獣達のうち、或る者は高く跳躍し、或る者は身を翻して後方に駆け出した。
梅の花びらは、その全てを何の
「~
翔の言葉と共に解き放たれた、数万の花びらは、命を刈り取る
樹齢数百年の鎮守の森の木々や、国宝の宇佐神宮の本殿でさえもズタズタに切り裂かれ、陰惨な姿をさらしている。
<
ダニエルがその一匹に近寄ると、すうっと姿を消す。
周囲を見回すと、他の八匹も同様に姿を消し、一体だけが残っている。
毛むくじゃらの獣の様だった身体は、元の人間の姿に戻っていた。
翔たちは、その一匹の元に近寄ると、辛うじて息をしている。
「奪われたのは、ワシの方だったか。」
犬山は、翔の姿を認めると、震える唇で語り掛けた。
「まだ、奪っちゃいない。」
「
翔は青白い顔に疑問の色を浮かべた。
「まぁ、分かるまい。」
犬山の<
だが、翔にはそれを知る由はない。
「それに、(降天菊花)も奪う事はできなんだ…。」
「お前たちも在りかは知らないんだな。」
「知っていたら、とうに奪っておる。」
「何のために奪う。」
「我が主様のためだ。」
「その主とやらは、それで何をしようと企んでるんだ?」
質問を続ける翔の額には脂汗が浮かんでいた。
「ワシらの知るところではない、ワシらは命じられたものを奪うのみ。」
「そんな…。」
崇継は憎しみに満ちた目を犬山に向けて呟いた。
父親を殺した張本人だ、憎かろう。
だが、一生懸命に衝動をこらえている。
「お前たちはまだ(降天菊花)を奪うつもりか?」
「答えるまでもなかろう、それが我が主のご意志だ。」
犬山の体からは血が流れ続けている。
「そん主っちゃ誰ね!」
たまらずダニエルが質問する。
犬山は、崇継の方に目をやると、一瞬
「知ってどうする?」
「止める。」
「お前らには無理だ。」
「だが、もう甲賀の忍びは居ないんだろう?」
翔は、苦しそうな呼吸をして質問を続ける。
「何故そう思う?」
「なに?」
「伊賀のお前が居て、甲賀のワシらがおった、なら他の忍者の家系が生きておっても不思議はなかろう。」
犬山の体から流れ続ける血は、足元に大きな血だまりを作って尚、流れ続ける。
「他にもいるのか!何人だ!特徴を言え!」
「七人、ふふふ、風魔一族は凶暴だぞ…。」
犬山の目は、段々と力を失い始めている。
「そいつらの名前は?おい!」
「それに…甲賀にもまだ残って…お…る。」
犬山は一瞬憎しみの光を目に宿らせたが、すぐに全身が弛緩したように力を失った。
「死んだとね?」
「あぁ…、そのようだ。」
翔は力なく答える。
「それにしても、えらい戦いやったバイ。」
ダニエルと崇継は、立ち上って周囲を見回した。
<梅花の舞~
月明かりを遮っていた木々の枝は刈り取られ、新月が惨状を照らし出していた。
本殿の
ダニエルは、<梅花の舞>は人間の水分を使う技だと聞いていた。
だから、アマンディーでの戦闘の後、レオナルドはペットボトルを渡したのだ。
そこでダニエルは気づいた。
(
ハッとして振り向くと同時に、翔が音を立てて地面に倒れ込んだ。
「翔さん!」
崇継もそれに気づき、翔の体を起こす。
小刻みに震える身体は異常な高熱をまき散らしていた。
問いかけにも虚ろな目を返すだけだ。
「こりゃあ、まずかバイ。」
「どうなってるんですか?どうしましょう?」
「脱水症状たい。」
「脱水症状?」
「ほっといたら死んでしまうバイ、とにかく水のあるとこまで運ぼう。トイレのあったやろ。」
ダニエルは翔を担ぎ上げて、来た道を戻ろうとする。
その眼が、神宮に近づいてくる十数台の赤色灯がを捕らえた。
パトカーだ。
さっきの騒ぎで通報が行ったのだろう。
更によく見ると、懐中電灯だろうか、無数の小さな灯りが、列をなして参道をこちらに向かっている。
当たり前だがトイレは参道沿いにしかない。
「まずかバイ。」
焦るダニエルの隣で崇継はしきりに考え込んでいたが、潜入前に見たマップを思い出して、弾けるように答えた。
「そうだ、
「レイスイ?」
崇継は、ダニエルの問いかけを無視して走り出した。
「確か、こっちだったはずです。」
潜入する前に見たマップに、確かにそれはあったはずだ、藁にも縋る思いで、上宮本宮の裏手の道なき道を駆け出す崇継を、ダニエルも必死で追いかける。
すると、神の導きか、<
小さな鳥居のすぐ裏にはたくさんの柄杓が並び、その奥には三つの井戸と灯篭が交互に並んでいる。
「急いでください!」
ダニエルは三つの井戸の中心に翔を寝かせる。
既に翔の意識はなく、呼吸も浅い。
ダニエルは、渡された柄杓で、とにかく水をぶっかけた。
崇継は、翔の口を開け、口の中に水を注ぎこむ。
「頼むバイ、神さまの水やろ!」
「翔さん、死なないで下さい!」
願いを込めて、十分以上ひたすら水を飲ませ、浴びせ掛けるが、一向に意識が回復しない。
「くそぉ!」
崇継が珍しく汚い言葉で怒りを露わにした時、翔の体が内部から僅かな光を発して輝きだした。
「こら、何ね?」
ダニエルと崇継が茫然と見ていると、やがて、その光は消え、その代わりに、
「ガハッッ。」
翔は、口から水を噴き出した。