※この作品はR-18です。

雀野さんはドスケベビッチ   作:モブガサ

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前回の裏スジ(約四カ月前)
夜中にパンパン音を耳にして近場の山に入った主人公、雀野!
そこにはチャラ男系竿役に襲われそうな着物少女が!
部下たちは難なく撃退するものの、上司であるボキボキの実の全身勃起人間に大苦戦!
バイブ拳で男を絶頂寸前まで追い込むもののSHOの横挿入りによって寸止め中段!
その場から離脱できたはいいものの媚薬のせいで力が全く出せなくなった!
そんな彼女のピンチに現れたのは近所の種付けおじさん!
雀野ハード→雀野極→雀野堕の連ちゃんパパチンコンボを阻止すべく原作主人公橘淳之介が立ち上がる!


禍福倚伏

 ほんの微かに残された男の子の臭いを嗅ぎ取って、私の中のナニカが目覚めた。

 子宮が、疼く。膣が痒い。私の内側を思いっきり掻き回してほしい。

 

 私をベッドに寝かせ退出しようとする彼の腕をギュッと掴み、そのまま寝床へ押し倒した。

 駄目だ。そんなことしちゃ。それをやっては、この島で過ごした半年間は全て無駄になる。

 なにより、私を助けてくれた橘くんに失礼じゃないか。そう頭の中では考えていても、ちっとも身体が言うことを聞かない。私の心は置き去りとなり肉体に別の意識が宿ったかのよう。

 

「す、雀野さん!?」

 

 吐息が私の顔に降りかかる。クラクラする。

 橘くんの全身から溢れる雄臭さを嗅ぐたびに、彼が欲しくて欲しくてたまらなくなる。

 

 そうだ。

 ここは青藍島なんだ。セックスするのが当たり前の場所。

 橘くんに、恩返ししないと。女の私にできることはそれぐらいしかないじゃないか。

 振って湧いてきた都合の良い言い訳が私の脳内を浸食していく。

 

 薄れゆく意識の中で。

 私は高らかに宣言した。

  

「さぁ──始めようか♡」

 

 

 

 

 

 

 

 向かい合わせ。橘くんと恋人のような距離感で目が覚めた。

 身体の節々が痛い。慣れない動きというのは筋肉に負担をかけるものだ。

 

 ────うん。

 ヤっちゃったもんは、しょうがないよね。

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

「──すみません。彼女から離れてくれませんか?」

 

 夜中に強い衝撃音が響いて、俺は泥棒か何かの類かと心配し家を飛び出した。

 そこにいたのは見知らぬ中年男性と、壁に追い詰められていた──雀野さん。

 ポニーテールに髪を結んでいたが俺には一目でわかった。

 どんな経緯があって、こんな時間、こんなところにいるのかは定かではない。

 だがあられもない格好を晒し、息も絶え絶えといった様子で男から遠ざかろうとする女の子を見て黙っているわけにはいかなかった。

 

「離れてくれ、とはご挨拶だね。今から私が彼女の相手をするんだ。邪魔しないでくれたまえ」

 

「体調が悪そうだし、嫌がってるじゃないですか。無理やり迫るのは条例違反では?」

 

 そう。この島では性産的行為に誘われたら基本的に応じなければならないが、生理や体調不良など理由があれば断ってもいいとされている。

 俺の主張を受け入れ大人しく引き下がってくれるとありがたいのだが、残念なことに男は頭を振ってやれやれとため息をついていた。納得していないことは明らかだ。

 

「条例違反……? ほらちゃんとよく見てみろこの子の顔を。どう見てもメスの顔をしてるじゃないか。大方誘い受けが好きなMっ気のある子なんだろう。体調不良だって? そんなこともわからないとは、全くマンコの位置も知らない童貞みたいなこと言い出すな君は」

 

「ぐっ!」

 

 小太りな男に腕を引かれ雀野さんの前に連れ出された。

 ライトに照らされる紅潮した肌。薄っすらと溜まる涙のせいで妖しく光沢を放つ蒼眼。

 荒々しい呼吸音に混じる、この島であればどこでも耳にする喘ぎ声と同質のソレ。

 彼女が発情していることを、俺は否定できなかった。 

 

 

 

『はい、先生。チンポの大きさが三センチしかないという逸話は誰もが知っている一般的常識ですが、実はフランス皇帝としての側面を持つ人物でもある──それがナポレオンです』

 

 再会してから凡そ五日間。

 嘗て教室の片隅でひっそり本を読んでいた彼女は、青藍島では積極的に授業で手を上げていて。

 

『ねぇねぇ雀野ー! 究極の焦らし技、膣のカーテンを教えてよ!』

 

『……膣のカーテン……?』

 

『それは片桐さんの改良型でしょ。薙帆のは源流のパーフェクトディマンコー』

 

『あ、あぁなるほどな……パーフェクトディマンコーか……まず前提として膣力の数値が──』

 

 女子に囲まれながら雄弁に語る雀野さんは。

 さながら水ノ月学園に君臨する女王のようで。

 

『俺もコキ……コキ……してもらっていいですか? 雀野』

 

『もちろんだ。やっとらしくなってきたな孕丸』 

 

 気安く請け負い、男と共に席を立つ彼女の姿は。

 俺が嫌いな──ビッチそのもの。

 

