※この作品はR-18です。

トキヨジセツ~第二部・偉人達と恋の誘惑~   作:氷ユリ

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9 魅惑のひととき

 レオナルドさんとサンジェルマンさんを両隣に、両手に花(イケメン!)の状態で馬車に揺られる事二十分弱。やがて目的地に到着した。

 

「さあ、着いたよ」

「ここですか?……想像以上だわ……」

 その建物はとても美しく彫刻が施され、まるで童話の世界に出てくるお城のようで、目を丸くするばかり。

「ここはいろいろなイベントの時に使うんだ。フィンセントの事は知っているかな。彼の絵画を展示して人を呼ぶ事もあるよ」

 

 フィンセントって確か、ゴッホの事だった?これまた大それたニックネームだけど!

 その人、一体どんな絵を描くんだろう?今度見せてもらおう。

 

「悪いが、俺は先に行くぞ。これはこれは、先日はどうも!」

 レオナルドさんは誰かを見つけたらしく、私達を置いて早足でその人の方に行ってしまった。

 その後、レオナルドさんの周りの人だかりは消える事はなく、伯爵もまた然り。

 

「あの、サンジェルマンさん。私ちょっと、その辺を散策して来てもいいですか?」

「ああもちろん。自由にしてくれて構わないよ」

 物理か化学かよく分からない、難解な話題に花を咲かせていたサンジェルマンさんに断り、別行動を取る事にした。

 

「主催者は忙しいよね。来た人皆挨拶に来る訳だし。あ~あ。やっぱり私、場違いだわ」

 豪華な内装のホール。どこもかしこも煌びやかで眩しい。招待客も着飾っていて皆スゴイ。スゴイとしか言いようがない!

 自分の姿が磨かれたガラスに映っている。ドレスはとてもステキ。そんなに派手でもなく、かといって地味でもない。あの方の見立てなのだから当然品はいいけれど、着ているのはこの私よ?

 ここじゃ子供みたいに小さく見える。周りの人達がデカ過ぎて!

 

 あ~あ……どこまでも落ち込む。

 

 お料理の並んだテーブルに向かい、幾つか摘まんだ後にウエイターに勧められた赤ワインに手を伸ばす。

「問題ないでしょ、私はもう未成年じゃないんだし?」

 ちょっぴりイラ立って、手に取ったグラスを一息に煽った。

 いい香りな上に、ちょっぴり甘くて想像と違った。何だ、ワインて美味しいじゃない!

 

 調子に乗って三杯程飲み干した時、後ろから影が迫って来てグラスを奪われた。

 

「こ~ら小娘。飲みすぎじゃないのか?」

「あっ、レオナルドさん!美味しかったから、つい……」

「ほったらかしにしちまった俺にも責任あるよな。悪かったな」伯爵はどこ行った?と周囲を見回している。

 

 そんな彼をぼんやりと眺める。まだこの人の催眠術にはやられていないはずなのに、すでにぼんやりしている。……まさか、私ったらもう酔った?

 

 伯爵を探すのを諦めたのか、こっちを振り返ったレオナルドさんが私に手を差し伸べる。

「そこの可愛らしいお嬢さん、一曲、踊っていただけますか?」

 

「え!ダメですっ、私、踊った事なんてないし……」

「それはつまり、お相手になってくれるっていう俺との約束を、反故にするって事か?」

「そ!そういう訳じゃ……」そもそも私、オーケーしてない!

「大丈夫だ、俺に合わせて動けばいい。難しい事じゃない。……二階から飛び降りる勇気があるならな」

 

 これを言われると逆らえない。この人に、弱み、ガッチリ握られたなぁ。

 仕方なく手を引かれるままに進む。

 

「ちょっとっ、そんな真ん中に行かなくても!端っこでお願いしますっ!」

「ダメだ。俺を誰だと思ってる?」

 ああそうだった、今でも孤高の天才と謳われる、あのレオナルド・ダ・ヴィンチ。それを名乗るからにはつまり、目立ちたがり屋って事?

 

 彼を狙っていた女性達が、悲鳴を上げながら私を見る。スイマセン、不可抗力ですから!

