※この作品はR-18です。

漆黒の情動   作:角付きの人

4 / 12
【諸注意】
・FF14漆黒のヴィランズネタバレあり/空想考察成分過多
・エメトセルク☓あの人♀とヒュトロダエウスの幼少期~終末に至るまで+α長編
・本話R-18展開あり
・某ぴくしぶ公開分(Augustwal名義)の再掲


04.至情なる言の葉

あれから一ヶ月後、ひとつの別れが過ぎて。そこからさらに半年と二ヶ月を過ぎようとする頃。

アーモロート郊外に位置する委員会直轄の空港で、長きに渡る調査を終えた一団の無事の帰還を祝う式典が行われる事となった。

式典といっても、委員会からの使者と調査団の代表の数名が儀礼的な挨拶を交わすだけの簡素な物であり、一般の団員や随行していた守備隊の兵士達はすぐに家族との再会に花を咲かせ始める。

 

「おーかーえーりぃーーぃーいぃーーー!」

「!、きゃ…もう、ヒュトロったら」

 

幼い頃とはあべこべの立ち位置で、娘は「兄」の全速力の抱擁を受け止めた。こんな人だったかな、と思いつつ。

 

「だって、どれだけ心配したと思ってるんだい!?あの情報局のポンコツ達ときたら基地と連絡が取れないとか言い出す時が何度もあるし、ほんとはもっと早く帰れる筈だったのに急に期間が延長されるし、もう、どれだけ僕の寿命を縮めたら気が済むんだ君は!!」

「…ちょ、ちょっと磁気嵐が多くて、当初の計画が遅れちゃっただけよ。予想されてたような命の危険だって無かったし……ほとんどは」

「………ほとんど?」

 

泥濘の重さを纏った問いかけが彼の口から漏れる。

 

「ま、まちがい!ぜんぜん、まったく、無かったです!はい!!」

「はあああああ…とにかく、本当に本っ当に無事で良かった。ああもう、嬉しいから泣いていいかな。おかえり、おかえり…おかえり!」

「はいはい。ただいま、ヒュトロ…んむ」

 

全力で遠慮なく頬ずりしてくるヒュトロダエウスを、「妹」は苦笑しながら抱き締め返した。

 

「ああ、お兄さん、でしたかな。あなたが」

「?」

「?」

 

しかし、そんな感動の再会の最中に、汚水をさすものが現れた。

ヒュトロダエウスと同年代くらいか。調査団のバッヂをつけた男が、空気も読まずに二人との距離を縮めてくる。

 

「はじめまして。自分は彼女と同じプロジェクトを担当しておりまして、あちらではとても親しくさせていただいておりました。貴方のことも、兄のように慕っている方だと、よく彼女が話していたものです」

「はあ。……………それで、何か?」

 

少女の身体がやや強張り、明らかに困った表情を浮かべたのを視界の端に認めながら、青年はやむを得ず応対する。

 

「ええ、せっかくですから、今後もぜひ親睦を深めていければと思いまして、ご挨拶に伺った次第です。お兄さん」

 

にこりと笑いかけながら、歌うように朗らかに「妹」との関係をアピールしてくる男。

 

「ご挨拶、と」

 

…「兄」は即座に、目の前の塵(それ)を敵と認識した。

 

「ほほう、これはご丁寧に。いやいや、お恥ずかしい所をお見せしました。なにせ手塩にかけて育てた大事な妹でして、私としてはこの子が向こうで過ごしてる間に『何もなかった』か、本当に心配していたのですよ。ええ、それはもう…」

 

自分を抱き締めたままの青年の心に、炎が燃え広がるようにして急速に渦巻き始めた激しい怒りを感じ取って、少女はびくっと肩を震わせる。

 

「だ、だめ、ヒュトロ…そんなんじゃないから、大丈夫だから、あっちにいこ…?ね…?」

 

娘は必死に青年の服の裾をくいくいと引きつつ小声で訴えた。

危機管理能力にいささか欠けていると思しき塵(それ)は、彼女が照れていると思い込み、ヒュトロダエウスの雰囲気の変化にまったく気づかない。

あっという間に殺意とも呼べるほどに昇華した心の波動を感じて、「妹」の顔色はどんどん悪くなっていく。

 

