33-07
菜穂の仕事はフリーに成ってCM数社、他は単発のゲスト出演、クイズ番組等を行っていた。
この十月から勉強が出来るので、クイズ番組のレギュラーと成ったのと、夜遅い時間の経済番組の話も持ち上がり本格的に忙しくなり始めていた。
今回のドラマで成功すれば、ドラマの依頼も増加が見込まれて、竹本プロも潤っていた。
その夜菜穂は、ホテルのレストランで木原にワインを勧められて困っていた。
「何が好きですかの質問にワインが、少し飲めます」と答えてしまったので、高級ワインがテーブルに届いてしまった。
「一杯だけ、頂きますわ」酔わない様に気を付ける菜穂。
長い髪を後ろで団子にして、それでも首よりも下まで流れている。
好きな白の長袖のワンピース姿で、木原の好みの清楚なスタイルでやって来た。
白ワインを飲みながらフランス料理のフルコース、店員は二人が木原良純と北条菜穂だと判っていても口には出さない。
口当たりの良いワインに、一杯だけと思っていたのに、二杯目が既に注がれて菜穂の頬が紅潮していた。
木原は今夜を逃すと当分チャンスは巡って来ないから、今夜がワンチャンスだと思っていた。
友人から貰った特殊な薬を密かに持って、菜穂に飲ませる機会を伺う木原。
一気に酔いが廻って、歩けなく成る薬だと聞いて貰ったが、実際は一度も使った経験が無かった。
最近は菜穂がターゲットに成っているので、本来の女性キラーの力が温存されている。
妻の涼花には、撮影が遅れているから遅くなるので、ビジネスに泊まると告げていた。
涼花は子供の事に手一杯で、木原の事は眼中に無いが、浮気癖には時々目を配っていたが最近は大人しいと思っていた。
涼花もタレントをしていて、木原に声をかけられたので、同じ事をする可能性は絶えず警戒をしていた。最近は生まれた子供に手が向かうので、菜穂の事まで見ていなかった。
今までのタイプには、菜穂の様な知的な女性が居なかったからだ。
しばらくして菜穂は、ワインによる顔の火照りが気に成ってトイレに向かった。
木原に千載一遇のチャンスが訪れたと、ポケットの薬を取り出そうとするが、興奮が先に成って指が上手く動かない。
漸く落ち着いて取り出すと、周りを確かめて菜穂のワインに混入しょうとしたが、残り僅かの為急に赤ワインを注文した。
一度も見ていない薬に色でも有ると、万事休すに成るからだ。
薬の効果も確かめずに、いきなりの使用は友人の言葉だけが頼りだ。
ワインの到着が早いか、菜穂が戻るのが早いのか?木原の胸の高鳴りは、心臓が飛び出した様に成っていた。
菜穂はトイレで付き人の早代に連絡をして貰って、抜け出す事を考えていたのだ。
何度かかけ直すが、繋がらないから仕方無く戻る事に成った。
どの様にして、この場を抜け出すか?木原に悪い印象は持ってないが、奥様も子供も居るので深入りは絶対にしないと決めている。
木原には菜穂の電話が幸運で、新しくテーブルに届いたワインに楽々と薬が混入出来た。
「遅かったですね~」木原が笑顔で尋ねる。
「少し酔ったので、冷ましていましたのよ」菜穂も笑顔になる。
テーブルの赤ワインに気付いて「新しいのを、注文されたの?もう飲めませんのに」困り顔に成る菜穂。
「そうなの?このワイン高級品で、中々手に入らない幻の品らしいですよ、このワインでお開きにしましょうか?」微笑みながら語る木原の言葉に、自分が言い出さなくても帰ると言われて良かったと思った菜穂。
「それでは、幻のワインに乾杯」グラスを合わせる二人。
一口飲んで「お味はいかがですか?」薬が気になるので尋ねる。
「この様な味は、始めてで酔いそうですわ」もう一口飲んで微笑む。
もう直ぐ解放されると思う菜穂は、飲み方を早くしていた。
「飲み終わったら、デザートを食べて出ましょうか?」そう言うと、木原はグラスの赤ワインを一気に飲み干した。
「中々のワインだった」テーブルにグラスを置いて、満足そうな顔に成った。
菜穂に薬を飲ませた安心感の顔だったが、菜穂には判る筈もなかった。
自分が飲み終わるのを待っているので、菜穂も残っているワインを急いで飲み干したら「大丈夫ですか?一気に飲むとワインは、堪えますよ」微笑みながら教える木原。
直ぐにデザートの注文をする木原の声が、木霊の様に聞こえた菜穂は耳を触って確かめる。
しばらくして、アイスクリームが運ばれて来たが、スプーンに手が持って行けない状況に成っていた。
どうしちゃった?変だわ!飲み過ぎだ!大変だ!ここを出てタクシーに乗れば、自宅までは帰れると思う菜穂だが、徐々に目が廻るのを自覚してきた。
「どうしました?美味しいアイスクリームですよ」そう言う木原の声が更に遠くから聞こえる。
力を振り絞って「お腹一杯で、もう入りません」そう言うのも大変な菜穂。
「そうですか?じゃあ帰りましょうか?」立ち上がる木原を見て立ち上がるが、大きくよろける菜穂。
「大丈夫ですか?」慌てて身体を支える。
「すみません、酔ったみたいです」
過去に無い酔っ払い状態を自覚し始める菜穂。
木原の肩を借りなければ歩けない状況に、ニヒルに笑む木原。
「北条さん少し休んで帰られた方が良いですよ」自分の部屋に向かう為に、エレベーターに連れて行く。
エレベーターに乗ってから「ここは?」と尋ねると「レストランから、下に降りています」嘘を言うが、判らない菜穂は身体を木原に預けている。
部屋の在る十階に到着した時には、もう殆ど意識が無い。
部屋まで連れて行くと急に「ここは?」と尋ねる菜穂に、驚いて「家に着きましたよ!」と教えると「ありがとうござい。。。。。。」とお礼を言い出して、再び意識が無い状態になる。
しばらくして「重たい!」そう言って菜穂の身体をベッドに投げ下ろした。