絵の女性と生身の女性、どちらがいいか? 〜現代のピカソが三次元に恋をするまで〜 作:チャンドラ=グプタ
「色とりどりの妹萌えですか?」
ゲームのコンセプトを聞いた澪は不思議そうに首を傾げた。
コンセプトを俺たちに語るところを鑑みるに、どんなゲームにしていくのかすでに構成は固まっているということだろうか。
「ああ。ゲームのヒロインは妹だ。それも複数人登場させる」
まぁ、ラノベでも大抵メインヒロインは何人か出すのが普通だしな。ギャルゲーは良く分からないが。
「複数人ですか……ちなみに何人くらい出す予定ですか?」
俺が訊くと、陽毬は得意げに微笑んだ。
「ざっと七人くらいかな」
いや、多すぎるだろ。普通、七人も妹がいるか? どこぞのビッ◯ダディだよ。
「えー! 私、ゲームとか全然やったことありませんけど幾ら何でも七人は多いと思いますよ!」
桃子は陽毬の提案に対し、苦言を呈した。ごもっともな意見である。いいぞ、もっと言ってやれ。
メインヒロインが七人にもなれば、描かなければならない絵の枚数も必然的に増えることだろう。
「私もそう思います。ゲームのボリュームから考えても、三、四人に絞っていくのが妥当であると考えます。サークルメンバーの人数も少ないですし」
由衣夏も桃子の意見に賛同した。
俺もギャルゲーには詳しくはないが、メインヒロイン七人は多いと思った。
俺がたまに読むライトノベルだってメインヒロインの数はせいぜい三、四人くらいなものである。
「むぅ……し、仕方ない。そこまでいうのなら、四人に絞ろうじゃないか」
「えー? 三人で良くないですか? 四人だと色々と手間も掛かりますよ」
「分かってないな桃子。メインヒロインが一人増えるかそうでないかでゲームの面白さは180度変わってくるんだよ」
「それじゃ、多数決で決めましょう。三人で良いと思う人」
桃子は真っ先に手を挙げ、俺も手を挙げた。続いて澪も手を挙げた。
手を挙げたのは全員、陽毬に脅されてゲーム制作をさせられているメンバーである。
「三対二で私たちの勝ちですね。三人に絞りましょう!」
「ぐ、ぐぬぬ……し、仕方ないな……まぁ、人数が減る分、ゲームの完成度を高めることができると考えるべきか……」
陽毬はしぶしぶ、メインヒロインの数を三人に絞ることを承諾した。
「陽毬さん、もうメインヒロインの設定は考えてるんですか?」
「よく聞いてくれたピカソくん。昨日、メインヒロインの設定を練りに練ってきたんだ」
分厚いノートを取り出し、ドヤ顔で見せつけてきた。
ノートにはとても綺麗な文字でメインヒロインの設定が描いていた。
メインヒロイン1:伊藤優香 高校一年生
好きなものはお兄さん。三度の飯よりもお兄さんが好き。将来の夢はお兄さんのお嫁さんになること。
得意なことは料理、スポーツ、勉強。苦手なものは虫。特にG。
常時、お兄さんのことを考えており、脳内の九割がお兄さんで埋め尽くされている。お兄さんが他の女性と仲良くしているのを見ると情緒不安定になり、その女性に殺意を抱いてしまう。
学校では優等生で、男女問わずクラスメートからも絶大な人気を集めているが、家に帰るととんでもないブラコンぶりを発揮してしまう。ちなみに巨乳である。
「どうだ。このメインヒロイン、最高だろう?」
いやいやいや、なんだこの頭のやばそうなメインヒロイン。
澪と桃子も同じに思ったのか、しかめっ面をしていた。
「いやいやいや、幾ら何でもこれはないでしょう。何ですかこの『脳内の九割がお兄さん』で埋め尽くされているって」
「文字通りの意味だよ。ピカソくん。優香ちゃんの頭はお兄さんで埋め尽くされているのさ。脳内メーカーで例えると、脳内が『兄』で埋め尽くされているものだと考えるといい」
今すぐにでも病院に行った方がいいぞ、優香ちゃん。
「ちなみに主人公の名前はなんていうんですか?」
「ん、伊藤慎だが」