 

 流れていた曲調が変わり、ダンスタイムに突入する。

 こうなったら開き直ろう。何しろ、ドレスはステキなんだから。そうよ、クルクル回ってれば、それなりに見えるって!

 

「何だ、上手いじゃないか。飲み込みが早いな!ユイは運動神経がいいんだな」

「それって、まだ私が飛び降りた事言ってます?」

 チクリと言い返すと、とぼけた表情でレオナルドさんが笑った。

 そんな笑顔を見ていて思った。大人の魅力溢れる彼ならば、確かに世の女達の羨望の眼差しを集めるはずだと。

 

 お酒のせいか、今のところいつもみたいなトランス状態にならずに済んでいる。

「と~っても楽しい!もう一曲踊りましょ、レオナルドさん!」

「喜んで」恭しく手を取ってひざまずくレオナルドさん。

 まるで王子様ね。とっても気分がいい。調子に乗ってクルクルとターンを連発。

 

 あれ……何だか目が回って来た……。私の体は知らない間に傾いていたらしい。

 

「ユイ、大丈夫か?酒が回って来たな。真っ直ぐ立ってないぞ?気づいてるか」

「う~ん、そう……?」

「おい!しっかり立てって。……ダメだなこりゃ」

「な~にがぁ?!熱~い……。これ、脱ぎたいっ!」

「こら、変な事を大声で言うな!俺は嫌いじゃないが」

「うふふっ!エッチな人!」

「とにかく、どこかで休もう。歩けるか?」

 

 フラフラの私をレオナルドさんが持ち上げた。軽々と横抱きにされて、喧騒に包まれるホールから廊下に出る。

 

 体が異様に火照っているせいか、抱き上げてくれているこの人の体がひんやり感じる。

 何の躊躇いもなく、彼の体に強く腕を巻きつけた。

「冷たくて気持ちいい~……!」

「ちっ、もう冷えたか……。食後一時間でさえ持たんぞ、サンジェルマンめ」

「え~?何か言った?」

「いや。こっちの話だ」

 

 その後彼は、無言で私を個室に運んだ。ソファーに寝かされる。

 

「ヤダっ!降ろさないで。もっと気持ち良くしてて……」

「……おい、自分が何を言ってるのか分かってるのか?あんまり俺を煽るなよ!」

 レオナルドさんの目が怪しく煌いた気がした。

 

 望むところ!今の私なら、あの催眠術にも勝てそう。むしろ試してみたい。

 こっちから目を覗いてやるんだから。

 

「大人の女って認めてくれたじゃない……。あれは、ウソだったの?」

「ウソじゃないさ。そう見えるよ、今もな。……ああダメだ」

「何が?」

「ユイ、あの惚れ薬とやらは、本物だったかもしれない。チッ……今頃になって!まずい。お前、危険だ……俺の前から消えろ、今すぐ!」

「惚れ薬!忘れてた。うふふ~っ、レオナルドさんたら私に惚れちゃったって?そっかぁ」

 

 ダメだ、意識が……なくなりそう。一気に飲みすぎたみたい。喜びの真っ只中で力尽きる。

 せっかくこんないいところなのに!私もこの人の弱みを、握れる瀬戸際……なのに。

 

 私の記憶はここで途切れるのだった。

 

 

・・・

 

 

 レオナルドは頭を抱えた。

 なぜ今になって薬が作用してきたのか?アルコールか、との結論に至る。

 

「とんだお笑い種だぜ!それにしても……ああ堪らん、この血の香り!こいつは初めて見た時から、いい香りの娘だと思ってたんだ」

 それは事実だが、こんな小娘に心を奪われるなどレオナルドにとっては予想外だった。

「煽ったのはお前だからな?……おい、ユイ、お前に選ばせてやるよ、どっちがいい?赤か白か」

「う~ん……なぁに?それ」

 

 ソファーに仰向けに倒れ込んだ彼女に、体ごと近づき覆い被さる。鼻先が触れ合いそうな距離だ。

 

