へ石ころは落下していく。

 揺れ動く腕と接した途端──石はバネで押し出されたように、再び天空へと飛翔する。

 滞空時間は、先の比ではなかった。

 

「──気で肌を保護し、ゴム弾そのものを筋肉の収斂によって弾いた。ただそれだけのこと」 

 

「俺の回し蹴りでピンピンしてたのも……クソっ化け物が……!」

 

「結構痛いんだぞこれでも。しかし貴方の怪物じみた強靭さも大概だと思うがな。我の内気功とはどことなく毛色が異なるようだが」

 

「俺はただイチモツの勃起力を身体に行き渡らせてるだけだ! テメェのトンデモ拳法と一緒にするんじゃねぇ!」

 

「は? いやそれはこっちも一緒にされたくないんだけれど……え? イチモツ? え?」

 

 男の発した言葉を上手く咀嚼できず、少女の脳内が疑問符でいっぱいになる。

 動揺を狙っているのかと疑ったが、男の声は本気と書いてマジトーン。

 実際、嘘偽りなかったが雀野は聞き流すことにした。

 錯乱状態に陥った男から吐き出された唯の出任せだと、そう思いたかったのである。

 

「……ゴホン! さて、そろそろ幕引きといこうか。我もいい加減眠りたい」

 

 詮索はやめておこう。雀野は考えるのをやめた。今のやりとりを丸々なかったことにして、後ずさるマントへゆるりと進撃を開始する。

 少女が一歩、歩を進める。男性が一歩、後ろに下がる。

 逃亡できないことを男は自覚していた。少女は速度においても男を凌駕している。

 男はここに来てゴム弾だとあっさり認めてしまった判断ミスに気が付いた。心理戦は得意分野であった筈なのに、人外的な強さを目の当たりにして冷静さを欠いてしまったのだ。

 もしも女をペテンにかけていれば。もしも真の実力を発揮する前に関節技で壊せていたら。

 無為なIFが泡沫の如く消えては現れる。大木に行く手を遮られ、反復作業は唐突に終局を迎えた。男の相貌が苦々しく歪曲し、外装から滲み出ていた尊大さは影も形も残されていない。

 文字通り後がなくなった黒衣の仮面は、女に向かって突貫した。

 

「誰にでも股開くクソビッチがああああ!」

 

「ありがとう。ここでは最高の誉め言葉だロリコン仮面!」

 

「俺は老若男女誰にでもイチモツ突っ込めるだけで特別ロリコンの趣味はねええええ!」

 

「それはそれで気持ち悪いわああああ!!」 

 

 男女の咆哮が山に響き、合わせ鏡のように拳が打ち放たれる。

 各々の腕が敵にいざ迫らんという時──重量感のある効果音を伴って何かが天来した。

 何事かと顔を向けると、そこには土床に転がり落ちている丸い砲弾めいた球が。

 

 落下物には、でかでかと『SHO』の文字が刻印されていた。 

 

「は?」

 

 二人の間の抜けた声が重なり合い──ピンクがかった煙が瞬く間もなく森に充満する。

 

「はひん♡ おぉん♡」「お゛お゛っ♡! お゛おっ! ♡」「イクのおおおおお♡」

 

 最も近くで倒れていた男達が、喘ぎ声の大合唱を一斉に唄い始めた。

 

「銃声を聞いてSHOに通報した奴がいたか……! だが今はありがてぇ!」

 

 桃煙を視認した両者の初動は素早かった。

 雀野は男に構うことなく着物の少女を担ぎ上げ、そのまま女の子を支えていた木を猫のように駆け上がる。

 微少ながら煙を嗅いでしまい、甘ったるい香りに鼻腔をこそがれながら、明朝にSHKのニュースで語られていた報道内容を雀野はふと思い出した。

 淫スタをインストールしたスマホやタブレットは常時、GPS情報を青藍島の管理組織SHOへと発信している。

 それを活用して何かしらの通報があった際、位置情報を下に事件現場を索敵。催涙弾ならぬ催淫弾の砲丸を飛ばし とりあえず媚薬で興奮させセックスで行動を制限しようという、最近考案され実験的に取り入れられた新システムだ。

 雀野はスマートフォンを持っていない。大方汚いコーラスをしている人間の誰かが持っているのだろうと少女は当たりを付ける。

 

