「.......先輩、これは一体どういうことなんだ?」
いつもなら黒いベルトを少しきついくらいに体全体に巻き付けて、その上にほんのり肌が透ける位のレースを纏うような水着を着ているヘレナだったが、今のヘレナにとってその黒いベルトは水着の一部ではなく、自身の自由を奪うための拘束具として目に写る。
両腕を動かせないように縛られ、ローク島に無数に生えている木々のうちの一本の枝に、地面にちょうど踵が着くかどうかほどの高さになるよう括り付けられていた。
「ヘレナが何か悪いことをしただろうか? いつも先輩のために身を粉にして働くこんなに優等生なキル姫もなかなかいないというのに....くふっ...」
それでもヘレナはいつものような余裕のある笑みを崩さないように問いかける。
悪いこと、というとヘレナにとって正直なところ心当たりがありすぎて何が原因でこのようになってしまったのか検討もつかない。少なくとも他人を本気で怒らせるようなことはしてきていないはずだ。
ヘレナにとって悪戯はコミュニケーションのひとつであり、他人を不愉快にさせる類のものではない。
だから内心では今のこの状況に非常に困惑しており、同時に先輩に嫌われたくないがためにすぐにでも泣いて謝り自身の至らなかった点を聞き出したいとも思っていた。
「そう、分からないんだ?」
「....くふっ...分からないとは一言も言ってないぞ? ただ、ヘレナは先輩が何で怒っているか知りたいだけだ」
「.......ふうん。じゃあ教えてあげるから、あっちを向いてお尻を突き出してくれる?」
「.......? こうか?」
先輩の尋常でない雰囲気に飲まれ、よく分からないまま指示に従い、木の方向へ向き踵を少し上げ腰を突き出した体勢をとる。と、次の瞬間、強烈な痛みがヘレナのお尻を襲った。
「ひぎぅっ!!??.......な、何をするんだ先輩!」
後ろに振り向くと、どこから取り出したのか黒い鞭を握り締め、ヘレナの尻へと狙いを定めるように房を垂らしている先輩の姿があった。
「僕も辛いんだよヘレナ。でもヘレナが自分の罪に無自覚なものだから仕方ないんだ.......
.......だからお仕置きだよ、ヘレナ」
──────数時間前──────
いつものように妥当ティファレトを掲げローク島を探し回っていたアルマスたち一行。その中には当然先日仲間にしたガ・ジャルグも含まれており、仲間になってからというもの暇があればマスターに抱きつくなどして周りを困らせていた。
「ふんっ、至高の存在である私と手を組んで歩けること、光栄に思いなさい!」
「ガ・ジャルグ、あなたマスターに近付きすぎじゃないの!? 離れなさい! というかこの間までの態度はどこいったのよ!」
「あら、そんな昔のことを蒸し返すなんて、まさしく不完全で醜い存在の証ね。マスターだって私といる方が楽しいに決まってるわ」
「なんであなたが勝手に決めてるのよ! そんなのマスターに聞いてみないと分からないじゃない。ヘレナもこのわからず屋に何とか言ってやって!」
と、このように凝りもせず口論になるアルマスとガ・ジャルグ。雲ひとつない空にある太陽が一行を照らしつけるせいで苛立ちを募らせていることもあったのだろう。このままではイタチごっこになると思ったアルマスはヘレナに意見の同意を求めた。が、ヘレナから返事は返ってこず、それどころかその顔にはどこか影が落ちていた。
「.......ヘレナ?」
「.......ん? あ....ああ、すまない。ちょっと考えごとをしていたよ。それで何の話だったかな?」
「そうなの?...まあいいわ。ガ・ジャルグがマスターにくっつきすぎって話、ヘレナもそう思うでしょ?」
それからヘレナはガ・ジャルグとマスターを一瞥した後、バイザーに手を当て目を逸らしながら答えた。
「.......まあ、本人達が良いならいいんじゃないか? 別に悪いことをしているわけじゃないんだし.......少し疲れたからそこいらで休んでくる」
「あ、ちょっとどこ行くの、ヘレナ! 待って!」
こちらを見ないまま過ぎ去ろうとするヘレナを呼び止めるアルマス。しかしヘレナは耳を貸す素振りも見せずどこかへ行ってしまった。
いつも冗談や悪戯で場を賑やかしている反面、本心をあまり言おうとしないヘレナに対しアルマス達は自分達があまり信用されていないのではないかと不安になっていた。