 雀野さんからはこの島の人間とはどこか異なるものを感じていた。

 性行為にドはまりして下半身で物を考えているような連中とは違う、確かな理性を。

 だがこの島に来て俺は既に何度も期待を裏切られてきた。

 本島の人間のような極々普通の反応を示し、もしや、と思った片桐とかいう女は見た目通りのクソビッチで、まともそうな担任もまた、青藍島に相応しい教師だった。

 

 彼女の痴態を一度でもその眼に焼き付けてしまえば、いっそ気が楽になったかもしれない。

 しかし俺は転校生だからか女子たちに目を付けられていて、アマゾネスを撒きアサちゃんと合流している内に、雀野さんは校舎から立ち去っていた。その繰り返しで今に至る。

 誰からも一目置かれ、羨望を集める彼女を目にするたびに不安で不安で堪らなくなった。

 

 中年男性の言う通り……なのかもしれない。

 青藍島の空気に染められて、あの清廉な雀野さんはもうどこにもいないのかもしれない。

 潔癖であってほしいという、独りよがりな妄想に俺は縋っていただけなのかもしれない。

 

「ぁ、た、橘、く……ん……?」

 

 だけど。

 

「ん? 橘……?」

 

 俺には。

 

「お、おい君!」

 

 彼女の瞳が、本気で助けを求めているように見えた──!

 

「きゃっ……!」

 

 雀野さんがもしそうであるなら俺は道化もいいところだが、考えるより身体は先に動いていた。

 彼女を抱き抱え、俺は自宅へ走る。

 この島にやって来てまだ一週間も経過していない、青藍島の常識というものを理解し切れていない俺では彼を言いくるめことなど不可能だ。

 数カ月先、半年先であればウィットに富んだ切り返しも可能だったかもしれないがそんな未来のことを考えても仕方ない。

 

 ──今は黙って、無理やりにでも彼女をこの場から退避させるだけだ!

 

 

「あー! もしかして君、お隣の橘淳之介君!?」

 

「へ? あっはい」

 

 細身な雀野さんが思ったよりも重……重量感あったせいでスピードが出ず、少々まごついていたところで背中から俺の名前を呼ぶ声がした。

 振り返ってみると、合点がいったという男性が。

 

「やっぱりかー! 私はここに住んでいる者なんだがね、このところ仕事が忙しくてすっかり挨拶が遅れてしまった! いやぁ、すまない!」

 

「いえ、そんな、とんでもない……」

 

 冷たい目が嘘のように、隣の家主であるおじさんは和やかな態度で話しかけてきた。

 この家の奥さんのことは俺もよく知っている。引っ越して間もない俺たち兄妹に目を掛けてくれている、とても親切な人だ。バブみ幼稚園という大人向けの施設で働いているらしい。

 

「しかしあまり感心できないな。性に飢えるのは大変素晴らしいが、順番は守らないとね。

 マナーを守って楽しくドスケベ! の精神を大切にしないといけないよ」

 

 俺がこの人から雀野さんを奪ったハイエナクソ野郎みたいに思われてる……。いや状況的には何も間違っちゃいないけど。

 根はとても良い人で善良なのだろう。それがありありと伝わってくる、穏やかな口調で諭すように語り掛けてくるおじさん。青藍島基準の会話内容が全てを台無しにしているが。

 返答に困っていると、か細い声が俺の腕から飛び出した。男二人の注目が彼女に向けられる。

 

「す、すみません、おじ様……。んっ……我、彼と、約束を、していたのですが……」

 

 途切れ途切れに時間をかけて言葉を紡いでいく彼女を、俺とおじさんは静かに見守る。

 

「……手違いで、び、媚薬を飲んでしまい……頭が回らず、家を間違えてしまいました……そのことにも気が付けず……夜分遅く、申し訳ありません……」

 

 言い切って、ペコリと頭を小さく下げた。

 勿論俺はそんな約束を彼女と交わしてはいない。

 咄嗟に思いついた雀野さんの作り話なのだが──俺はその一言で、彼女が男性と性行為を望んでいる訳じゃないことを確信し、安堵した。

 

「なるほど君が先約だったか。それなら仕方ないかぁ。親睦を深めるために3Pを提案したいところだが、橘君はまだ他人の精液まみれマンコへ挿入するのに抵抗があるだろう?」

 

「え、えぇまぁ」

 

「この辺りは人の出挿入(でい)りが激しいからねぇ。青藍島来たての人間が何を嫌がるかはよく理解しているつもりだ。ただ若いからと言って夜更かしのしすぎはいけないよ?

 それでは、おやすみなさい」

 

「す、すみませんでした! おやすみなさい!」

 

「──ところで、彼女とはどういったシチュでドスケベを?」

 

「…………家出神待ち少女……メスガキの、わからせを」

 

「つくづく、つくづく残念だよ──!」

 

 おじさん……別の場所で出会えていたら、俺たちは世代を超えた友になれていたかもな。

 丁寧な物腰で会釈をして玄関の扉をくぐり、おじさんは家へと戻っていった。

 シンと静まり返る夜の路上に俺たち二人は取り残される。

 ……なんか思ってたのと違う、締まらない形になってしまったが一応穏便に解決したということで良しとしよう。

 ホッと一息付くと、俺の服を彼女が強く握り締めていることに気がついた。

 

「橘く、ん……ほ、本当に、怖かった……!」

 

 別種の涙が、彼女の瞳からポロポロと零れ落ちている。

 普段の凛然とした雀野さんとは思えないほどにその姿は弱々しい、どこにでもいる少女だった。

 

 

 暫く経過し、彼女の病状も僅かにだが沈静化し、俺は自分の置かれている状況に漸く気づく。

 