 男の方はというと、銃を持っていた部下を連れてそそくさと退散しようとしていた。

 体力も残り少ないだろうに、それでも成人男性3人を背負える膂力に雀野は驚きつつ遁走を図る男に吠える。

 

「逃げるなダサ仮面! 他の部下たちはいいのか!」

 

「こいつらはロリを犯せるって謳い文句で本土から引っ張ってきた何も知らないチンピラ上がりの新入りよ! 捕まったところで俺は何も損しねぇ! あとダセェ言うなこれだから芸術のげの字もわからないバカ女はってうお!」

 

 煙の及ばない高所から飛礫が襲来し、男は肉盾で投石を防いだ。欠片に内包された、部下越しに波及してくる激震に歯を食い縛る。樹木を遮蔽物とし、振動を帯びた拳で投擲物を打ち出してくる少女の猛攻をやり過ごしながら、仮面の口が大きく開く。

 絶叫に近い金切り声が雀野へシャウトした。

 

「────テメェはSHOに保護されるためそこにいるんだろうが! もしそうなったらそのガキの人生終わっちまうぜ! S(・)H(・)O(・)も(・)厄(・)ネ(・)タ(・)な(・)そ(・)の(・)ガ(・)キ(・)を(・)狙(・)っ(・)て(・)る(・)ん(・)だ(・)か(・)ら(・)よ(・)ぉ(・)!(・)」

 

「何!?」

 

 言い置いて、男はその場から足早に離脱した。

 耳を澄まし次第に強くなっていく幾人もの靴音を雀野は聞き取る。警備員たちのお出ましだ。事情を説明すれば罪に問われることはないだろう。

 しかし。

 獲物である少女を治安維持組織に奪取されたくない、敵の虚言を真に受ける必要はないと思う反面、真実ではないかと拳を交えた雀野の、武闘家としての本能が囁いていた。

 そもそも子供一人を拉致するにしては大掛かりすぎるのだ。性犯罪の痕跡を隠すため大人数を動員するというのは理解できるが、それにしてはあまりにも過剰武装。

 白髪の少女が極道者にとって重要人物であることは紛れもない事実なのだろう。

 

 青藍島という、危険でなければ基本的にどんなドスケベプレイでも無料で楽しめるセックス島の誕生によって、客足が遠のき本土の性風俗業界は一気に凋落した。風俗店を裏で経営していたヤクザたちも大打撃を被ったのである。

 重要な収入源を焼野原に変えられた彼らは青藍島の存在そのものを疎んでいる。父が嘗て雀野に語っていたことだ。

 それを踏まえると、彼らが少女を捕らえようと躍起になっていた理由も自ずと見えてくる。

 

(あくまで仮定だけど──彼女はSHO、つまり青藍島を管理する上層部の誰かにとっての弱みなのかな。それならこの子を人質に取り、脅そうって魂胆もわからなくはない……この島の商売に俺達も一口噛ませろ! とか。

 クソダサマスクさんの捨て台詞がもし本当だったとしたら、青藍島に属する人間はこの子を明るみに出したくない……? SHOに保護されたら監禁生活ってうわもう来ちゃった!)

 

 草木掻き分ける進軍音を雀野は間近に捉えた。 

 時間はもう残されていない。

 

「うーむ、ええいっ、なるようになれ!」

 

 少女を乗せ木から木へと音もなく飛び移り、雀野はその場を後にした。

 

 翌日、男達が検挙されたことと導入一日目にして催淫弾の中止が発表される。

 守るべき未性年の子供が発情してしまっては本末転倒であることと、かなりの重量がある鉄球を位置情報のみで判断し発射するのはあまりに危険という、至極当然の理由である。

 

 

 

 

 

 

「ここまで来れば、一安心だな……全く、無駄口を叩いて取り逃がすとは未熟極まりない。まだまだ修行が足りん」

 

 山を抜けて、雀野は住宅街へとたどり着いた。このまま北東へと進めばこの島で絶大な人気を誇る海岸『ヌーディストビーチ』に抜け出て、北西へ道なりに歩けば水ノ月学園が姿を現す。

 この道は雀野の通学路なのだ。幾重にも設置された監視カメラの位置を少女は半年間の登下校でチェック済み。足跡を残さないよう、雀野は迂回し自宅のある南方向へと戻ろうとした。

 

「おっと」

 

