ラドネアで傭兵に関する内容を再度確認した後、プラチナ達は集合地点となっているデラントとレンテイの国境沿いにある村へと向かう。
向かうといっても、道中は高速移動であった。
アリアに背負われて、風を感じながら移動すれば、それこそあっという間で、徒歩なら1週間は掛かるところを僅か数時間で到着した。
その村では既に参加する傭兵が多く集まっており、またそんな傭兵達相手の商人や娼婦、奴隷商などまでいた。
一方で村人達はこの機会を逃すまい、と畑で採れた野菜や乳牛から搾った乳などを売りつけたりと商魂逞しい。
ここでちょっとしたカルチャーショックをプラチナは受けることとなった。
乳牛は乳牛でも2種類いた。
地球でもいた乳牛は見慣れたものだが、もう1種類は擬人化した乳牛だ。
美味しいですよーなどと言いながら、2本足で立って、その場でパンパンに張った巨大な乳を自らの手で搾って、牛乳をくれるという光景が村内で見られたのだ。
プラチナも試飲したが、普通に美味しかったので、アリアにオネダリして牛乳の瓶詰め3本を購入した。
すると、乳牛のお姉さんはプラチナの頬にキスしてくれたので、彼女はご機嫌になった。
やだ、プラチナ様、チョロすぎない……!?
というようなことを舞華が言っていたが、プラチナは気にしなかった。
その舞華は九尾であることがバレると面倒くさいので、魔法で尻尾を1本だけにしているので、大きな騒ぎなどにはなっていない。
擬人化乳牛をたくさん集めて、牧場するのもいいなぁ、とか何とか考えながら、プラチナはアリアの案内で、デラント軍の傭兵受付所へと向かう。
傭兵受付所ではいかにも女騎士といったお姉さん達がいた。
女騎士を見るのは初めて――と思ったプラチナだったが、アリアがいた、と思い直した。
アリアの騎士らしい姿は今のところ見たことがないが、とりあえず彼女のローブが便利であることは知っている。
空間収納魔法とかいう、とんでもないものがローブに掛けられており、ローブ内のポケットには明らかに物理的限界を超えている代物がたくさん入る。
先程買った牛乳瓶もこのポケットに入っているのだ。
傭兵の手続きはアリアがやってくれたが、受付の騎士達はジロジロとプラチナを見る。
別に幼い子供が傭兵で戦場に出る――というのはよくあることで、そこから頭角を現していくということもある。
とはいえ、そのまま弾除けにされて死ぬ方が圧倒的に多いのだが、そんなことは誰も気にしない。
倫理的なものではなく、戦力的に問題ないのか、という疑問を騎士達は抱いていた。
10代半ばから後半くらいの人間にしか見えない。
見た目が普通の人間な魔族とかそういうパターンもあるのだが、それを知る為にも尋ねてみなければ分からなかった。
「そちらの少女は大丈夫ですか?」
「大丈夫だ、問題ない」
問いかけにプラチナは自信を持って答える。
すると、問いかけた騎士は保護者とでも思っているのか、アリアと舞華へと視線を向けた。
「問題ありません」
「大丈夫です」
アリアと舞華の言葉に騎士は肩を竦めながらも、プラチナを傭兵登録手続きを行う。
「彼女は魔族ですから」
アリアがそう告げると、騎士は納得しつつ、3枚のプレートを渡した。
特に説明などはないが、傭兵受付所から離れたところでアリアがプラチナへ教えた。
このプレートは暗号化の魔法が付与されているとのことだ。
持ち主が魔力を流すことで、プレートに登録された内容が空中に浮かび上がるとのことで、持ち主以外が魔力を流しても何にも起こらないらしい。
今回の場合は先程、傭兵受付所で申告したものがそのまま浮かび上がる。
登録日時、登録場所、名前、種族、性別、身体的特徴だ。
プラチナの場合、見た目が普通の人間というものが身体的特徴の欄に書かれていた。
「秘密のやり取りとかそういうのに使えそう」
暗号化魔法に初めて触れたプラチナのもっともな言い分であったが、アリアは苦笑して否定する。
「実はこの程度の暗号化なら、簡単に解除して中身を見ることができます。そのため、傭兵などのバレても問題がないものにしか使えません」
「え、そうなの?」
プラチナの問いに答えたのは舞華だ。
「はい、プラチナ様。この程度の暗号化魔法なら、それなりの腕がある魔導師でも、簡単に解除できちゃいますし、これの解除が課題として出される魔導師とかの学校もあります。重要文書とかの場合は、これの何倍も複雑で難解な暗号化魔法が使用されますよ」
「魔法ってすごい……」
