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木原には恭子の出現は非常に困ってしまう、今更自分が悪者に成る事は役者生命の崩壊に繋がるので、どの様に恭子を騙すか?それとも別の方法で弱みを握るかを考えながらホテルに向かった。
菜穂が木原に薬を飲まされたと聞いていた恭子は、飲み物を口にしない事を決めていた。
喫茶で会った木原は緊張気味に「安藤さんが私に何の用ですか?電話では北条さんの話とおっしゃっていましたが?」嘯く木原。
「冗談は辞めましょう、貴方と菜穂の事は総て聞きました、渋谷のラブホから出た時に週刊トピックの記者に捕まったから、咄嗟に話を作ってしまったのでしょう?貴方の嘘で菜穂がとんでもない事に成っているのよ、正直に話して下さい。菜穂は貴方に強姦された事には目を瞑ると話していました」と説得をする。
「写真も撮影されているし、付き人の証言はどうするのだ?俺はマスコミに話した様に、北条さんに襲われたのだよ!恐い女だよ!お前も仲間か?」全く反応が無い木原。
ここで認めれば今度は自分が終わってしまうので、承諾は困難だと思う恭子。
「どの様にすれば認めてくれるの?」
「それは、俺に嘘の証言の強要か?」
「菜穂を助けて欲しいの、貴方の嘘で彼女の運命が大きく変わったのよ、純粋で初心な子を弄ばないで欲しいのよ」
「そう思っているのは安藤さんだけだよ!嘘の証言は出来ないよ!助けてあげたいけれど無理だね」
「お金を払えば良いの?」
「お金で売るのか?そんな事出来ないよ!嘘の証言をしろと?」
「違うわ、本当の事を言うのよ、その為のお金よ!」
「安藤恭子さん、買収は駄目ですよ」
「買収では有りません、お願いです」この様に話は同じ事の繰り返しで終了して、木原が「また、会いましょう」と不気味な言葉を残してホテルを後にした。
冷めたコーヒーが、そのままテーブルに残って、恭子は空しい思いに慕って帰って行った。
竹本プロに菜穂がお詫びの電話をしたのは、丁度その時間だった。
澄江が電話を受けて「何処に隠れて居るの?大変な事に成ったわね、木原って男に騙されたのよね、判っているわ」と優しく応対をした。
「私が軽率でした。あの様な男と食事に行ったのが間違いでした」
「私達もいけなかったわ、あの様な付き人を付けた事を後悔しているのよ、ごめんなさい」
「私も、近藤さんがあの様な恐い子だとは気が付きませんでした。すみませんでした」
「事情も聞いたし、隠れて居るのは安藤さんから聞いていたので大丈夫よ、もうしばらく隠れてからマスコミを集めて記者会見の準備をしましょう、元気でね」で電話は終わった。
竹本は、記者会見の段取りを模索していた。
渋谷のSMホテルから出て来た事実は消す事は出来ないので、謝る以外に方法は無い。
問題は木原との関係なのだが、否定する方法に苦慮している竹本だ。
安藤が木原に交渉に行ったが、何か良い条件を持って帰らないか?それが頼りの竹本社長。
世間は少し沈静化して、電話も比較的繋がる様に成っていた。
翌日、その竹本プロにCM契約の打ち切り通知が一社から来た。
(大変残念ですが、弊社の企業イメージと北条菜穂さんのキャラクターが、合わないので打ちきりとさせて頂きます。細かい事は後日ご連絡致します)このFAXの翌日、新聞紙上にお詫びのコメントが企業の名前で発表された。
この発表は、躊躇していた他の企業を誘発させて、一斉に契約解除の動きに成ってしまった。
八社のCMが総て無く成ってしまった竹本プロは、一気に経営状態が悪化に追い込まれるのは必定だった。
この話は小柳も直ぐに知る事に成って、竹本プロを助けてやりたいと考えて居た小柳を動かす事に成った。
竹本と小柳は昔からの知り合いで、過去にも数多くのタレントを、テレビで使って援助はしていた。
「とんでもないタレントさんを引き受けて、大変ですね」と労いの電話をすると「あの子が綺麗で、純粋過ぎたのですよ、可哀想な事をしてしまいました」と自分の非を述べた竹本に感動をした小柳。
小柳には竹本の真意は伝わっていなかった。
竹本も混乱の渦の中で、小柳に総てを話せる程の余裕が無かったのも事実だった。
世間と同じく小柳も、北条菜穂の行動に疑問を持っていたのだ。
翌日、恭子に木原が「交渉をしましょうか?」と急に態度を変えてきた。
「急に何を?」不思議に思う恭子に「これを聞けば交渉に来るでしょう?」と先日のホテルの会話が編集されて流れた。
「えー、これは?」驚く恭子に「この録音を買いませんか?貴女が北条菜穂の為に、私に買収を迫っているのですよ」
「卑怯な男ね!」怒る恭子に「駄目なら放送局に売りますよ、これで貴女も終りですがね」
「待って、幾らで売るの」交渉に応じる恭子は、自分自身も窮地に陥ってしまいそうな雰囲気に仕方が無かった。
翌日先日のホテルに来いと言われて、仕方なく出向く恭子。
自分の失敗だとは思っても腹が立つ木原の行動、木原はホテルに自分の知り合いを行かせて、恭子を待ち構えて居た。
喫茶に居ないのでしばらく待っていると、恭子と同じ位の女性が「安藤恭子さんですか?」と尋ねた。
ファンの人かと思い笑顔で答えると「木原の使いで来ました、一緒に来て頂けませんか?」と言われて、駐車場に向かう二人。
「何処に行くのですか?」の質問に「聞かれたら困るでしょう?車で待っています」黒のワンボックスを指さした。
扉が開くと同時に突き倒されて、引きずり込まれると「あっ、何するの?」の言葉を遮る様に、口にタオルが押し当てられて、異臭が恭子の鼻を襲った。
「うぅ、うぅ」の声と同時に意識を失ってしまった恭子。
後ろ手に縛られて、車は駐車場を走り去って行った。