ようこそシカン魔がいる教室へ 作:雪華
「山内春樹じゃな?」
「なんだよここ。てかおっさん誰だよ?」
「ワシは平等を司る神じゃ。お主があまりにも無能なので、力を授けることにしたのじゃ。不平等を是正する、その機会を与えるのがワシの権能。その結果が平等でなくとも、それもまた一興」
「は? 神? 無能? わけわかんねーよ」
「今から原作知識を授ける。無能に説明するというのは面倒なのでな」
突然、頭が割れるような痛みを感じる。
それと同時に、退学するまでの記憶が鮮明に焼き付いた。
「うわあああ! 坂柳ィィィ! 堀北ァァァ! 綾小路ィィィ!」
「さて、これだけで十分な施しではあるのだが、お主は筋金入りの無能なのでな。今からこのガチャを回してもらう。どんな能力が得られるかは運次第じゃ」
「それがあれば俺は退学しなくて済むんだなっ?」
「それはお主次第じゃな。ほれ、さっさと回せ」
ガチャを回して出てきたのは黄金のカプセル。
「おお。能力は『弛緩』か。これは激レアじゃぞ」
「よっしゃあああ! でも『シカン』ってなんだよ? どう使えばいいのかわかんねーよ」
「それはお主が自分で考えることじゃ。そろそろ時間なのでお主を下界へと戻す。達者でな」
「は? おい! ちょ待っ!」
「あ、これダブルミーニングじゃった......」
意識がフラッシュアウトする間際、とぼけた声がかすかに聞こえた気がした。
ダブルなんちゃらとか言ってたけどよくわかんなかった。
「なんで俺が赤なんだよっ?」
一学期中間テストが終わり、結果が公表されている教室。
赤点になった須藤が喚いているまさにその時、俺は現実に帰還した。
須藤とはよくつるんでるけど、正直うるさいし怖いんだよな。
退学するなら勝手にしてろって感じだけど、堀北ちゃんと綾小路の野郎が救済するんだよな。
なんかマジでうざいなあのカップル。絶対俺のこと見下してるだろあいつら。許せねえ。
怒りが頂点に達したとき、何か見えない力が暴発した。
「は? 40? 聞いてねえy......」
シンと静まり返る教室。
呆けた顔を晒す須藤。
一瞬拍子抜けしたが、気を取り直して赤点ラインの説明を続ける茶柱先生。
須藤の退学を阻止するため粘る平田。
そんなクラス内で、俺は内心笑みを浮かべる。
想像以上だった。
なんかわかんねーけどクラスのみんなアホ面晒してた。
これなら潰せる。坂柳ちゃんも堀北ちゃんも綾小路も。歯向かってくる輩すべてを。
あ、でも坂柳ちゃんも堀北ちゃんも顔だけはかわいいし、俺のおもちゃにするのもいいな!
うっひょー!
やっぱり俺は天才だったんだ!
みんな俺の本当の力がわからないなんて愚か者だよな。かわいそうに。
「乾杯!」
中間テストの祝勝会。
結局須藤は堀北ちゃんに救われて退学しなかった。
池が乾杯の音頭を取った直後、俺は買ってきたジュースをグビグビと飲み干す。
「どうしたんだよ、そんな暗い顔して」
「祝勝会を開くことは賛成だが、なんで俺の部屋なんだ?」
「俺たちの部屋散らかってるし。女子の部屋ってわけにもいかないだろ? にしてもほんとに何もない部屋だよな」
池の言う通り、マジで何もない。
たまり場にするにはぴったりだけど、憎き綾小路の部屋ってのが気にくわない。
「入学してまだ二月ちょっとだぞ?」
「櫛田ちゃんはどう思う?」
「清潔感があっていいと思うなっ」
「だってよ。よかったな褒められて。はははは」
鼻の下伸ばしてんじゃねーよクソッ。
「それにしても、池と須藤は危なかったよな、今回の中間テスト。俺は天才だから余裕だったけどな!」
「は? お前だってギリギリじゃねーかよ」
「いやいや、俺は本気出せば満点だったから」
俺の才能がわからないなんて、やっぱり池はアホなんだな!
「これも堀北さんのおかげだよね。勉強会を開いてくれたんだもん」
ッ! 堀北ァァァアアア!