もっと話し合いたいと思うアルマスだったが、思うように言葉に出来ない。結局いつものように大きな声を挙げてしまっただけになってしまった。そんなしょげた様子のアルマスを見てか、ガ・ジャルグもバツが悪そうに顔をしかめる。
まるでバラバラだ。ここまで皆の心がバラバラのままティファレト達に挑むのは無謀だと考えたマスターは言った。
「.......分かった。明日までに何とかしてくるから今日はもう解散にしよう」
「何とかって.......マスター、何か解決案でもあるの?」
「うん。まあ少し考えがあるんだ。だからこの件は任せて欲しい」
そう言ってマスターはアルマスとガ・ジャルグとを交互に見る。その真剣な眼差しに耐えかね最初に口を開いたのはガ・ジャルグの方だった。
「はあ.......そこまで言われたのなら今日は帰るしかなさそうね。でもいいこと? 明日こそマスターが誰のものかはっきりさせてやるんだから!」
「だからあなたのものじゃないんだけど.......マスター、それじゃわたしも今日はもう行くわ.......頼りにしてるわよ」
毛色は違えどアルマス、ガ・ジャルグ両名ともマスターを信頼していることは明らかだった。2人に手を振ってからしばらくしてマスターはヘレナのところへ向かい始める。
自分を信じてくれる2人の期待に応えるため、何よりヘレナ自身のためにも今回のこと、いや今回だけではないが「素直になれない」ことを克服させなければならない。でなければいつまでもヘレナも、ヘレナの周りも苦しいだけだ。まだ霊装支配からの呪縛を断ち切れていないのであれば、それこそマスターである自分の手で何とかするべきだ。そのように考えマスターは静かに拳を握る。ヘレナに本心を打ち明けられないことを誰よりも悔しく感じていたのは他ならないマスターであった。
そうこう考えているうちに木陰で一人うずくまるヘレナの姿が見えてきた。
「隣、座ってもいいかな?」
マスターは片手に持っていた飲料水をヘレナに手渡しながらゆっくりとヘレナの隣に腰を下ろす。
「あれ、先輩じゃないか。アルマスとガ・ジャルグはどうしたんだい?」
ヘレナは受け取った飲料水を飲みながら2人で木陰に座れるように少し場所を詰める。そしてそんなヘレナの優しさを感じながらマスターはそっと距離を縮め、事のあらましを話す。
「そうか....そんなことになっていたんだな」
「大丈夫? 何か悩みがあるなら聞くよ」
「.......心配してくれるのかい、先輩? 優しいなあ。嬉しすぎて涙が出そうだよ...くふっ....」
少し会話を交した後ヘレナは何事も無かったかのようにいつものように軽口を叩き妖しく微笑む。しかしマスターはヘレナが本心では笑っていないことを見抜いていた。
「ヘレナはもう大丈夫だから、今日はヘレナ達だけでティファレトの行方を探りにいこうか」
「ヘレナ」
「なんだい先輩.......? あれ、先輩がふた、り.......?」
突如として強烈な眠気に襲われてふらつくヘレナを、まるでそうなることが予め分かっていたかのような顔で支えるマスター。
「ごめんねヘレナ。でもこれもヘレナのためだから.......」
「....なん、で.......せん、ぱ...ぃ....」
それから間もなくしてヘレナは力尽きたように眠ってしまった。もちろんこれはマスターの策略である。きっとこうでもしないとヘレナは本心など語らない、それが分かっていたために強引な手段に出たのだ。ヘレナの本心を聞き、少しでもヘレナの力になりたい、ただそれだけだった。
しばらく経ってヘレナが目を覚ました頃には、誰も来そうにないようなジャングルの奥深くで身動きが取れないように拘束されていた。
そして現在に至る。
.......だからお仕置きだよヘレナ」
パァンッ! と空気の破裂する音が鳴り響く。
「いづっ!.......く、くふっ....こんなことをしても無駄だぞ。なんせヘレナは何も悪いことなんてしてないからな」
2回叩かれたにも関わらず、それでも自身の罪を認めないヘレナ。内心では先輩に嫌われてしまったのではないかと不安に覆われ、一体なんの罪で咎められているのかという理由を必死に探していた。
そんなことを考えているうちに3回目の鞭が飛んできて、ヘレナの思考を中断させる。
パァン!