「赤なら上から、白なら、下から。かな」

「なぞなぞぉ~?意地悪!今、頭、働かないんだからぁ……」

 ぼんやりと目を開けて抗議するユイに、軽く口づける。

「考えなくていい。本能で選べ、赤と白と、どっちが欲しいか……って欲しいのは俺か!因みに俺は、どっちも好きだが」

 

 何を言われているのかさっぱりのユイ。

 

 それなのに次の瞬間、ふいに笑みを浮かべて、はっきりとした口調で答えた。

「なら、決まってる。私は赤で」

「そうか、お好みは赤か!ふふ!……いいだろう。覚悟しろ、ユイ」

 

 レオナルドの口元がユイの首筋に迫る。彼の牙がチラリと顔を出した。冷たい吐息が首にかかり、ユイが声を漏らす。

 

 その時、ドアが勢い良く開いた。

「ここで何をしている?」

 

 その声に顔を上げ、現れた人物を見上げるレオナルド。ユイの肩に掛けた手がピクリと反応した。

 

「どうやら、我に返ったようだね。お前も惚れ薬の効き目が現れたんだな」

「あ~あ、いいとこだったのに。お楽しみの邪魔をするとはいただけないなぁ、サンジェルマン!」

「レオナルド。お前今、本気でユイを襲う気だったな」

「こいつ、かなりの小悪魔だぜ!散々煽るんだよ、堪らんったらないぜ」

 

 彼女から離れるよう視線で訴えかける伯爵に、レオナルドは降参とばかりに両手を掲げて引き下がった。

 

「とか何とか言って、お前だって堪んねぇんじゃねえか?こいつ、かなりの上物だしなぁ!」

「そういう言い方はやめないか!」

「これはこれは、失礼を。じゃあ、こいつの事は、あとは頼んだぜ。しこたまワイン煽って酔い潰れたんだ」

「私にも責任がある。彼女を一人にしてしまった事には変わりないからね」

 

 レオナルドは肩を竦めて見せると、音もなく部屋を出て行った。

 

 

・・・

 

 

 火照った顔で熱い息を吐いているユイを静かに見下ろす。

 

 駆けつけて正解だった。あと一歩遅ければ、レオナルドの餌食になっていたな。

 レオナルドとユイが踊っているのは見えていたんだ。その後二人の姿が見えなくなり、すぐにピンときた。

 

「困った子だね、君は……」

「……あれ、サンジェルマンさん?」ユイがぼんやりと目を開いた。

「大丈夫かい?ダメだよ、慣れないのにあまりお酒を飲んじゃ。気分は悪くないかな?」

 ソファの前に膝を付く。私はレオナルドとは違う。紳士的に優しく介抱するよ。

「全っ然!とっても気持ちいいわ。今なら空も飛べそう!ねえ……もっと近くに来て」

 

 ユイが起き上がって、私の首に腕を回して体を密着させてくる。

 

 一瞬、彼女の芳しい香りに理性が飛びそうになった。何しろ私も、惚れ薬が回り出していたのだから……。

「おいおい……、ダメだよ。離れるんだ」

「あのね伯爵、白状するとぉ、……私、二階から飛び降りて外に出てま~す!」

「何だって?」これは意表を突いた話題だね。

「でも今なら、空、飛べるかも……やってみたい!」

「……」何を言っているんだ?この子は……。

 

 一旦離された腕が再び私に巻き付いた時、彼女の柔らかい胸が私の顔に当たった。

 ……ああ、ここに牙を立てたい。私は今、何を考えた?いやいや、あり得ない!

「ユイ!危ない事はダメだって言ったよね?どうして君は言う事が聞けないのかな」

 理性を保てなくなりつつある自分へのイラ立ちと、無邪気に魅力を振りまく彼女へのイラ立ちで、つい語気が強まる。

 

 剝き出しの両肩に手を添えて、再び彼女をソファーに寝かせる。

 その肢体からは別人のような妖艶なオーラが漂い、まるで挑発されているようだ。

 誰だい、この子にこんなセクシーなドレスを着せたのは!……ああ、私か。まさかこんな形で自分の首を絞める事になるとは。

 

「……ねえ。どうしてあなたからは、そんなに甘い香りがするの?とっても、安心する。何だか懐かしい匂いなの。もっと嗅がせて……」

 どう返すべきか悩む。思わず沈黙してしまったじゃないか。

「……赤と、白、サンジェルマンさんはどっちが好きなの?」

「!!!」この時ばかりは耳を疑ったね。

 レオナルドのヤツ、一体何を吹き込んだ?彼女は分かって言っているのか?