 駐車場に止められた車の影に身を委ねる。数拍の間を置いて、路上を眩い光が照らした。SHOに所属する夜間警備員の女性だ。今頃は男しかいない集団が発見されていることだろう。同性同士の深夜密会、傍らには鈍器。怪しさしかなく、大騒動になることは必須だ。そこそこ現場近くにいる彼女は応援に向かわないのだろうのか。

 いや、こういう時だからこそ通常警備が肝要なんだろう。雀野が一人納得している内に、女性は照明片手に少女の横を通り過ぎていった。

 

 警備の数が増えているかもしれない。厳戒態勢であることを念頭に、雀野はひとまず安全確認のため周囲を目視しようと立ち上がろうとして──突然、身体の自由が全く効かなくなった。

 千鳥足を制御できず、雀野は目の前にあったフェンスへ激突し、無様にも崩れ落ちる。

 大きな物音を立ててしまったことに反応する余地すらなく、異常事態に唯々当惑した。

 

「……な、んで……」

 

 壁に頭をぶつけ、激しく臀部を強打した──それが、たまらなく気持ちいい。

 

「や……んぅっ!」

 

 夜風が少女を仰ぐ。心地よく冷やしてくれる微風にくすぐられ、少女の肢体が跳ね上がった。

 呼吸をするたびに熱くなる。外気が肌を撫でるたび妖しい痺れが生まれ、それを起点に肉の内側を浸食していく。

 原因は明白であった。

 

「た、たった、あぁっ、あれだけのっ、りょう、で……!?」

 

 雀野家に生を受けた者は様々な毒を少量ずつ長期に渡って服用し抵抗力を獲得していく。

 暗殺稼業を営んでいた雀野は兎にも角にも人からの恨みを買いやすいからだ。

 毒物に適応した血が脈々と受け継がれ代替わりをするたび耐性はより強固なものとなる。

 現代に生きる雀野薙帆は、歴代で最強の抵抗体を保有していたのだが。

 

 ────それでも、青藍島で誕生した最新鋭の媚薬には為す術もなかった。

 

 後にドーピ淫グガンハメヌープと呼称される、一滴でアフリカゾウも発情させ、長いお鼻までバキバキに勃起させてしまうという劇毒中の劇毒である。

 そのプロトタイプとなる試験煙を、雀野は身中に含んだ。含んでしまった。雀野の体は発症を遅らせる時間稼ぎが関の山。

 

「ん、やぁ……! あっだ、だめ……!」

 

 今まで味わったことのない、膨大な快楽が津波となって押し寄せる。無意識の内に股間へ伸びそうになっていた腕を、気力を振り絞り紙一重で押さえつけた。

 自慰行為に手を出せば最後、官能の鎖に囚われこの場から移動することすら叶わなくなるだろう。それだけは避けなくてはならない。

 酩酊する中、着物少女を見つめる。通学路を覗くため降ろしておいたのは不幸中の幸いだ。

 もしも背負っていたら、少女を硬いコンクリートに叩きつけてしまうところだったから。

 女の子はスゥスゥと寝息を立てていて着物から伸びる手足も特に紅潮していない。

 弱った骨身にこの発情地獄は大層堪える。彼女だけは媚煙を吸わせなかった。雀野は幾分か心が楽になったが、開閉音を耳にしてささやかな正の感情は雲のように霧散していく。

 

「おやおや、どうしたんだい夜中にこんな所で」

 

 扉の向こうから小太りの中年男性が現れた。車の持ち主でもあり家主なのだろう、入口で雀野を気遣うように見つめている。

 夜更けであるのに盗人の類だという疑念心は、頭部と同じく男には毛頭なかった。それは青藍島の治安の良さを如実に表している。

 

「す、すみません、何でもありませ、ん……ぁぁ」

 

 玄関周りの照明を点けて、おぉっと男性は感嘆の声を漏らす。

 雀野は銃撃をほぼ無効化していた。それでもジャージの方は被害甚大であった。

 弾丸と皮膚とでの板挟みにあった布が千切れ飛んでしまったのだ。

 結果的に残ったのは肌をあちこち晒し、男性の劣情を煽るために造られたような娼婦服。

 照らし出された少女の白き肌が桜色に上気し、鋭い瞳の淵には涙が溜まっていた。

 息を乱す上目遣いの美少女に男は唾を呑む。雀野に夢中で、もう一人の少女には目もくれない。

 

「いやぁ、今日は仕事で疲れてたから早めに寝たかったんだけど……これはもうドスケベしなきゃマナー違反だろう」

 

「こ、来ないでくれ……」

 

