※この作品はR-18です。

崩壊世界で伯父上と静かに隠遁生活するだけ   作:カリギュラ伯父上大好きマン

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小軍靴(カリギュラ)の決意

 

 地に墜ちた巨体が無人の家屋を突き破り、飛竜たちがつんざくような咆哮を轟かせた。縄張り争いだ。便宜上、ワイバーンと通称される幻想の竜たちは、群れとなってテリトリーを形成している。彼らは見知らぬ土地であるこの世界でも逞しく生き延び、生命を謳歌している。

 

 ワイバーンたちは群れる。であるならば、必然的に複数のグループも形成される。縄張りを持ち、今回のように争いになることもある。彼らの敵は人間やサーヴァントだけでなく、同種との戦いも彼らの営みだった。ある意味では生態系として正しい姿だ。

 

 だが、鉄を寄せ付けぬ鱗、一日中飛行を継続しても余裕のある無尽蔵のスタミナ、強靭極まる翼、群れるにしては強靭過ぎるだろう彼らがどうしてそういった習性を持つのか。学者でない京子たちに知る術(すべ)はない。

 

「………」

 

 ぼんやりと空の喧騒を眺める京子は、まるで人形のようだ。艶やかな黒髪をたなびかせる華奢な体が京子の女を引き立たせる。しかし、たれ目が印象的な整った顔立ちに情動は見られず、凍りついたままだった。

 

 食糧を補充するべく風穴の空いた家を後にした京子とカリギュラの主従は、放棄されたスーパーやショッピングモールを漁ることで口に糊している。その道中で、こういった人外の手合いと遭遇することは珍しくなかった。

 

 ただ、少しばかり信じがたいことがあるとすれば。それは彼女ら主従が通った軌跡には乱雑に散らかされた屍ばかりが残ることである。それも、世界の崩壊した後に現れた者たちの屍のみが。

 

 言うまでもなく、カリギュラの暴虐の証である。月の女神に愛された男の異常な加虐体質、更にはバーサーカーとしての狂化に端を発する獣性によって引き起こされる人間大の意思持つ災害。凄惨な殺戮を、彼女らは躊躇しなかった。

 

 普通なら、余計な損耗を嫌う。なにせ世界は崩壊したのだ。何が起こるか分からないなら、退けぬ状況に押し込まれない限りは出来るだけの戦力を温存したい。

 

 京子と同じようにバーサーカーのサーヴァントを召喚した者たちは、ステータスの向上と引き換えに燃費の悪さを獲得した己の従者を必死に押さえ込むことだろう。そうしなければ、何を楔にしてこの現(うつつ)に留まっているかすら分からぬサーヴァントたちをみすみすと失いかねない。まさか暴れすぎて魔力不足になり、そのまま消滅したなどと、笑い話にすらなりはしないだろう。

 

 だが、例外というのはいつの世も現れる。京子たち主従は、嬉々として立ち塞がるものたちを粉砕し、味わうように踏みにじる。

 

 それをただ当たり前のことと断じ、是としているのだ。

 

「我が……愛……よ……。……下が……る……が……よい……」

 

 カリギュラが呻くようにして囁いた。京子はこくりと頷いて、規模の大きないさかいによって倒壊した家屋の残骸にちょこんと腰を下ろして、その背を見守っている。無表情の癖して妙に熱っぽくカリギュラを見つめる彼女の瞳に、ハイライトはない。

 

 そしてカリギュラが大空を我が物顔で飛び回る無数のワイバーンたちを見据え、大きく息を吸い込んだ。

 

「ゥウオアアアア■■■■!!!」

 

 びりびりと大気が揺れる。小規模な爆発と錯覚するほどの轟音が周囲の瓦礫ごとワイバーンたちに襲い掛かった。

 

 筋力にしてA+、敏捷にしてB+。なるほど類い稀な膂力である。純粋な格闘戦において、カリギュラの乱打を耐えうるサーヴァントはそういないだろう。侮りがたしローマ皇帝。

 

 しかしそれはあくまでも通常のカリギュラである。ここに京子の守護として現れた、このローマ皇帝は更なる力を手にしていた。

 

