静まり返った病院の廊下に響く、酷く乱れた一つの心音。それに向かってテオドルスは進む。
そして音の発生元に辿り着く。
閉ざされたドアの前で立ち止まっていると、ドアが開いた。
「テオ。どうした?こんな時間に」
「今しがた、伯爵が戻って来た」
ほっとして話し始めるテオドルス。病室に入ると、音も立てずにドアを閉める。
「本当か!それで?」
「ああ、
「……そうか」
「ユイは?どうなんだ」
「あまり状況は良くない。医者はもう、諦めろと言いやがった……!」
返す言葉が見つからないテオ。無言でユイを見下ろす。
薬で眠っているようだが心音は安定しない。ただ眠らされているだけのようだ。
「まさか、こんなに悪くなるとは思わなかった」テオは何とかこれだけ言い返す。
「ああ。どうしてたら、良かったんだろうな……」
「どうって何だ?お前、自分がどうにかできたとでも言うのか!……お前のせいじゃないだろう」
テオドルスの言葉を無視して、ナポレオンは言い放つ。
「なあ。その男なら本当に助けられるのか?そんな保証はどこにもないだろ!」
さらに自問自答のように語る。「もしそいつが、こっちの世界に来なかったらどうする?このままユイは……」
「ナポレオン、落ち着けよ!できる事をするしかないだろ?俺達に今できる事を。……そう言えば、その男はこの時代にも存在してるのか?」
「さあ。伯爵によれば、転生して間もないヤツじゃない事は確かだと」
「もしこの時代にそいつが存在していたら、連れて来るなんて無理なんじゃないのか」
ナポレオンが固まる。可能性は大いにあると。同じ空間に、同じ人間が二人存在する事ができるのだろうか。例え一方が人間だったとしても?
しかし、そんな事を伯爵が想定していないはずはない。「まさか!」
「こうなったら先行して、こっちの時代のそいつを見つけておくか」テオがこんな事を言い出す。
「バカな!いるかも分からないのにか?第一、まだユイとそいつはこの時代では出会ってすらないんだぞ。そんな勝手な事していいと思ってるのか!」
「黙れ!そんな事は分かってる!だが他に何か方法があるのか?こいつが死ぬのを、お前はそこでじっと見てるのか?ああ!そうしろよ、俺はご免だがな」
テオの声が次第に大きくなり、それに反応したのかユイが呻き出した。
「ユイ、どうした?苦しいのか。テオ、お前の声がデカいんだよ!」
「ふざけるな!お前だってデカい声出してたじゃないか」
再び言い合いを始める二人。
「苦しい……よ。助、けて!……しん、どう、先生……」
ユイが呻き声と共に日本語でこう口にしたのを、二人は微動だにせずに聞き入る。
「……今、何て言ったんだ?」ナポレオンは考え込むように呟く。
「おいユイ、そのシンドウはこの十九世紀に存在するのか?そのくらい知ってるだろ!答えろ」
対するテオはユイに問いかけ始める。
「血迷ったか?テオドルス!寝言に質問しても答えなんか……」
ナポレオンの言葉を遮って、ユイはまた日本語で答えた。
「新堂先生……、十九世紀に、ペテルブルグ、に……」
「どこだって?分かったか、ナポレオン」
「ペテル、ブルグ……って言わなかったか?」
二人とももちろん日本語は解せない。人名地名だけが辛うじて聞き取れたようだ。
「それだよ。ロシアか!よし、俺に任せろ。伯爵には負けるが、俺の人脈も捨てたモンじゃないぜ?」
テオは日頃、画商として各国を飛び回っているためだ。
「だがファミリーネームしか分からなくて、どうやって探すんだ?」慎重派のナポレオンが尋ねる。
「シンドウなんて名前、そうそうない。日系だろ?恐らくすぐに見つかるさ」
「お前、相変わらずポジティブだな!頼んだぞ」
「たまには頭使えよ、ナポレオン!」
「阿呆。思いつくかよ、意識ないヤツに質問とか?」
寝言に答えるユイもユイだ、とナポレオンは思う。こんな事ができたなら、もっと早くに聞いてみるべきだったと後悔する。何度もその機会はあったのに!
