※この作品はR-18です。

不忍探偵社 Rating-18   作:J・P・シュライン

33 / 78
第33話 失われた力

「ジュツが発(・)動(・)し(・)な(・)い(・)ダト?」

「あの男に何かされたんですか?」

「分からない。」

 

 翔は<梅(・)花(・)の(・)舞(・)>も試してみるが、手のひらからは何も出ない。

 その間にも、シルクハットの男は、細身の剣をクルクルと回しながら、こちらを観察している。

 

「ククク、クックック、これは愉快、愉快ではありませんか!」

 シルクハットの男が声を上げて笑い出した。

 ダニエル達は隠し持っていた銃を構え、翔は同じく背中に隠していた刀を構える。

 

「いや、失礼。でもね、クックック。

 鉄道、飛行機、高速道路全てに網を張れと言われた時、私は本当は空港を担当したかったんですよ。だって、飛行機が一番速いじゃないですか!」

 シルクハットをひょいと投げ上げ、剣の先でクルクルと廻し始める。

「それがまさか、トロトロと車でやって来た挙句、クックック。あなた、忍術が使えなくなってますね?」

 

「それはどうかな?」

 強がって見せるが、内心は火の車だ。

 だが、使えないものに頼っていては、それこそ墓穴を掘ってしまう。

 

 翔は相手に弱みを見せまいと、強がりを続ける。

「全部の交通手段に網を張ってたって事は、お前たちは俺たちの動きを掴(・)み(・)き(・)れ(・)て(・)な(・)い(・)んだな?」

 

「ノープロブレムッ! 問題ないでしょう、だって、あなた、ここで死ぬんだから。」

 ダニエルたちがジグ・ザウエルの引き金を握る指に力を込めた瞬間だった。

 

「砂上楼閣(さじょうろうかく)・不衡不承(ふしょうぶしょう)。」

 男の声と同時に、轟音(ごうおん)を響かせて足元が大きくうねり始めた。

 銃の狙いを絞るどころか立っても居られない。

 

「地震バイ!」

 

 シルクハットの男は相変わらず、剣の先で帽子をもてあそんでいる。

 

「いや、奴は揺れてない! 奴(・)の(・)術(・)だ、幻(・)覚(・)だ!」

「ザッツライッ! 大正解ッ! ご褒美に震(・)度(・)も倍(・)ッ(・)!」

 

 揺れは更に激しさを増し、もはや膝まづいているのさえやっとだ。

 横を見ると、座りの悪い軽ハイトワゴンは軒並み横倒れだ。

 

「これが幻(・)覚(・)なんですか!?」

 崇継が恐怖に押しつぶされまいと叫ぶ。

 

「こんクソがっ!」

 ダニエルが一か八か転がりながら銃を連射するが、弾は明後日の方向に飛んでいく。

 

「このお馬鹿さんッ!」

 シルクハットの男は、軽やかに、小ばかにする様に、ステップを踏み始めた。

 

「人は空を飛ぶ鳥じゃないのよ! この大地に足を踏みしめて生きている生き物よ!

 この青(・)山(・)龍(・)一(・)の<砂(・)上(・)楼(・)閣(・)>は、その足元をが揺らす<幻(・)術(・)ッ(・)>!

 私の術にかかれば全ての人間はまさに砂上の楼閣のように崩れ去るのみなのよ!

 さぁ、身の程知らずのお馬鹿さんは、芋虫みたいに転がって、這い蹲って死になさい!」

 

 青山はシルクハットを被ると、片眼鏡をクイッと掛けなおし、四人を嘗め回すように見回すと、剣先でレオナルドを指名した。

 

「まずはその金髪さんね。」

 そう言うとボックスを踏みながらジリジリとレオナルドに近づく。

 

「まぁ、わざわざ私が止めを刺さなくても、このまま踊ってればあなたの脳はシェイクに耐えられなくてバーンッ!しちゃうんだけどねっ!」

 恐ろしい言葉を投げかけながら、バカにするように踊っている。

 

