・FF14漆黒のヴィランズネタバレあり/空想考察成分過多
・エメトセルク☓あの人♀とヒュトロダエウスの幼少期~終末に至るまで+α長編最終話
・某ぴくしぶ公開分(Augustwal名義)の再掲
「未練か、我ながら。こんなものまで再現していたとは…」
アナイダアカデミアのハルマルト院、別名、庭園院とも呼ばれている緑生い茂る区画の片隅にて。
ガレマール帝国初代皇帝ソル・ゾス・ガルヴァスにしてその正体はアシエン・エメトセルク、しかしてその真名をハーデスとする男は、焼け焦げてボロボロの塊を拾い上げ、これ以上ないほどに顔を歪めて苦笑した。
原初世界ではカーバンクルと呼ばれていたか。全身を覆う水色の毛並みと、長いふたつの耳、そしてふかふかの尻尾がが特徴的な魔法生物に似たぬいぐるみ。
それはかつて、幼かった「あの人」がヒュトロダエウスの創造魔法を目の当たりにした直後に、見様見真似でそれを再現・発動させて創り上げた初めての品であった。
アーモロートの街が滅びる直前までここに残っていたのか、それともあの時の心通わせた想い出が忘れられず、ノイズとなって無意識に生み出されたのかまでは判らない。
いずれにせよ現在の彼にとっては、すぐ側でひっそりと繁茂し続ける柘榴の木も含め、どちらも深い情念をえぐりだす醜い刃物に等しかった。
(双葉芽吹く花壇を越え、ミトロン院の大水槽を横目に流し、深夜の片隅をただひたすらに…)
誰にも秘密の、幼いふたりの拙い逃避行。
夢の中に押し込めて、いっそ忘れてしまえれば良かった、淡い記憶のひとかけら。
己という者を、己たらしめる事となった、愛しき情動がかつてそこから始まった。
「は、この試練まで制したか。…まったく、本当に、厭になるくらいしぶといな、あいつは。流石、当世の英雄サマなどと呼ばれるだけの事はある。…まあよかろう、最後は私が直々に、希望とやらを完膚なきまでに叩き潰してやる!!」
終末の一日を模した舞台まで制した「なりそこない」達の気配を感じて、アシエン・エメトセルクは己の役割を演じるべく、彼らの待ち受ける最終幕へとその身を踊らせるのだった。
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(私は)
(私達は)
(確かに生きていたんだ…………)
漆黒の闇に沈みつつある意識が、己が最期の言葉を何度も反芻しながら、星の海に帰ることすら許されずに散逸しようとしていたその時。
「…起きて、ねえ」
柔らかな声が、頭の上から振ってきた。温かな手が額にそっと触れて、するすると何度も前髪をなぜる。
(…懐かしいな。あの時も、こんな風に起こされたか)
「起きてったら。…またそんな小難しい顔して」
(芝生の上で、学生の時のように本を読みながらあいつを待っていたら、いつの間にか寝入ってしまって…)
「……疲れてるんだね。いっぱい、がんばったもんね。辛くて、苦しくて、でも逃げられなくて…泣きたいくらい大変だったでしょうに」
やがて、記憶にないはずの台詞が響いて。
(あの時………?………!!)