「私の家族がどうかしましたか」

 

そこでようやく、冥府の闇よりもなお昏く、そして堅固な意思を感じさせる声が静かに響いた。

三対の視線が、声音の主に向けて同時に集中する。

 

嬉々としてその名を呼ぼうとする娘の口を、何かを察したヒュトロダエウスは即座に手で覆った。むーぐむー、とその声は見事に押し込められてしまう。

 

ハーデスはするりと身を滑らせると、ようやく成人と遜色ないまでに育った己の身体で、汚物(それ)の視線から彼女と友人の姿を遮った。

 

「えっ、ご家族…ですか。いやその…ああ、自分は彼女と同じ調査隊の者でして。向こうでは…」

「そうですか、それはどうも。家族が大変お世話になったようで、感謝いたします」

「は、はあ…」

 

丁寧に会釈を終えた青年は、興味ないとばかりに調査員からふいと顔を背けるが、ややあって、まだぐずぐずと立ち尽くす汚物(それ)に、再度視線を向ける。

 

「…まだ、何か?」

「えっ?」

 

察しの悪い男に対し、後日ヒュトロダエウスに「やりすぎだ」とたしなめられる程の威圧感と冷笑をもって、ハーデスは慇懃無礼に言葉を続けた。

 

「久々の再会なのですよ。どうかご配慮いただけると、大変有り難いのですがね」

 

人よりも多少エーテル識別能力に優れていただけの塵(それ)は、その淡い下心を完膚なきまでに叩き潰されるのであった。

 

「…二人トモ、スゴーク…コワィヨ……」

 

掃除を終えた二人の青年を交互に見やる娘はやがて、小さくぎこちなくそう呟いた。

 

「何言ってるんだい、家族として当然の責務を果たしただけさ。なあ、友よ?」

「ああ、それよりも」

 

拳を手にあて軽く咳払いをしてから、ようやく現れたもう一人の男は、口を開いた。

 

「おかえり」

「…はい。遅くなって、ごめんなさい」

「無事ならいい。俺も、迎えに来るのが遅くなってすまなかった」

 

そう言って、ハーデスは首から下げた細い銀鎖を掴みながらそこに繋がったある物を懐から取り出し、娘に差し出した。

 

「?、これは」

 

彼女の手の平ほどの大きさの、薄くて軽い透明素材で出来た長方形のそれは、穏やかな陽射しを受けてちかりと瞬く。

 

「約束は守った。…一緒に『帰ろう』」

 

どこかの扉に居住者を登録するためのマスターキーだとようやく気づいた娘は、はっと顔を上げて、金色の瞳の青年を見つめた。

泣き出しそうになるのに気づいて、でもそれは子供のすることだと我慢して、彼女はただ、笑顔を浮かべる。

 

「うん!ありがとう、ハーデス」

 

感謝を述べる娘の身体を、友人から剥がすようにして引き寄せ、ハーデスは強く強く抱き締めるのであった。

……すぐ側からの刺すような視線を、鼻で笑って撥ね付けながら。

 

 

それからしばらくして。

市街の想い出のカフェにて揃って遅い昼食を済ませると、三人はゆるゆると帰途についた。

 

「そうだ。お家を見に行くのはいいんだけど…わたし一度は研究棟に帰らないと。持っていきたいものが、あの部屋にまだ残ってて」

「……それは大丈夫。もうこうなるのが分かっていたし、そもそも遠征前に全部梱包済みだったし、荷物は僕がすでに送っちゃった」

 

しゅん、と表情を曇らせる娘に対し、どことなく空々しい響きでヒュトロダエウスはそう報告した。

 

「えっ、いつの間に?」

「だってねえ…誰かさんときたら住居が支給された途端ー?すーぐ院の研究棟に来てー?あろうことか君の部屋に入ろうとしたんだよー?……この街では都市伝説化した犯罪者ってものを、身内から出すわけには行かないでしょう?」

「………ハーデス、あなた」

 

「兄妹」ふたりにじとっと睨みつけられ、分の悪い青年は明後日の方向を向いて誤魔化した。

やがてわざとらしく咳払いをすると、反撃を開始する。

 