「いあ゙っ!.......ま、待ってくれ先輩、分かった。あれだろ、昨日ヘレナが先輩のデザートを勝手に食べたからだろ。それは謝るから、だからその手を.......いぐっ!」
そして4回目の音が鳴る。先輩は何も言わない。
「ち、違うのか? じ、じゃああれだ。一昨日先輩が寝てる隙に顔にイタズラ書きしたこと.......」
ヘレナは恐る恐る振り返る。怒っている先輩は見たことがあっても、その矛先が自分に向いたことがないためにそれが怖かった。先輩がどんな顔をしているのか、怒っているのか、それとも無表情なのだろうか。どちらにしても嫌だというのに、それでも見ずにはいられない。その答えが分かる瞬間だった。
「こっち向いていいなんて言ってないよ、ヘレナ」
スパァンッ!
「ひぐぅっ!」
5回目だ。その痛みに思わず振り向きかけていた頭を元の位置に戻してしまう。ヘレナの視界には木の木目と地面に転がった砂利を映すことしか許されないということが刷り込まれる。お尻にも実際に鳴る音の大きさに反してそれほど痛い訳では無いが、蓄積された痛みがヒリヒリとヘレナを責め立てていた。
「なんでヘレナはそんなことをするの?」
先輩は静かに問いかける。5回に渡り累積された痛みと先輩への恐怖がヘレナを蝕み、普段ならばすぐに返せるような内容でさえ返事を躊躇わせてしまう。
(なんで.......? それは、ヘレナは悪戯をして先輩が慌てるのを見たいからだが、そんなことを言ってしまったらまたあの鞭で.......)
パァンッ!
「いぎっ! そ、それはヘレナの悪戯で先輩が慌てる様子を見たいから.......です」
6回にも及ぶ鋭い痛みとそれに伴い耳に突き刺さる音とにより、かつて霊装支配して自分を酷い目に合わせた侯爵の姿を先輩に重ねてしまう。
逆らいたくても逆らえない、逆らう気すらも失せてしまう。力の強弱ではない、これがルールなのだと心が理解してしまう。今この場では自分が痛みを与えられる側で、先輩こそが絶対の支配者なのだ、と。
そうした考えに縛られてしまったためか、ヘレナの口から出る言葉は自然と敬語になっていた。
「うん。それは知ってるよ。じゃあどうしてそう思うのかな?」
(どう、して.......?)
「分からないかな? どうして他のキル姫に対しては特定のキル姫にこだわって悪戯はしないのに、僕にだけは執拗に悪戯をするんだと思う? 悪戯をするだけなら僕じゃなくてもいいはずだ」
「そんな、先輩にだけなんてことはない....です」
パァンッ!
「ああああああっ!!」
「はあ....それならなんで今日、ガ・ジャルグが僕の手に抱きついてきた時あんな顔をしたの? どうしてあんなに寂しそうな顔をしたの?」
「....はあ、はあ....ぁっ...そう、か....そんな顔してたんだなヘレナは」
朧気な思考で少し前の自分を思い出す。後ろからアルマスとガ・ジャルグ、そして先輩の姿を眺めていた時、自分は何を思ったか。
(そう、だ...確かヘレナはあの時.......ガ・ジャルグが先輩に抱きついた時、ヘレナは.......)
「ほら、あと5秒」
(ダメだ、フラフラして全然頭が追いつかない。あの時感じた感情は何だ?)
「4」
(モヤモヤする。あの時から、今もずっと.......)
「3」
(ああそうか。こんな感情初めてで分からなかったけど、ヘレナは.......)
ヘレナはあの時───
動かない頭で何とか思考をまとめ、その言葉が喉まで出かかった時だった。
「はあ、もういいよヘレナ」
ため息と共に落胆した声色で先輩が告げる。その声に反して鞭が飛んでくる様子もない。これまで先輩の望まない答えを言った時は問答無用で鞭で叩かれていたため、それがない事が逆に不安になる。
(もういいって、なにがいいんだ.......?)
宣言された時間よりも早く先輩が切り上げたことにも呆気にとられて、思考が硬直したまま動かなかなる。
そんなヘレナを気にも止めずに先輩は続ける。
「ごめんねヘレナ。痛かったよね。すぐに解いてあげるから」
謝罪の言葉と共に先輩がゆっくりとヘレナに近付いてくる。先輩はいつもの様子に戻り、先程までの気迫はないが、代わりになんとも言えない違和感を感じた。
頭は混乱しっぱなしだったが、今ここで終わらせてはいけない、その確信だけはあった。
(先輩を失望させてはダメだ、先輩の望みに応えないと!)