テオドルスは一瞬にしてその場から消えた。
・・・
早急にレオナルドを連れて扉を抜ける。
「時間旅行はこっちに越して来て以来だ。緊張するな!」
「冗談はよせ。いいか、時間がない。すぐに取りかかってくれ」
「ジェーンの居場所は?まさか本拠地に乗り込めなんて言わないよな」
「説明した通り、彼女は今年に入って単独行動が目立っている。まだ、このパリのどこかにいるはずだ」
「そうかもしれないが……!」
「大丈夫、お前は目立つ。すぐに向こうからやって来るさ」
レオナルドが肩を竦めて乾いた笑い声を上げた。
「だが気をつけてくれ。我々が過去からやって来た事を勘付かれないように。扉の存在だけは、絶対に奴等に知られる訳にはいかない」
もし連中に知れたら、悪用され兼ねない。
最もだ!という声を残して、レオナルドは闇夜に消えた。
「頼んだぞ、我が最愛の友よ……」ユイを共に救ってくれ!
・・・
レオナルドは見晴らしの良いビルの屋上から、二十一世紀のシャンゼリゼ通りに点った真っ赤なイルミネーションを興味深げに眺めていた。
「夜とは思えない光景だな!あの赤は何を表してるんだ?炎か、血か……」
こんな自分のセリフに、渇きを覚えたレオナルドの瞳がギラつく。
「あなた、見た事ない顔ね。どこから来たの?」
小柄な童顔の女が忽然と姿を現した。
さっそくお出ましか、とレオナルドは内心ほくそ笑む。
「大分田舎から出て来てね。この街の明かりに驚いていたところさ」
ジェーンと思われる女は、無表情でレオナルドの視線の先に目を向ける。
童顔で無感情のその姿はまるで人形のように見えたが、次の言葉を受けてレオナルドは口角を上げる。
「見慣れちゃってたけど、言われて見ればまあ確かに。そそるわよね、あの色は!」
この反応だけで手応えを確信するレオナルド。
「ヴォルトゥーリでご活躍のプリンセス・ジェーンとお見受けしますが」
「いかにも。良くご存知ね!あなた、名前は?」
「レオナルド。以後、お見知りおきを」恭しく片膝をついて頭を下げる。
ジェーンが誇らしげに右手を差し出すと、レオナルドは透かさず手を取り口づけた。
彼の魅力は、人間だけでなくヴァンパイアまでも虜にしてしまうようだ。
彼女はあっという間にレオナルドの手に落ちた。恐るべし大人の色香!
