薄暗い部屋。身動きが取れない。妙に肌寒い。
次に目を覚ました時、藍田アオイは自身の敗北を悟った。
(くっ・・・・・・ここは・・・?)
ぼんやりとする頭でも、状況の把握くらいは出来た。アオイは大の字の拘束具で磔になっているらしく、そして全裸だった。場所は不明。風が無い事から室内である事は判るが、照明が無いために周囲を窺う事は出来ない。
「そうだ・・・私は・・・・・・」
やがて意識がはっきりとしてきて、昨夜の事を思い出す。闇組織の密売現場を押さえる作戦は、敵の罠だった。新米の山岸アキラが倒れ、監督として同行していたベテランの水越ミキが敵に捕まった。しかしそれは水越ミキの偽装。拘束から逃れた水越ミキを加えて、応戦する。が、多勢に無勢。新米と負傷者を抱えたままでは不利に過ぎた。そこでアオイが殿となって三人を逃し、新米二人を安全圏まで逃し終えた水越が帰ってきて、二人で戦い続けた。そして不意の一撃を背後から受け、気を失ったのだった。
「おお、やっとお目覚めかね」
聞いたことのない男の声。その声と同時に、突然照明がついた。
「くうっ・・・?!」
「おっと・・・。すまんすまん。眩しかったな」
明るい室内灯に目が眩み、アオイが呻く。
やがて目が慣れて、瞼を開けられるようになると、自分が何処に居るのかが良く解った。真っ白な壁に真っ白な天井。複数並んだ照明は手術台の物と同じ。ここは東京最大の闇組織にして対魔忍にとって最悪の敵、“ノマド”の施設だ。
部屋の正面の壁にあるガラスの向こうには、肥え太った悪人ヅラの男。そして数人の白衣達。尋問か洗脳か、敵の手に捕らえられたアオイの命は今、この男達に握られているということ。
しかしアオイは一流の対魔忍。いくら電子制御の拘束具で四肢を固められていても、脱出は不可能ではない。何なら力任せに引き千切ってでも。そう考えた瞬間、アオイの頭上からロボットアームが現れて、アオイの目の前にモニターを持ってきた。
「水越さん!?」
モニターに映っていたのは、アオイと同じように拘束された水越ミキの姿。水越に外傷は無いようだが、意識を失ったままのようだ。そして、この映像を見せられたという事は、それが意味するところは一つ。アオイと水越は互いが互いに人質となっているのだ。
「状況が理解できたかね?」
ロボットアームが視界から消えて、ガラスの向こうの苛立たしい顔が目に入って、アオイは侮蔑の感情を隠しもしない表情を見せた。
「なんて卑劣な真似を! この卑怯者め!」
そう怒鳴りつけるが、男は何処吹く風。人質の命が手の中にある以上、アオイには碌な抵抗も出来ないのだと、高をくくっているのだ。腹立たしいが、それは事実。無事に逃げた嘉山ジンが救援を呼んで、アオイ達が連れ去られた痕跡を見つけて、救い出しに来てくれる事を祈るしかない。
そう、仲間が助けに来てくれるまで、何としても耐えなければ。どんな拷問だろうと、耐えて生き延びなければ。仲間を置いて勝手に死ぬなぞ、対魔忍には許されない行為だ。ましてや仲間の情報を売るなんてことは。
「・・・フン。好きにするがいい。どんな拷問だろうと、私の口を割ることは出来んぞ。私は誇り高い対魔忍だ。貴様らのような下衆どもとは違う。簡単にいくと思うなよ」
確かな信念を胸にして、アオイは宣言する。お前達なぞ恐るるに足りないと。
その言葉を聞いて、ガラスの向こうの男が笑った。
「ほぉ〜う、そうかね。では好きにやらせてもらうとしよう」
「ああ、せいぜい無駄な努力をする事だな」
「・・・・・・よし、ならばこうしよう。お前は今日から
男の声はスピーカー越しでも分かるほど、嫌らしく粘ついていた。
———
(せい・・・・・・奴隷・・・? 何の奴隷だと?)
不自然なほどに性知識を持ち合わせないアオイには、性奴隷という言葉の意味が分からなかった。奴隷というのだから、人権が存在しないように扱われるのだろうが。「せい」とは何か。聖ではないし、正でもなかろうし、政・・・政治的な奴隷として活用できるほど対魔忍は表社会に通ずる権力を持たない。アオイは悩んだ。
(せい・・・・・・せい・・・・・・いや、分からん。しかし碌でもない事なのは確かだろう)
アオイが無駄な思考を止めると、監視窓の向こうで白衣の男が何やら機械を弄っているのが見えた。すると、背後からロボットアームが出てきた。どうやらアオイが大の字で拘束されているのは、最新のメディカルベッドの様な代物らしい。ロボットアームの先端には注射針が見えた。
「フン、いきなり薬に頼るのか。だが残念だったな、対薬物訓練は受けている。自白剤なぞ私には効かんぞ」
注射針が首に刺さり、液体を注入されても、アオイは平然とした態度を崩さない。
男が言った。
「自白剤なぞよりもっと良い物だ。せいぜい楽しんでくれ」
今投薬された物の正体は、ノマドが研究開発した超強力な媚薬である。女を色狂いに変え、奴隷娼婦に堕とすために作られた調教用の薬だ。
(なんだ? 急に身体が熱く・・・。まさか毒・・・!?)
