頼みの綱だった半次郎から非情な宣告を受けた翔は、気持ちの整理を付ける様に、鬼子母神西参道を頼りない足取りで、都電荒川線の線路の方に歩いていく。
雑司ヶ谷の町並みは、細い道の両側に戸建ての民家が立ち並ぶ、下町然とした佇まいだ。
しばらく歩くと、一方通行だった道路が、二車線になる。
石畳の鬼子母神表参道と合流するためだ。
翔はくるっと向きを変え、表参道を鬼子母神の方へ歩きはじめる。
歩きながら、ここ数日の出来事を頭の中で反芻した。
知佐を
俺は
それなのに
知佐も、忍術も。
絶望が翔の心に暗い影を落としていく。
翔は、突き当りを左に曲がり、ぼうっとした足取りのまま鬼子母神堂へと進む。
投げやりな気分に支配され、気が付いたら一回りして鬼子母神堂の前に来ている。
(ふっ、
自嘲気味に力なく笑った翔は、正面の階段に腰かける革ジャンを着た女性と視線が交錯した。
(綺麗な目だな。)
ぼうっとした頭に、アーモンド形の綺麗な瞳が鮮烈に映った。
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翔たちを発見した報告を思いとどまった蜂谷薫は、投げやりな足取りで鬼子母神の裏手から正面にまわると、
(ふっ、
自嘲気味に力なく笑う。
確かに、紗織の誘拐は命令にない独断だった。
だが、命令通りに動いた犬山は死んだが、その隙に自分は人質に使える紗織の誘拐に成功した。
(紗織の身柄を手土産に、甲賀の首領の座を取り戻し、みかど様
その未来を信じて疑わなかった蜂谷姉弟に待っていたのは、みかど様の激しい叱責と、風魔一族のいち構成員に過ぎない咲山の部下への配置転換だった。
その咲山の命で、都内の服部一族に関係のあるものの所には、一山いくらの下っ端が見張りに出されている。
だが、風魔の青山とかいうバカが海老名で起こした大騒ぎのせいで、上の連中は後始末に大忙しで、その上、これ以上の騒ぎを避けるため、崇継たちには当面手出し無用の勅命が出ている。
そして、今朝聞いた報告では、伊賀の忍者・服部翔は忍術を失っているという。
はからずも、これで両者共に表だった派手な動きは出来なくなった訳で、簡易的な休戦状態と言ってもいいだろう。
(もう、どうでもいい…。)
階段に腰かけると、投げやりな気分で境内を眺める。
樹齢700年を超える大イチョウが、朝日に照らされて気持ちよさそうに羽を伸ばし、鳩たちがのんびりとエサを啄んでいる。
不安定な人生を渡り歩き、立ち直りの早さを心の支えにして生きて来た自分が、こんなに落ち込むとは自分でも予想外だった。
立ち直りが早いと言っても、落ち込まない訳ではない。
人並みに、いやむしろ人並み以上に落ち込むタイプだ。
そこを付け込まれた。
咲山の優しい眼差しと、心の傷ついた部分を撫でるような甘い言葉に、つい身体を許してしまった。
今まで、忍者として、任務として、その魅力的な肢体を使う事に抵抗はなかったし、最中も常に気を張っていた。
男に
行為の後、途端に自分に興味を無くしたように眠る咲山を見て、薫は強烈な自己嫌悪に襲われる。
忍者としても、人としても、自分の弱さを突き付けられた気がして、朝を待たずに咲山のベッドを抜け出した。
(私は惨めだ…)
どうしようもない自己破壊願望を自覚しながら、境内を眺めていると、視線の先に知った顔が現れた。
服部翔。
(かわいそうな男…)
翔に感じたのは敵意ではなく、
突然血なまぐさい事件に巻き込まれ、ボロボロになりながら命がけで守ろうとした者に裏切られ、東京まで追って来たものの、今度は人生の大半を掛けて習得した忍術を失った、かわいそうな
ぼうっと眺めていると、ふいに翔と視線が交錯した。
(あぁ、綺麗な目だな。)
ぼうっとした頭に、憂いを帯びた翔の瞳が鮮烈に映った。