 人畜無害の、人の良さそうな男性がごく自然に年若い少女へセックスを求める。

 異様な光景だがここは性の乱れる青藍島。どこにでもある日常風景だ。

 雀野には自負があった。万が一男性に乱暴されそうになっても人生の多くを武術に捧げてきた身であれば、誰であろうと返り討ちにできると。

 その培ってきた力を一ミリも発揮できない。媚毒は既に雀野を犯し尽くした。少しでも身じろぎしようとするだけで電流のような快楽刺激が湧き上り、強制的にアクションを中断させられる。

 雀野は生まれて初めて男性に対し恐怖した。

 

「はぁっ、んっ、すまないが、見てのとおり体調が、わ、わるいんだぁ……」

 

「うーむ確かに体調が優れないようだ……だけど」

 

 舐めまわすように視姦され、嫌悪感で悪寒が走る。

 真面目な口調で少女に同調するが、雀野の期待に沿うような台詞が続くとは思えなかった。男性から迸るギラついたオーラが全てを物語っている。

 年季の入った丸眼鏡をクイッと上げながら。

 

「私は性用医学を嗜んでいてね。その顔色と上擦った声。確実に精液不足が原因の貧膣だ」

 

「ひっ、んんぅぅぅああ……!」

 

 貧血みたいに言うな、と大声で叫びたかった。

 けれど喉に力を入れたことで溢れ出た熱感によって、雀野の脳は焼き尽くされる。淫熱が頭の中をドロドロに溶かし、少女の口は雄を誘う淫らな嬌声を奏でるのみ。

 よし! 掌に拳をポンと打ちつけて雀野に提案する。

 

「おじさんが栄養になってあげよう! なーに心配しなくていい、私は春の町内射精大会において精液量部門第45位の実力者だからね!」 

 

 少女を安心させる声遣いに朗らかな笑顔を浮かべ、威風堂々とサムズアップ。

 純粋な善意と性欲が混じり合った面様はひどく不気味に映り恐怖心をより掻き立てた。

 雀野は尻をつきながら男から逃れようとする。瞼の裏で何度も紫電が走り、痙攣は激しさを増していくばかり。

 それでも淫咽をこぼしながら遠ざかろうとするが、その行為も徒労に終わる。

 無我夢中で進んでいた方向は、よりにもよって袋小路であるフェンスだったことを、再び接触したことで漸く気が付いたのだ。

 

 ──逃げ場が、どこにもない。

 弱々しく首を振り、か細い声を上げることでしか雀野は押し迫る中年男性に抵抗の意思を示せなかった。それは情欲をそそる物でしかなく、元より男には届いていない。

 

 太ましい脂ぎった指が、少女の身を包むファスナー目がけて伸びていく。

 

「嫌、だ……だれ、か、たすけて……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──すみません。彼女から離れてくれませんか?」

 

 友人となった、男の子の声がした。

 

 

 

 

 




・主人公→現状では殴る、蹴るの単純動作のみ地狼が使用可能。飛び道具ブッパ、足だけ振動させて急加速ぐらいしかできず、力の制御は0か80~100かとコントロールも苦手
現時点でも殴り掛かられてもカウンター振動波で相手の腕足を破壊することはできるが、主人公は甘ちゃんなので精神的に追い詰められなきゃそこまでやれない
NLNS発足後、郁子に追い詰められた経験を経て寝技へ持ち込まれても相手の身体を怪我させることなく弾き飛ばして防ぐキン肉マンの面倒くさいギミック超人のような技を習得する


・若頭代行
ダサ仮面……一体何嶋なんだ……?
彼彼女と共通点が多かったために多分センスは二人と大差ないんだろうなーという解釈
漢勃ちの反動で再起不能とまではならなかったがTRUE√の途中まで動けないペナルティを食らう
やってない人は本編をプレイしてその正体を確かみてみろ!

主人公は命に関わるため郁子に対して静乱流の技をそのまま行使できず、速度域では同等かつ刀の間合いの長さも加わり終始劣勢。若頭代行は普通に殴れるため一対一なら負ける要素がない
郁子は逆刃刀で耐久を削れるしゴム弾斬れる、掴まれても寝技に持ち込めるとこちらも負ける要素がない

本気を出した場合完全な互角状態。どちらが先に一撃必殺を決めるかの速度勝負にしかならないため、平和な時代に生まれた主人公と郁子が全力で戦う機会は一生訪れないでしょう

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。