~東京・池袋~
<自由学園・
緑色の低い屋根が左右対称に広がり、水平線を強調したその外観は、素朴でありながら力強さを感じさせる。
1950年代頃までは校舎として使っていたが、現在は結婚式場や卒業生たちの様々な行事に使用されている。
国から重要文化財に指定されており、使用しながら保存するという取り組みのモデルケースとしても、その価値は高い。
翔とダニエル・レオナルド・崇継の四人は、夕食の後、半次郎のお使いでロフトで買い物を済ませると、散歩がてら<明日館>の前に来ていた。
カクテルライトが緑の芝生を照らし、ライトアップされた低く伸びる緑の屋根が、どこまでも続く広がりを想起させ、まるで自然の一部のようにも思える。
「ちょっと入ってみよか?」
ダニエルがいたずらっ子の様な事を言い出した。
「マズいですよ。」
崇継が周りを見廻して制止する。
「ちょっとだけならよかやろ!」
制止を無視して忍び込むダニエルに、三人はやれやれと言った感じで後に続く。
「やっぱ近くで見ると、余計綺麗かね。」
「タシカニ、ウツクシイ。」
翔と崇継も、幾何学的な建具の装飾など、現代建築が削ぎ落としてしまった、作り手の情熱を伺わせる優美な意匠に見とれている。
すると、どこからともなく
浴衣を着た巨漢の男で、
匂って来たのは髷を結う時に使う
「おいおい、
「この辺に相撲部屋でもあるんですかね?」
「ソウいえば、トランプも観にクルんダロ?」
確かに、東京で開催される5月場所には、国賓としてアメリカ大統領が観戦に訪れると言う事で話題になっていた…だが。
「本物の相撲取りは、こんな時間に稽古なんかしない。」
その男は
「敵と思うカ?」
「あぁ、間違いないだろ。」
「あん、スモウレスラー、力比べする気バイ。」
190cmを超える巨漢のダニエルが腕まくりをして、相撲取りにゆっくりと歩み寄り、その横では崇継がジグ・ザウエルを構える。
「待て、奴は忍者かもしれん、相手の
「もう既に
ゴウッと地鳴りのような音と共に、相撲取りとダニエル、崇継を載せた地面が盛り上がり、見る間に八十cm程の高さになる。
四角錐のてっぺんを切り取ったような形のそれは、まるで相撲の土俵だ。
その土俵を囲うように、四辺に透明な
ご丁寧に、屋根には紫の
「
「ナ、ナンダ?」
「おい、大丈夫か?」
透明な帳の外から声を掛ける翔とレオナルドに、ダニエルと崇継は不安そうな笑顔を返した。
「
相撲取りは厳粛な響きで言い放つと、浴衣を脱ぎ捨てた。
<相撲>
その起源は神話にまで
<古事記>にある
当初は神々の力比べであった相撲が、人間同士の力比べになったのは、同じく<古事記>によれば、
もっともこの頃の相撲は今の様な型でなく、蹴りを中心とした原始的な格闘技であったとされているが、ともかく、その記述をもって二人は相撲の始祖として祀られている。
そんな相撲はいつの頃からか、神事へと姿を変えていく。
豊作のお礼として、神に捧げる奉納相撲がそうだ。
また、相撲の勝ち負けを占いとして用いる事も一般的であった。
そのような神事としての相撲が一般化されていく中で、土地の邪気を払うという意味合いを持つ四股を始めとした儀礼の所作は重要視され、形式美と呼べるものにまで発展して、現在に至る。
相撲取りは
「
蹲踞の姿勢のまま、尚も講釈を垂れようとする相撲取りを無視して翔が叫んだ。
「構うな、撃て! 奴は丸腰だ!」
「たわけが!」
相撲取りが一喝する。
「神聖な土俵に武器などは持ち込めぬ。」
よく見ると、ダニエル達が持っていた武器は全て帳の外に放り出されている。
「ナラッ!」
レオナルドがサイレンサー付きのジグ・ザウエルを発砲するが、透明な帳に遮られて中には届かない。
「たわけが!」
相撲取りが再度一喝した。
「神聖な奉納相撲は一対一の勝負事、外野が邪魔だてをするな!」
「じゃあ、なんで
「小僧は行事役だ!…もっとも、ただの飾りにすぎんがな。
勝ち名乗りが上るまでは指一本動かせんわ!」
崇継は不安そうにこちらを見ている。
「知っているか? 古代の相撲は、蹴りで相手を倒し、倒れた相手に止めをを刺して決着としたそうだ…。我が奉納相撲のルールは簡単、土俵外に出た者が負け、すなわち命を落とす。
それまでは土俵に手を付いても寝転がっても良し!」
「素人相手に一対一の相撲勝負とは、風魔も案外と弱気なんだな。」
翔が挑発の言葉を投げる。
「挑発して加勢しようとしても無駄だ、我が奉納相撲のルールは絶対!
一度土俵に上がれば俺でさえ変更は出来ん!
まぁ、このルールに
そう言うと、おもむろに
仕切りの体勢に入ってダニエルを睨みつけて言い放った。
「待ったなし!」