 ────俺、お姫様抱っこしてるじゃねーか。

 

 エロゲで言えば愛の告白をする一歩手前。これは主人公とヒロインに真の絆が芽生え、物語が更なる盛り上がりを見せるという中盤~終盤に発生するイベントではなかろうか。

 やばい急に恥ずかしくなってきた。

 付き合ってもいない男女がこんなことをするのにも抵抗あるのにいやしかし彼女を助けるための不可抗力であり仕方なかったってやつだってなもんで今態勢を変えるのは不自然だしうーん改めて近くで見るとほんと美人だなこの子髪の毛凄い良い匂いする

 

「あ、あの……」

 

「ひゃい!」

 

 雀野さんの前で情けない声を上げてしまった。顔に出てないだろうか。

 

「放して、頂けないか?……我は、ぁ、もう、大丈夫だから……」

 

「全然大丈夫には見えないよ」

 

「助けてもらった上に……厚かましいが、一つだけ、お願いを聞いてほしい……!」

 

 俺の言葉を頭に入れることができないほどに彼女は疲弊していた。

 それでも残る力を振り絞り、手を震わせながらお隣さんの所有物である車へと指差している。

 彼女を下ろすわけにもいかず、そのまま進んでいくと乗用車の影に少女がいた。

 B等部ぐらいの子だろうか、白い着物を着ていて人形のような端正な顔立ち。

 美しく伸びた白髪は、どうしてだか物懐しさを感じる。

 そんな女の子が、車の影に隠れて寝息を立てていた。

 

「この子を、一晩だけでいい……貴方の家に、泊めさせてもらってもらってはくれないだろうか……! 明日になったら、必ず迎えに行く。我にできることなら何でもする! 頼む……!」

 

 雀野さんが、俺の胸元で頭を下げる。

 一体全体何が起きているか。何故彼女を保護して欲しいのか、問いただしたかったが──雀野さんの必死の眼差しを見て、俺は疑問を心の奥に仕舞い、彼女の懇願を受け入れた。

 

「ありがとう……! 我、は……一人で帰れるから……って、ちょっと、橘くん……!?」

 

 これ以上面倒をかけさせたくないのだろう、俺の腕から離れようとする雀野さんだがその力はあまりにもか細い。一人で立っていることもままならないだろう。

 そんな状態の彼女を放っておくことなどできないし、何より、俺が嫌だ。

 まずは彼女を玄関まで連れて行き、すぐに白髪の子を運び出そう。

 

「さっき何でもするって言ったよね。だったら、俺と一緒に来て──絶対に手を出さないから」

 

「は、はい……」

 

 心なしかより顔を赤らめて消え入りそうな敬語で呟く雀野さん。

 俺の顔をジッと見つめていた彼女は俯きがちになり、モジモジとしている。

 よっぽど辛いんだろう、早く二人を安全な場所に運ばなければ。

 

 

 

 

 

「よし。雀野さん、こっちだ」

 

 着物少女を俺のベッドに寝かせて、もう一人の少女を移動させる。そう、俺のベッドにだ。

 同性であるアサちゃんのベッドに寝かせてもらえないだろうかとお願いしたのだが──

 

『すすすすすす雀野しゃん!? むムリムリムリムリかたつむりぃ!』

 

 あの妹ほんと使えねぇ……!!

 この場合無理というのは、兄妹以外の赤の他人を自室に招き入れるのが嫌、というわけでもなく清楚系ビッチ雀野薙帆──アサちゃんはそうであってほしいようだ──が同空間にいたら緊張して死んでしまう、といったニュアンスに近い。

 妹ながら童貞力が高すぎる。

 

「我はな……お姫様抱っこも、殿方の寝室に上がるのも、貴方が初めてなんだ……」

 

 やめてくださいしんでしまいます。

 俺もまた骨の髄まで童貞男、耳元でそんなこと囁かれたら俺のこと好きなのかと勘違いしちゃうだろうが……!

 付き合って3年は経過しないと女の子を下の名前で呼ぶことができない、真なる純愛好きの俺にとってこのシチュエーションは刺激的すぎた。ちなみに雀野さんに『淳之介』と不意打ちを喰らった日には、腰が抜けてまともに動けなくなること請け合いだ。

 今回はイレギュラーもイレギュラー、そう言い聞かせて無心で彼女を連れてきたが、これ以上は俺の童貞力で対応し切れない。とっととリビングのソファに退避しようそうしよう。

 

 雀野さんを寝かせたところで──彼女がビクッと激しく揺れた。

 俺が駆け寄ると、彼女の呼吸は更に乱れ、強く目を瞑って何かに耐えているようだった。

 焦りで頭に浮かばなかったが、家に連れてくるより救急車を呼んだ方がよかったかもしれない。

 

 今からでも遅くないかと受話器を取りに行こうとした時、彼女が緩やかに瞼を開き始めるのが見えた。

 雀野さんの唇が動いている。何かを伝えたいのか、俺が耳を近づけると。

  

「なぁ──橘くん。さっきまで、オナニー、していたか?」

 

「ななななな何ゆえ!?」

 

 やべぇよやべぇよ……。

 確かにさっきまでやってたけど、ちゃんとオナホもローションも片付けておいたはずだ。

 性的な物は表に出てない筈。それは二人を連れてくる前にチェック済み。

 バレる要素など何一つ──ハッ!

 そう言えば聞いたことがある。

 嗅ぎ慣れて感覚が麻痺している男性よりも、女性はそういった臭いに敏感であると。

 俺、換気してない……!