「おい、ダニー!」

「な、なんね!」

 

「紐(・)だ(・)!」

「はぁ?」

 

「ラーメン屋はチ(・)ャ(・)ー(・)シ(・)ュ(・)ー(・)紐(・)持ってるんだろ?」

「はっ、も、持っとる!」

 翔の意図に気づいたダニエルが、転がり寄ってきてチャーシュー紐を手渡しする。

 どうにかこうにか受け取った翔は、その紐を<忍(・)者(・)も(・)や(・)い(・)>に結ぶと、当てずっぽうで放り投げた。

 

「南無三!」

 

 祈るような気持ちで紐を握る手に、しっかりとした手ごたえが伝わる。

 焦点の定まらない目の端に、駐車場の奥に立っている木の枝にしっかりと結束しているのが映った。

 

(よし!)

 

 紐を頼りに、気に登ろうとする翔を、ダニエルが丸太の様な腕で後押しする。

 青山が気づいた時には、翔は木の枝に止まっていた。

 

「おい、オ(・)カ(・)マ(・)野(・)郎(・)。」

「何よッ! アンタいつの間にそこにっ!?」

 

「青山とか言ったな、あんた口調がオ(・)カ(・)マ(・)になってるぞ。」

「うるさいわね! 更に震(・)度(・)倍(・)よ(・)っ!」

 更に揺れが強くなり、ダニエル達はもはや這(は)い蹲(つくば)ることしかできない。

 

「このまま全員シェイック!してイッちゃいなさいッ!」

 

 翔は、紐を短くして後ろ向きに思いっきり跳躍する。

 ブランコの要領で遠心力を付けると、右手に刀を構え青山の方に向かって飛んだ。

 青山の言っていた通りだ、空中では<砂(・)上(・)楼(・)閣(・)>の効果はない。

 

「きぃっ、踏んづけてやるッ!」

 青山がへっぴり腰に細身の剣を構える。

 

「ご愁傷様!」

 翔は、青山のおもちゃの様な剣の上から、渾身の太刀で袈裟懸(けさが)けに切り捨てた。

 

 

**********

 

 青山が音をたてて崩れ落ちると、激しかった揺れはピタリと治まった。

 だが、周囲を見回すと、重心の高い車は軒並み横倒しになり、そこら中に人が倒れている。

 

「今の地震凄かったね、震度9位あったんじゃない?」

「いや震度10だろ。」

 いち早く立ち直った人たちは、口々に今の地震の凄さを口にして怯えている。

 

「おい、翔、今の幻覚やなかったとか?」

「分からん、あいつ自身も<幻(・)術(・)>って言ってたけど…。」

 翔にも訳が分からない。

 

「ソレより、イツからダ? ショウ!」

 そうだ、今はそれよりも自分の事だ。

 

「分からない、宇佐神宮での一件以来、忍術を使ったのは今日が初めてだから…。」

「もしかしたら、<霊(・)水(・)>か?」

「そうかもしれませんね…。」

 四人は押し黙ってしまった。

 

 まだ、六人残っている風魔一族に、甲賀の蜂谷姉弟、翔の忍術なしに立ち向かう事が出来るのだろうか。

 

「トニカク、後戻りはデキないんダ、対処法はトウキョウで考えヨウ。」

「そうだな、忍術は使えなくても、さっきの奴みたいに機転と最新の武器があればなんとかなるさ! さぁ、ここで仮眠して起きたら東京だ!」

 翔は努めて明るく振舞ってみせたが、心の中は暗澹とした想いに囚われている。

 

 これまでの半生を掛けて習得した、役(・)立(・)た(・)ず(・)の忍術。

 それがよ(・)う(・)や(・)く(・)役に立つ時が来たのに…。

 忍術の使えない忍者など、もはや何者でもない、<飛(・)べ(・)な(・)い(・)鳥(・)>それが今の自分だ。

 握りしめた翔の拳からは、血が滲んでいた。

 

(でも、もしかしたらあの人なら…。)

 翔は僅かな希望を抱いて、ひと時の眠りについた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。