 限界まで施された聖杯転臨とステータス増強素材(☆4フォウ)、攻撃性に特化したスキル群の補正により、カタログスペックを遥かに上回るステータスが発揮される。神代の英雄たちを上回り得る驚異の瞬発力が生み出す音響兵器は、ワイバーンたちをすら硬直させた。

 

「ラアアアッ!!!」

 

 その隙を逃さぬと、カリギュラは駆ける。最もワイバーンたちが密集している場所へと一直線に飛び跳ね、進路上の一切を恐るべき拳脚でもって消し飛ばした。彼が突き抜けた空間には、血飛沫とワイバーンの残骸が舞うのみである。

 

 突如として仲間たちの残骸がゴミ屑のように散っていったのを見て、生き残ったワイバーンたちが散々に逃げていくのは時間の問題だった。

 

 死の直線、とすら錯覚する暴力。カリギュラというサーヴァントが持ち得ないはずの高出力。そのタネは魔力放出、本来はカリギュラの持ち得ないスキルだった。彼が空中で鋭く脚を突き込んだその先で、乾いた音が炸裂する。その反動を利用して、体勢を整えた。

 

 殺意みなぎる赤い瞳が見据える先には、次の塊が一つ。カリギュラは、凶悪な嘲笑を響かせて青空に蹴り込んだ。

 

 大気が炸裂する音が連続する。逃げ回るワイバーンたちは、訳も分からないまま音速を易々と超える鋼の肉体に轢き潰され、解体されていく。

 

 もはや屍の残骸が山と積もるに、五分とかからない。

 

 その身体を通じて放出される魔力はそれほどの量ではないが、カリギュラの高いステータスから考えてみれば、若干とはいえ更なる補正をかける魔力放出は鬼に金棒だ。

 

 皇帝特権による戦闘系スキルの獲得は、恐るべき瞬発力をカリギュラに獲得させた。性質上、長期戦を不得手とするカリギュラにとっても、都合がよかった。

 

 どう、と重い音をたててカリギュラが着地する。京子はその姿を慎ましげな拍手と共に迎えた。どことなく上品な印象を受ける所作は、しずしずと咲く藤の花を連想させる。清楚な色気とでも例えるべき香気が、彼女の周囲には満ちているのだ。

 

 ただし、狂気を孕む濁った瞳はじっとカリギュラを見ている。美貌だの、雰囲気だのは既に裸足で逃げ出していた。

 

 対して己が主の下へ歩くカリギュラは泰然とした力強い足取りで、揺るぎない意思を否応なしに悟らせるようだ。

 

 そこに、狂化による理性の喪失は然程には感じられない。強力なクラススキルを、鋼の精神力で捩じ伏せ続けているのだ。Aランクの加虐体質による攻撃性すら、ある程度は抑制せしめていた。

 

 しかし、それにも限界はある。こうして、人外の者を相手に暴力性を発散させる必要を、カリギュラは京子に説いていた。そうでなければ、人間を超越した身体能力を京子自身に向けかねない。バーサーカー、というクラスに収まった英霊は、余程の例外でもない限りは獣同然なのだ。

 

 尤も、京子自身はその獣性が自らに向けられることを望んですらいる。そのことにカリギュラが気づいているかはともかく、両者が築いた穏やかな関係は、存外薄氷の上にあるものなのかもしれない。

 

「……我が、愛。我らは、往かねばならぬ」

 

 戦闘を終えたカリギュラの口調は、幾分か滑らかなものだった。暴力性の発露は、彼の精神衛生に著しい効果を示している。

 

 固い手が、京子の濡れ羽色の艶やかな長髪を優しく梳かす。竜たちの血は超速の身体稼働によって振り払われ、京子の美しい肢体を汚すことはなかった。

 

 ふと、京子の手がカリギュラの指を包み込み。絡ませるように手を引き寄せる。そうして、柔らかな頬をぴとりと触れ合わせた。

 

「………」

 