 海のタチバナ、一生の不覚!!

 

「気にするな……男性であれば、自慰行為など、誰だってするものだ」

 

 そう言って雀野さんは優しく呟き──俺は天井を眺めていた。

 

「えっ」

 

 何が起きたか理解できない。

 わかっているのは、横になっていた彼女が馬乗りになっているという事実だけ。

 困惑する俺の眼前には、嗤うオンナがいた。

 青水晶の瞳は禍々しく光っていて、精を貪り喰らうサキュバスを想起させる。

 俺のことを獲物として狙い定めている、厭らしい眼光。

 

 この島にいる女たちと、同じ目だ。

 

「す、雀野さん!?」

 

 そんなことをしちゃいけない。してほしくない。

 振りほどこうと俺は全力で抵抗しようとするが、どういう訳か力が全く入らない。

 彼女もまた大して力を入れていないはずなのに、俺の腕の一点を握るだけで何故か力が抜け落ちてしまうのだ。

 これではまるで転校初日、保健室で押し倒された時の再現。

 一つだけ同様でない点があるとすれば、以前と違い今の彼女には理性という物が全く存在していないということ。

 

 やはりそうなのか。彼女は青藍島の価値観に染まった、誰にでも股を開くビッチなのか。

 これも全ては雀野さんが仕掛けた罠だったと──いや、だがあの時流していた恐怖の涙が嘘とはどうしても思えない。

 先ほど彼女は手違いで媚薬を飲んでしまったと言っていた。その薬効により正気を失っているだけだとしたら、どうにかして時間を稼げば元通りになるかもしれない。

 

「……だえだ…すじゅの…ざ……あぇ?」

 

 雀野さんの手を止めさせるため、静止を呼び掛けようとしたが──出てきたのは譫言のような、意味を為さない言葉だった。

 喉にさえ力が入らない。呼吸もできなくなるのではと錯覚する程の、虚脱感。

 

「さぁ──始めようか♡」

 

 甘美な媚声が俺の前立腺を刺激する。特別な魔力を帯びているように、そう簡単に動くことがない肉棒は俺の意志とは裏腹に少しずつだが産声を上げ始めていた。

 煩わしいのか簡素な髪留めを引き抜き、束ねられた黒髪がふわりと舞う。無造作に散る黒糸はまるで解き放たれた獣性を表現しているかのよう。

 動けない俺に彼女が近づいてくる。鼻と鼻が擦れ合い頭を上げればキスができるという距離。

 大声を出すことも出来ず、また指の一本も動かせない俺に、この状況を覆す手段は何も残されていなかった。

 心臓が痛い。吐き気がする。こんな雀野さんを、もう見ていたくない。

 俺は思考停止し、天井の染みを数えながら、時が進むのを只管に待った。

 

 

 ……。

 

 

 …………。

 

 

 ………………。

 

 

 ……………………。

 

 勢いよく、俺の胸に何かが落ちてきた。

 

「いた!」

 

「やめろぉ……美岬ぃ……そんなの貴方にしか挿入らにゃい……」

 

 ふにゃふにゃとした声を聞き痛む場所へ目線を送ると、雀野さんは俺の胸筋を枕代わりにしてうつ伏せとなっていた。

 彼女に向かって解放された手を振ってみるが、リアクションはまるでない。

 これは……

 

「ね、寝ている……!」

 

「死を齎すは幽世の業……青藍に在りしは幽玄の華……静乱の担い手、ここに推参……」

 

 なんだか格好いいこと言ってる。

 

「テロリスト共ぉ……水乃月学園を脅かす者を、我は絶対に許しはしない……!」

 

 寝言クソうるさいな……!

 しかしこれはチャンスだ。拘束が解かれている今なら俺がこの場から脱出しても問題ないはず。

 彼女が目覚めないよう、雀野さんの身体から離れようとして──

 

「……フッ甘いな……貴方は視覚外からの攻撃を仕掛けたつもりなんだろうがぁ、気を感じ取れる我に奇襲は通用せん……」

 

「ヒエッ」

 

 俺の両目に二本の指が差し迫っていた。

 押し倒された時に弾き飛ばされたからよかったが、眼鏡をそのまま掛けていたらレンズをぶち抜かれていたぞ。

 保健室で槍使いとの戦いをチラ見していたから彼女が武道の達人だということは知っていたが、睡眠中でも護身できるような特訓でもしているんだろうか。凄いな武術。凄いな人体。

 いかん。下手に動いて彼女を刺激したらどんな目に遭うかわからないが、現状を維持するのもキツいものがある。

 ここは時間をかけてでも静かに、慎重に、薄紙を剥ぐように彼女から離れなければ……!

  

「動くなよ……一ミリでも動いたら、貴方は二度と光を見れなくなるぞぉ……ふふふ、私、今とっても格好いいかも……」

 

 実は起きてないですねこの子。

 

 

 

 

 

 

 

 

「クッ人質とは卑劣な……! わかった……! 降伏するから彼女たちに手を出すな……!