そう考えているうちに先輩はもう傍らまで寄ってきて、おもむろにヘレナの頭に手を置いた。
「え.....」
「ごめんね、ヘレナ」
そう言って寂しそうに笑う先輩を見た時、ヘレナの頭からは他のことが全て抜け落ち、感情のままに浮かんだ言葉をそのまま口に出した。
「待って先輩、解かないでくれ! あの時ヘレナは嫉妬したんだ! ガ・ジャルグにもアルマスにも、誰にも先輩をとられなくない! 渡したくない! 先輩はヘレナだけの先輩だ。ヘレナだけの先輩がいい!....けど先輩はバイブスだから皆のマスターじゃないといけなくて....だからこんなこと言ってはいけない。こんなことを思ってはいけないんだ。
こんな醜い感情を抱いたヘレナは悪い子だろう?
だから先輩、いけないヘレナに.......お仕置き、してください.......!」
言い切ったヘレナは肩だけでなく全身が震えていた。それは体勢的な疲労だけでなく、ここまで本心を他人に打ち明けることがあまりないことによる反動からだった。
そんな様子を見て先輩は一言だけ言った。
「分かったよヘレナ」
それはこれからまた鞭打ちが続行されるということを表しており、ヘレナは衝撃に備えお尻の筋肉に力を入れ、目をきゅっと瞑る。だが次に先輩が言ったことは予想さえしていない言葉だった。
「でもここからのお仕置きはヘレナのその感情が悪いからじゃない。僕にヘレナを虐めたいと思わせたことに対するおしおきだよ」
邪な感情を抱いた自分を批難する言葉ではなかったため、一瞬気が抜けてしまう。折角強ばらせた全身の力も抜いてしまった、その瞬間だった。
パァンッ!!!
と一際大きい音が鳴り響いた。
「っあああああああああああああ゙!!!!」
その一振りは今日一番の衝撃を伴いヘレナを襲う。それは奇しくもそれまで先輩が手加減して鞭を振るっていたことの証明にもなり、同時にヘレナの思考をさらに奪う一撃となった。
「先輩、ヘレナは悪い子だけど、どうか嫌わないでくれ! 好きなんだ。先輩が大好きで先輩がいないと生きていけない! これからは先輩が他のキル姫とくっついてても我慢するからっ! 先輩の望むっ、ことならなんでもする! だか、らっ、ひぐっ...嫌わないっで、せんぱいっ!」
「誤解してるよっ、ヘレナ!」
パァンッ!
「うっぐぅううあああああ!!」
正常な思考能力を失い感情の奔流に飲み込まれたヘレナは涙を流しながら訴える。溢れ出る涙は鞭の衝撃によって全身を揺らした時に四方へと散ってゆく。それでも止まらない涙はヘレナの足元の乾いた砂利に潤いを与え、その範囲を広めていく。
「うぐっ....せんぱいぃ....ヘレナを嫌いにならないでぇ.......」
とうに頭が真っ白になったヘレナにとって先輩に嫌われたくないという思いだけが最後に残った感情だった。その言葉だけをひたすらに繰り返していた。
先輩はそんなヘレナにそっと近づき、優しく顔を撫でる。
「ああ、ヘレナ...綺麗だ」
そしてヘレナの顎をそっと支え、優しくキスをした。
ヘレナは力なくそのキスに応じるのが限界であったが、そのキスから先輩の優しさが全身に伝わり細胞が震えるような感覚に襲われる。
「いいんだよ、ヘレナ。欲張ってもいい、ヘレナが望むならヘレナだけの僕になってもいい。ただヘレナにちょっとだけ素直になって欲しかっただけなんだ。だから今ヘレナの本音が聞けて僕はとても嬉しいよ」
「あ、ああぁぁぁ.......せんぱい、せんぱ...んむっ、んんんんんんん!!??」
そう言ってまたキスを再開する。舌を絡ませヘレナを責め立てる。その言葉とキスはヘレナの中で変化をもたらすには十分だった。
先輩のお仕置きと称した鞭打ちはヘレナを断罪するためだけのものではない。ヘレナのためを考えてくれてのことだったのだ。
そのことに気付いた時、今まで蓄積されてきた痛みが突然快楽へと姿を変えヘレナを襲い、とうとうキスのみで大きな絶頂を迎えた。
快楽を我慢することは痛みを我慢することよりも難しい。もし快楽と痛みを量に変換できたとしたら、我慢出来ない程の痛みと全く同じ量の快感が与えられた時、それは一体どれほどのものになるのだろうか。
つまり経験したことがないほどの快楽がヘレナの頭からつま先まで、全身を支配して回るまでに時間はかからなかった。
「ん.......くちゅ、れろ.....んむっ、ん.......ぷはあっ!.......せんぱいぃ、ヘレナおかしいんだ、せんぱいにぶたれたところ、痛いはずなのに気持ちよくて.......も、もうわかんにゃいよぉ.......」
「そうか、ヘレナは鞭で叩かれるのが好きなんだね」
「ち、ちが」
パァンッ!!!
