「どういうことなんだ……」
途方に暮れるという言葉がぴったりな状況だった。
状況的には夢だと判断した方が良かったのだが、夢とは思えない程にリアルな感覚だ。
さらには裸足である為、足裏に小石が当たってチクチクとしている。
身に纏っているのは布切れ一枚であり、肌寒い。
こうなったのは彼女の体感では1時間くらい前だ。
そのときは何だかよく分からず、とりあえず周囲を歩いてみたが、ここには明らかに人間ではない輩しかいなかった。
見た目は人間であるのだが、角や翼、尻尾が生えていたり、あるいはファンタジーな漫画に出てきそうなダークエルフであったり、緑がかった肌をした見たことのない種族――強いて言うなら、オークを擬人化したらそんな感じになりそうな――ものだ。
他にも明らかにモンスターにしか見えないモノが歩いていたり、会話をしていたりする。
また、歩いてみて分かったことだが、男がいなかった。
大通りらしきところで、多くの人が行き交っている中で、1人もいないというのはおかしい。
不思議に思いつつも、情報を得ることにも彼女は成功していた。
幸いにも彼女は言葉を何故か理解できた為だ。
だからこそ、道行く人々の会話を盗み聞きし、少しながら情報を得た。
この都市はラドネアで、商業が盛んらしいといったものから、ダーティードラゴンが番を探しに来ているから要注意、ということまで。
ダーティードラゴンとは聞き慣れない種族だったが、それは一時的に保留にした。
分からないものは分からないのだ。
「物騒なことは分かった。あと、これたぶん……」
自分も人間じゃないよな、と彼女は思う。
それを象徴するのは肉体だ。
ある意味、こうなってしまって一番衝撃的な事実であったが、むしろ、彼女は性別がこうなったことを心の中で歓迎していた。
彼女には現在、女性器と男性器が両方存在していた。
単刀直入に言うと、彼女はふたなり巨乳少女になっていた。
そして、彼女の前世で培ったエロ漫画的知識を参考にすると、ふたなりは貴重であり、奴隷として高値で売れる可能性がある。
奴隷にならないようにしないと、と彼女は決意したが、腹は減るし、喉は乾く。
しかし、カネも土地勘も何にもない。
だが、ふたなりのお約束というもので、陰茎は勃起するし、膣は濡れてきている。
ついつい、道行くムッチムチなダークエルフの女性や魔族のビキニ姿の熟女に視線がいってしまうのは仕方がない。
早い話、絶体絶命に等しい状況であるにも関わらず、彼女の頭の中では性欲が8割くらいを占めていた。
しかし、彼女は我慢できるふたなりを目指したかったので、自慰に耽ったりはせず、水と食糧をどうやって手に入れようかと考える。
あれこれ20分程、考えたところで、娼婦になるしかない、と彼女は結論づける。
物乞いをしたところで、そのまま攫われて奴隷として売られるのがオチ。
ならば、自分から娼婦として売り込んでいくことで、主導権を握っていきたい、と。
わりかしマトモな理由であるが、論理的思考から導かれた結論ではなく、単に娼婦になればお金も手に入る上、ヤれるという思考からきたものだ。
とはいえ、何をするにも名前は必要だった。
どういう名前にしようか、と考えながら彼女は娼館を探す。
場所など分かる筈もないので、当てずっぽうだ。
誰かに聞けば良いが、さすがにちょっと勇気が出ない。
歩いていると、建物の解体現場らしきところがあった。
そこでキラリと光る手鏡が一つ。
彼女は周囲を確認し、誰もいないと分かるや否やすぐに手鏡を取って、自分の顔を見た。
「……美しい」
贔屓目に見ても、美しかった。
白銀の髪、金色の瞳。
顔つきから、年齢を予想するなら10代半ばもしくは後半くらいだろう。
自分の顔を見て、彼女は思わず手鏡を持っていない方の手が股間へと伸びそうになるが、我に返り、手を引っ込める。
どういう名前にしようか、と彼女は思うが、自分の髪に目がいく。
「プラチナにしよう」
彼女は決めた。
名前を決めて、また自分の顔が最高に美少女だと分かったので、プラチナはご機嫌だ。
未来は真っ暗だったのが、今や薔薇色に輝いていた。
ちなみに彼女は手鏡をそのままこっそりと持ってきており、路地裏で隠れて、手鏡を使って自分の胸や性器や肛門をじっくりと観察している。
そこで自慰をしようとしたが、童貞処女の方が高く売りつけられると確信し、我慢した。
とはいえ、プラチナは娼館を探すよりも、ある種族が気になっていた。
手鏡を発見し、路地裏で色々と観察して、また通りを歩いていたのだが、ダーティードラゴンという単語がよく聞こえてきたからだ。
会話をしている者達は普通の声で喋っているらしいが、どうにもプラチナの知覚領域が広がったらしく、よく聞き取れる。
先程はそうでもなかった。
具体的にはプラチナという名前を自分自身につける前だ。
そのときはまだ人間と同じくらいのものだった筈だ。
幸いなことに知覚に関しては身体の方で無意識的に調整してくれているらしいので、プラチナが急に広がったそれらに混乱したり、気分が悪くなったりすることはなかった。
さて、プラチナが盗み聞きや勇気を出して聞き込みを行って、得た情報を纏めると、ダーティードラゴンは、その種族名の通り汚いドラゴンだ。
プラチナとしては一発で、どういうドラゴンか理解できる情報があった。
ダーティードラゴンは自分や他人の糞尿を主食としている――
他人だけではなく自分のまで。