 は、放せ! なんだその液体は……やめろぉ!! ……あっおはよう」

 

「お、おはよう……」

 

 眠い。結局彼女の話を延々と聞かされていたら日が昇ってしまった。

 それもそうだろう。本土基準では間違いなく巨乳にカテゴライズされる美少女が、独り言を呟いてる間忙しなく俺の腹筋周りをたゆんたゆんとさせていたのだ。

 健全な男子高校生がそのまま寝られるはずがあろうか。いやない。

 俺は非常に疲れているが雀野さんは対照的に熟睡のおかげか元気を取り戻し、横たわる白髪少女の顔を覗いて微笑んでいた。

 淫魔めいたオーラはすっかりと鳴りを潜めていて、その横顔からは聖母の清らかささえ感じる。

 そんな雀野さんが、少女を眺めつつ俺に尋ねてきた。

 

「……橘くん、我はどうだったか? 激しかったか?」

 

 この場合指摘していいものだろうか。寝言について。

 あと俺に乗っかったまま話しかけてくるのはいい加減辛抱堪らんのでやめて頂きたい。

 あれだけ酷いと家族が指摘してそうなものだが、もし彼女自身が自覚してない場合は残酷な現実を突きつけてしまう形になってしまう。

 女性との交際経験どころか同性との友人関係すらまともに築いた試しのない俺には恐ろしくハイレベルな問題であった。

 

「えーと、普通、だったよ……うん」

 

 そんなわけで俺は──誤魔化した。

 そんな俺のはぐらかし回答に、普通だったか。と満足げに頷く彼女。

 

「橘くん!」

 

「は、はい!」

 

 声だけ掛けて彼女は押し黙ってしまった。

 言おうか言うまいか、視線を忙しなく泳がせて、悩んでいる様子。

 まさか、俺の本心を読まれたか!?

 気遣ってはいたが、それが彼女の逆鱗に触れてしまった……?

 

 心の中で冷や汗をかきながら待機していると彼女は意を決したか、俺を再びベッドドン。

 大きく口を開いて。

 

「──我と、もう一度……セ、セックスしてくれないだろうか!」

 

 えっ。

 

「貴方も今日知っただろう? 我の隠し事を」

 

 もう一度? 隠し事?

 何の話かサッパリわからず、疑問符を浮かべていると雀野さんは半目に、所謂ジト目で俺のことを見つめては呆れたように首を振った。

 

「む、とぼけたフリして我の上の口から言わせたいか。貴方も中々どうしてサディスティックだな。自分から切り出すのも気恥ずかしいが……橘くんには恩がある」

 

 包み隠さず、我の秘密を明かそうじゃないか。

 ほんのりと朱に染めながら、胸に手を置き彼女は語る。

 

 幼少の頃から一子相伝の武術を習っていたこと。

 その免許皆伝の条件として、この島で処女を守り続け無事卒業することを言い与えられたこと。

 人を避けるためにキャラ付けしていたこと。

 オナホールを使って射精させ、記憶を特殊な技法で抹消し誤魔化していたら、勘違いされいつしか片桐奈々瀬と肩を並べる弩級のビッチ扱いされてしまっていたこと。

 昨夜は色々あって媚毒に犯されてしまい、ああなってしまったということを。

 

 到底信じられない話ではあったが、彼女と槍使いとの戦い、記憶を失った男たちやオナホを使いこなす彼女を実際に見た俺にとっては、ストンと胸に落ちる確かな説得力があった。

 

「我はご存知の通り、最終試験の資格を失ってしまった。ああすまない、決して貴方を責めるつもりはないぞ? 媚薬でおかしくなったとはいえ、我が貴方を求めたのだ、それも強引に。

 ……ただ、非常に申し訳ないが、昨晩の出来事を朧気にしか憶えていなくてな」

 

 彼女は続ける。自分は落伍者であり、養われている身。

 これからの身の振り方は父の裁量に任せるつもりだ。

 だから師の返答次第では、明日にでもこの青藍島を去らなければならなくなるかもしれないと。

 

 だからその前に。

 

「貴方に、抱かれたい」

 

 怪しげな我々を、理由も聞かず介抱してくれた橘くんに。

 処女であることが罪であるこの島で、それを知っても尚、通報せずにいてくれた橘くんに。

 

「────初体験が記憶にないのは、何とも味気ないものだろう?」

 

 羞恥心を抱いたか、髪を弄りながら流し目で見つつ、吹けば飛んでしまいそうな笑みを浮かべる雀野さんは儚げで美しかった。

 

 俺は彼女の願いを──首を振って、拒絶する。

 

「大丈夫、雀野さんは処女のままだから」

 

 俺は、彼女が盛大な勘違いをしていることに気がついた。

 雀野さんは俺を押し倒して、そのまま行為に及んでいたと思い違いをしている。

 まずは誤解を解かなければ。

 俺の返事を聞くと彼女はパチクリと瞬きを反復し、困ったように薄く笑った。

 

「貴方は優しいな。だからこそ、橘くんにお願いしたい」

 

「いや、そうじゃなくてさ」

 

「なに、気遣いは無用だ。自暴自棄になっている訳ではないから安心して欲しい」

 

「だからそうじゃなくて」

 

 俺の言葉を聞いてるうちに何かを察したかあっと零し、ばつが悪そうに眉を顰める。

 更に勘違いしてるんじゃないだろうかこの人は。 

 

「そうか……橘くんは既に沢山の女子たちと睦言を交わしているものな。彼女たちの卓越した技巧を味わっているから、我のような性技0のクソ雑魚似非ビッチでは抜けなかった。

 橘くんは遠回しに、我を傷つけないよう……」

 

「雀野さん、俺の話を聞いてほしい」

 

「は、はい、何でしょうか?」

 

 なんだろう。

 ビクッと震わせながらチラチラと見つめる雀野さんを、無性にからかいたくなった。

 いじめてオーラというべきか。彼女の言う通り俺には加虐性が潜在的に備わっているのか。

 閑話休題。

 彼女は恐らく、非常に思い込みが激しい。

 はっきりと言わなければこのぐだぐだ会話がいつまでも続いていく。そんな気がしてならない。

 俺は彼女の両肩を掴み、

  