「…それはそうとヒュトロダエウス。お前どこまで付いてくる?」

「ええ、ここで僕を邪険にする?うわー、君の嫉妬深さにはまったくもって敬服するよ」

「新居に共に足を踏み入れようとするお前の無神経さには負けるがな」

「ああもう。ケンカしないでったら二人とも。ほんとに、外で一体どんな顔してお仕事してるのか一度見てみたいわ…」

 

男二人の不毛ないがみ合いを前に、娘はかねてから疑問に思っていることを口にした。

大人というものは、もっとこう冷静で、思慮深くて、淡々と生きるものではなかったのか。

 

ふと周囲を見回すと、疑問を裏付けるべく、淡く優しい時間の中で、さもしい感情に翻弄されることなく穏やかに生活する市民たちの姿が目に映り、彼女はわずかに首をひねるのであった。

 

誰かを想い、笑い、泣き、悲しみ、怒り…そして愛する。そういった情緒の強い発露こそが、「普通」であることを良しとせず、己の霊性を高めて「一段階上の存在」にならんとする発達段階への鍵なのだけれども。

今の彼らがそれを知るすべはなく、機会が訪れるのもまだもう少し先のことであった。

 

「落ち着いたらすぐ連絡するんだよ。いつでも守りに…会いにいくからね」

 

ようやく諦めた「兄」は、未練がましく「妹」をぎゅっと抱き締めると、その額にわざと音を立てて口づけた。

 

「分かったわヒュトロ、ごめんね?じゃあ、ここで…」

「来なくていい」

「もう、あなたは黙っててハーデス!」

「………チッ。行くぞ」

 

抱擁から開放された娘は、そのほっそりした手をもう一人の男にしっかと絡め取られてしまい、半ば引っ張られるようにしてその場から連れ出される。

何度も振り返っては、もう片方の手を彼に向けて健気に振ってくるので、ヒュトロダエウスは二人の姿が見えなくなるまで、しばらく立ち尽くさねばならなかった。

 

「一人は、寂しいもんだね。やっぱり」

 

苦々しく呟きながら、沈む寸前の夕日を見つめ、焦げ茶色の目が細められた。

次に会う時は、「妹」が心身ともに別の男の物になっているであろう事実に、どうしても胸が痛くなる。

 

(まあ流石に、戻ったその日に手を出す事はないだろう。…たぶん)

 

悲しくも外れてしまう結論を導き出したヒュトロダエウスは、またもやしばし長考のすえ、ぽつりと呟いた。

 

「……塵掃除の準備、しようかな」

 

 

 

「少ないな。本当にこれだけか?」

「うん。ほら、いつ帰れるかわからなかったし、その間に別の人があの部屋を使う可能性もあったから」

 

長期に渡る遠征の前に、彼女は間借りしていた部屋の私物をほとんど処分してしまっていたらしく、ヒュトロダエウスの手配によって運ばれた荷物は驚くほど少なかった。

あらかじめ用意してあった衣装入れに、わずかばかりの装束をしまうと、娘はようやく青年の用意したダイニングテーブルについた。

贅沢を良しとしない社会通念であっても、食事というものはやはり精神に安寧をもたらす行為であるからして、祝い事の時はそれなりの晩餐が用意されるものだった。

流石に調理の技術までは持たない二人であったし、そもそもこの街の住人はそういった職業で無い限り台所をもたないものだから、あらかじめ冷蔵庫の中に準備されていたと思われる冷製のデリがいくつも並んでいたが、自分の好きなメニューがある事に気づいた彼女は表情をほころばせた。

いくつか並べられたフルーツの中に、柘榴が含まれていたことの意味を、残念ながら思い出すことは叶わなかったが。

 

「改めて…おかえり」

「ただいま、です」

 

片や泡の弾ける酒精の高い液体が、片やよく冷えた果汁が注がれた、細身のグラスがふたつ。そっと触れ合って快い音を立てた。

 

「それにしても」

 

食事もほぼ終わりを迎え、酒気の回り始めた表情で、ハーデスは昼間の喜劇(悲劇)を反芻していた。

 

「あの厚かましい男はなんなんだ。ずいぶんとお前にご執心のようだったが………まさか口説かれたりしてないだろうな?」

「まさか。あの人とはお仕事の話しかしてないよ。資料をまとめる時と…ご飯の時、あと寝る時以外は、幼生体との交流に必死だったんだから」

「…本当か?」

 

