※この作品はR-18です。

ようこそシカン魔がいる教室へ   作:雪華

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崩壊の序章

「山内春樹じゃな?」

「なんだよここ。てかおっさん誰だよ?」

「ワシは平等を司る神じゃ。お主があまりにも無能なので、力を授けることにしたのじゃ。不平等を是正する、その機会を与えるのがワシの権能。その結果が平等でなくとも、それもまた一興」

「は? 神? 無能? わけわかんねーよ」

「今から原作知識を授ける。無能に説明するというのは面倒なのでな」

 

 突然、頭が割れるような痛みを感じる。

 それと同時に、退学するまでの記憶が鮮明に焼き付いた。

 

「うわあああ! 坂柳ィィィ! 堀北ァァァ! 綾小路ィィィ!」

「さて、これだけで十分な施しではあるのだが、お主は筋金入りの無能なのでな。今からこのガチャを回してもらう。どんな能力が得られるかは運次第じゃ」

「それがあれば俺は退学しなくて済むんだなっ?」

「それはお主次第じゃな。ほれ、さっさと回せ」

 

 ガチャを回して出てきたのは黄金のカプセル。

 

「おお。能力は『弛緩』か。これは激レアじゃぞ」

「よっしゃあああ! でも『シカン』ってなんだよ? どう使えばいいのかわかんねーよ」

「それはお主が自分で考えることじゃ。そろそろ時間なのでお主を下界へと戻す。達者でな」

「は? おい! ちょ待っ!」

「あ、これダブルミーニングじゃった......」

 

 意識がフラッシュアウトする間際、とぼけた声がかすかに聞こえた気がした。

 ダブルなんちゃらとか言ってたけどよくわかんなかった。

 

 

 

 

「なんで俺が赤なんだよっ?」

 

 一学期中間テストが終わり、結果が公表されている教室。

 赤点になった須藤が喚いているまさにその時、俺は現実に帰還した。

 須藤とはよくつるんでるけど、正直うるさいし怖いんだよな。

 退学するなら勝手にしてろって感じだけど、堀北ちゃんと綾小路の野郎が救済するんだよな。

 なんかマジでうざいなあのカップル。絶対俺のこと見下してるだろあいつら。許せねえ。

 

 怒りが頂点に達したとき、何か見えない力が暴発した。

 

「は? 40? 聞いてねえy......」

 

 シンと静まり返る教室。

 呆けた顔を晒す須藤。

 一瞬拍子抜けしたが、気を取り直して赤点ラインの説明を続ける茶柱先生。

 須藤の退学を阻止するため粘る平田。

 

 そんなクラス内で、俺は内心笑みを浮かべる。

 想像以上だった。

 なんかわかんねーけどクラスのみんなアホ面晒してた。

 これなら潰せる。坂柳ちゃんも堀北ちゃんも綾小路も。歯向かってくる輩すべてを。

 あ、でも坂柳ちゃんも堀北ちゃんも顔だけはかわいいし、俺のおもちゃにするのもいいな!

 うっひょー!

 やっぱり俺は天才だったんだ!

 みんな俺の本当の力がわからないなんて愚か者だよな。かわいそうに。

 

 

 

 

「乾杯!」

 

 中間テストの祝勝会。

 結局須藤は堀北ちゃんに救われて退学しなかった。

 池が乾杯の音頭を取った直後、俺は買ってきたジュースをグビグビと飲み干す。

 

「どうしたんだよ、そんな暗い顔して」

「祝勝会を開くことは賛成だが、なんで俺の部屋なんだ?」

「俺たちの部屋散らかってるし。女子の部屋ってわけにもいかないだろ? にしてもほんとに何もない部屋だよな」

 

 池の言う通り、マジで何もない。

 たまり場にするにはぴったりだけど、憎き綾小路の部屋ってのが気にくわない。

 

「入学してまだ二月ちょっとだぞ?」

「櫛田ちゃんはどう思う?」

「清潔感があっていいと思うなっ」

「だってよ。よかったな褒められて。はははは」

 

 鼻の下伸ばしてんじゃねーよクソッ。

 

「それにしても、池と須藤は危なかったよな、今回の中間テスト。俺は天才だから余裕だったけどな!」

「は? お前だってギリギリじゃねーかよ」

「いやいや、俺は本気出せば満点だったから」

 

 俺の才能がわからないなんて、やっぱり池はアホなんだな!

 

「これも堀北さんのおかげだよね。勉強会を開いてくれたんだもん」

 

 ッ! 堀北ァァァアアア!

 俺のこと散々こき下ろしやがるクソアマがっ!