男の意識は途端に覚醒した。跳ね起き、即座に振り向くとそこには。
「あ…ああ…」
仄暗いような、それでいて暖かさを感じさせ、どこか心安らぐ空間。
彼が想いを込めて染め上げた紫紺ではなく、初めて出会った時の瑠璃色をした瞳の女が、慈愛の微笑みを浮かべてそこに居た。
まるで虹を内包したかのような蛋白石(オパール)の輝きを放つ、不可思議で綺麗な色の魂は、かつての在り様と寸分違わぬ煌めきをもって、その身体の内で存在を主張している。
いまやゾディアークの軛から逃れ、アシエン・エメトセルクとしての仮面も矜持も崩れ去った男は、溢れ出る感情に任せて彼女に取り縋り、有無を言わさずかき抱いた。
「お前…お前は、お前は!!私がどれだけ探していたと………!!」
自分の腕に収まりきる細い身体、鼻をくすぐる髪の匂い、滑らかな頬、全てが、彼の鮮やかな記憶のままそこに在る。
「…「彼女」も探してたわ。何を探して…求めてるのかすらわからないまま世界を彷徨って、分不相応な事にばかり巻き込まれて。でも」
白い腕が、求めるまま彼の身体を抱き締め返してくれて。
「「彼女」の魂の欠片があなたの中に飛び込んで、ようやく「わたし」になれた。ずっと…会いたかった」
腕をほどいて身体を少し離し、男と女は見つめ合う。だがすぐに女の表情が苦しげに歪んで。
「……そして、謝りたかった。あなたを傷つけるのを分かっていながら、ああするしかなかった事を」
「…………」
「結局、私に降り掛かった罰にあなたを巻き込んで…。ずっと、ずうっと、あなたをたった一人で苦しめ続けて…」
女が、男から数歩距離を置いて。両の瞳に、いっぱい涙を湛えて。
「………ほんとうに、ごめんなさい。許してなんて、言えないけど…。でも、ごめんなさい…」
男は無言で開いた距離を再び縮め、誰よりも側にいて欲しかった女の頬に流れる涙を素手で拭った。温かい。
「…あ」
戸惑う声を聞き流しながら、頬をなぜ、額から頭をするりとなぜつけ、懐かしい感触を確かめる。
やがて後頭部に達すると、ぐいと力を込めて引き寄せ、柔らかな唇に己のそれを逡巡なく重ねた。
少し離してはまた浅く深く、何度も何度も、情動の命ずるまま口づける。
(同じだ。間違いなく、私のものだ。私はこれこそを…)
「…謝るのは私だ」
唇を離すと、苦渋の想いを滲ませて、男は懺悔する。
「…?」
「私達はゾディアークの使徒として、あれに従う事こそが至上の責務と信じていた。…信じなければ、前に進めなかった。あれを復活させたとて、捧げた魂が戻る保証などどこにもなかったというのに」
「そう、だったの」
「だから…お前が私を苦しめたんじゃない、私がお前を信じきれなかったことが、きっと全ての始まりに…」
金色の瞳が、後悔と深い悲しみで歪む。
「…許してくれ、*********」
名を呼ばれた女は微笑み、両手を伸ばすと男の頬を挟んで、そっと唇を重ねた。
「もう、ひとりで苦しまないで。「彼女」は分かってくれている。あなたの本当の心、ちゃんと伝わったわ」
そして、首に腕を回してやさしくやさしく、抱き締めてくる。
「…たくさん、たくさん傷つけた。壊して…死なせて…、星の数に勝る程の苦しみを世界にばらまき続けたんだぞ、私は。それでもか?」
女は鼻先が触れるほどに顔を近づけ、自虐する男の薄い金色の瞳を覗き込み、もう一度優しく微笑んだ。
「「彼女」は、あなたの想いをちゃんと連れて来たでしょう?だから、わたしはここにいるの」
男の瞳に映るは、懐かしいと呼ぶにはあまりに遠すぎた、遥かな想い出の中の瑠璃の色。
そして「彼女」は?
初めて間近で邂逅した際、胸を疼かせる仄かな動揺を抑えなくてはならなかった、あの色は?
「は、はは…そうか。そうだったな、だからあの時……。ああ、本当に…本当に私は……」
全てを喪った時に枯れ果てたと思った涙が、滂沱の流れとなって男の頬を過ぎた。
そうして、氷が解けていくように心穏やかになりはじめた二人の姿は、だんだんと密度を薄め始めて。
「………潮時、とやらか」
「うん。「彼女」とは、もう同じ次元に居られない。けれど、わたしはあなたと同じになった。だから…」
「同じ、か。…一緒に来てくれるのか。なら、悪くはない、な」
「ふふ…」
「なら、もう離さないぞ。ずっと、側にいさせる。二度とどこにも行かせない……行かないでくれ」
「うれしい…。今度こそずっと一緒にあなたと、どこまでだって…」
二人の身体がまたしても重なり合う。腕を回し、頬を寄せて、互いの温もりを伝え合う。
「……愛してる。ずっとずっと、愛してたんだ…いつだって、お前だけを」
「わたしも愛してるわ、あなただけを。わたしたちもう一度、ここから…そして、いつか「彼女」も一緒に」
「ああ…そうだな。きっと…」
何処までも続く星の海の中で。
生命の巡りに還ることなく、ぼんやりと消え去さろうとしていたかそけき光球が、小さな小さな光の欠片と重なり合う。
ふたつがひとつに溶け合って、きらきらと輝きを増したかとおもうと、やがて現れた優しい光の奔流の中へ、ふうわりと沈んでいった…。
The End.
これにて「漆黒の情動」は完結といたします。
ご拝読ありがとうございました。
Augustwal もとい 角付きの人