誤魔化しを許さぬ強さをもった薄い金色の眼が、じいっと娘を見つめる。

 

「う……。確かにやたらとヒュトロのことを聞いてくるし…まだ共感能力の制御が未熟だった時期には、なんだかねとっとした心の波動を時々感じたし…。けど、そういうことはなかったよ、うん」

 

駆けつけた空港で、怒髪天寸前の友人の姿を見つけた事を思い出し、納得した男は小さく息を吐く。

 

「でも、怖くなって、ちゃんと距離は置いてた。女性の隊員も大勢いて、みんな良くしてくれて…何かあったらすぐ頼れるようになってたし。あ、あと、男の人はみんな絶対飲まなきゃいけない薬っていうのがあるから、人間関係のトラブルは起きないって教えてくれたわ」

「なんだそれは…。くそ、今度会ったらぶん殴ってやりたい」

 

彼女の特殊能力に感謝しつつ、ハーデスはアーモロートの一市民にあるまじき暴言を吐いた。

自分と同じ感情を抱く男など、ヒュトロダエウスだけでも腹立たしいというのに。

 

「!、なんてこと言うのハーデスったら。ねえ…前から時々思ってたけど、いったい外ではどんな顔してるの?みんなにその性格ばれてない?それとも、酔っちゃっただけ?」

「俺がそんなドジを踏むような人間に見えるか?」

「見えないけど…それならいいんだけど。うーん、想像できない…」

 

グラスの底に残った果汁を、すっかり小さくなった氷と共にこくんと飲み干す白い喉。青年は、目を細めてそれを眺めていた。

 

 

食事が終わり、片付けと、心の整理を終えて。

 

「お風呂先にありがとう。それで、ちょっとお願いがあるんだけど」

 

一人寝にはとても見えないサイズの寝台に、下衣のみ纏った姿で腰掛けて、じりじりと彼女を待っていたハーデス。

 

「そこの枕ひとつ借りてもいい?あと、上掛けってどこにあるのかな」

 

ひょっこりと顔をのぞかせて、予想外の問いかけをしてくる娘を、彼は思わず睨みつけた。

きっちりと夜着を着込んだ彼女は、上半身裸の異性を見ても警戒するでもなくすたすたと近寄ってきて、件の寝台を指差してくる。

同じ石鹸を使っているはずなのに、なんだか良い匂いが漂うように思えるのは、男の願望ゆえか。

 

「…床にでも寝るつもりか」

「あ、居間のソファを借りようと思って。大丈夫、あっちじゃもっと固いベッドだったし、わたし結構どこでも眠れるようになったんだよ」

 

(ああ、そうだった…)

 

この純真な生き物は新居をあちこち見て回っていた当初、この部屋を覗くなり「わたしのベッドはどこに置くの?」などと大層可愛いらしいことを言ってのけたのだ。

用意が間に合わなかったと思われるのはとてもとても心外だ。どこにあるのか、ゆっくりと丁寧に教えてやらなくては。

 

 

「後でな。それより、もう少し話をしたい」

「ん?うん、いいよ」

 

男は、自分が腰掛ける寝台のすぐ隣をとんとんと軽く叩き、彼女に横に座るよう促した。

哀れ、疑うことを知らぬ綺麗な獲物は、誘いに応じてぽふんと指定した場所に腰を下ろす。

 

「共感能力とやらはどの程度使いこなせるようになった?」

「えっと…切り替えはちゃんと出来るようになったよ。見えない手で、耳をふさぐ感じ。だからもう無闇に人の心に触れる事はなくなった。誰だって知られたくないことくらいあるし…そんなのお互い不幸になるだけだもの。だから、もう大丈夫」

「…そうか。じゃあ、今だけは使っていいぞ?俺がいま何を考えてるか、当ててみろ。なに、訓練と思えばいい」

 

じりっと距離を詰めて、ハーデスは少女に微笑みかけた。

怪訝そうに眉をひそめつつ、そんな彼の全身を下から上までするっと観察した娘は、ややあってひくっと身体を震わせる。

 