「んっあああああああああああああ!!!」
「ヘレナ、嘘はダメだよ。もっと素直になって」
まだヘレナに理性が残っていることを感じ取り、先輩はさらに本音を引き出そうとする。
赤く腫れたお尻についた鞭の跡をゆっくりとなぞり、くすぐり、息を吹きかける。
「んっ....くっ.......あぁっ!」
ひとつひとつの動作からヘレナは耐え切れないほどの快感を受け取り、身体をびくっと反応させることでそれに対する答えとでも言いたげだった。
「ほらヘレナ、感じてばっかりじゃなくてちゃんと思ったことは口にしないと、ねっ!」
パァァァンッ!!!
「んっぎいいいいいい!!!」
肌と肌がぶつかり、鞭が空を切る音とはまた違った種類の破裂音が響く。先輩の手の跡がヘレナのお尻に刻まれ、その跡を筆でなぞるようにして優しく指を滑らせる。
「あっ、す、すきっ、すきです! それすきいいぃぃぃ....」
「ふーん、じゃあやっぱり叩かれるのは嫌いってことかなっ!?」
パァンッッ!!
「ああああ!! すき、叩かれるのもすきっですぅ! 叩かれるのも、優しくされるのも、どっちともぜんぶっ、ぜんぶしゅきぃ!!!」
叩かれたりその跡を優しく触れられたりを繰り返すうちに、ヘレナの中で痛みと快感が同じものになってしまったようで、ヘレナになにかする度に面白いほど体を跳ねさせ、股からは愛液を垂れ流す。もはやそこにいつもの『常に他人を見透かしたようにからかって遊ぶキル姫』の姿はなく、ただ『与えられた快楽に対し悶えることしか出来ない雌』だけが存在していた。
「はははは、ヘレナ、これじゃ本当に変態みたいだよ!」
「あああっ、あんっ、ぐっ、んぎっいいいいい!!!」
鞭で叩かれ、平手打ちでぶたれ、赤く腫れ上がり敏感になったお尻を優しくなぞられる。単純なローテーションだがこれを繰り返すたびにヘレナの感じる快感は何倍にも膨れ上がっていく。
激しい痛みと快楽の応酬に、まともな思考能力などとうの昔になくなっていた。
「ほらヘレナ、『ヘレナは変態です』って言ってみてよ」
「はぁ、はぁ.......それ、は.....ひぐぅっ!!」
強弱をつけた平手打ちでヘレナを責め続ける。その間にもヘレナは嬌声を上げて泣き叫び、快感を感じている証拠を陰部から足を伝わせて地面へと漏らしていた。足元にはもう涙かヘレナの分泌液か分からないほど多くの液体で水溜まりを作っていた。
「はっ、軽く叩いただけでこれなのに、変態じゃなかったらなんだって言うの!?」
パァンッ!!
