33-015
望は印刷会社に探りを入れて、中吊りの内容を確認して日頃から親交の有る安藤に連絡をした。
安藤が菜穂にフリーを勧めた事も、今の状況もよく知っていたから驚いて連絡をしたのだ。
記事の内容はどうしても教えられないと、印刷会社は拒否をした。
トピックから、念押しの電話が印刷会社にされている事は明白だった。
連絡の時「相手に問題が有るのかも知れませんね、大物俳優とか?」望が安藤に尋ねる様に話した。
「私は菜穂の事を一番知っているけれど、男性の影は絶対に無いわ!」
「でも、嘘は書かないと思うわ、もう少し調べてまた連絡します」で一報は終わった。
その後直ぐに菜穂に連絡をした安藤、彼女も一度スクープ記事に追い掛けられた経験が有るので敏速な対応だ。
結局、恋はその記事を切っ掛けに消えてしまって、失恋に成った苦い思い出を持っていた。
夕方、身の回りの物を持って菜穂は(千鳥)の玄関に入った。
小振りの温泉旅館は、少し郊外に在って部屋数も二十程で、湯河原の温泉街からは少し離れている。
女将の北山が挨拶に来て「恭子さんから聞いていますよ、安心して過ごして下さい」と言った。
訳が判らない菜穂は、挨拶だけして安藤恭子を待つ事にした。
記事の内容が判らないけれど、竹本プロには芸能記者、スポーツ紙の記者が大勢やって来た。
「ここには、北条菜穂は居ません、私も事情は判りません、何もお答え出来ません!」
大きな声で、竹本康三が記者に話す。
「何処に行けば、彼女に会えますか?」記者の一人が大きな声で質問した。
「我々も捜しているのですが、現在行方不明です」竹本が答える。
「付き人の方は?連絡出来ましたか?」
「彼女は連絡出来ました、もう直ぐここに来ます」
「そうか、それではもう少し待とう」の声が聞こえる。
社長室に戻った竹本は「北条君に限って、不倫は考えられないな」妻の澄江に話す。
「沢山のタレント、歌手、俳優を見てきたけれど北条さんの様な人は少ないわ、不倫なんて絶対に無いわ、何かの間違いよ」澄江も信じられない表情で話す。
「連絡が無いのか?」
「はい、携帯電話が切れています」
「ここで、この騒ぎだ、本人の電話を知っている人は一斉にかけるな」
「もう直ぐ、付き人の近藤さんが戻るから、判るわ」
その近藤早代は、記者に囲まれて有名人気取りで「北条菜穂さんは、今どちらですか?」の質問に「逃げているのでしょう?大変な騒ぎに成りましたからね」平然と話して「何かご存じの事有りますか?」の質問に「渋谷のSMホテルに行った事?」と話してしまった。
「えーー!」響めく記者の声、早速社に一報を送る面々。
「相手は何方ですか?俳優さん歌手?」と矢継ぎ早の質問にスターに成った気分で答えている早代。
事務所から竹本が出て来て早代に気づくと、腕を握って事務所の社長室に引きずり込む。
「お前が何を話したか知らないが、事務所の許可無く喋るな!」厳しく怒る竹本。
「社長さん、もう話してしまいましたし、明日の週刊誌に載るから良いのでは?」開き直る早代。
「馬鹿者、お前は何を話したのだ!」
「北条菜穂が渋谷のSMホテルに行った事は本当ですからね」
「何!新宿のSMホテル?北条君が?冗談だろう?」全く信用をしていない。
「社長渋谷ですよ!そんな話信じられないわ」澄江も大きく否定する。
「安藤さんに聞いて見なさい」と竹本が慌てて指示をする。
「君の発言が会社を窮地に陥れるとは考えないのか?」竹本の怒りは収まらない。
しばらくして澄江が「この子が芸能記者に情報を流して、大変な事に成っているらしいですよ、安藤さんが話していました」
「お前、何を話したのだ!」今にも殴りかかる勢いの竹本。
「そうよ、週刊誌には付き人の証言も有ると書いてあるそうよ!」澄江が付け加えた。
「事実を話して何が悪いのよ、こんなプロダクションは今日限りで辞めるわ!」それだけ言うと社長室を飛び出して行った。
外に出ると数人の記者がまだ残っている。
「私の情報買わない?面白いわよ!」と売り込みを始めた。
「幾らだ!」
「良い情報なら買うぞ!」
「付き人が情報売ると首になるぞ!」口々に色々な言葉が飛ぶ。
「もう首に成ったわ、何でも喋るわよ!」嬉しそうに、近くの喫茶店に数人の記者を引き連れて向かった。
本の内容が時間の経過とともに、徐々に判明をしてくる。
安藤はその情報を望から受け取りながら、湯河原に向かう。
菜穂も竹本の元に旅館の固定電話から、何度もかけていたが話し中で繋がらない状況。
社長の携帯も専務の携帯も切られて繋がらない。
竹本プロダクションは開店休業状態に成ってしまった。
早代は数社の記者からの質問に答える為、喫茶店の奥の席に陣取って、お金を徴収して質問を受け付け始めた。
「ズバリ、相手の男性は?」
「はい、木原良純さんです」
「えー、プレイボーイに引っかけられたのか?」記者の一人が言う。
「渋谷のラブホは何処ですか?」
「ホテル欄です!ご存じでしょうが?SMホテルです」
「えー!」その場に居た記者全員が大きな驚きの声を上げた。
「先程の話は、本当だったのか!」騒然とする。