33-016
「新春時代劇で共演していますが?その時が出会いですか?」記者が質問をする。
「テレビで見たでしょう?濃厚なキスを!付き人の私が驚きました」
延々と質問が続くが、近藤早代は適当な話を作り上げて記者に話してしまった。
湯河原に安藤が到着して「先輩大変な迷惑をかけてしまいましてすみません」深々とお辞儀をして謝った菜穂。
「今夜はここに泊まるわ、色々聞かせて、私も映好の佐々木さんの話を教えるわ、取り敢えずお風呂に入りましょうか?」
二人は、貸し切りの露天風呂に向かう。
「久しぶりね、菜穂と温泉に来たのは?」懐かしそうに話す安藤恭子。
「三年以上前に、箱根に女子アナ五人で行きましたね」
「もう、三人は辞めて主婦しているから、現役は私達だけね」
脱衣場で浴衣を脱ぐ菜穂の身体を真剣に観察している恭子は、長い髪を纏めてピンで留める菜穂を見て、少し昔に比べて色っぽくは成ったけれど、男とSMホテルで遊んだ身体には見えない。
縄で縛られた形跡も、蝋燭で責められた感じも全く無い。
色白で綺麗な身体、パンティを脱ぐと黒々として手入れの無い陰毛を見て恭子は確信をした。
あの記事が出鱈目で誰かが作り上げた悪戯だと、悪質な悪戯に怒りが込み上げてきた。
湯船に浸かると「菜穂の付き人の子って信用出来るの?」恭子が尋ねる。
「普通の子よ、プロダクションが用意してくれたのよ!何か?」
「明日の記事に、付き人の証言が掲載されているらしいのよ、それが信憑性を増幅させているのよ」
「えー、近藤早代さんが?嘘!」菜穂の声が変わった。
「それと渋谷のSMホテルに行った?それを証言したらしいわ!その子」
「えー、そんな!」顔色が変わって、恐怖の様相を呈していた。
「本当なの?嘘でしょう?菜穂が?信じられない」恭子が言う。
「。。。。。。。。」考え込む菜穂の様子に、今度は疑い始める恭子。
突然泣き始める菜穂に「どうしたの?詳しく話して!」何かが起ったと思う恭子。
「。。。。。。」中々泣き止まない菜穂。
化粧が完全に落ちているが、素顔は幼い様子の菜穂の側に近づいて肩を抱くと、落ち着いたのか「先輩、実は木原さんに脅迫されて、呼び出されてしまったのです」とゆっくりと話し始めた。
「木原って、時代劇の共演者で噂の多い人ね!菜穂を狙ったのね」怒りが顔に込み上げて来る恭子。
菜穂は恭子に粗方の経緯を話すと「何と卑劣な男よ!それが何故急に週刊誌ネタに成ったのよ!被害者は菜穂なのに!」怒りが込み上げるのか、顔を真っ赤にして怒る恭子。
「貴女は動けないから、私が色々調べてあげるわ、当分ここに隠れていなさい!女将の留美には頼んで置くわ」恭子は時間の許す限り、菜穂の為に行動する事を確約して、その夜は枕を並べて眠った。
卑劣な方法で、菜穂を襲ったらしい木原を許せないのは勿論だが、付き人近藤早代の行動にも立腹の恭子。
恭子は今年三十一歳、竹本プロに移籍しても、席だけを置いて殆どフリーで仕事を行っている。
安藤恭子も知的な美人アナウンサーで、公共放送時代はニュースを担当していた事も多かった。
菜穂に比べると、年齢の事も有るが、スタイル、顔も劣っていた。
夜は昔話で遅くまで二人は眠らずに語り合って、菜穂の気持ちも和らいだが、翌朝「大変よ!」の留美の電話にたたき起こされた二人。
スポーツ紙を持って、数分後の部屋に飛込んできた留美が「これ見て!」座敷机に大きく広げた。
(清純派タレント北条菜穂!異常な性癖!渋谷SMホテルでの密会!)と裏面一杯に文字が並んでいる。
「えーー!何これ?」驚く菜穂。
「ここに、付き人の子がインタビューに答えている記事が載っているわ?」恭子が言うと、食い入る様に読み始める菜穂。
読み終わると「何よ、この子見ても居ないのに、こんな嘘が良く喋れるわ!」怒る菜穂。
「でも、この記事と週刊誌で、菜穂の事は世間では変態女に成ってしまったわよ!」恭子に言われて「反論出来ないの?」怒る菜穂。
「今、出て行くと、袋だたきに成るわ、私が動くからここに隠れて居て」恭子に説得されて落ち着くが、新聞には詳しい記事は無く、近藤早代のインタビューが中心だった。
昼頃に週刊トピックが売店に出るので、買ってきて読む事に成った。
早速朝のワイドショーでは、この新聞記事が話題に成って、各局が取材に自分を捜している事が判った。
既に週刊誌を手に入れた放送局が芸能記者を交えて、討論会の様に話し合って、菜穂の異常な性癖を過去の芸能人を対象に話している。
正月放送の吊し上げられたシーンを再び取り上げて「本当は自分から望んで、このシーンを撮影したのでしょうか?」と憶測で話していた。
「あの北条菜穂さんがこの様な不倫、そして変わった性癖が有るとは思えませんが、事実は小説より奇なりと申します」そう話して大いに盛り上がっていた。
その頃大阪の菜穂の自宅にも大勢の人から抗議の電話が殺到していた。
何も知らずに役所に行った兄正一も、ニュースに困惑して早退をしてしまった。
父の一成も、先日までの美人で頭の良いお嬢様で鼻が高かったが、一転変態淫乱女に変わってしまい身の置き場が無く成った。
家族には信じられない青天の霹靂が起っていたのだ。
テレビ局の取材の申し込みが殺到、抗議の電話、張り紙がその日を境に増加した。
竹本プロにも、菜穂に対する取材が殺到して、混乱の極みに成っていた。
だが、夕方に成って菜穂に追い打ちをかける出来事が、勃発して尚更窮地に陥ってしまうのだった。