※この作品はR-18です。

大魔王と抜剣者【R18】   作:緑茶わいん

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大魔王と抜剣者【R18】

「……焦らしに焦らされた分、狂おしいほどの感慨があるな」

 

 贅を尽くした寝室に熱く静かな声が響いた。

 甘い匂いのする香が焚かれ、燭台の明かりが幻想的に照らす中、見つめ合うのは一対の男女。

 三つの瞳を持つ長身の美丈夫と、二対の耳を持つ清廉な美女。

 

 男の名は大魔王バーン。

 女の名はアティ。

 

 魔界全土に布告する形で『夫婦』となった二人の髪は、誂えたように同じ色をしていた。

 互いに纏うは薄衣一枚。

 逞しい肉体を誇るようなバーンに対し、アティは薄く化粧を施し香水を纏っている。

 男と女の準備が十全に果たされていることは傍目からも明らかだった。

 

 細い腰を抱き寄せたバーンに、アティが告げる。

 

「先に言っておきます」

 

 静かだが、確かな意志を含んだ声。

 

「妻になるのを了承した以上、抱かれることを拒むつもりはありません。……ですが、心まで売り渡すとは思わないでください」

「わかっておる」

 

 不敬といえる言葉にバーンは笑みをもって答えた。

 長く艶やかな、銀に近い白髪を指で梳きながら。

 

「古来より、王と王妃とは時をかけて仲を紡ぐもの。十年後、二十年後――百年後でも構わぬ。身体が解れ、我らの間に子が生された時、今一度、其方の心を聞かせてもらおう」

「その前に、あなたはきっと滅びます」

「ようやく手に入れた妃の子を抱かず、この世を去れるものかよ」

 

 バーンはアティを軽々と抱き上げると寝台へと運んだ。

 女を乗せた際の音と揺れの幅からも、途方もなく上等な品であることがわかる。

 魔界最高の寝室に劣らぬアティの美貌も、また。

 

「……さて」

 

 処女である妻を気遣っているのか、ゆっくりと寝台に乗った大魔王はアティの頭に手を添えた。

 顔を持ち上げさせると優しく、それでいて有無を言わさず口づけする。

 程なく舌が挿ったことが、見開かれたアティの瞳から感じられる。

 十数秒から数十秒ごと、離れては再び重なる唇。息継ぎの度に荒い息がこぼれる。女の顔には嫌悪の色が浮かんでいたが、上気していく顔には一筋の官能も見て取れる。唇の端から唾液が落ちるも、拭っている余裕はないようだった。

 当然だ。

 大魔王は閨においても暴虐の君主。生娘であろうと口づけ一つ、指一本で快楽に堕とす。

 まして、彼は婚礼にあたり寝室を全て作り直した。大国の姫相手でさえ使わないような秘蔵の香さえ持ちだしている。故に従者の殆どは部屋の外に出されており、唯一、解毒呪文(キアリー)に長けた年かさの一人だけが口元を覆った上で戸口に立つのみ。

 それでも、漏れた香が外の侍女達を前後不覚に陥らせていることだろう。

 

 諸々を思えば。

 日陰に置いた氷が解けきるほどの時間、口づけを交わした王妃の瞳に抵抗の意思が残っていたことは驚異的、どころか奇跡とさえいえる。

 基(・)本(・)的(・)に(・)は(・)人(・)間(・)であるという彼女をバーンが欲した美貌以外の理由がうっすらと見える。

 確かに。

 必死に呼吸を整えながら気丈に男を見上げるアティの姿は、雄としてそれを征服したいと望ませる「何か」を秘めている。

 

「ふむ。念入りに『解した』つもりだが、足りぬか」

「言ったはず、です。私はあなたになど屈しません」

 

 くく、と、バーンが低く笑った。

 

「屈する必要などない。閨での睦言ほど嘘に塗れたものもなかろう。一時の官能、単体に大きな価値はないのだ。……問題は」

「んっ」

 

