※この作品はR-18です。

不忍探偵社 Rating-18   作:J・P・シュライン

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第26話 名刀<則宗>

 頼りない新月の光が、鎮守の森に再び注ぎ込み始めた。

 漆黒の闇に慣らされた目には眩しいほどの明るさが、地面に転がる老人を照らす。

 その老人・羽虫田(はちゅうだ) 源之助(げんのすけ)は、額を撃ち抜かれ、既に絶命していた。

 

「いや~、危機一髪やったバイ。」

 その通りだった。

 ダニエルがこちらの意図に気づいて、その一瞬を逃さず仕留めたから良かったものの、もし伝わっていなければどうなっていたか分からない。

 

「結局、<無(・)明(・)の(・)明(・)>っちゃ何やったと?」

「あぁ、アレは口から出まかせだ。」

「は?」

「何なんです?」

 崇継に至っては全くの蚊帳(かや)の外で、何が起こったのか見当もついていない。

 

「<鉄鎖血鎧(てっさけっこう)>というのも、出まかせですか?」

「アレは本当だ。 アレは血液中の鉄(・)分(・)で、体表に鎧(・)を作る術なんだよ。」

「???」

 

「ほら、さっきのデカブツと戦ってる時に、剣と槍がぶつかって火花が散ってたろ?」

「はい、見てました。」

 

「あれがヒントだったんだよ。

 そのコウモリの剣を固い何かで受ければ、火花が散るんじゃないかって、そしたらダニエルが仕留めてくれるだろうってね。」

 

「それにしても、よう首筋狙ってくるって分かったね。」

「いや、それは分からなかったから、全(・)身(・)を鉄で覆った。」

 

「全身!? 人間の身体ってそんな鉄分あるんや~!」

 ダニエルは、感嘆の声をあげる。

 

「まさか!人間の身体にそんなに鉄分ないよ。」

「じゃあ、どうしたんですか?」

 

「呪文唱えて印を結んでただろ?」

 印を結んでたかどうかは見えてないだろうが、呪文は聞こえていたはずだ。

 

「はい。」

「あれで、土の中とか砂利とかから、鉄分を吸収してたんだよ。」

 

「へぇ~、そんな事できるんや!」

 先ほどより更に大きい感嘆の声をあげた。

 

「ただ、全身覆っちゃうとこっちが動けなくなるし、なにより見た目でバレちゃうんだけど…言ったろ、<あ(・)い(・)つ(・)は(・)俺(・)達(・)を(・)見(・)て(・)い(・)な(・)い(・)>って。」

「そう言えば、確かに言ってましたね!」

「ともかく、頼れる相棒が仕留めてくれて助かったよ。」

 そう言うと、ダニエルの肩をポンと叩いた。

 

「それに、そいつの言う事が本当なら、残りはあと一人だ。」

 翔たちは、暗闇の中に僅かな希望の光が差したような気持ちになった。

 

「行きましょう!」

 崇継の力強い言葉に背中を押される様に、闇の中を歩きだす、宇佐神宮上宮本殿へと。

 

 

**********

 宇佐神宮の上宮本殿は、二棟の切妻屋根の建物が前後に繋がる「八幡造(はちまんづくり)」と呼ばれるつくりをしている。

 他の八幡造と大きく違うのは、前後に繋がった本殿が横にも三つ連なっている点だ。

 向かって左から、一之御殿、二之御殿、三之御殿と繋がり、ご祭神は同じく順に<八幡大神>、<比売大神>、<神功皇后>となっている。

 

 国宝に指定されているその社は、厳(おごそ)かにして流麗だ。

 他の神社でもそうだが、通常、参拝客はその手前の拝殿までしか参拝を許されていないため、拝殿の事を神社本体だと思っている場合が多い。

**********

 

 翔たち三人は、安土桃山時代に建造されたと言われる西大門の塀を乗り越えると、上宮の聖域に足を踏み入れた。

 

 研ぎ澄まされた空気がピリピリと肌に痛い。

 

 一之御殿の拝殿の前に来ると、賽銭(さいせん)箱の置いてある奥の扉をそっと押してみる。

 鍵はかかっていないのか、音もたてずに開いた。

 警戒しながら奥に進むと、目の前に並んでいるのは、一之御殿、二之御殿、三之御殿、これが宇佐神宮の本殿だ。

 

 夜目を凝らして見ると、一番奥、三之御殿の扉が開いている。

 三人は、無言のまま手で合図を交わすと、三之御殿の方へ回り込んだ。

 ダニエルと崇継は、ジグ・ザウエルを構え、翔は刀に手を掛ける。

 

 飛び込んだ三人の目の前にあったのは、口のあたりを丸ごと食い千切られた白装束の遺体だった。

 

「なんや、これ?」

 遺体の異常さと、それ以上のおぞましさに、崇継は凍り付いている。

 

「気を付けろ!」

 遺体の腐敗具合から、殺されたのは数時間前だろう。

 

(つまり、殺したのはもう一人の方の男か。)

 

 翔は警戒の視線を周囲に送る。

 その視線が部屋の奥に無造作に置いてある、細長い箱を捕らえた。

 

「おい、あれ!」

 三人は、はやる気持ちを抑えて、その箱に駆け寄った。

 うやうやしく螺鈿のあしらわれたその箱は、中身の貴重さを雄弁に物語っている。

 

「おい、もしかしてそれやないとね?」

「開けてみよう。」

 固唾をのんで見守る中、箱から現れたのは約八十cmの見事な美しいひと振りの刀だった。

 丁子乱れの少ない優美な曲線は大きく反り返り、刀にあまり明るくない翔でさえ、息を飲む美しさだ。

 

 だが…。

 

「(降天菊花)じゃないな。」

「これは何やろか?」

「分からん。」

 翔たちには見当もつかないが、崇継はしきりに頭をひねっている。

 

「思い当たるのか?」

「これは多分、国宝・太刀<則宗(のりむね)>」

 

「なんだそれ?」

「東京の日(・)枝(・)神(・)社(・)が所蔵している名刀です。」

 

「それが何故ここに?」

「分かりません。」

 

「とにかく、他も探してみよう。」

 三人は本殿の中を隅々まで探したが、(降天菊花)は見つからない。

 

「ここにはなかごたるね。」

 ダニエルは失望を隠し切れない調子でため息を漏らす。

 

「そのようですね。」

 崇継は答えながらも、心ここにあらずといった風に、<則宗>の方にしきりに目線を送っている。

 

「気になるか?」

「えぇ、なんとなく。」

 そう言って崇継が<則宗>に手を触れた瞬間だった、なんと、刀身が突然黄金色に輝き始めた。

 崇継は刀に触れたまま、放心したように動かない。

 

「ど、どげんしたとね?」

「分からん、超霊感って訳でもなさそうだが…。」

 二人がしばらく呆気に取られていると、やがて、黄金色の刀身は輝きを失って、元の姿に戻った。

 崇継は落ち着いた様子で刀身から手を放す。

 

「大丈夫か?」

「は、はい。」

 

「もしかして、何か見えたのか?」

「どうやら、日枝神社の宮司に会う必要があるみたいです。」

 

「それは在りかを教えてくれるって事か?」

「分かりませんが会って話したいと。」

 

「なら、急ぐバイ!」

 三人は、(降天菊花)に繋がる細い糸が、手元に握られた事に興奮して、もう一人の存在を失念していた。

 

 二之御殿の扉から外に出た三人の目の前に、一人の男が腕を組んで立っている。

 

「どうやら何か掴(・)ん(・)だ(・)様子だな。」

 

 その男は、鋭い犬歯を剥き出しにして笑った。

 

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