「俺は雀野さんとセックスしていない。君は押し倒してから、すぐに寝ちゃったんだ」

 

 真実を伝えた。

 

「えっ」

 

「えっ」

 

 

「………………我の身体がそこまで汚れてないのは、お風呂場に二人で赴いて

 『雀野さんお股からお水出せて偉いでちゅねぇ~ふざけんなさっきから洗うたびに汚しやがって死ねよ! 孕め! オラ! 死ね!』という出来事があったわけじゃなく……?」

 

「うん」

 

「『こんなクソ雑魚処女マンコでビッチ気取ってたのか。騙してた青藍島住民に申し訳ないと思わないのかな?死ねよ。俺が立派なメスの身体に育ててやるから安心して♡おい早速ガニ股に媚びと下品さが足りてねぇ殺すぞ』ということもなく……?」

 

「ないです」

 

 真面目な顔でちんちん亭みたいな台詞言う女の子初めて見たわ。

 

「我の全身が痛いのは」

 

「ごめんそれはよくわからない」

 

「……そうかそうか。これはあの時に負ったダメージだったか。なるほどなー」

 

 あんな相手と戦ったのは初めてだったからな。

 格闘戦での怪我と質が違ってもおかしくはないか。そっかーとうんうん頷く雀野さん。

 

 間を置いて。

 彼女は茹で蛸になった。

 

「ハ、ハメエエエエエエエエエエエエ!」

 

「雀野さん落ち着いて!」

 

「ええい! 放せ! 大人の階段上ったと思ったのにまだ処女だっただと!?

 くっ殺せ!」

 

「大丈夫だ俺も童貞だから!」

 

「ワケのわからない慰めを──!」

 

 

 

 

 

「──取り乱したな。もう大丈夫。私は 正気に 戻った!」

 

「それ正気に戻ってない人のセリフでは?」

 

 破れたジャージのせいで肌色率が非常に高く、目のやり場に困るので冬服用のワイシャツとズボンを貸したのだが、このチョイスは間違いだったかもしれない。

 この島は一年中暑い。冬になると多少肌寒くなるが本土ほどの気温ではない、らしい。

 そのため冬服は薄手のシースル-風となっていて──というかこの島的にはセックスアピールの要素が強いと思われるが──彼女のブラジャーは、ものの見事に透けて見えていた。

 レース生地の、如何にも高級な黒のカップがこんにちはしている。

 そんな状態を気にしていないように、腰に両手を当てながら、ふんす、という擬音が聞こえてきそうなドヤ顔の雀野さん。

 姿勢良く背筋を伸ばしているせいで健康的おっぱいが非常に強調されていた。

 

「いやいや。我、今とっても冷静だよ?

 私は静乱流の修行で感情をコントロールする術を身に着けているのだ」

 

「口調バグってますよ」

 

「グヌヌ……! と、統一せねば……」

 

 思いっきり感情を剥き出しにしてる彼女はそそくさと俺から離れ、正座状態で深呼吸。

 息を吐くたびに、彼女を取り巻く熱は霧散していく。10秒もすれば、女帝を思わせる鋭い瞳を持ちながら、どこか親しみある雰囲気を漂わせる雀野薙帆が復活していた。

 ポンコツくっころ騎士から、厳格な武家に生まれた娘へ。見事な変わりようである。

 

「……よし、完全に戻ったな。我が精神的動揺を起こすことはもうないだろう」

 

「そっちで統一するんだ」

 

「『雀野薙帆かくあれたし』というここに住む人々の信仰心が十重二十重と積み重なり、ある種呪いのような形となって我に降りかかっていてね。青藍島の意思がこの口調を半ば強制しているのだ」

 

「えぇ……」

 

「冗談のつもりだったんだが」

 

 本気で言ってるように聞こえて非常に困る。

 水乃月学園に通っている彼女は無表情を起点に微笑か苦笑、顔グラ差分が実質2つだけなのだ。

 こうも淡々と喋られるとマジで何考えるのかわからんなこの子。

 一連の騒動でレア差分を大量に拝めたのは不謹慎ながらも僥倖だったが──俺としては、表情豊かな姿を見ていたい。

 もっと笑ってほしいな、雀野さんは可愛いんだから。

 

「カワ……!? 橘くん今ワザと言っただろう……!」

 

 一瞬だけ、彼女が思いっきり後ろを振り返ったような……というか残像が見えたような……

 相対する雀野さんは変わらず表情の乏しい、しかしどことなく抗議めいた声色だ。 

 無意識の内に俺変なことを言ってしまったのだろうか。

 

 彼女曰く、これも青藍島に来てから始めた修行の一つらしい。些細なことで顔に出てしまう、己を律することもできない未熟者では、静乱流当主の身は務まらないそうだとか。

 雀野さんはまだまだ修行不足で大した威力を出せないが、彼女のお父さんなら青藍島のマスコットキャラクター・ハメドリくんの着ぐるみサイズの鉄塊でも破壊できるとのこと。

 

 いやいやそれは出来ちゃ駄目だろ人として。

 これも彼女なりのジョークなんだろうか?