「ちなみに私もその暗号化魔法は使えますし、何なら独自の術式を込めているので、私にしか解けない暗号化を……」
「いや、舞華にしか解けない暗号って、財宝の保護とかならともかく、他人との連絡手段としてはダメなんじゃないの?」
さりげなくアピールをしてくる舞華に対し、プラチナは無慈悲な問いかけを行った。
すると舞華の狐耳がぺたんと倒れ、尻尾がしょんぼりと垂れ下がる。
可愛いく思えてしまったプラチナは舞華の頭を撫でた。
舞華の機嫌も直ったところで、アリアは告げる。
「プラチナ、ここには色んな種族の傭兵がいますが……注意が必要な種族があります」
5年程度では伝えきれなかったことの方が多い。
魔力の扱い方という生活において、そして戦闘においても大前提となることを座学と実技で集中して教えてきた為、一般常識は必要最低限だ。
「ダーティードラゴン以上に注意が必要なのって、滅多にいませんから」
舞華の言葉にアリアは睨みつける。
茶化すな、という意味を込めて。
すると舞華は「おー怖い怖い」と言いながら、プラチナに後ろから抱きついた。
それを羨ましく思いつつも、アリアは言葉を続ける。
「まずオークやオーガは注意が必要です。緑がかった肌が特徴的ですが、そうではない者もいます。性格は残忍で凶暴です」
定番な種族だとプラチナは頷く。
次に、とアリアは言葉を続ける。
「コボルトやゴブリンも同じく注意が必要です。成体でも人間の子供程度の大きさですが、耳が尖っています。性格は一言で言えば悪ガキです」
なるほど、と頷くプラチナ。
そして、とアリアは続ける。
「最後はアマゾネスです。褐色肌ですが、そうではない者もいます。性格はオークやオーガと同じく、残忍かつ凶暴です」
すごい世界だなぁ、とプラチナは改めて思いつつ、問いかける。
「オークとかって、見た目はどんな感じなの?」
「オークなら、あんな感じです」
アリアが視線を向けた先を、プラチナが視線で追う。
するとそこには長身のふたなり達が5人いた。
全員、緑がかった肌をしているが、耳の形などを除けば人間顔の美女だ。
しかし、その残忍性を示す証があった。
彼女達のそれぞれの巨根の上には四肢を切り落とされたエルフがいた。
オーク達とエルフ達は背面座位みたいな形となっており、その巨根を根元まで膣が咥えこんでいる。
エロ漫画でよく見たような展開だとプラチナは思うが、不思議と悲しいとか可哀想とかそういう感情は湧いてこなかった。
むしろ、興奮してしまう。
それを察したのか、舞華が妖艶に微笑みながら告げる。
「プラチナ様はもう魔族ですから。魔族も、ああいうことをする輩は多いですよ? 人間なら悲しんだりもするかもしれませんけど」
人間ではない、と告げる舞華。
しかし、それに対するプラチナの答えは舞華や、聞いていたアリアの予想を良い意味で裏切るものだった。
「ああいうのも良いけど、私の性的な好みとしては自分から犬のように服従してくれるのが好き」
「性的な好みなら仕方がないですねぇ……」
「確かに。それは仕方がないです」
舞華とアリアも理解できる為にうんうんと頷く。
とはいえ、プラチナは欲望を曝け出す。
「でもちょっと、あんな感じのレイプとかやってみたい」
「ヤりましょう」
「エルフ狩りといきましょうか」
基本的にプラチナは欲望に素直であった。
ヤル気を出している3人に近づく者がいた。
「あの、パーティーに入れてもらえませんか?」
そんな問いかけをしてきたのは、金髪を長く伸ばし、真紅の瞳が特徴的な少女だった。
彼女は腰から装飾が施された長剣を黒い鞘に入れて吊るしており、胸などの急所部分にのみ黒く塗装された鎧を纏い、羽飾りのついた黒い兜をしているが、全体的には軽装だった。
プラチナは初めて、同年代と思われる少女と会話したことにちょっとした感動を覚える。
またその少女が美少女で――基本的に美少女か美女しかいないような世界である気もしたが――あることも余計に拍車をかけた。
「私、プラチナっていうの。あなたは?」
「あ、えっと……私は、ファナティシアです。ファナって呼んで下さい」
何だかおどおどして、自信がなさそうな印象を受けるが、プラチナにとってはそれがまた良かった。
「何でパーティーに? 個人参加?」
「あ、はい……その、個人参加で……パーティーが組めなくて……」
顔を俯かせてしまうファナにプラチナはうんうんと鷹揚に頷き、ダメかしら、と視線でアリアと舞華に問いかける。
「……いや、私はいいですけど……」
舞華は言葉を濁しながら、じーっとファナを見つめる。