「ふぎぃっ!.......だ、だってへんたいだったら、せんぱいに、ひぐっ、きらわれてしまう....かも......しれないからぁ.......」
「....あぁ、なんだ、そんなことか......」
その言葉を聞いた先輩はおもむろに肉棒を取り出し、そのままヘレナの膣の奥へと突き刺した。
「おぐぅっ、ああああああああああああ! そんないきなりいぃぃ.......」
「はは、ヘレナのとろとろだから僕のもの一瞬で受け入れちゃったね。普通だったらこんなにすんなり入らないよ」
突然のことに驚くヘレナを置いて、先輩はヘレナを貶めるような発言を続ける。ぬちょぬちょと粘膜の擦れる音が耳をすまさなくても聞こえるほどヘレナの膣内は愛液で満たされていた。
「なんっで、せんぱいっの、いつもより大っきい....ひぐぅっ...!」
「ヘレナの可愛い姿を見てたら興奮しちゃってね」
「かわ、いい......?」
「うん可愛いよ。すごくえっちだ。縛られたままおしりを叩かれて感じちゃうようなえっちで変態なヘレナが可愛くて、大好きだよ」
「ああ、ああああぁぁぁぁぁぁぁ.......」
痛いことが気持ち良いなど、変態以外の何者でもない。先輩に何度も何度も叩かれ、普通の女性なら怒ってもおかしくないほど酷いことを言われるたびに快楽を増幅させてゆくヘレナの姿は、誰が見ても疑う余地のないほどマゾヒストのそれだった。
ヘレナはそんな自分を自覚し、それが本来の自分の姿であることを薄々理解していた。理解しているが故にそんな自分は先輩に釣り合わない、そんなありのままの弱い自分を知られてしまったら先輩に捨てられてしまう、そう考えていた。
今の今までは。
しかし先輩から投げかけられた言葉は予想していたものとは全く反対のもので、ヘレナが最も望んでいた言葉だった。
「せんぱい、ヘレナは....せんぱいに叩かれて、罵られて、それでまた気持ちよくなってしまうような....へ、へんたい....だぞ。それでもせんぱいはヘレナのことを愛してくれ、ますか?」
先輩に背を向けたまま、肩も背中も声すらも震わせ必死に言葉を絞り出す。それは嫌われてはいないと分かったにも関わらず、その確固たる証拠がないために心のどこかでまだ不安を残しているからだった。
この場限りの言葉でもいい。それでもヘレナは先輩からある言葉を聞きたかった。
「今更だよヘレナ。僕はヘレナのことがずっと好きだ。今日が終わって明日が来ても、今年が終わって来年になっても、ヘレナが僕のことを嫌わない限りずっとずっと、ずっとヘレナを愛しているよ」
「ああ.......せんぱい、ヘレナはその言葉だけで....っ...あうぅ、うっああぁぁぁ」
もはや何度目かも分からない絶頂を迎える。ヘレナは目から涙を流し、口からは涎が垂れ流しになっているという酷い顔をしていたが、幸福であることがこれ以上ないほど伝わってくるほど恍惚とした表情をしていた。
「それじゃあヘレナ。続きを始めようか」
パァンッ!
「ああっ!!! イク、またイグッ! せんぱい、もっと! もっと叩いてくださいいいいい!!!!!」
平手打ち一発ごとに体を大きくビクつかせてオーガズムに達する。腰を一突きするたびに、まるで本来あるべき栓を失ってしまったかのようにヘレナの性器からは愛液が溢れ出る。その液体はヘレナの体に収まらず、まるでおもらしでもしたのかと見間違えるほどヘレナを中心として湿地が形成されていた。全身から力が抜けるほどの快感は、ヘレナがまともに話すことさえ許さなくなった。
「うっ...うあっ...ひぇんふぁい、へれにゃ、もうずっとイっへる! のにぃ.......もっろ、もっとせんふぁいのちんぽ、ほひいのぉ!!!」
「全く。はしたないよ、ヘレナ!」
パァンッ!!!