この媚薬の効果は凄まじく、これを打たれた女は即座に発情し、性的快楽を貪るようになってしまう。これは対魔忍とて例外ではない。ノマドは過去に捕らえた対魔忍を使って研究し、その効果を実証しているのだ。
この媚薬を体内に取り込んで三分以内に、極度の発情によって体温が上昇する。それを皮切りに、全身が性感帯になったように感度も上昇する。特に乳首やクリトリス、陰唇や膣壁といった元々性感帯だった場所は、投薬前と比べて10倍から20倍もの感度となってしまう。しかも効果が数時間限りであるため、この媚薬の有る無しで体感が大きく変わり、麻薬のように精神的依存性が高いものとなっている。
(うぅ・・・なんだこの気分は・・・!? イライラしている・・・? いやしかし・・・)
が、これまで訓練と修行ばかりで、義務教育で教わる事すらまともに学んで来なかったアオイ、性の知識が一切無く性欲や欲情を覚えた事もない女には、まったく実感が湧かないのだった。
「気分はどうかね?」
にやにや顔の男の声がスピーカーを通して聞こえるも、アオイは初めて経験する発情という感覚に困惑しており、とても耳には入らない。
性感帯として機能するほど刺激した事もないため、乳首やクリトリスが疼くという事もない。ただ、よく分からない興奮状態にあり、なんだか身体全体が熱くて、思考が乱れて、食欲に似た飢餓を感じるだけ。無垢とも言える無知な女に、この超強力媚薬はさしたる効果を見せなかった。
「はぁ・・・はぁ・・・!」
「うむ・・・・・・ふぅ・・・・・・」
「はぁ・・・・・・は・・・うぅ・・・」
ただ何もない時間だけが流れる。アオイは何を言うでもなく、暴れるでもなく、一時間ほどそうして磔のままだった。だが、アオイは、腹が減ったようなイライラを感じるだけで、我慢しようと思えば我慢できる事を知った。そうしてアオイの目に力が戻ってくると、痺れを切らしたように男が言った。
「そろそろ欲しくなってきたんじゃないかね? ええ?」
「・・・・・・欲しい・・・だと?」
アオイは男の言葉を鼻で笑った。『なんだ、兵糧責めとは随分古典的だな』という勘違いだ。人生で初めての意識出来たほどの発情を、未だに、空腹感によるイライラに似たよく分からない興奮状態でしかないと、そう思っているアオイには、男の言う「欲しい」が別の物に聞こえたのだ。
「ああ、そうだな、少し腹が減ったよ。汗も掻いたから、喉も渇いた。何か食べさせてくれないか?」
「・・・・・・ほう、良く堪えるじゃないか。それだけ減らず口が叩けるなら、大したものだ」
監視窓から消える男の姿を目で追って、アオイは優越の笑みを浮かべた。こんな安い挑発で態度を変えるなんて、大した事のない悪党だな、と。
絶望的に噛み合わない勘違いに、両者の意識は高まっていく。
これなら楽に耐え切れる、とアオイはほくそ笑み。
もっと酷い仕打ちで折ってやる、と男がほくそ笑む。
———
男たちからすると、アオイの忍耐力は異常だった。なにせあの身体だ。バスト112センチのKカップという爆乳は、男の手を知らないはずがない。あんな美人で、若くて、胸も尻も大きいのだから、男からかなりの回数を求められたハズだ。そうなれば自然と性感帯は開発され、媚薬に耐えられなくなるのだ。
しかし、アオイは耐えている。それどころか減らず口まで叩いた。これまで実験に使った複数の対魔忍は、男女問わず媚薬の効果に膝を屈したというのに。
実際は男性経験がまっったく無くて、性感帯なぞ今まで一度も性的快楽を得た事がなく、それどころか性的興奮を自覚した事すらないという、不自然なまでに無垢な21歳の爆乳美女が藍田アオイという女なのだが。彼らがそれを知るはずはないのだ。
(うっ?! 舌に注射されるのは、思いの外・・・痛いものだな・・・!)