「いや、やめた方がいいと思いますよ。その名前だけは」
なんかゲームの終盤、妹に腹部を刺されて死にそうな名前である。
「主人公の名前はともかく、私はこのヒロイン、良いと思います!」
なんと由衣夏はこのヒロインの設定に好感を持った。どこがいいんだ、このヤンデレみたいな妹。
「そうだろう。さすが、由衣夏は分かっているな。他の二人はどうだ?」
「よく分からないのでこれで良いと思います。私の仕事はイラストなのでお任せします」
「私も音楽担当なのでキャラクターの設定についてはそちらでお任せします」
澪と桃子はキャラクターの設定に対して、随分と投げやりな態度であった。
まぁ、半ば脅されてゲーム制作に参加させられている立場なので無理もないか。
「ゆ、由衣夏……さん。本当にこのキャラクターが良いと思ってるんですか?」
「はい。これくらい、お兄ちゃん好きじゃないとヒロインのインパクトがありませんよ。それと私のことは由衣夏って呼んでください」
マジか。ギャルゲをしたことないからよく分からんが、こういう妹が普通に出てくるのか。
ラノベだってこんなブラコン妹そうそう出てこないぞ……出てくる作品も少しはあるが。
「そ、そうなんだ……うーん、でも由衣夏さんがそういうのなら……」
すると、由衣夏は明らかに不満そうな顔をした。よほど年上にさん付けされるのが嫌らしい。
「はっはっはっ。そうだろうそうだろう。それじゃ、次のキャラクターも見てくれ」
メインヒロイン2:伊藤桜 高校一年生
優香と双子であり、優香の妹に当たる。兄に対し、ぞんざいな扱いをすることがあるが、実際は兄が好きで好きでたまらず洗濯機から兄の下着を漁ったり、兄の部屋に監視カメラを仕掛けたりして、夜な夜な
得意なものはボクシング、剣道、柔道。嫌いなものは幽霊。ちなみに巨乳である。
「みんな、どうだろうか」
どうもこうもない。何だこのやばい妹は。やばい妹製造機かこの人は。
どこの世界に兄の部屋に監視カメラを仕込む妹がいるんだ。
しかも、洗濯機から兄の下着を漁るだと!? そんな兄妹がいてたまるか。
逆の立場でもないぞ……多分な。
「良いですね! 最高だと思います!」
由衣夏は陽毬が考え出したモンスター妹を賞賛した。マジか、これが最高の妹だと? 俺がおかしいのか?
「だろ? 嫌いに見せかけての実は好き。これぞまさにギャルゲの王道を行くということだ」
「はい。いわゆる『ツンデレ妹』ってやつですよね! これはグッときます」
「そうだろうそうだろう。ツンデレはジャスティス! ジャスティスは正義。よってツンデレは正義、Q.E.D!」
「その通りです! ですが……この妹の設定に変更すべきところがあります!」
一体どこだろうか。俺は全部変更した方が良い気しかしないが。
「ほう……なんだ?」
「この妹は巨乳ではなく、貧乳にすべきです!」
「な……! な、何を言ってるんだ由衣夏は!」
陽毬はまるで顔に冷や水でもぶっかけられたように驚いた。
「桜ちゃんを貧乳にして、胸が小さいことをコンプレックスにするのです! そして、『お兄ちゃんはどうせ胸の大きな女の子が好きなんでしょ?』って訊くんです。どうです、萌えるでしょう?」
「馬鹿め! 巨乳にしなければ画面が映えないだろうが! ピカソくんの絵は巨乳の美少女にこそ、真価が発揮されるのだ。まぁ、貧乳がコンプレックスってのは確かにちょっと萌えるがな……だが、やっぱり桜ちゃんは巨乳にすべきだ。巨乳しかありえない!」
「いえ! ここは絶対に貧乳にすべきです!」
由衣夏と陽毬はヒロイン2の胸の大きさについて、激しい議論を始めた。
澪と桃子はそんな二人のやり取りに飽き始めたのか、各々絵を描いたり、スマホを弄ったりと単独行動し始めた。
ああ、こんな感じで打合せしていくのか。めちゃくちゃ大変そうだなぁ。
果たして無事にゲームの完成まで辿り着くのだろうか。