 薄衣越しに触れられたアティの甘い声は、並の男を一度で蕩かすだけの艶を含んでいた。

 バーンの指は胸や秘所、女が感じる場所を重点的に責めていく。

 口づけと同程度の時。

 寝室に響き続けた嬌声に、控えの侍女が身体を抱きしめ、身を痙攣させ始める。

 

「っは、はぁっ、はぁっ……! バーン……っ!」

「ん? どうしたアティ。もう降参か?」

 

 自分でも信じていないであろう言葉を大魔王が投げれば、

 

「違い、ます……っ!」

 

 息も切れ切れに否定するアティ。

 気丈な返答が男をよりいきり立たせると察していながら、だ。

 

「良い。やはり其方は余にこそ相応しい」

「あ、ああっ……!」

 

 着衣がはぎ取られ、王妃は一糸まとわぬ姿となる。

 豊かで柔らかそうな乳房。それでいて適度に引き締まった肢体は、機能美と芸術性の両方を併せ持っている。白く滑らかな肌と長い白髪は相性が良く、華美な寝室にあっても逆に目を惹かれる。肌に浮かんだ玉のような汗は雌の匂いを纏っており、きっと美味だろう。

 控えめに整えられた陰毛は髪と同じ白。

 引き抜かれたバーンの指にたっぷりと付着した蜜が、準備の出来を示していた。

 

「赤(・)毛(・)の方を晒してくれぬのは少々寂しいが」

 

 衣を解いたバーンが晒した剛直は無双の槍。

 人間に比べ大柄な者も多い魔界の女達でさえ「並ぶ者なし」と称える逸品。

 故に、初夜においては「冗談か」と顔を引きつらせる者もいるが。

 

「余と並ぶのなら、その髪の色こそ相応しいか」

「んっ……っ、くああああああっ!?」

 

 悪辣なまでに入念な前戯と香の効果。

 人としては驚異的なまでに丈夫な身体は、破瓜の瞬間すらも女に快楽の声を上げさせた。

 獣のように貫かれて絶頂する処女など、そう見られるものではない。

 侍女が脇目も振らず己の秘所を弄る中、魔界を統べる支配者の夫婦は初めて味わう互いの味を身体と心に刻みつけた。

 女が絶頂を迎えた回数はもはや数え切れない。

 男に組み敷かれたまま甘い絶叫を続ける様は、心配さえ湧きあがる。

 時折、アティの身体を包むほのかな青い輝きは回復呪文(ホイミ)だろう。生命保護のための対処は、むしろ、バーンに行為を続けさせる免罪符にしかなっていなかった。

 

 大魔王の体力には底が無い。

 

 伝説のように語られる「それ」は真実なのかと疑いたくなるほど、行為は長い間続いた。

 妻の膣に、身体に、髪に、顔に。

 気の向くままに大量の精を吐きだしては再び剛直を振るうバーン。寝そべったままそれに耐(・)え(・)続(・)け(・)た(・)アティがようやく気絶したのは明け方になってからのこと。

 

 髪を乱し、男の精に塗れて寝台に寝そべる彼女は、辛うじて胸を上下させていた。

 

「……良い、な。これからが楽しみだ」

 

 己の異名に恥じぬ暴虐ぶりを見せたバーンは愉悦を声に乗せ、視線を「彼」に向けた。

 どうだった、と。

 暗に尋ねられた「彼」はかすかな鳴(・)き(・)声(・)をもって答えた。

 

「くく。そうか」

 

 返答を聞いたバーンは愉快そうに、いつまでも笑っていた。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 「彼」はバーンの居城で飼われている小さな鼠である。

 いつでも真っ白な体毛とつぶらな瞳から、使用人達からも可愛がられている「彼」の正体を知るのはバーンとミストバーンだけである。

 数十年前、大魔王の不興を買って滅ぼされた小国の王子。

 

 父は処刑され、母は寝台の上で絶頂の末に死んだ。

 

 幼かった王子だけが生かされたのは、彼が変身能力を持っていたこととバーンの気まぐれからだった。

 

『其方は余の玩具となれ。一生、か弱い鼠の姿のまま、城で起こる出来事を記憶し続けるのだ』

 