 

「私がAクラスに上がるため、仕方なくやっただけよ」

「ここは嘘でも、みんなのためとか言っとけよ。好感度上がるぞ」

「必要ない」

 

 すました顔しやがって......。

 俺は内心の怒りを表に出さず、いつもの笑顔を浮かべて堀北ちゃんを見つめる。

 

「それにしても、どうやって先生に須藤君の退学を取り消してもらえたの?」

「さあ、覚えてないわね」

 

 会話に混ざらず堀北ちゃんを凝視する。

 やっぱ見た目はかわいいんだよなー。めちゃくちゃにしたくなる。

 俺を退学にしようとしなければ、ペットにしてもよかったんだけど。

 

 ......よし決めたっ! 堀北ちゃんは俺の奴隷にする!

 アヘ顔晒す堀北ちゃんを、綾小路に見せつけてやるぜ!

 

 

 

 

 この集まりに参加したのは気まぐれ。

 普段の私なら間違いなく断っていた。

 だけど須藤君たちの頑張りは認めるところだし、綾小路君が誘ってくれたこともあって顔を出した。

 

 テストの点数をポイントで買うなんていう解決法、思いつきもしなかった。

 中間テストの過去問もそうだ。櫛田さんが貰ってきたと言っていたけど、私の勘が彼の関与を告げている。

 もっと彼のことが知りたい。そんな気持ちが私をこの場に引き込んだのかもしれない。

 

 そんな私は今、非常に不快な思いをしている。

 原因はわかっている。さっきからずっとこちらを見つめてくる山内君だ。

 いつも以上に気持ちの悪い笑みを浮かべた彼。

 悪寒が走る。

 しかも、文句を言おうと気色ばんでも、なぜか一瞬で力が抜けてしまう。

 諦めて極力無視するように努めていると、いつの間にか祝勝会はお開きとなっていた。

 時間を忘れるほど追い詰められていたなんて......。

 

「それじゃあ綾小路君、また明日」

「ああ、おやすみ」

 

 我に返って真っ先に部屋を出た私は、急いでエレベーターに乗る。

 

「はぁ......」

「どうしたんだよ堀北ちゃん。そんなに急いで」

 

 ため息をつく私に追い打ちをかけるように、閉じかけの扉をこじ開けて、山内君が入ってきた。

 たとえ彼が襲ってきても、撃退できる自信はある。

 なのになぜだろう。怖くて仕方がない。

 彼は取るに足らない生徒。そのはずだった。

 少なくとも昨日までは、今感じているような得体の知れなさはなかった。

 

「おいおい無視すんなよー」

「あなたと話すことなんて何もないわ」

「そんなこと言わずにさ。これから堀北ちゃんの部屋行くから」

 

 わけが分からない。

 本当についてくるつもりなんだろうか。

 私の警戒心が悲鳴を上げている。

 念のため行先のボタンを複数押し、目的地とは別の階で降りる。

 幸いなことに、彼は降りてこなかった。

 

「災難ね......」

 

 エレベーターと階段を交互に使って、今度こそ本来の階層を目指す。

 

「でも、彼が一緒に降りてこなくて本当に良かった」

 

 一秒でも一緒の空間にいたくない。

 あの気持ち悪さは筋金入りね。

 

「はぁ」

 

 早く部屋に帰って寝よう。

 明日以降も嫌らしく絡みついてくるようなら、綾小路君に相談して......。

 

「ひゃっ!」

 

 自分の部屋の前に着いたとき、私は思わず悲鳴を上げてしまった。

 

「わざわざ遠回りして、どこに行ってたんだよー?」

 

 なんでここにいるの......?

 ニヤニヤしていて本当に気持ち悪いわね。

 

「あなたには関係ないでしょ。それより、ここを通してもらえる?」

「堀北ちゃんが誘ってきたんじゃないか、これから熱い夜を過ごすってさ!」

「ふざけないで!」

 

 妄言を吐く山内君に腹が立つ。

 一切動く気配のない彼を突き飛ばし、急いで中に入ろうとする。

 

「何すんだよ、痛ぇ......」

 

 彼が倒れている隙に、鍵を開ける。

 これなら間に合う......!

 

「あ、れ......。なんで......」

 

 またこれだ。

 安堵とともにドアを開けようとしたその時、いきなり全身の力が抜けてしまった。

 今日は何かがおかしい。

 

「堀北ちゃん、絶対許さねーからな」

「まさか、あなたが......?」

 

 へたり込んだ私は、山内君に抱えられて敷居を跨いだ。

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