※この作品はR-18です。

不忍探偵社 Rating-18   作:J・P・シュライン

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第53話 女王蜂

 ~東京・南光院邸~

 

 警護隊の休憩室では、冷たくなっていく自分の父親・九条晃の横に膝から崩れ落ちた知佐が、銃を握ったまま涙を流している。

 

「お父さん…。」

 厳しくも優しかった父の命を自らの手で奪った事実を、受け止めきれずにいる知佐の耳に、紗織たちが逃げて行った扉の方から足音と悲鳴が聞こえてきた。

 

(さぁちゃん…行かなきゃ…)

 知佐が起き上がると同時に、紗織たちが逃げて行った扉から男が飛び込んでくる。

 

「本部長大変ですっ!」

 飛び込んできた男は、中の光景を見て一瞬動きを止めたが、すぐに銃を構える。

 

「貴様っ、がはっ!」

 男は後ろから太い針のようなもので貫かれると、そのまま体を持ち上げられ、反対側の扉まで吹き飛ばされた。

 

 男が居た場所には、黒いレザージャケットに黒いスキニーデニムを履いた、アーモンド形の瞳をした女が立っている。

 尾骨の辺りからは、黄色と黒の縞模様の蜂の尾のようなものが、先端に針を付けたまま左右にゆっくりと揺れていた。

 

「女王(じょおう)蜂(ばち)。」

 蜂谷薫は抑揚のない冷めた声で呟く。

 

「蜂谷薫! あなた…何故ここに?」

 

 蜂谷薫は部屋の中を見回すと、知佐の疑問には答えずに妖艶な笑みを浮かべる。

「九条知佐、親殺しの女か…。」

 

 知佐は、はっとして目を伏せる。

「ち、違うの…これは。」

 咄嗟(とっさ)に否定の言葉を紡ぎだしたが、続きが出てこない。

 

(そうだ、私は父を殺してしまった。

 人の命は小事じゃないと、偉そうに言ったその口で、今度は嘘を吐くの?)

 

 知佐は言葉を失った。

 

「お前も人殺しだ、九条知佐。」

「違う、私は…。」

 

「…お前はいずれ翔も殺す。」

「なに?翔?」

 聞き返す知佐に、薫は殺意のこもった目を向ける。

 

 蜂の尾がゆっくりと知佐の方に動き、針の先端が知佐に狙いを定めた。

 その針は毒液に濡れている。

「だから私がお前を殺す。」

 

 女王蜂の針が知佐に襲い掛かった。

 

「なにしとんのや!」

 咄嗟に飛び込んだ谷本が知佐を突き飛ばすが、知佐の右わき腹は深くえぐり取られている。

 

「なにしとんのや?」

 谷本が改めて聞く。

 

「お前こそ何してる?く(・)た(・)ば(・)り(・)損(・)な(・)い(・)。」

「質問に質問で返すなや、いてまうど。」

 

 谷本は四つん這いになり、襲撃体制に入ると尻を高く突き上げて左右に振り始めた。

 しかし、その体は傷だらけで、背中の虎は今にも消えてなくなりそうだ。

 

「く(・)た(・)ば(・)り(・)損(・)な(・)い(・)が!」

 薫は女王蜂の針の狙いを定め、手にはサバイバルナイフを逆手持ちにして構える。

 

 一触即発の空気が張り詰めていく所に、野球のボールの様なものが飛び込んできた。

そのボールは、ポンッと乾いた音を立てて弾けると、煙幕が周囲を包む。

 

(しまった、仲間か。)

 薫は身を縮めて襲撃に備え、周囲に神経を配る。

 

(…逃げたか。)

 煙が晴れると知佐と谷本の姿はなく、その代わりにおびただしい量の血痕が出口の方へと続いていた。

 

(服部半次郎の仕業だな。)

 一瞬出口の方を睨み、追う姿勢を見せたが、背後から警護隊が駆けつけてくるのを察すると、天井裏へと姿を隠す。

 

(女王蜂の毒に解毒剤はない、どのみち九条知佐はもう終わりだ。)