「そんな振り向かない男なんて忘れろよ。ムダな時間を費やすなんて損だぜ!俺と楽しもうじゃないか?」
「あら!あなたが私を楽しませてくれるワケ?例えばどうやって?」
レオナルドは挑戦的な視線を送ると、再び彼女の手を取り、その指先を咥える。口内に収めたまま舌でゆっくりと愛撫しては抜き取る行為を繰り返す。
闇夜にその水音が響き渡る。
ジェーンは堪らず吐息を漏らし始めた。
「……あの男は!あの男だけは……ああん!」
「……忘れろ、俺の方が絶対いいって!ほら、どうだ?もっと……試してみるか」
彼の舌が、今度はジェーンの手の甲をなぞり指の間を絶妙にくすぐる。
たったこれだけの事に、思考を掻き乱されて反論できなくなるジェーン。
「反応が恐ろしく敏感だな!啼かせがいがあるぜ。俺を選べば……もっと気持ち良くしてやるよ」
「ああ……あなたの方が情熱的でステキ。私、レオナルドにする!」
手の愛撫だけでジェーンを手中に収めてしまった。あまりにあっさり事が運びすぎて拍子抜けしつつも、レオナルドはニヤリとする。
「なら、シンドウにはもう用はないな。目障りだから追い出せよ」
「そうは行かないの」
「なぜだ?」雲行きが怪しくなった事に焦る。
「シンドウには、特殊能力がある。ヴォルトゥーリはそれを手に入れたいのよ。彼を組織の一員にしたがってるわ」
「それはどんな?俺の魅力よりも強力なのか!」
ユーモアを交えて尋ねる。あえて興味がないように装うために。
彼女は高らかに笑いながら、あっさり答えた。
「私にはあなたの魅力の方が断然上よ?でも組織としては、心を読む能力は役に立つ」
「へえ……心がねぇ。お目にかかりたくはないね!」
でしょ!とジェーンが肩を竦めた。
自分の考えが筒抜けなのは、恋の駆け引きをするにはマイナスでしかない。
「しかし。そいつが一員になったらアンタが困るだろ。断然阻止だな、こりゃあ」
「全くよ!仕事がしずらいったらないじゃない。そうよね~、逃がしちゃおっかしら」
ナイスアイディア!とレオナルドは大袈裟に手を叩いてみる。ノリのいいヤツで助かった、と彼は心から思ったのだった。
そんな流れで、ジェーンは本当に新堂を逃がす事を勝手に決めてしまった。
「ジェーン、少し待っててくれ。旧友にしばしの別れを告げてくる。これからは共に生きようじゃないか!」
「嬉しい。待ってるわ、ごゆっくり」
・・・
ルーブル美術館裏の一角で、私達は落ち合った。
「どうやら、上手く行ったようだね。仕事が早くて助かるよ、レオナルド!」
「俺にとったら朝飯前さ。それより、シンドウという男、思考が読めるらしいぞ」
「それはまた……興味深いね」
レオナルドは入手した一連の情報を、手早く私に伝えた。
「そういう訳で、俺はしばらくこっちにいるよ。何かと興味をそそられる物が山程ある事だしな」
「済まないね、彼女の相手をさせる事になってしまって」
「ルックスは好みじゃないが、性格は案外合いそうだ。ま、すぐに飽きられるだろうがな!捨てられたら帰るよ。頃合い見て、迎えに来てくれ」
「了解。本当に助かった、感謝するよ」
レオナルドと別れてすぐに、二人とは別行動でイタリアへ向かいヴォルトゥーリの組織近くに潜伏して、待つ事数時間。
明け方近くに、建物から現れた一人の男を見逃さなかった。
顔は知らないが、あれが恐らくシンドウだ。
「君!こっちだ!」
この辺一帯で不審な動きをすれば、連中にすぐに見つかってしまう。ここは慎重に事を進める必要がある。
だが。ああ、私とした事が!とんでもなく大きな見落としをしていたんだよ……。
またも手ぶらで十九世紀に舞い戻った私は、シンドウの消息をロシアまで調べに行ったというテオドルスを待ち構えていた。
「伯爵!こっちに戻ってたのか。シンドウは連れて来たのか?」
私の姿を見て、テオの顔は途端に輝く。希望に溢れた表情だ。だが済まない、その期待には答えられないんだ。
「いいや……。彼には会えたが、ここへ連れて来る事はできない事が判明した」
