「我は、グレゴリウス・ラス・ヒョードル。」
足を交差しおどける様な礼をする。
「そこのお前。」
翔の方を指さした。
「なぜ効かぬか不思議なのだろう?」
そう言うと、唇の端を歪に歪ませて笑う。
グレゴリウスの言う通り、翔は不思議に思っていた。
先ほどから掛けている<
「そもそも何故、自分が身動きとれぬのかも分らんだろう。」
「何をした。」
「
「お前の
「我は忍術など使わぬ。」
「では、なんの
「手品などではない、お前たちは
「何だと?」
「お前たちの
グレゴリウスは、上を向いて何かを思い出すようなしぐさをした。
**********
グレゴリウス・ラス・ヒョードルは、ロシアの寒村の産まれだ。
貧乏な暮らしで、両親には喧嘩が絶えず、父はすぐに暴力を振るってきたし、母はそんな彼に関心すら示さず、父が居ない時にはその辺の男を連れ込んでは、小遣い稼ぎをしていた。
彼は、常に激しい憤りを自分の内に隠して生きて来た、父からこれ以上殴られないように、母からこれ以上見放されないように。
そんな彼に転機が訪れたのは十歳の頃だ、その頃、彼の身体には変化が訪れていた。
<
もちろんそんな事を相談できる両親ではなかったので秘密にしていた。
だが、ある夜、彼が眠っている時に、何かが暖かいものが覆いかぶさって来た。
寝ぼけ眼で見てみると、母が彼の巨大なモノをしごき上げ、上から跨っている所だった。
嫌悪感を覚えた彼は、身を
母はほどなく絶頂を迎え、彼も母の中に大量に放出した。
どのくらい彼の上でぐったりとしていただろうか、やがて起き上がった母は、体の向きを変え、彼の顔面に
「ママ、もうやめてよ。」
彼の願いもむなしく、母は奉仕を止めはしない。
そこに、父親が帰って来た。
血相を変えて駆け寄ってくると、母を蹴り上げ、そのまま踵を彼の鳩尾に蹴り下ろす。
常軌を逸した表情で母子を蹴り続けるのを、息も出来ないままじっと耐えていたが、いつもとは様子が違う父親の様子に、死が頭をよぎった時、母の声が聞こえた。
「違うの、あなた、アイツが無理やり…。」
さっきまで歪んだ愛情を自分にぶつけていた母が、恐怖に怯え、
<
彼は初めて、はっきりとその感情を自覚し、開放させた。
それが
<
あまりにも激しい感情の露発は、時に相手をパニックに陥れ無意識のうちに動きを止めてしまう事がある、ヘビに睨まれたカエルしかり。
彼の生来生まれ持つ激しい激情の性格と、それを押さえつけて過ごした十年間は、その力を揺るぎないものに育て上げたのだ。
当初、彼はその力を恐れた。
怯えた表情で固まったままこちらを見ている両親を、激情のまま殴り殺した自分を恐れた。
彼はロシアを抜け出し、日本に密航し、仏門に入る。
そして、二十年に渡る厳しい修行の末
人の生まれ持ったサガは抑えられない。
以降、彼は
**********
「さて、六人と聞いていたが…三人足りんな。」
グレゴリウスは何かを探すように左右を見回した。
「一人、美人が居ると聞いていたが…。」
不満そうに呟く。
(知佐の事だ。)
「ふざけるな!」
グレゴリウスの顔に浮かんだ邪悪な笑みに、翔が反応する。
「ほう、お前と恋仲か?」
「お前の知った事か!」
「
グレゴリウスがニタッと笑いながら問いかける。
「なんだと?」
「まだか…、
「な?」
「好いておるのだろう?何故犯さん?」
「何を言ってる?」
「
それが人間の
翔は返す言葉を失った。
その様子を見て、グレゴリウスは失望したような表情を浮かべる。
「やはり、
そのまま、勝ち誇った瞳を谷本の方に向けると、嘲るように言葉を続けた。
「この女も捨て時だと思うておったがのぅ。」
「グレゴリウスッ!!」
激高した谷本が、その場でキュッと回転し、渾身の回し蹴りを繰り出した。
その背中には半透明の虎を
ガキッ!
なんと、N-BOXを破壊したあの蹴りを、いとも簡単に槍頭の付け根で受け止めると、その足を掴んで無造作に放り投げた。
谷本の小柄な体は反対側の狛犬に衝突し、意識を失う。
「やはり捨て時か。」
そう言って笑うと、恐ろしい一言を発した。
「では、代わりに隠れている美人を見つけて、
グレゴリウスは、中段に構えた槍を翔の方に向ける。
「お前らを
グレゴリウスの強烈な突きが、翔の心臓を目掛けて唸りを上げた。