なかなかに強情なアオイを屈服させるため、男が取った次なる調教手段は、味覚の変化だった。今、アオイの舌に直接注射されたのは、“精液と精子“を”最高に美味な物“と舌が判別するように変えてしまう遺伝子操作薬。一度この注射で舌を変化させられると、残りの生涯はずっと、精液と精子以外の物を口にしても満足出来なくなってしまうのだ。
しかもそれだけではない。この薬には、元々脳が僅かに幸福感を感じる作用を持つ物質、精液に含まれる「精しょう」を摂取した際の反応を激増させる効果もある。これにより、この薬を打たれた女は精液を求めて男に膝まずき、精液を味わえば至福の多幸感で脳を満たし、精液無しでは生きられない身体になってしまう。まさに奴隷娼婦を作るためにある薬と言えるだろう。
「アオイ君、と言ったかな。お望み通り、食事と飲み物を用意したよ。休憩したまえ」
アオイの正面、視線の先にある監視窓の向こうで。にやにや顔を取り戻した男が帰ってきて、そう言った。そのにやけ面を見て、何か企んでいるのだろうと、アオイは容易に察する事が出来た。
アオイが閉じ込められている真っ白な部屋の一画、平坦な壁しかないと思われていた場所が動いた。そこは内側からは何の掴み所も無い、電子制御の自動扉だったのだ。
その扉から数人の男が入って来て、部屋と同じ真っ白なテーブルと椅子を置いていく。そして、次に現れた男が食事を載せた皿とグラスを置いて部屋を出ると、扉はひとりでに閉まった。
「ふむ・・・。まあ、毒ではあるまいが・・・」
電子音と共に四肢の拘束が外れて、数時間ぶりの自由を感じるアオイ。監視窓から全裸を見られているというのはあまり気分が良くないが、それでも固まりそうになっていた関節を動かし、軽い体操で全身の血流を正常化させる。
軽い体操で体をほぐし、椅子に座ったアオイだが。どうにも手が動かないでいた。というのも、アオイの目の前にある料理は、見たことも無い物だったからだ。
「これは・・・・・・なんだ・・・?」
「ステーキだよ。見て分からんかね」
「いや、ビフテキなのは分かる。分かるが・・・・・・」
皿に載せられていたのは、サーロインステーキと、付け合わせの蒸し芋と、茹でキャベツだった。しかしそれでだけではない。肉にも芋にもキャベツにも、満遍なく白いソースが掛かっているのだ。そう、このソースこそ精液である。それも普通の精液ではない、アオイ達が昨夜何体も斬り殺した魔物、傭兵オークの精液である。
アブノーマルなプレイとして存在する「食ザー」である。食べ物に精液を掛け、それを食べさせる、あるいは食べるというものだ。男はこの、普通の女なら怒りを露わにすること間違いない行為を、アオイに突きつけたのだ。
「この白いのは何だ? グラスの中身も同じ物のようだが・・・」
「クク・・・、信じられないといった顔だな。いいだろう、ならば教えてやろう。それは”ザーメン”だよ。君も好きだろう、ザーメン?」
が、この女、生まれてこのかた、ザーメンなどという単語を耳にした事がない。
このアオイ、剣撃と発砲の音は耳になれていても、性に関する事は全く触れてこなかったのだ。
「ザー・・・メン? ラーメンなら好物だが・・・。まあ名前も似てるし、多分美味しいだろう」
と、何の警戒も無くステーキにナイフを入れ、フォークで口に運ぶ。牛や馬並みの射精量を誇るオークのザーメンがたっぷりと掛かったステーキをである。アオイは今、精液たっぷりの肉を頬張って、咀嚼して、飲み込んだのだ。
「ふむ、美味しいじゃないか。気に入ったぞ、ザーメン」
「なっ・・・?!」
顔色ひとつ変えずにザーメンたっぷりのステーキを食べ、ザーメンでいっぱいのグラスを傾ける。ドロドロで喉に絡み付くオークのザーメンを飲み、オークのザーメンが掛かった肉と野菜を食べていく。アオイの凄まじい精神力を目にして、男たちは驚愕する。
「ああ! 美味しかった! ザーメン味のカップ麺を見つけたら、ぜひ買いだめするとしよう」
舌を改造されているため、精液を美味しいと感じるのは当然だが、しかしそれでまさか、まったく臆することなく食事を終えるとは。これには流石の男たちも驚愕を隠せない。
「ど、どうだったかね・・・、ザーメンのお味は・・・?」
「とても美味しかったぞ。初めて食べたが、これは悪くない。単体で飲むと喉に絡むが、まあ美味しいからいいだろう。次の食事にもぜひザーメンを使ってくれ!」
嫌な顔ひとつせずに、これ見よがしに完食してみせて。更には「こんなものか」と、「この程度の嫌がらせでお前たちは喜ぶのか」と挑発までされてしまった。男の額に青筋が浮かぶ。
アオイがザーメンの正体が精液である事を知らないとは、誰も思っていなかったのである。
こっからエロくなっていくんで。