 

「我のことはともかく……橘くんはさっき言っていたな。童貞がどうとか。あれは、一体──」

 

 コホンと咳払いをして話題を変えた雀野さんに俺は頷いた。彼女と同じく膝を正し、同じ体勢で対面する。

 白髪の子が起きてないか念のため確認。相当疲れていたのか今なお夢の世界に揺蕩っていた。

 俺の決意を感じ取り、目の前の少女は真剣な面持ちで俺の発言を待っている。

 

 勘違いとはいえ彼女は全てを打ち明けた。俺も明かさなければ失礼というものだ。

 

「雀野さん。俺は童貞だ」

 

「それは青藍童貞を指しているのか? ……いや、違うな。本来の意味での?」

 

 青藍童貞。青藍島に行きさえすれば誰でも童貞を卒業できることから広まった蔑称だ。

 かつて本土で性風俗産業が活発だった頃に呼ばれていた素人童貞、その延長なのだろう。

 雀野さんは俺が青藍童貞であることに思い悩んでいるのかと考え、俺に話を振ったようだった。

 

「世の殿方は、童貞というものを早々に手放したいものだと聞いていたが」

 

「……雀野さんはどう思ってる? 恋人でない人。親しくもない人。初対面に近い人。

 誰でも彼でもセックスをする、いや、しなければならないこの島のルールを」

 

 俺は──絶対に嫌だ。

 セックスとは、愛する人とだけ交わす神聖な行為である。

 息をするように行うものでは断じてなく、また人目も憚らず往来で及ぶなど言語道断。

 一時の快楽を貪るために見も知らぬ赤の他人と交わるなんて、死んでも御免だった。

 

「全てを否定するつもりはないが──我自身は、受け入れ難いな。

 初体験は恋した人と迎えたい。余程のことがなければ、ただ一人に身を捧げたいし尽くしたい」

 

 夢見がちな乙女の戯言と笑ってくれ。

 

 自虐の笑みを、そして恥じらうように語る雀野さんを見て。

 

 上から下へ、一筋の液体が俺の頬を流れ落ちる。

 

「あれ、おかしいな」

 

 疑問を口にしたが、理由は自分でもよくわかっていた。

 

 もし、セックスをしたくない人がいたら。尋ねると、彼らは口を揃えて言う。

 そんな人いるわけがないだろうと。

 それはセックスを受け入れられない者は、まるで人間ではないかのような、冷たい口ぶり。

 性産的行為を行わなければ補導の対象となると、水乃月学園の風紀委員長にも強く咎められた。

 条例違反者。犯罪者。セックスができない俺達兄妹を、それだけで悪だと青藍島は否定する。

 中心街は巡回するガードマンSHOに性交目的で訪れる大勢の観光客。

 学び舎は風紀委員の監視に加え、血気盛んな生徒たちの箱詰め状態。

 極めつけは、授業として組み込まれたドスケベセックスの勉強、という魔の時間。

 

 妹だけは何としても守りたい。けれどこの島で暮らし日を追う毎に、それがどれだけ困難な現実化であるかを突き付けられていった。 

 俺一人では、どうしようもないのでは?

 

 本土にいた頃と彼女が何一つ変わっていないことは勿論嬉しかったけど。

 それ以上に、俺は、同じ価値観を持つ人がこの島にいることを知れた。

 それが嬉しかったのだ。

 

 涙を隠そうと彼女に目を背けたら、じわりと。俺の身体に、ぬくもりが伝わってくる。

 瞬間、あふれ出す幼少の頃の記憶。母に抱き締められた思い出がフラッシュバックし──俺は堰を切ったように咽び泣いた。

 

 

 両親は交通事故で亡くなった。

 休日、一家全員で遊びに出かけていた俺たちの車に対向車のトラックが突っ込んできた形だ。

 後部座席にいた俺たち兄妹は奇跡的にも無傷だったが、二人は即死だったらしい。

 親族のいない俺たちは、その日から兄妹だけで生きることを余儀なくされる。

 家賃を払いながら高校に通うほど経済的に余裕はなかった。青藍島に来たのは、亡き祖父祖母の暮らしていたこの家が、まだ遺されていたためだ。

 

 俺たち兄妹の得意分野を活かし、力を合わせ生計を立てようと思えば、もしかしたら本島で生活を送ることも可能だったかもしれない。しかし両親を失ったばかりの俺たちにはそれを思い浮かべる発想も、立ち上がる気力も行動力もなかった。

 事故から数カ月間。何があったのかほとんど覚えていない。

 頭が真っ白になって、ただ流されて、ながされて。青藍島に俺たちは辿り着いたのだ。

 

 涙と共に語られる俺の過去を彼女はただ黙って、頭を撫でながら聞いていた。

 その手つきは母さんそのもの。

 ──これが、バブみか。同年代、年下の子にオギャりたくなる気持ちが、わかるというものだ。

 

 馬鹿なことを考えられるようになって一気に気持ちが沈んできた。

 女の子の前で男が泣くなんて情けないにも程があるだろ……!

 幻滅されただろう、恐る恐る彼女に焦点を合わせると──雀野さんが俺の手を握っていた。

 

「橘くん、改めて礼を言おう。

 辛い境遇に遭い、切羽詰まった状況でも我に手を差し伸べてくれた貴方の行動に感謝と敬意を。

 そして──」

 

 仮面が剥がれ落ち。

 喜色満面。眩しすぎるくらいの、笑顔だった。

 

「──とってもとってもとっても! 格好良かった!」

 

 

 

 

 え、ちょっと待って。

 

 ……もしや。

 

 ──雀野さん、俺に気があるのでは?