「えーっと、よく、分からない、ごめん。分かるのはあなたが、その…色っぽいって言うのかな?ずっとそばに居たら、こっちが酔っちゃいそうな感じがする…?」

「…表音単語を伴った極端に強い思考でなければ、言語化されて伝わる訳ではない、か。成程、だいたい把握した」

「うん、そうみたい。やっぱりすごいね…ハーデスは。ヒュトロだって一回じゃとてもそこまでは」

 

他意無く尊敬の眼差しで見つめてくる娘に対し、男は我慢の限界を感じた。

 

「…こんな時に、俺以外の名前を呼ぶやつがあるか?まったくお前は」

「えぇ、だって、話がしたいって言ったのはあなたじゃ……あ、れ…?…っ」

 

もう少し違った感情で見つめられたいという欲求を、そろそろ抑えきれなくなってくる。

愛しい娘の顎を優しく掴むと軽く持ち上げ、半年以上前の記憶を思い出しながら、待ち焦がれた唇にハーデスは口づけた。一度離れて。

 

「…も、もう、ハーデスったら。ほんとに酔っちゃいそ…ぅむ。…………あっ」

 

もう一度。そのまま覆いかぶさるようにして、寝台の真ん中へと小柄な身体を押し倒す。

 

「あの……、なに、するの?重い、よ……?」

 

彼とて初めての行為のはずだが、何をすべきかきちんと伝えてくる本能が、己の自重で巧みに獲物を押さえつけるよう命令する。

 

「なに、と来たか。…分かってて言ってるとは思っちゃいないが、これが煽られる、という事か?いや本当に、まったく、お前ときたら」

 

上から振ってくる声が、いつか未開の地で見た肉を喰む魔物の獰猛さを含んでいるように感じて、娘はぞくりと心を震わせた。

おかまいなしに金色の双眸持つ顔が降りてきて、今度は深く深く、何度も唇を啄んでくる。

 

「…ん、ん。ふぁ…ハーデ…むうっ…」

「良いな、これも。興奮する、というのがこんなにも心踊るとは、俺も知らなかった」

 

これは、これはもしかして。彼女は必死に、記憶から類似する事象を手繰り寄せた。

 

「男女の交わりが人を狂わすというのは、得てして真実のようだ。本当に…興趣が尽きんな」

 

余暇に好んで読んでいた古典芸能、そこに記された家族の有り様や、呼称。そして、男と女の間の恋と、愛の行末。

あっ、と小さく声をあげて、娘はようやくこれから始まろうとしている行為の可能性に思い至った。

 

「まじわり…って、あっ、あの、あれ?かっ、体を重ねるって言い方する…あの……?」

「なんだ、知ってはいたのか。それ以外に何が?」

「だ、だめだよ、わたし達まだ大人じゃないし、正式に伴侶の誓いもしないでこんなこと…」

 

ふるふると首を振って拒否の声を上げる愛しい娘。何を今更、男は心の内で独りごちる。

 

「もう待ってやらない。お前は俺が今からちゃんと大人にしてやる。誓いも、落ち着いたらすぐにでもすればいいだろう」

 

縋り付く腕では止めきれない強引さで夜着の合わせ目がほどかれ、娘の前身があらわになった。

 

「そんな…!やだ、まって…!脱がしちゃだめ…ッ、そのねちゃねちゃした気持ち、重いし、なんだかこわいよ!?…あっ!」

「駄目だ。俺がどれだけ…どれだけお前とこうしたかったか。…これからお前がどこで眠ればいいのか、これ以上無いくらいに教えてやる」

 

女性としてのまろみを帯び始めた、自分とは違う成長を遂げゆく肢体を認めて、ハーデスは彼女の手首を片方寝台に押さえつけながら、もう片方の手で存分に白い素肌をまさぐった。

暖かく、柔らかくて…やがてたどりついた胸の膨らみは、彼の手にすっかり収まる控えめさではあるが、それでも力を入れると面白いようにぐにぐにと形を変えた。

実経験などなくとも、男が女に対して次に何をするべきか自然と分かってしまうのが、彼は心地よく思えてたまらない。

己の膝を、すらりとした足の間に割り入れて閉じられないようにしつつ、彼女を味わうに最適な体勢を確保してしまう。

 