金髪に白い肌、それに黒い鎧は似合っていた。
だが、どうにも舞華の勘に引っかかるものがあった。
それはアリアも同じだったらしく、彼女は問いかける。
「失礼ですが……種族は?」
「私はヴァルキュリア族です」
アリアと舞華は何とも言えない顔となった。
一方でプラチナは無邪気にはしゃぐ。
ファナの両手を握って、すごいと褒めてしまう有様だ。
ファナはプラチナの行動に驚きつつも、照れ臭そうな顔をしている。
「どうします?」
「さすがに大丈夫だと思いますが……」
2人には懸念があった。
ヴァルキュリア族は2つある。
一つは規律や倫理、道徳を重視し、真面目で、主と認めた者に己の生涯を懸けて尽くすことを最上の名誉とする種族。
もう一つはダーク・ヴァルキリア族で、こちらも主に忠誠を誓い、裏切ることはないが、己の力を振るうことを優先し、殺戮を好む種族だ。
見た目はどちらも人間そのもので、優れた戦闘能力と強大な魔力を有するが、ダーク・ヴァルキリアはヴァルキュリア族だと名乗ることが多い。
これらの種族に認められるには幾つか方法があるが、もっとも手っ取り早いのは物理的な意味で強いことであり、強ければ主と認めてくれる。
なお、通常のヴァルキュリア族であっても要注意なところがある。
ヴァルキュリア族は、ある意味ダーク・ヴァルキリア族よりも厄介なことになる場合があった。
それは病的な真面目さと奉仕精神を持つ個体の存在だ。
その個体は主へ行き過ぎた忠誠――本人は行き過ぎたものとは思っておらず、むしろ足りないと思ってしまう――を捧げ、主の為ならばどんなことでもやってしまう。
しかも、その個体にとって主の命令=絶対の正義であり、主に捨てられることを何よりも拒む。
本来なら行動指針の大前提となる規律や倫理、道徳が置き去りにされて、行動指針を主そのものにしてしまうのだ。
そして、会話した程度ではそういう性格であるかは分からず、主へ仕えることで、ようやく主や第三者が分かるという始末だ。
無論、本人には病的な性格をしているという自覚は全く無い。
アリアにしろ舞華にしろ、そういう個体のヴァルキュリアはそれなりの頻度で見たことがあった。
主の種族・性別・年齢は様々であったが、共通していたのは主がヴァルキュリアを手放したくて仕方がないということだ。
早い話が鬱陶しいのである。
唯一の救いは他の者と交わっていようが、嫉妬で主を殺しにかかることはなく、むしろ積極的に奴隷を捕まえて献上してくる。
そして、ご褒美として主との性行為を望むというものらしい。
ヴァルキュリア族は傭兵として雇う分には非常に優秀であるのは間違いがないのだが……手元に置く配下としては扱いには注意が必要だった。
アリアと舞華が見たところ、ファナからはそういう病的なものは感じられない。
パーティーに入れてくれ、と言ってきたことから、主がいないのだろうと容易に想像がつく。
厄介だった。
とはいえ、根本的な疑問もある。
ここらはヴァルキュリア族の国からは遠く離れており、言っては何だが田舎だ。
ヴァルキュリア族が好むような強者がいるとは――自分達のことを棚に上げて――思えなかった。
「ところでどうして私達のところに?」
プラチナが問いかけると、ファナは恥ずかしそうな表情で告げる。
「その、プラチナしか同い年くらいの子がいなくて……それならまだ何とか話しかけられそうで……」
「あー……そういえばそうね」
ファナの言葉にプラチナが軽く周囲を見回してみるが、色んな種族のお姉様達しかいなかった。
そして、大抵が奴隷を連れているので、引っ込み思案なファナにはキツイものがあったのだろう。
「ねぇ、アリア、舞華。ダメかしら?」
再度の問いかけにアリアと舞華はヴァルキュリア族について、プラチナへ教えるべく、ファナから少し距離を取ることにした。
5分程で2人はプラチナへの説明を終える。
全てを聞き終えた上で、彼女は2人に告げる。
「パーティーに入れようと思う。病的だろうが何だろうが、私が堕とす。色んな意味で」
「まあ、アリアさん程厄介じゃありませんし……」
「舞華、私を引き合いに出すのはやめてください」
「と言いましても……事実ですし」
舞華の言葉にアリアは不満げな顔をする。
そんなアリアを慰めながら、プラチナはファナの下へ。
そして、プラチナはファナへと手を差し出した。
「私のパーティーに入って、ファナ」
「うんっ……! ありがとう、プラチナ」
ファナは満面の笑みを浮かべて、差し出されたプラチナの手を両手で握りしめ、頷いたのだった