※この作品はR-18です。

不忍探偵社 Rating-18   作:J・P・シュライン

37 / 78
第37話 それぞれの憂鬱

「んっ、んっ、はぁっ、あっ…んっっ!」

 

 女は自らが上になり、小気味よいリズムで腰をグラインドさせ、男を快楽へと導いている。

 男の方は片手に女の腰を掴み、もう片方の手は形の良いメロン大の乳房の先でピンと自己主張している乳首を弄っていた。

 

「はぁっ、あぁっ…んんっっ!」

 

 女の激しい腰使いに、男はたまらず女性の中に放出する。

 不満そうに男の体から離れる女を尻目に、男は自分でゴムを外して口を縛ると、ゴミ箱へ放り投げた。

 

「ちょっと、ちゃんと拭きなさいよ。」

 

 女の苦言を無視して、男はそのまま反対側を向いて布団をかぶる。

 女は自分の股間をティッシュで拭くと、備え付けのガウンを羽織って、浴室へと向かった。

 浴室では、FRP製の浴槽それ自体が発光して近未来的な非日常感を醸(かも)し出していたが、女はそのまま外にある露天風呂へと足を運んだ。

 

 鎌田にあるラブホテル・ラムセスの最上階のその部屋は、ゴージャスな露天風呂を備えている割にリーズナブルなので、記念日などに利用するカップルが後を絶たない。

 

 蜂谷薫は、石張りの段を三段登って、すっかり冷めてしまった湯船に身を沈める。

冷めたお湯が、火照った身体を心地よく冷ましてくれる。

 しばらくそのままでいたが、冷えて来たのでお湯を継ぎ足す。

 徐々に温かみを増すお湯の中で、薫は自己嫌悪に浸っている。

 

(バカな女ね、また咲山なんかに抱かれるなんて…。)

 

 自分でもバカだと思うが、誰かの温もりを感じる事で、自分が誰かに必要とされている実感が欲しいのだ。

 お湯に浮かぶ形の良い乳房を自分で撫でると、目を閉じて頭の先までお湯に沈み込んだ。

 

 水の音しか聞こえない一人きりの空間で、薫は、今朝の事を思い出す。

 

 

**********

 

「おはようございます。」

 ぼうっと翔の瞳を見つめていた薫は、翔に挨拶をされて、我に返った。

 

「あ、おはようございます。」

 慌てて立ち上がって挨拶を返すが、自分でも分かる位に動揺している。

 

(私は一体何をやってるんだ、任務中にぼうっとして! 忍者失格だ!)

 焦ってあたふたしている薫の姿が可笑しかったのか、翔は微笑みながら優しい目で薫を見ている。

 

「この辺の方ですか?」

「えぇ、まぁ、そんな所です。」

 薫は我ながら怪しい答えだと思ったが、接触するつもりは毛頭なかったので、言い訳なんて考えていない。

 

「当ててみましょうか?」

 翔は薫の方をジーッと探るように見ている。

 

(バレたか?)

 薫はこわばった笑顔を翔に返す。

 

「音大の講師の人でしょ!」

 鬼子母神のすぐ近くには、東京音楽大学が舎(まなびや)を構え、音楽家の卵たちが日々腕を競い合っている。

 

「え、えぇ、そうなんです。」

(そう思わせておけば、今後の監視も何かと楽だろう。)

 薫は緊張の解けた笑顔を翔に預けた。

 

「ダメですよ、サボっちゃ!」

 翔は、両手の人差指で✕を作ると、おどけたように睨んだ。

 

「はーい、サボり終了! 戻りまーす。」

 こちらもおどけた様に返すと、その場を後にした…。

 

 何気ないやりとりを思い出しながら、頬が緩んでいるのに気が付いて、慌ててお湯から顔を出した。

(私は一体何をやってるんだ、忍者失格だ。)

 

 

**********

 

「ただいま~。」

 翔は<服部茶房>のドアを開けて、イートインコーナーに顔を出した。

 テーブルの上に置かれている卵焼きは、鮮やかな黄金色に輝き、味噌汁から立ち上る香ばしい香りは、食欲を掻き立てる。

 

「お帰り~、待っとったバイ。」

「ごめんごめん。」

「ナニか、フッきれたようダナ。」

「まぁな。」

「さぁ、ご飯の前にはまずお(・)茶(・)だ。」

 半次郎が淹れてくれた玉露(ぎょくろ)のお茶を口に含むと、口の中に渋みの少ないすっきりとしたコクが広がった。

 

「いただきます!」

 四人は一斉に食事にかぶりついく。

 

「まぁ、みんなよっぽどお腹空いてたのね。」

「おかわりあるから、みんな一杯食べろよ!」

 半次郎と菜々は、重苦しい雰囲気から解放されて喜んでいるようだ。

 

「ナニかアッタのか?」

「どうせまたコマしてきたっちゃろ。」

 危うく味噌汁を噴き出しそうになった。

 どうしてこいつの勘はこんな時だけ鋭いのか…。

 

 

**********

 

 2019年(平成31年)4月13日

 ~東京・南光院邸~

 

 白を基調にした部屋は、モダンな家具で統一され、かわいらしさの欠片(かけら)もない。

 ベッドの脇に置かれたサイドテーブルの上に、ちょこんと置かれたくまモンのぬいぐるみが唯一、十歳の女の子らしさを主張している。

 紗織は、ベッドの上に寝転がると、溢れそうになる涙を堪えた。

 あの日訳も分からず宇佐神宮前の旅館から連れ出されてから、知佐とはロクに口をきいていない。

 

(せっかくお友達になれたのに。やっと、さぁちゃんと呼んでくれるようになったのに。)

 

 コンコン

 部屋にノックの音が響く。

 

「はい。」

「失礼します、紗織様。」

 入って来たのは、知佐だった。

 テーブルの上に手つかずになっている食事を見てため息を漏らす。

 

「紗織様、少しは召し上がって頂きませんと。」

「もういい! 出てって!」

 知佐に向かってくまモンを投げつける。

 

「紗織様、これは投げるモノではありません。」

 知佐は、片手でくまモンをキャッチすると、サイドテーブルの上に戻す。

 

「暖かい食事を運ばせますので。」

「いらない! もう出てって!」

 紗織は頭から布団を被って拒絶の意思表示をする。

 知佐は、ため息をついて部屋を出て行った。

 

 ドアが閉じた音を確認して、布団から顔を出すと、サイドテーブルで間の抜けた表情をしているくまモンに問いかける。

「ねぇ、くまモン、さぁちゃんは変わっちゃったの?」

 くまモンは、間の抜けた視線を返すだけだ。

 

**********

 

 後ろ手にドアを閉じた知佐は、大きくため息を吐いた。

 本当は、さぁちゃんと呼んで頭を撫でてあげたかったが、至る所に監視カメラが仕掛けてあるので、それは出来ない。

 

(さぁちゃん、私だけはあなたの味方だよ。)

 

 皇宮警察に入り、裏の任務に就いた時の知佐からは、想像もできない心境の変化だった。

 知佐は、裏の歴史を父から聞かされた時、自分の警察人生を、裏の歴史を守ることに捧げる事に迷いはなかった。

 自分が皇宮警察という職を選んだのはこの為だったと、誇りにさえ思ったほどだ。

 

 だが、幼い兄妹との出会いが、その心を変えた。

 月並みな言葉で言えば、<惚(・)れ(・)た(・)>のだ。

 

(何とか翔君に連絡をとって…いや、それは無理ね、私だけでやるのよ、知佐!)

 

 そう自分に言い聞かせると、踵(きびす)を返して紗織の部屋を後にした。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。