 バーンの『瞳』の影響で「彼」は変身を解けなくなった。

 会話できるのはバーンとミストバーン相手だけ。

 城から出ないこと以外の自由は保証されていたが、大魔王は閨での出来事を覗き見させることを好んだ。

 

 故に。

 「彼」は母親の雌の顔を余すことなく見せられ、他の女とも比較させられ、女とはすべからく雌であるのだとむざむざと見せつけられた。

 去勢により性器を失っているにもかかわらず、何故か性欲はなくならず。

 溜まり続ける「欲」を紛らわす方法は「見続ける」ことだけとなっていた。

 

 そんな中。

 あの大魔王が后として選んだ女の痴態に、「彼」は心の全てを奪われた。

 もしかしたら、それが「彼」の初恋だったのかもしれない。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 初夜から長い長い時が流れて。

 今宵も寝室にアティの嬌声が響き渡る。

 

 ――これで何度目だろうか。

 

 大魔王が后を決めてから約三十年。

 閨の間隔は一日から一週間程度。さしもの大魔王も政務で多忙な時もあったし、時には戦に出ることもあった。

 残念ながら全てを覗き見できたわけでもない。

 使用人に捕まって餌を与えられている間に始まってしまったこともあれば、外――例えば戦中の天幕内で行われたせいで参加できないこともあった。

 

 しかし、バーンは魔族ですら「長い」と感じる期間、側室を取ろうとしなかった。

 

『側室は要らぬ。アティ一人がいれば事足りる』

 

 支配者に嘘は必要ない。

 復活した冥竜王ヴェルザーを滅ぼした彼にはもはや天界以外の敵がいない。

 地上の英雄、かつてのアティの仲間も多くが死している。

 

 数年前。

 呪文返しにより夫を失った『二代目拳聖』に「夫婦の営み」を見せつけた時は、バーンのあまりの残酷さに言葉を失ったものだ。

 

「……うむ」

 

 寝台に腰かけたバーンが満足そうに声を上げる。

 彼の視線は床、ワインレッドの絨毯に跪いた王妃へと向けられていた。

 白き美女の容姿は三十年前と変わっていない。

 否。むしろ艶と気品を増し、より美しくなっているとさえ思える。

 彼女は大魔王の股間に顔を埋め、舌と指で熱心に奉仕を行っていた。

 

「随分と上手くなった。魔界一の娼婦といえど其方の前では膝をつくであろう」

 

 言って頭を撫でると、硬く膨れた剛直から精を放った。

 射精すら制御することができるのだ。

 無論、一定以上の刺激が必要ではあるのだが――あらゆる欲を極め尽くした大魔王を心から悦ばせられる唯一の女は、そのあたりの事情も熟知している。

 驚きに目を見開くこともなく、慣れた様子で従順に、濃く粘度の高い白濁を嚥下してみせた。

 全部飲んだことを示すように口を開けば、艶めく舌が蠢くさまがわかる。

 

「私は、娼婦になどなった覚えはありません」

 

 全身に官能を湛えながらもアティはきっぱりと否定する。

 数え切れないほど雌として組み伏されてなお、彼女は己を失っていない。

 心の貞操を保ったまま、バーンの全てを受け入れ続けている。

 

 魔界に来たばかりの頃とは比べものにならないくらい淫らになった。

 

 寝台の上にない時も肌からは甘い匂いを発して。

 かすかに潤んだ瞳は同性でさえもときめかせ。

 ひとたび声を発すれば、聞いた男全てがその虜となる。

 

 極めつけは彼女の腹。

 未だ膨らみは目立たないものの、王妃の腹には大魔王との子が宿っていた。

 三十年越しの懐妊。

 人と魔族だ。

 もっと時間がかかるどころか一生孕めずともおかしくなかったが、アティは孕んだ。

 妻の妊娠を知った時のバーンの喜びようはミストバーンでさえ驚くほどに大きかった。

 

『でかしたぞ、アティ!』

 

 まるで子供のように喜び、妻を抱き上げてぐるぐると回っていた。

 夫とは一線を引いている王妃でさえ、困ったような笑みを浮かべてしまったくらいだ。

 