「ああ、やっぱりな。思った通りじゃないか!」
彼の発した思いがけない言葉に目を瞬く。「どういう事だい?」
テオドルスは、数日前の夜にユイの病室でナポレオンとした会話を再現してくれた。
「賢いね、さすがは商売の達人。先を読むのが上手いよ!それで君の方の成果は?」
「それが……四十年前の列車事故の死亡者リストに名前があった他は、さっぱりだった」
「そこまで分かれば大丈夫だ。大体の居所は本人から聞いている」
居場所は聞いたが、果たしてこんな要求をこの時代の彼が受け入れてくれるかが問題なのだ。
何しろ、本人も難色を示していたくらいだからね。
「……何だよ!居場所が分かってたなら先に言えよ!」
「気を悪くしないでくれ。これでシンドウは現在ヴァンパイアであると分かった。ありがとう、テオ、とても助かったよ」
ユイが絡んでいるからには、シンドウが嘘を言う可能性はないだろうが、何せ歴史は変わるものだろう?確信がほしかったんだ。人間の彼に頼む事は極力避けたかったからね。
「ホントかよ……!慰めはいいんだぜ?」
「慰めなどではない。頼りになる息子を持って、私はとても幸せだよ」
一応、私の言葉は最後まで聞いてくれたが、テオはフン!と鼻を鳴らして、わざと足を踏み鳴らしながら出て行ってしまった。
やれやれ。本当の事なんだがね。ナポレオンに負けず劣らず気性が荒くて困るよ。
「さて。こうしちゃいられない。早急にユイを邸に連れて帰らねば……」
ここで、私がシンドウと会って判明した事柄について話そう。
まずは、彼女はもともと病を抱えていたという事。その病は、我々ヴァンパイアに接触する事で発症するのかもしれない事。
であれば彼のその仮説は正しかった事になる。何しろこの邸には、そのヴァンパイアがぞろぞろいるのだから?
そしてその病は、二十世紀に開発された薬剤で治せるという事。外科的処置はその薬が効かなかった時の選択肢だそうだ。つまり、薬さえあれば誰にでも治せるのだ。彼でなくても。
本来ならば、未来の薬剤をこの時代に持ち込むのは厳禁だが、使用するのは未来の人間なのだから、問題はない。この時代の人間に知られなければ。
監視役(そんな者がいればの話だが)に見つかれば大目玉の行為を、私は取る事にした。
治療はこの邸で行なう。部外者の力は借りない。教われば注射針くらい私にだって入れられる。
「私の大事な家族の命が懸かっているんだ。誰にも文句は言わせないよ?」
早々に病室に駆け込み、サヴリーを説得してすぐにユイを連れ帰った。
「それで伯爵!どういう事だよ、シンドウがいなくても大丈夫って?」
馬車で移動中にした、手短な説明では不十分だったようだ。
「治療法を聞いてきたんだ。この薬があればきっと何とかなる。ただ、手遅れになっていない事だけを祈るよ……」
「手遅れだと?」不安そうにナポレオンが聞いてくる。
「この薬剤は、効き目が現われるのに時間がかかるらしい。因みにこれは心臓に作用するものではないそうだ」
「じゃあ何なんだよ!それじゃ意味ないだろ!」
「落ち着け!彼女は心臓が悪い訳ではないんだ」
私は皆にも聞こえるよう、はっきりとした口調で説明をした。
シンドウが言うには、ある内分泌の異常な働きで、あらゆる身体的機能に齟齬が生じるのだとか。疲れやすかったり、食欲が増大したり、興奮しやすくなるのは前触れだったのだ。
それを知っていれば、もっと早くに手を打てたのに!済まなかったね、ユイ……。
「やっぱり俺達のせいなんじゃないか!ヴァンパイアは人間にとって、悪影響しか及ぼさない」
悔しそうにそう訴えるナポレオンを慰める言葉は見つからなかった。私自身、そう思っている。そしてそれはシンドウも同じのようだ。時間がなかったのであまり話せなかったが、彼はユイと共に過ごす事に迷いを抱えていたように見えた。
「だが、この薬で一度は寛解した。シンドウが側に付いていてさえもだ。必ずしも我々が原因とは言えないよ」
「そうそう!今はできる事をするしかないんじゃない?ね、ナポ君!」