 

「何だい、それは」冷静さを取り繕って問いかける。

「なぞなぞ!」

 どうやら分かってはいないようだ。

 ……心臓に悪い!ああ、私の心臓はとうに動いていないんだった。

 

「ああんっ……もうダメ。火照るの、体が!何とかして……っ!」

「いけないよ、君にはちゃんとお相手がいるだろう?早く思い出してあげないと」

 だって見てご覧?君の左手には、その証の宝石が光っているじゃないか。どんなに彼女が望んでも、これだけは出来ない!

 いや待て。……出来ない事もないか?

 

「サンジェルマンさん……私、あなたを見ていると……縋りたくなってしまって……どうか、助けて、ください」ユイの目に涙が浮かんだ。

 

 助けるとは?この状況においては、どうする事が君を助ける事になる?

 今の精神状態では自分を正当化してしまいそうだ。バレなければ……なんて、アーサーでもあるまいし!ああ……、レオナルドの言葉は正しい。彼女は立派な小悪魔だった!

 

「……ユイ。そんな事を言っていると、本当に君を奪ってしまうよ?」

「怖いの……!私、……もうどうしたらいいのか……分からなくて」

 困っている美しい女性を、私が放っておくと思うか?

「何も恐れなくていい。私の側にいれば大丈夫だ。全て私に任せていればね」

「サンジェルマンさん……、ありがとう」

 

 ドレスの裾が捲れて、彼女の太腿が露わになっている。

 その柔らかい腿に触れると、熱が伝わってきた。そしてその奥から漂う香り。彼女のブランは、それこそ極上の香りがした。

「さすがの私も、もう限界だ……。ユイ、いいかな」私はちゃんと断るよ?何事も許可を取ってからでないとね。

 

 ユイが微笑んだのを確認すると(肯定の意と勝手に取る)、真っ先に彼女の左手からリングを抜き取った。「これは、私が預かっておくよ」

 ユイはすでに目を閉じていて、この言葉が聞こえたのかは不明だ。

 リングを素早くポケットに忍ばせると、彼女の額にそっと口づけを落とす。

 

 私の指はすでに彼女の秘部に触れている。

 指をさらに奥へと進めると、ユイが喘ぎ声を漏らした。

「もうこんなに……」指に纏わり付く暖かな感触に、思わず口にしてしまった。

「ああっ!そのっ、冷たい手で、私の……この熱を!冷ま、して……」

「レオナルドのヤツが中途半端でやめたせいだな。済まなかったね、辛い思いをさせて。ちゃんと鎮めてあげるからね」

 

 一度指を抜き取る。透明に近い白色の輝く粘着液が絡んでいる。どこまでも神聖なブランが。

 一頻り香りを堪能してから口に含んだ。その瞬間、あまりに美味なこのブランに打ち震えた。

 ……ああ、これはまずい、もう病み付きになりそうだ!

 

 欲望に逸る気持ちを落ち着け、あくまで厳かにその行為を進めて行った。決して欲に溺れないように。そして繊細な人間である彼女に、傷をつけないように。

 

「っ!……冷たい……っ」

 指に代わって私の舌先がその場所に触れると、彼女は身を強張らせた。

「ごめんね、もうすぐ私の体も温かくなるから」君のブランの効果でね。

 顔を上げてそう伝える。

「……ううん。いいの、気持ちいいわ……とっても」

「そうかい。それなら良かった」

 

 安心して行為を続ける。

 

「ああぁっ!」彼女が再び喘いだ。今度は体を反らせて激しく。

 ソファから落ちないよう体を支えてやりながら、繊細な箇所を刺激する。

 こんなユイの反応が新鮮で、思わず楽しんでいる自分に気づいた。

「ほら、そんなに動いてはダメだ。君にケガをさせたくはない、大人しくしてくれるかな」

 彼女が強い力で私の腕を掴んできた。一般女性の握力よりも遥かに強い力だ。

 これならば、切り裂きジャックも捕まえられる訳だ!