「無論。其方は余だけの女よ」

「耳障りの良いことばかり――」

「戦の話ばかりでは気も滅入るであろう」

 

 バーンに抱き上げられたアティは寝台の上へ。

 

「医者曰く、身体に負担が少ないのは女が上になる姿勢であったか」

「ええ……」

 

 暗に騎乗位を求める夫に頷き、王妃は身体を持ち上げる。

 白い茂みは十年ほど前から綺麗に剃られている。

 代わりに、より長く伸びた白い髪が彼女を飾り立てる。今は邪魔になるので複雑に結われているが。

 組み敷かれて髪を解かれると、アティは決まって気恥ずかしそうに頬を染める。

 

「ん、んん……っ!」

 

 恥じらいと官能の混じった声も、何度聞いても情欲をそそる。

 しっとりと濡れた秘所は何の抵抗もなく剛直を飲み込み、それでいて抱きしめるようにバーンのものを包み込んでいる。

 その気になれば任意に締め付けを変えることも可能。

 互いに身じろぎ一つせず、ただ互いに声を掛け合いながら――アティが膣を締め付け、緩めるだけで、バーンの精が放たれるところも見たことがある。

 

 本当に、この女は男にとって危険すぎる。

 

 完全には落ちないくせに従順で、貞淑で、美しい。

 何度抱いても飽きることがない。

 何しろ「征服しきる」ことができないのだから、何度でも抱き、白濁に染め、淫らな技術を教え込んで自分専用に造り変えたくなる。

 

「まったく、余から何度精を搾り取れば気が済むのだ」

「お好きな時にお出しください、陛下……っ!」

 

 后としての知識、礼儀作法も日々叩きこまれている。

 求められるままに精を放てば、膣と子宮が貪欲にそれを吸収していく。

 既に孕んだ腹がもう一人孕むことはないのだが。

 

「産まれたら、また次を仕込まねばな」

「また、何十年かかかるでしょうに……っ!」

 

 注がれた精に歓喜の声を上げ、絶頂に身を震わせながら、アティが抗議する。

 気づいているのだろうか。

 孕むまでには殺すという宣言が、いつの間にか消えていることを。

 

 バーンを『陛下』と呼ぶ声に、恋とは言わずとも親愛の情が混じっていることに。

 

「その程度の時、余と其方にとっては瞬く間であろう」

「そんなに長く、あなたといるつもりは……っ!」

「無駄なことを。余以外の男で満足できるはずもあるまいに」

「そんなことっ」

 

 ない、と言い切ることもできず。

 下から突き上げられたアティは、嬌声と共に絶頂した。

 

 行為の後。

 いつも通りどろどろになって寝そべる彼女に小さく鳴けば、視線を向けて微笑んでくれた。

 それが精一杯、という有様ではあったが。

 

 ――アティは『彼』を可愛がってくれている。

 

 高貴な女というのはえてして高慢なものだ。

 幾ら毛並みが綺麗だろうと、鼠など触りたくもないと言うものだが、彼女に限っては手ずから給餌をしてくれることさえあった。

 もちろん、侍女からは止められるのだが。

 

 ――侍女といえば。

 

 また、ここから運ばれて自分の寝台に戻るのだろう。

 なら先回りしようと、「彼」は一足早く部屋を出て廊下の隅を走り。

 

「ああ」

 

 不意に振り下ろされた足に踏みつぶされた。

 

「汚らわしい鼠」

 

 年若い下級メイドだった。

 入ったばかりなのだろう、見下ろす瞳に「彼」への情愛はない。

 否。

 「彼」を「鼠」と呼んだ声には、同類にしかわからない疎ましさがかすかに――。

 

「火炎呪文(メラミ)」

 

 大魔王様に、いや、あの人に伝えなければ。

 王(・)子(・)は思いながら、熱い炎に焼き尽くされた。

 

 後日。

 可愛がっていた小さな友人がいなくなったことに、王妃が大層悲しがることさえ、知ることができないままに。

 灰だけを残してこの世を去ったのだった。

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