「やだ、やめて見な…触っちゃ…ッ!やだ、やだよこんな…!」

「…少し落ち着け。伴侶なら何もかも分け合って…知り合っても良いこと位、いくらお前でも知ってるだろ…?」

「む、無理……!はずかし……!ひゃっ!」

 

胸の先端をきゅっと摘まれて、弄ばれて。

 

「楽器みたいだな…ここ、良いのか?」

「わっ、わからな…!だっ…ぃ、やっ…!!」

 

医師にすら触れられた事のない部分を容赦なく暴かれ、娘はなんと言って抵抗したら良いのかすら分からなくなっていく。

上半身を存分に触られ尽くされたかと思えば、尻を揉まれ、やがて内股を男の手がするすると這い上がっていくのに気づいた。

 

「違うな。…ああ分かった、こっちか」

「!、待って、待ってえっ!だめ、そんなとこ……ッッ!!」

 

秘所を擦られたかと思うと、つぷり、と細長いモノが娘の体内に侵入を果たした。

指だ、と気づいたときには、彼女の全身が硬直し、ざーーーーっと血の気が引いていく。

 

「ひ、ひど……ハーデス、どして…こんなこと……ひどいよ…ひどい……」

 

うわ言のように呻いて、しゃくりあげる愛しい娘の姿に、ハーデスはようやくわずかばかりの理性を取り戻し、一旦指を引き抜いた。

 

「すまん……泣くな」

 

すっかり怯えきって顔を背ける彼女の頭をできるだけ優しくなぜると、襲いかかりたい欲を必死で抑えながら、壊れ物を扱うようにそうっと抱き締める。

 

「その…俺はお前と…お前だから、触れたいと…抱きたいと、思ってしまう。…だからそんなに怖がらないでくれ。頼む」

 

正しい言葉を選んでいるのか自信がないまま、ハーデスは内心必死に説得を試みた。嘘だけは、言っていない筈だから。

 

「お前のことを、もっと見ていたい…。全部、知りたい。………駄目か?」

 

果たして。

 

「あなたが…そういうなら………が、がんばる。でも…」

 

幸か、それともこの場合、不幸と言って差し支えないのかも知れないが。

 

「や、優しく、して…。おねがい……」

 

彼の欲情も、口にする言葉も、そのどちらもがまったき本心であることを自身の能力で理解してしまった娘は、精一杯勇気を振り絞ってそう告げた。

 

「…仰せのままに」

 

余裕の無さを精一杯の虚栄で覆って、ハーデスは頭をするりと下げ、娘が疑問の言葉を投げかける前にその両足を割り開いた。

 

「!、ちょっ…!やあっ!!」

 

初めて目の前にする、密やかにひくついた女の部分。

彼は興奮を抑えきれないまま、必死に事前知識を総動員しつつ、その中心にむしゃぶりついて存分に舌で愛で始めた。

 

「ふっ、あ…!どして、そんな、とこ………っ!んっ…んっ………ひゃうっ!?」

 

まるで想像していなかった男の行為に、がんばる、と宣言したばかりの娘は、拒否の言葉をどうにか飲み込むしかない。

両腕で必死に彼の頭を押し返そうとしても、羞恥で震えるあまりまるで力が入らず、振りほどくことは叶わなかった。

 

舌先がつるりとした丸い粒の感触を捉え、ハーデスは視界でもそれを確認する。

まるで柘榴の種子のよう。そんな事をちらりと考えて苦笑しつつ、そこを甘噛してやった。

せっかく晩餐に供したというのに、あの時の彼女はやはり幼すぎたのか、初めての甘い記憶を忘れているようだが。

 

「…っ!?ああんっ!」

 

きゅっと硬直した体から迸る悲鳴に、ほんのりと艶が含まれていたのを感じて、男は満足そうににやりと笑った。

 

異物から体内を守るためにとろりと溢れた体液が、唾液と混じって密やかに滴っている。どうにか功を奏してくれたようだ。

顔を上げて、改めて彼女に覆いかぶさると、先程から痛いほど張り詰めた己の分身を軽く扱いた。

 

(…想い出などこれからいくらでも創ればいいだけのことだ。もう、逃さない……!)