 

 そんな事を思い出して微笑んだものの、もしやまた例の傷跡に痛みでも?そう考えて心配になる。

 動きを止めようとするが、私の体は欲望を満たそうと激しく抵抗する。この極上のブランを、もっと、もっと味わいたいと!

 

「……ユイ?どうしたんだい、どこか痛むのかい?」行為を続けたまま問いかける。

「……ああ!ああ……っ、し、ん、どう、先生……」

 またそれか。私はシンドウではないんだよ。でも今は、彼の代わりという事でいいかな。

 それならば多少の後ろめたさも安らぐというものだ。

「いいよ。そう呼んでくれて。今だけはね。さあ仕上げだ、少し強く吸うよ?もう少し頑張って」

 

 こうして私は、久しぶりの感覚を味わわせてもらった。

 最後に人間から直接戴いたのは、一体いつの事だったろうか。……忘れてしまった。

 

 全てが済んで、身を起こす。

「綺麗にしてあげたからね。もう大丈夫だよ。ゆっくりお休み、ユイ」

 

 すっかり眠りについた彼女に囁き、部屋を移る。寝かせるならば、ソファではなくきちんとしたベッドの方がいいからね。

 そろそろ夜会もお開きの時間だ。私は会場へ戻って締めの挨拶をして来なければ。

 ポケットに入れたままの彼女のリングが気になり、そっと触れる。

 

 高揚した気持ちが、瞬く間に戒められた。

 

「レオナルドを諌めておきながら、自分が手に掛けるとは。私も案外イヤな奴だな」

 薬のせいに違いない。私もレオナルドも、そうそう理性を失くす程未熟なヴァンパイアではないのだから。

 そしてユイ。彼女の魅力は抗いがたいものがある。人のものだと分かっていても手を出してしまう程の!いやいや。私は彼の代わりをしたまで。

 

 

 夜会をお開きにしてから、ユイの元へ戻る。彼女は穏やかな寝息を立てて眠っていた。

 

「苦しませる結果にならなくて良かった」

 例の行為で、またあの傷跡に痛みが出る事だけが心配だった。何がそれを引き起こすのか、まだ確かな事は分かっていない。

 ヴァンパイアとの接触か、恐怖心か。はたまた記憶喪失と何か関係が?

 さっきユイは、シンドウの名を呼んだ。だが、傷を痛がったりはしなかった。

 

「事の最中に、他の男の名を呼ばれたのは初めてだよ!」

 この晩私が、少々悲しい気持ちになったのは言うまでもない。

 

 

「サンジェルマン。そんなに血色のいい顔しといて、浮かない様子はどうした?」

「そう見えるかい」

 馬車にユイを乗せて、来た時と同じように三人で邸へと戻っている。

「こいつとお楽しみ、したんだろ?」

「………まあね」

 自分の膝を枕に眠っているユイを見下ろして答える。

 

「それにしちゃあ、全く満たされてないって顔だぜ?もしや、今一つだったとか……」

 こんな事を言うなんて驚いたよ。自分が味わえなかった腹いせか?

 思わず強めに否定した。「そうじゃない」

「じゃあ何なんだ?おや……?こいつがしてたリングはどうした」

 

 気づいてしまったか。面倒な事だ!

 

「私が外した。ここにある」

「ふうん。外したか」

「何だよ。何が言いたい?……酔うと、指が浮腫(むく)むだろう?」

「はは!俺相手に冗談はよせ。いいじゃないか、奪っちまえよ、その未来の男から!」

「何をバカな事を!私にはそんな気はないよ」

「どうだか?」

 

 長い付き合いの彼には、私の本心が見え見えだったのかもしれない。

 そう、私はこのリングの贈り主に嫉妬していた。ユイを自分のものにしたい。そう思い始めていたのだ。いや……今はきっと、極上のブランに酔っているだけに違いない。

 

 だから私は隠し通した。この時はまだ……。

 

 

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