 薫は、ぞっとする程に凄惨な笑みを浮かべた

 

 

**********

「おい、急げ! 急げ!」

 半次郎が谷本と奈々を急かす。

 

「無茶言うなや、けが人やぞ!」

 谷本に背負われている知佐は、意識を失いえぐられた脇腹からは出血が止まらない。

 

「居たぞ!あっちだ!」

「回り込め!」

「止まれ、止まらんと撃つぞ!」

 

 警告と銃撃の音が鋭く響く。

 

「君たちは正門へ急げ!」

 半次郎が覚悟を決めたように立ち止まる。

 

「半次郎さん!」

 振り向いた奈々に、不器用なウインクを返す。

 

「この服部半次郎がここから先は一歩も通さん!」

 半次郎が一世一代の大見得を切った所で、正門から激しい衝突音が響いてくる。

 

 ガゴンッ

 

 鉄のゲートがブチ破られて、ウニモグが猛スピードで突進してきた。

 

「イソゲ!!」

 運転席のレオナルドが手を振り回して合図している。

 

「あっちだ、急げ!」

 半次郎は奈々たちに指図すると、背負っていたデイパックから持てる限りの煙球(けむりだま)を取り出して追手に投げつけた。

 轟々(ごうごう)と湧き上がる煙に巻かれて追いつけない追手を尻目に、半次郎たちはウニモグに乗り込む。

 

「急げ、急げ!」

 キャビンの中から運転席の窓を叩いて、避難完了を伝えると、レオナルドがアクセルを踏み込んで急発進する。

 正門の警護官が駆けつけてくるのを、タイヤの跡をベッタリと路面に付ける急旋回で蹴散らすと、正門を突破して、南光院邸を脱出した。

 

「サオリちゃんハ?」

 運転席とキャビンの間の窓を開けてレオナルドが尋ねる。

 

「それより病院だ! 急げ!」

 横目にキャビンの状況を確認するレオナルドの目に、知佐の体の下に広がる血の海が映った。

 

 

 **********

 ~東京・日枝神社~

 

「かっ」

 

 咲山は銃を構えたまま、信じられないと言いたげに目を見開いたまま固まっている。

 

 翔は、まだ思うように動かせない体を動かし咲山の銃を奪うと、銃握で思いっきり咲山のこめかみ辺りを殴りつけた。

 吹っ飛ばされた体が巫女に激突し、翔の視線が外れると、術も解ける。

 

「お、お前、忍術を失ったはずじゃ?」

 咲山は呻くような声をあげる。

 

「あぁ、失った。」

 翔も信じられないものを見るように、自分の体を見つめている。

 

「では、今のは?」

 足にきているのか立ち上がれない咲山は、手と尻を使って後ずさりする。

 

「戻ったらしい。」

 そう答えた翔には爽やかな笑顔が戻っている。

 

「さて、風魔の女たらし。」

「ふっ、形勢逆転という訳か。」

 城山は観念した様にあっけらかんとした声で答えた。

 

「(降天菊花)はどこだ?」

「知らん。」

 翔は奪ったジグ・ザウエルの銃口を咲山に向ける。

 

「知らん、本当だ、だが、みかど様は知っておられる、どこへかは知らんが残りの風魔を連れて出立なされた、俺はお前たちの後始末を命じられただけだ。」

「お前たちとは?」

「お前と、そこのガキと、お屋敷に捕らわれている娘だ。」

 

「紗織も?」

 崇継が会話に割って入る。

「当然だろう、もうお前たちの血筋に用はない。」

「僕たちの血筋…。」

 崇継はその言い方に引っかかった。

「もしかしてお爺さんも?」

 

「放っておけば数日で潰える命だ放っておけ。…との仰せだ。」

 崇継は少しだけ安心したようなそぶりを見せた。

 

「残りの風魔の人数と術は?」

「残りは…」

 

 突如、鋭い銃声が響き、咲山の心臓を銃弾が貫く。

 

「ペラペラと良く喋る、いけ好かねぇ奴だぜ。」

 驚いて振り返る翔に、蜂谷攻(こう)が銃口を向けた。

 

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