「がっああああああああ! 」
二人の脳内からはもうお互いのこと以外の姿や音、匂いなど全てのものが排除されていた。一般的な人が見ればその光景は求め合うというには一見一方的過ぎるように見えるだろう。だがそれでも二人はひたすら純粋にお互いを求め合い、愛し合っていた。
先輩はヘレナが感じ取る痛覚、快感を常に考え、把握し、鞭を振るう。そしてそれに応えるようにヘレナは叫び声とも喘ぎ声とも取れる声を先輩に届ける。
回数を重ねるほどお互いの息遣いや力の入れるタイミング、気持ちに理解を深めていき、それは次第に二人を繋いで混ざって、やがてひとつになる。
「ひぇんふぁいっ! しゅきっ、しゅき、しゅきぃ! らのぉ! れもっ、もうらめ! おかひくなうぅ! からぁっ、ひゃめへ、ひゃめっぅぅぅぅうううううううう」
「いいよ、ヘレナ。もっとおかしくなって! どんなヘレナも僕は愛してあげるから!」
「うっ.......あああっ! い、イクッ、イキまひゅ、イク、イクイクイクイクッ! イッ.......あああああああああああああああああああああああ!!!!!」
聞いたこともないような声で叫びながらヘレナは盛大に果てる。その時の膣圧と痙攣で先輩も射精へと至り、ヘレナのお尻に塗りたくるように精子をぶちまけた。
「うあっ.......ああぁ.......」
行為の反動で軽く絶頂に達するほど余韻が大きいらしく、相当先輩が膣から男根を抜いたあともしばらくの間は力が入らないようで、お尻を突き出した体勢のままびくびくと全身を痙攣させていた。
「ヘレナ。愛しているよ」
先輩が耳元で囁くとヘレナはまた達してしまう。心ここに在らずといった様子でヘレナから返事が帰ってくることは無かったが、その顔は口にせずとも伝わってくるほど多幸感を表していた。
どれほどの時間2人で交わっていたのだろう。空を見上げるとあれほど自分たち照らしていた太陽はもう落ちかけており、代わりに月が登り始めていた。そして間もなく太陽が沈み、月の明かりがヘレナの肢体を照らした時、その美しさに先輩はまた心奪われた。
しばらく経った頃、先輩はヘレナの縄を解いて互いにキスをする。その後近くの岩場に座って持ってきた水をヘレナに手渡すが、ヘレナの手首に付いた縄痕を見て少し気まずくなる。結果的には先輩は目的であるヘレナを素直にさせることに成功したが、その痛々しい痕を見るとどこかで力の塩梅を間違えたかと不安になるからだ。
先輩が話を切り出しかねているとヘレナが先に口を開いた。
「.......先輩、まさかこの水にも毒が入っているんじゃないだろうな。ヘレナは少し怖いぞ....くふっ....」
「.......ごめん」
「つまり、入っているということか?」
「ああ、いや、その水は大丈夫! さっきそこで汲んできたやつだから!」
「....くふっ...ヘレナも見ていたからね。冗談さ」
ヘレナはそう言うとペットボトルの蓋を開け一気に半分ほど飲み干す。ただでさえ太陽の日差しで暑いというのに、多くの水分が体から抜けたのだからヘレナの喉が乾いていたということは想像に難くない。
ぷはぁっ、と飲料水によって塞がれていた気管が解放されて出た声がそれを物語っていた。
「.......なあ、先輩....なんで突然こんなことをしたんだ?」
ヘレナは静かに問いかける。質問といっても答えを求めている訳では無い。ヘレナ自身、既に答えは理解していた。それは今日の行為を通し、先輩の想いが文字通り痛いほど伝わってきたから、言葉でも行動でも先輩が教えてくれたからだった。
そして先輩もまたそのことは理解していた。その上で先輩は質問の意図を考える。色々と考えを巡らせるが、ヘレナの性格や本質を鑑みればその答えは明確だった。
やはり、と一言付けヘレナの目を見て答える。
「ヘレナを愛しているからだよ」
その言葉を受けたヘレナは少しの沈黙の後、
「そうか..............くふっ.......」
とだけ言ってバイザーで顔を隠す。しかしいくらヘレナの顔が小さいと言ってもバイザーはせいぜい顔を半分覆う程度の大きさしかないので、その口元がニヤけていたことは先輩に筒抜けになってしまった。
だが先輩はそんなヘレナからあえて目を逸らす。自分に見えていることなど聡明なヘレナは織り込み済みでそうした行動をとっているのだ。それでも零れてしまう笑みを指摘するような野暮なことはしない方が良いということを先輩は知っていた。
それから2人は多くを語ることなく共に食事を終える。たまに目が合った時に微笑み合い、手を重ね、どちらかが他愛のないことを呟いてはもう片方がクスリと笑う、そうしたことに途方もない居心地の良さを感じ、眠るまでの夜を楽しく過ごした。
─────────────────────