俺のこと散々こき下ろしやがるクソアマがっ!
「私がAクラスに上がるため、仕方なくやっただけよ」
「ここは嘘でも、みんなのためとか言っとけよ。好感度上がるぞ」
「必要ない」
すました顔しやがって......。
俺は内心の怒りを表に出さず、いつもの笑顔を浮かべて堀北ちゃんを見つめる。
「それにしても、どうやって先生に須藤君の退学を取り消してもらえたの?」
「さあ、覚えてないわね」
会話に混ざらず堀北ちゃんを凝視する。
やっぱ見た目はかわいいんだよなー。めちゃくちゃにしたくなる。
俺を退学にしようとしなければ、ペットにしてもよかったんだけど。
......よし決めたっ! 堀北ちゃんは俺の奴隷にする!
アヘ顔晒す堀北ちゃんを、綾小路に見せつけてやるぜ!
この集まりに参加したのは気まぐれ。
普段の私なら間違いなく断っていた。
だけど須藤君たちの頑張りは認めるところだし、綾小路君が誘ってくれたこともあって顔を出した。
テストの点数をポイントで買うなんていう解決法、思いつきもしなかった。
中間テストの過去問もそうだ。櫛田さんが貰ってきたと言っていたけど、私の勘が彼の関与を告げている。
もっと彼のことが知りたい。そんな気持ちが私をこの場に引き込んだのかもしれない。
そんな私は今、非常に不快な思いをしている。
原因はわかっている。さっきからずっとこちらを見つめてくる山内君だ。
いつも以上に気持ちの悪い笑みを浮かべた彼。
悪寒が走る。
しかも、文句を言おうと気色ばんでも、なぜか一瞬で力が抜けてしまう。
諦めて極力無視するように努めていると、いつの間にか祝勝会はお開きとなっていた。
時間を忘れるほど追い詰められていたなんて......。
「それじゃあ綾小路君、また明日」
「ああ、おやすみ」
我に返って真っ先に部屋を出た私は、急いでエレベーターに乗る。
「はぁ......」
「どうしたんだよ堀北ちゃん。そんなに急いで」
ため息をつく私に追い打ちをかけるように、閉じかけの扉をこじ開けて、山内君が入ってきた。
たとえ彼が襲ってきても、撃退できる自信はある。
なのになぜだろう。怖くて仕方がない。
彼は取るに足らない生徒。そのはずだった。
少なくとも昨日までは、今感じているような得体の知れなさはなかった。
「おいおい無視すんなよー」
「あなたと話すことなんて何もないわ」
「そんなこと言わずにさ。これから堀北ちゃんの部屋行くから」
わけが分からない。
本当についてくるつもりなんだろうか。
私の警戒心が悲鳴を上げている。
念のため行先のボタンを複数押し、目的地とは別の階で降りる。
幸いなことに、彼は降りてこなかった。
「災難ね......」
エレベーターと階段を交互に使って、今度こそ本来の階層を目指す。
「でも、彼が一緒に降りてこなくて本当に良かった」
一秒でも一緒の空間にいたくない。
あの気持ち悪さは筋金入りね。
「はぁ」
早く部屋に帰って寝よう。
明日以降も嫌らしく絡みついてくるようなら、綾小路君に相談して......。
「ひゃっ!」
自分の部屋の前に着いたとき、私は思わず悲鳴を上げてしまった。
「わざわざ遠回りして、どこに行ってたんだよー?」
なんでここにいるの......?
ニヤニヤしていて本当に気持ち悪いわね。
「あなたには関係ないでしょ。それより、ここを通してもらえる?」
「堀北ちゃんが誘ってきたんじゃないか、これから熱い夜を過ごすってさ!」
「ふざけないで!」
妄言を吐く山内君に腹が立つ。
一切動く気配のない彼を突き飛ばし、急いで中に入ろうとする。
「何すんだよ、痛ぇ......」
彼が倒れている隙に、鍵を開ける。
これなら間に合う......!
「あ、れ......。なんで......」
またこれだ。
安堵とともにドアを開けようとしたその時、いきなり全身の力が抜けてしまった。
今日は何かがおかしい。
「堀北ちゃん、絶対許さねーからな」
「まさか、あなたが......?」
へたり込んだ私は、山内君に抱えられて敷居を跨いだ。