 

 これまでプレイしてきた、頭に蓄積された膨大なエロゲ知識もその意見を肯定している。

 清純派ヒロインは距離感を大事にするものなのだ。

 こんなガチ恋距離で『格好良かった』などと、俺に心を開いていなければ言える筈がない。

 しかし落ち着け橘淳之介。俺はモテたことのない男。短い人生の中で、一体何回この子俺のこと好きなんじゃね? と勘違いしてきたと思っているんだ。

 ここで判断を誤ってしまえば俺は死ぬ。

 間違いなく有頂天になり、なんやかんや真顔でお可愛いこと……と言われ死ぬ。

 

 彼女と目が合うと露骨に目を逸らされた。

 フニャッとした感じに緩んだ唇を慌てて手で遮蔽し、下を向いて顔を隠しているけど真っ赤に燃える耳朶の自己主張が凄い。

 

 ──雀野さん、俺に気があるのでは?

 

 他人には感情を見せないようトレーニングしていると言っていたが、俺にだけは隠したくないと思ったけどやっぱり恥ずかしい的な。

 

 ……ふ。これはもう勘違いではないかもしれない。

 少なくともあやしたことで子供扱い、俺が完全に恋愛対象外になった可能性は低い。と思いたい……きっと、たぶん、メイビー。

 今こそエロゲを通して学んだ会話術を発揮すべきだ。

 ここは『君は笑顔が一番似合うよ』か──?

 駄目だそんなキザな台詞俺が言えるわけないだろ……! こちとら何年純潔を保ってきたと思ってんだ。

 そっちの路線は10年早い。やはりヒロイン攻略法の王道、『共通の趣味で盛り上がる』に限る。

 俺の趣味といえば──

 

 オナニー。

 3Dプリンタを利用したオナホールの制作。

 エロゲ。

 そして筋トレ。

 

 どれも俺にとって恥じることのない誇りそのものだが、女の子に振る話題として前者二つは論外すぎる。

 そしてエロゲ。俺がクリアしてきた数々のゲーム、その中でも珠玉ともいえる作品は女の子に薦めても何ら問題ない──と考えているのだが、それはそれ。

 エロゲはアンダーグラウンドの存在。どんな綺麗ごとやお題目を口にしてもそれが真実。

 性表現が完全に取り除かれたゲーム機移植版でもなければ、エロが含まれている以上胸を張って語れるものではないのでござるよ。

 それを教えてくれた謎の忍者には感謝してもしきれない……!

 

 まぁ彼女もエロゲプレイヤーならその限りではないが、ありえない話だ。

 となると当然筋肉や筋トレの話題一択しかないのだが──これが中々難しい。

 昨日アサちゃんから珍しく忠告を受けたのだが、俺は自分の趣味のことになるとかなり興奮して早口になるきらいがあるらしい。

 転校初日、雀野さんと二人きりで昼食を食べた時を思い出そうにも、確かに当時テンションが上がりすぎていたせいか会話の断片しか頭に出てこないのである。

 

 女子との会話において自分語りは極力NG。話し上手より聞き上手。

 受けに徹することこそがモテ男の必須条件だと俺は知っている。それもエロゲで学んだことだ。

 よって俺がすべき会話は、そう──筋肉と絡めつつ、彼女が語りやすい武術に触れること!

 これだ──!

 

 完璧な流れだと自画自賛しつつ、何と話しかけようと頭の中で整理していたら。

 

 グゥゥゥゥゥゥ。

 

「あっ」

 

 くぅ、という可愛らしい音ではない。

 物凄い貪欲な。胃袋が、餌を求めて雄叫びを上げたかのような音が。

 雀野さんのお腹から部屋中に鳴り響き──同時、俺に天啓が降りた。

 

「俺、なんかお昼ご飯を作ってくるよアサちゃんの分も作らないといけないし気にしないで!」

 

「あっちょっ」

 

 

 

 

 

 ……彼女は武道の達人。それも常識からかなり外れていそうな、漫画に出てくるような子だ。

 きっと自分のコンディションを把握することなど造作もないのだろう。

 彼女が頬を赤らめていたのは、お腹が減っていること、お腹が鳴ることを予見し、もう止めようがないことを悟っていたからだ。

 危なかった……! あの場で会話を始めていたら雀野さんの俺評価が空気を読まないお喋りクソ野郎になっていたかもしれなかった。

 

 しかし──エロゲは偉大だな。

 俺はあの時天の声を耳にした。これまで楽しんできた歴代エロゲの主人公たちのだ。声はないけど声がしたのだ。男主人公だけに。

 彼らに限った話ではないが、世の創作物の男はアクシデントに遭遇した際、こうやってヒロインの胃袋を掴み好感度を得てきたのである。

 あの時即行動に移せていなかったら俺は何を言えばいいかわからず固まっていたことだろう。

 まさにパーフェクトコミュニケーション。よし、楽しく話せたな、という奴だ。

 エロゲはやはり俺を正しく導いてくれる。未来を明るくしてくれる。

  

 ……一つだけ。

 

 そう一つだけ。

 

 彼らとの致命的な、相違点があるとすれば。

 

 俺には料理スキルが一切ないということだ──!

 

「ど、どないすればよかとですか……」

 

 




主人公は中二病を卒業したと思い込んでる中二病タイプ。


更新が遅れて本当に申し訳ない……!
ここ数カ月の現実の出来事ですっかりメンタルブレイクされておりました。
元々遅漏でしたがここまで書けなくなるとは……
長くなってしまったので、分割という形で明日本当の最終回を投稿します。
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