そんな長くも短かった一日を終え、何事も無かったかのようにまたマスター一行はティファレト、フェイルノートを探しローク島を闊歩する。森を抜けた辺りで太陽はいつものように熱いほど4人を照らしつけていた。
「ふふんっ! 宣言通り、今日こそマスターか誰のものか、ハッキリさせてやるわよ! まあ当然? 至高の存在である私のものだっていうことは既に分かりきっているのだけど」
昨日に続き高慢な態度でアルマスを挑発しながらマスターの左手に組み付くガ・ジャルグ。自分こそがマスターに相応しいといった目でアルマスを睨んでいる。
「だからあなたのものじゃないって言ってるでしょ! ていうかそもそもマスターをモノ扱いすること自体、間違ってるのよ!」
対抗してマスターの右手に組み付きながらガ・ジャルグを睨みつける。2人は1日を置いても衰えることなく一触即発の勢いで互いを牽制し合い、それはやがて2人の間にいるマスターへと矛先が向くことになった。
気がつけば『どちらを選ぶか』といった質問に論点がすり変わっており、マスターは酷く困った様子を見せた。
そんな時だった。
「....先輩はどちらのものでもないよ...くふっ....」
と後方から声が聞こえてヘレナと、アルマス達の横にいるはずのマスターが少し遅れて森から姿を表す。
「えっ!? マスターが2人!? なんで!」
「くふっ....もういいよ。おいで、ニール」
ヘレナがアルマス、ガ・ジャルグと手を組んでいるマスターに向かって指示を送ると、突然そのマスターは煙を上げて小さくなっていき、たちまちニールの姿に変化した。
「ニール! なんでマスターなんかになってるの!?」
アルマスは突然の出来事に頭が回らないといった様子でニールに説明を求める。しかしニールはお構い無しにヘレナの後ろへと戻っていった。
逆にガ・ジャルグは激昂しそうなものであったが非常に冷静に、ヘレナに告げる。
「ふーん、なるほどね。ヘレナ、あなたはこういうこと、興味ないと思ってたわ」
「...くふっ....興味も何も、先輩ははじめからヘレナのものだ。先輩とニールの区別もつかないようなキル姫には渡せないな」
「あら、じゃあもし普段からニールを連れてるあなたが見間違えたら、私達より目が節穴ってことになるわね?」
「なかなか面白いことを言うじゃないか.....」
アルマスとガ・ジャルグが睨み合っていた状況が一変し、今度はヘレナとガ・ジャルグの双方で今にでも争いが起こりそうなほど目線をバチバチと散らしていた。
しかしガ・ジャルグのヘレナを見る目は昨日までとは違い、1人の対等なライバルとしてヘレナを意識していた。
そのことはアルマスも感じ取ったようで、昨日とは違う様子のヘレナについてマスターに聞く。
「まさかこんなに変わるとは思わなかったわ。一体何をしたの、マスター?」
「.......ちょっと素直になれるように助言しただけだよ」
「その間、少し引っかかるんだけど.......」
「ははは、気のせいだよ。そんなことよりほら、なんか2人とも戦闘体制に入っちゃってるけど止めなくていいの?」
そう言ってアルマスの視線をヘレナ達の方へ誘導する。そこにはニールが変形した浮遊型モーターバイクに跨るヘレナと、水着の間から天使のような翼を生やしたガ・ジャルグの姿があった。
「え.......って、ああっ!? ちょっと2人とも落ち着いて! なんですぐにそういう発想になるの!?」
「本当はヘレナも争いは好きじゃないから、今も怖くて震えてしまいそうだよ...くふっ....」
「あら、じゃあ早く降参してマスターを譲る事ね。そうすれば争わなくて済むわよ」
「.......くふっ」
「.......ふふっ」
2人が笑いあったのを口火に次の瞬間には2人は海上を猛スピードで駆け巡り、互いの槍をぶつけ合う音を轟かせていた。数秒もしないうちにその音はどんどん遠ざかっていき、また近づいては遠ざかりと戦闘が激化していることが分かるようだった。
「だから、マスターは誰のものでもないって言ってるでしょーーー!!!」
アルマスの悲痛な叫びがローク島に響き渡る。
その後、
「そうよ、初めから力で分からせてやればよかったんだわ」
などと言い吹っ切れたアルマスも参戦して3人でマスター争奪戦が始まるのだが、それはまた別の御話。
ご精読ありがとうございました。
拙い文章ながら皆様の頭の中に少しでも風景などが浮かんでいたらとても嬉しいです。
今回は個人的な趣向でSMの中でも鞭打ちをテーマに書かせて頂いたのですが、やはり文章力不足でSMの真髄が描き切れなかったと感じます。
鞭打ちはSMの中でも特に好きなジャンルなので文章力を磨いてまたいつか挑戦したいと思っております。
こんな変態なことばかり考えていますが、宜しければ末永く応援して頂けると嬉しいです。
こういうのが好きという方、いやもっと激しいのが好きという方、コメントお待ちしております。
それでは、紳士の皆さん次回もお楽しみに!