翔たち三人は、住宅街の細い抜け道を潜り抜けて池袋方面に歩くと、グリーン大通りとサンシャイン通りの間にある細い路地にあるバー<
80年代の洋楽のリクエストをレコードで答えてくれる落ち着いた店だ。
雰囲気の良いBGMと自家製のビーフジャーキーを肴に、久しぶりのカクテルをたっぷり堪能する。
二階のゆったりとしたソファー席はデート向けだが、今日は男三人なので一階のカウンターで気楽に酒を楽しんだ。
しばらく飲んでいると、混み始めたので店を後にしてお目当てのラーメン屋に向かう。
グリーン大通りから明治通りに向かい、酔客でごった返すマンモスターミナル池袋駅の手前で左に折れる。
しばらく歩くと、ビックリガード手前の角にその店はあった。
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外国人向けのガイドブックに載っているせいか、いつ行ってもアジア系の旅行客の行列が出来ているのが唯一残念な所だが、味は折り紙付きだ。
普段ラーメン屋に並ぶことのない三人も、旅のついでと割り切って並ぶ事にした。
並んでいる間にメニューを持った店員が注文を聞きに来る。
そうする事で、着席してからラーメンを待つ時間は少なくしているのだろう。
程なくすると、順番が来たので三人は店内に入る。
カウンターのみの店内は、背中合わせに約二十人程のキャパシティーがある。
三人横並びになってラーメンを待っていると、店内の様子をキョロキョロと覗いていたダニエルが小声で話しかけて来た。
「おい、あそこ。」
見ると後ろのカウンターで若い女性客が一人、出されたラーメンに手を付けずにいる。
背中越しで分からないがどうやら泣いているようだ。
「コマシとくね?」
「ばか、夜中に一人でラーメン屋で泣いてる女なんて、地雷に決まってるだろ。」
「ナルホド。」
「そもそも、ラーメン屋でナンパするヤツなんて、見たことあるか?」
小声でそんな話をしていると、その女の隣に二十代後半くらいの男が座った。
ライトブルーのステンカラーのコートに、ホワイトのカットソーとブラックデニムを合わせて爽やかに振舞うその男は、翔たちの話を聞いていたのか、軽くウインクをして寄こす。
翔たちが気まずそうにしていると、丁度ラーメンが運ばれてきたのでこれ幸いと食らいついた。
豚骨醤油ともいうべきそのラーメンは、こってりとしたスープに中太の麺が絡んで食べ応えのある一杯だ。
博多ラーメンではまず見る事のない<
テーブルには生ニンニクとクラッシャーが置いてあり、それを使うとよりパンチの効いたした味わいになるのは分かっていたが、匂いが残りそうなので遠慮した。
あっという間にスープまで飲み干して完食すると、後ろの席の男は隣の女性に何やら話しかけている所だ。
聞くともなく耳を澄ましていると、話がまとまったのか、その男は女の肩を抱いて立ち上がらせると二人分の伝票を持ってレジへと向かった。
「おい、あん人ラーメン屋でナンパしよったぞ。」
「初めて見た。」
「ドコにでもスケコマシは居るんダナァ。」
レオナルドがスープをレンゲで掬いながら呟く。
それが聞こえたのかどうか、その男はこちらを向くと、またウインクを寄こした。
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ホテルリンデンは、池袋駅からほど近い、西池袋通りにあるラグジュアリーなラブホテルだ。
最上階の客室には露天風呂を設け、ラブホテルらしくない大面積の窓から望む池袋の夜景目当てに休日ともなれば順番待ちで入れない。
そのホテルの前の車止めに、黒い革ジャンに黒のスキニーデニムを合わせた女が所在なげに腰かけている。
蜂谷薫だ。
薫は、何かを見つけると、車止めから飛び降りた。
薫が見つめる先からは、ライトブルーのステンカラーのコートにホワイトのカットソーとブラックデニムを合わせた男が、女を連れて歩いてくる。
「咲山。」
薫はその男に声を掛けた。
咲山は連れの女に何事か含めおくと、薫の方に近寄ってくるなり横っ面を引っぱたいた。
「何故ターゲットの事を報告しなかった。」
「わ、私も先ほど発見したので、今ご報告にと。」
「まぁ、いい、お前の報告はベッドで聞く。」
そう言って、離れて待っている女の方を親指で指しながらニヤリと笑う。
「ただし、あの女の後だ、終わるまでここで待ってろ。」
薫はいきなり咲山の頬を引っぱたいた。
「お前の女扱いするんじゃないよ!」
もう一発食らわせようとする薫の手を掴んで、咲山はニタッと笑った。
「女扱い?笑わせるな、お前は犬だ、ただのメス犬なんだよ。」
薫は掴まれている手を振りほどいて睨みつける。
「言う事を聞かない犬は…。」
咲山は親指を横にして首の前に掲げ、掻き切る仕草をすると、舌を出して笑う。
怒りに震える薫に背を向けると、待っている女を呼び寄せた。
「なぁに、あの女?」
「ストーカーだよ、ちょっと優しくしたら勘違いしちゃったみたい。」
聞こえよがしに言うと、二人はホテルの中へ消えていく。
薫は傍にあった標識を力任せに殴りつけると、その場にへたり込んだ。
夜空を見上げるアーモンド形の目からは、止めようもなく涙が零れてくる。
人目を忍んでラブホテルに向かうカップルたちは、そんな薫には目もくれない。
どうしようもない孤独に耐えかねて、薫は絞り出すように声をあげた。
「誰か、助けてよ…。」