いつの間にか、部屋には住人達が集っていた。アーサーはいつでも前向きだ。
「伯爵、僕は昔注射を自分に打った事があるよ。あなたよりも慣れている。してあげようか」
いつも通りの穏やかな様子で太宰が申し出る。
「太宰!それってヤバイ注射じゃないの?」モーツァルトが突っ込む。
「そうなのかな?う~ん、分からないなぁ」
相変わらず太宰は吹っ飛んでいるね……。彼は医薬用鎮痛剤の乱用で、中毒になった過去があったっけ。
「気持ちだけいただいておくよ、太宰、ありがとう。私ができる。サヴリーからやり方を教わって来たからね」
自室に横たわる彼女の左腕をそっと擦る。
「ユイ、慣れていないから痛いかもしれない。ごめんね、少し我慢してくれ」
皆が注目する中、緊張の瞬間だ。皮膚の下の血管を流れる血液の音までが、細微に聞こえる我々にとって、注射点滴はそれ程難儀ではないはずだ。
「ああっ!痛い……ヤダ、ヤダぁ!」ユイが顔を歪めて暴れ出す。
「こら、駄々をこねるな。暴れたら余計に痛いぞ」横からナポレオンが声をかける。
それに続いて次々に後ろから励ましの声が降ってくる。
「治せる手段があったんだから、文句言わない」とモーツァルト。
「ユイ、頑張って。見守ってるよ!」これはアイザック。
「僕もだよ」
いつの間にかフィンセントまでがこの場に顔を出していた。
「あんまり我がまま言うと、オレが唇で塞いで黙らせちゃうよ?」
「お前が黙ってろ、アーサー!」これには透かさずナポレオンが反論している。
彼は本当にユイの護衛を全うしているね。実に感心だ。
こんな事を言ったアーサーも、ユイを心から心配しているのは目を見れば分かる。いつの間にか彼女は、こんなにも皆に慕われていたんだね。本当に嬉しい事だ。
「伯爵、それ済んだら出発するだろ?」テオが聞いてくる。
「ああ」
この薬剤を使ったら最後、ユイをこの時代の医者に診せる事はできない。それはつまり、緊急事態が起きても対処できないという事だ。早急にシンドウを連れて来る必要がある。
「すぐに説得に応じてくれるか分からないからね。できるだけ早く向かおう」
「俺が一緒に……」テオの言葉は途中で遮られる。
私が断るよりも先に、ジャンヌが言った。「ここは俺が行った方が役に立つ。一応、護衛が仕事の軍人なんでな」
「そうだな、それがいい。本来は俺が行きたいところだが……」ナポレオンが口を開く。
行き先はロシア。ナポレオン皇帝はロシア遠征の時、あまりの寒さに撤退していたんだったね。まだどこかに、そんなトラウマが残っていたりしてね。
「君は引き続き、ユイの側にいてやってくれ。念のため、針の刺し方を教えておくよ」
一度挿入すれば抜く必要はないそうだが、万一外れてしまった場合を考えてね。
一通り終えてから、私とジャンヌでロシアへと旅立った。
「その男は、どの程度危険なんだ?」
「危険、とはどういう意味でかな」
「殺し合いになる危険という意味なら?」
「そうだね……」
ジャンヌと移動の最中、私達は会話する。
私はしばし考えた。列車事故で彼が死んだのなら、その直後が転生の時期だ。まだ半世紀も経っていない事になる。新生のヴァンパイアは精神的に安定していない事が多く、とかく強暴だ。
「かなり、と言っておこうか」
「……そうか。勢い余って殺さないように気をつけるよ」
その逆かもしれないよ?まあ、我々ヴァンパイアは不死身ではあるが。ダメージが大きければ、数年動けなくなる事だってある。
テオを連れて来なかったのはそれもある。弟がそんな目に遭ったら、弟想いのフィンセントの精神状態に影響が出るのは、目に見えているだろう?
ここだけの話だが、フィンセントには精神面で若干の不安がある。彼はとても繊細だから。
「何があっても、伯爵の事は俺が守る」
「いいや。何よりも自分の体を大事にね。私はその次でいいよ」
私を犠牲にしてでも、彼を説得してユイの元へ連れて行ってほしい。そんな願いが、ジャンヌに届いただろうか。