 表情も言葉もなく、今や人形のようですらある。それでも、彼女の心は熱く、情熱的なものがその多くを占める。カリギュラとの身体接触を好むのは、更なる熱を求めてか、或いは燃え盛る炎を落ち着けるためか。

 

「おぉ、我が愛……」

 

 カリギュラが、京子を抱きしめた。これ以上壊れぬように、そっと、優しく。

 

「……」

 

 京子はされるがままで、カリギュラを受け入れていた。

 

 

 

 

 京子主従は、他者との社会的な関係が断絶しているに等しい。唯一の接点、後見人となった老教師も、既に行方が分からなかった。電話で連絡しても、うんともすんとも言わない。

 

 最後の縁を喪った巡り合わせ故か、京子は崩壊世界において致命的なレベルで、人間と遭遇することが出来なくなっていた。

 

 他人の争いに巻き込まれることはないが、食糧が絶えればどうにもならない。彼女は誰にも知られない孤独の星に愛された。たとえ声を出せたとしても、その声を聞き届ける奇特なお人好しはいない。ただ、彼女を護ると誓ったカリギュラを除いて。

 

 カリギュラが手を引いて、京子が後ろに続く。目的地は無人のスーパーだ。

 

 だが、あの群れのことを考えると、遂に近場の食糧は全滅したのかもしれない。なにせ大食らいが幾つものグループになってまでこの地域に留まったのだ。余程に食いでのあるものが見つかったに違いない。そして、それが全て貪られるのも時間の問題だろう。目的のスーパーの物品が荒らされていないことを願うばかりである。

 

「………」

 

 廃墟の町に束の間の静寂が訪れていた。カリギュラの猛威が知れ渡ったのだろう。どうせ次の日には戻ってくるだろうが、今日一日の安全は買えた。

 

 京子の自宅からスーパーまでは、歩きでも精々四十分ほどだ。道すがらワイバーンたちとの戦ったとはいえ、そろそろ着く頃合いだった。

 

「…………」

 

 無数の電柱が転がる坂を登り、目に入ったスーパーは見事に倒壊していた。漁れば最低限食べられるものは手に入るかもしれないが、期待していたほどの物資を確保することは難しいだろう。

 

「む、ぅ」

 

 カリギュラが唸った。風穴の空いた京子の家を拠点とする現状の限界が見えてしまったからだ。

 

 この地における限界が見通せてしまった以上、この崩壊世界で生存を求めるなら糧を求めて新天地へと旅立たねばならない。だが、その行軍に京子の体が保つかどうか。

 

 保ちはするだろう。だが、非常に不安定な精神状態が、京子にどのような影響を及ぼすか見当がつかない。

 

 護ると誓った。だが、カリギュラが護れるのは彼女の肉体のみだ。口惜しい、と拳を握りしめた。彼が守りたかったのは、京子の命だけではない。毀れたまま凍ってしまったその心もまた、カリギュラにとっては護るべき大切なものだった。

 

「我が愛………っ」

 

 続く言葉を紡ごうとしたカリギュラの唇に、人差し指が添えられる。京子は、粛々とカリギュラを受け入れるのみだ。何を伝えられようと、この男に付いていくことは決定事項に過ぎなかった。

 

「なれば、往こう。お前が安らげる地(ローマ)へ」

 

 一切を了解したカリギュラが、京子を姫抱きにして踵を返した。多くの荷物は持っていけない。風穴の空いた家にある物資が手持ちの限界だろう。車どころか台車もないのだ。このスーパーの物資を回収しても、持っていけないなら仕方ない。

 

 新天地を目指さねば。理想を言えば、一刻も早く京子を受け入れてくれる場所が欲しい。だが、受難の時代に安寧の地を得るには気が遠くなる労力が必要になる。

 

 カリギュラは、今再び覚悟を決めた。

 

 藤原京子を、護る。その為ならば我が狂気も、月の女神の寵愛さえも超えてみせよう。そのために、自らは召喚されたのだから。

 

 護るべきものを抱え、決意を固めた男の背には、堂々とした威風が吹き抜けていた。

 





 4000文字ちょっとダラダラ書いておいてセックスないじゃん(当惑)
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