 

胸の内にせり上がる歓喜を、ハーデスは抑えきれない。

 

「は、はは…。やっと、やっとだ、お前を俺だけのものにできる。痛むだろうが…我慢、してくれるな?」

「う、うん…。ひっ……!」

 

うっかり視線を下げて、初めて異性の「それ」を見てしまった娘が、泣き出しそうな声を上げた。

 

「は…はいる、の……?そんな、の…」

「その筈だ。………許せよ」

 

体を引き寄せられたかと思うと。恐ろしいまでの異物感が、彼女の体内に侵入し始めた。

 

「だ、だめ、やっぱり、おっき…ぃ…?いった…!やっ、やだーーっ!!!」

 

細い体のどこにこんな声が潜んでいたのかと思うほどの絶叫が、ハーデスの耳に突き刺さる。

下腹部からがんがんと全身を巡る、純潔を奪われた痛みに耐えかね、娘は泣き叫びながら暴れるが、それすらも押さえ込まれて敵わない。

 

「ハーデ…!ハーデスぅっ!たすけて…!いたい!いた、い、よう…っ!!」

 

名を呼ばれても、彼はじっと耐えていた。ぎりぎりと締め付ける圧迫感が、少し緩むのを待つ。

痛みとも、快感とも判らぬ不可思議な感覚が、ともすればハーデスを獣のように振る舞わせようとするが、必死に堪え続けていくうち、とうとう彼女の体がくたりと脱力した。

 

それを受けて、とうとう愛しい娘の一番深い部分に分け入り、己を沈めてしまう。

 

はぁ、はぁ、と荒い息をついて、ハーデスは彼女を見つめた。白い頬には涙の跡が残っている。

混乱する心が、冷静な思考をマヒさせてゆき、渦巻く罪悪感と征服欲、そして狂おしいまでの愛おしさで理性を失った頭は、彼の雄としての本能を突き動かした。その動きにあわせて、意識を失った小柄な体が寝台の上で小刻みに揺れ続ける。

 

やがてぎりぎりまで欲望を溜め込んだ彼は、激しい感情と共に容赦なく彼女の中に注ぎ込み、あれほど待ち望んだ瞬間を迎えたのであった。

 

 

 

「う、ん………ぁ。………ふぐぐぐぐ…」

 

窓の外がすっかり明るくなっているのを感じて、娘はようやく目を覚ました。すぐさま下腹部の鈍痛に苛まれ、体を丸めてそれを堪えなくてはならなかったが。

 

「起きたか…無理はするなよ」

「へっ?…きゃ」

 

涙目の娘を背後から抱く腕の持ち主が、自分の身体との間に空いたわずかばかりの隙間を許さずに、彼女をぐいっと抱き寄せる。

背中に自分のものではない人肌の温もり、逃すまじとばかりに拘束してくるがっしりした腕、後ろから髪をくすぐる吐息。

どれもこれもが、哀れにも全てを暴かれたばかりの娘の思考を、急速に覚醒させた。

 

「は……は、は、は…ハーデ、ス…?」

「心配しなくても、当分は休暇を取ってある。だから、もっと休んでいろ」

「…それは…いいんだけど…。わたし…っていうか、昨日、は…」

「ああ…可愛かったぞ。泣くわ喚くわ暴れるわ…終いには真っ赤になって、ぷるぷる震えてて」

「……………」

「どうした?……すまん、やはり女の初めては辛い物だというのは本当なんだな。もう少し眠れ」

 

あなたという存在のせいで眠れると思えません。

 

そう伝えたかった娘ではあったが、恋人となった存在が向けてくる優しい想いが、柔らかな波動となって彼女の身体を包み込み、それが背中に触れる素肌から直に伝わる体温と共に、強張った心を段々と解きほぐしていく。

 

「…あったかい」

 

夢うつつに呟くと、娘は体を更に密着させるようにもぞもぞと身動ぎ、やがて穏やかな寝息を再び立て始めた。

 

…青年はそれを確認すると、枕の下からとある魔法術のイデアを取り出して、今や愛しい恋人となった娘の頭上で展開する。

完璧なまでに美しい構築式が、彼の紫紺色のエーテルで紡がれ、鎖のようにぼんやりと浮き上がって彼女の両瞼に吸い込まれていくのを見届けると、ハーデスは満足気に微笑み、己もまた微睡みの中へとその身を委ねるのであった。

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