業が深い種族だ。
しかも、このダーティードラゴンは汚いから嫌われているというわけではない。
ドラゴンであることから、性欲が極めて強く、特にふたなりともなれば、文字通りの底知れぬ性欲だ。
だが、性欲が強すぎるから、というのが嫌われる理由でもなかった。
嫌われる最大の理由はダーティードラゴンは同族だけに留まらず、他種族に対しても、求愛しまくるのだ。
求愛してきた段階で断れば問題ないのだが、それをOKしてしまうと簡単にベッドに誘われる。
その段階で相手は自分がダーティードラゴンであることを明かしてくるのだが、そこで断ると大変なことになる。
無礼だと激怒して、求愛した相手を死ぬまで犯し尽くし、更に死んでも犯して、飽きたら死体を怪力でもって粉々に破壊してしまうらしい。
今回、ラドネアにダーティードラゴンが来たことが分かったのも、この2週間余りで11人が猟奇的な殺害をされたことから判明したらしい。
さらにタチが悪いことに、ダーティードラゴンという種族名である癖に、見た目や臭いは普通の人間そのものであり、全く分からないとのことだ。
ドラゴンなのに見た目は普通の人間というところでプラチナは不思議に思うが、どうやら魔族などであってもそういう場合が多々あるらしいので、そういうものなんだと納得することにした。
また、ダーティードラゴンは人間からドラゴンへの変身能力も持っていないが、身体能力や保有する魔力はドラゴンの名に恥じないもので、特に皇帝やそれに連なる一族は凄いらしい。
だからこそ、治安組織がダーティードラゴンを殺人犯として捕まえるなんてことは無理な話で、民衆に対しての注意喚起しかできなかった。
ただ、ダーティードラゴンの糞尿には高濃度の魔力が多量に含まれているらしく、摂取すると、魔力量や魔力の質の向上に繋がると言われているが、実際にそれができた輩はいないとのこと。
ダーティードラゴンは番にしか、自らの糞尿を食べさせないからだ。
彼らにとって、それは人間でいうところの毎日ご飯を作るという行為に相当するのだとプラチナは思う。
そして、他種族でダーティードラゴンと番になったものは世界広しと言えど、聞いたことがないとプラチナが聞き込みを行った複数の通行人は語っていた。
「うーん……どこがダメなんだろう」
プラチナは疑問だった。
糞尿を食べて飲むことは抵抗がある者は非常に多いだろうが、それでも強さを求める連中ならやりそうだ。
しかし、そういう事例もないらしかった。
何か、とんでもないものがあるんだろう、と思いつつ、彼女は道端から通りを眺める。
ここで思いっきり深呼吸でもすれば、道行く方々の素敵な体臭が鼻腔を直撃し、射精と絶頂を同時にできるだろうが、我慢できるふたなりであるので、そうはしなかった。
「そこのお嬢さん」
すると、横から声を掛けられた。
聞き込みに行ったことはあったが、声を掛けられたことはなかった。
新鮮だと思いつつ、プラチナが声の方へと顔を向けて――息を呑んだ。
彼女の頭の中にあったのはたった一言。
物凄い美人――
その女性はゆったりとした茶色のローブを纏っていた。
彼女の美しい黄金の髪は三編み団子にされており、その碧眼は優しげにプラチナを見つめている。
「あ、えっと……」
「すいません、驚かせてしまいましたか」
くすりと笑う女性。
プラチナはローブの上からでもよく分かる、女性の大きな胸に視線が向きそうになるが、我慢した。
女性は長身であり、プラチナが見上げている形――頭一つ分は相手のほうが大きい――であった為、屈んでその視線を合わせ、ゆっくりと口を開く。
「素敵な方がいらっしゃったので、つい声を掛けてしまいました」
「素敵なんて、そんな……あなたの方が綺麗で素敵で美しいです」
プラチナは相手の碧眼を見て、ハッキリとそう言った。
すると、女性は嬉しそうに微笑む。
「そう言ってくださると、その、とても嬉しいです。中々、言われた経験がなくて……いえ、言われた経験自体はありますが、すぐに罵倒されてしまうのです」
「それは……相手に見る目がないですね」
女性は優しく微笑む。
「あなたは、優しいですね。よろしければ、カフェでお話でもしませんか?」
「……その、私、浮浪児みたいなもので……服が……」
女性の誘いに、プラチナは顔を俯かせた。
すると必然的に視線も下がる。
相手が屈んでいたこと、そしてプラチナが視線を下げたことで、それが彼女の目に入ってきた。
ギンギンに勃起した、巨大な男根の形がローブの上からでもハッキリと分かった。
その大きさはまさしく馬並みと言っても過言ではない。
そういう目的だとプラチナは一瞬で理解したが、悪い気がするわけがない。
むしろ、据え膳食わぬは男の恥ならぬふたなりの恥と確信する。
「ではまず、買い物からしましょうか。その後にカフェ……いえ、食事が先でしょうか。その、失礼ですが、あまり食事ができていないのではと思いまして……」
「あ、そうして頂けると、大変助かります……」
プラチナは女性の提案を肯定し、そして感謝の言葉を述べると共に深く頭を下げた。
「いえいえ……ところで、あなたのお名前は? 私はアリアと申します」
「私はプラチナです。その、よろしくお願いします」
プラチナはそう答え、失礼かなと思いながらも、アリアの勃起した男根をローブの上から優しく撫でた。
しかし、アリアは怒るどころか、満面の笑みを浮かべた。