絵の女性と生身の女性、どちらがいいか? 〜現代のピカソが三次元に恋をするまで〜 作:チャンドラ=グプタ
休日ということでいつもより人が混雑している土曜日の朝。
俺は後楽園駅で由衣夏が来るのを待っていた。スマホを確認すると、『今到着しました!』とLINEにて連絡が届いていた。
すると、改札口を潜る由衣夏の姿が確認できた。由衣夏は俺の存在に気づくと、小走りでこちらに駆け寄ってきた。
「おはようございます。湊さん。お待たせしてすみません!」
ぺこりと由衣夏はお辞儀し、甲高いアニメ声で謝ってきた。
由衣夏は淡いピンクカラーの花柄が施されたドレスを着用している。さらに白いタイツを履いており、オタサーの姫感マックスである。
「いや、俺も到着したばかりだ」
「そうでしたか。今日はどうぞよろしくお願いします!」
「こちらこそよろしく頼むよ」
由衣夏と話しているとなぜか心臓がドキドキする。
もしかしたら俺は三次元の女性に対して初めてときめいているのかもしれない。
駅から歩くこと、およそ一分でヌード展が行われている文京シビックセンターに到着した。
自動扉の入り口を潜ると、中には銀行ATMやカフェ、総合案内展示室などがあった。
展示会が行われているのは地下一階にある展示室である。エスカレーターで地下一階へと向かった。
受付の人にチケットを渡し、早速会場に入る。
展示室の中は白い照明が灯されており、部屋の広さは二百平方メートルほどである。そして部屋の壁には様々な女性の裸体が描かれている。
泉に浸かる青色髪の女性の裸体。
玉座に座る橙色髪の女性の裸体。
白いベッドに横たわる桃色髪の女性の裸体。
気のせいだろうか。なんだか知り合いに似ているような気がする……誰とは言わないが。
由衣夏と共に展示室に飾られている絵を見て回ることにした。
「うわぁ……すごいですね」
由衣夏は『色欲の妹』というタイトルの絵を恥ずかしそうに見つめた。
金髪で褐色肌の女性は全裸で恍惚な表情をしている。この絵の中の女性……少し明梨に似ているな。
確かに筆圧、色使い、影の付け具合どれも見事であるが、正直俺の方が上手く描けそうな気もする。
「確かにすごい絵だな」
「けど、湊さんならこれよりもっとすごい絵を描けるんじゃないですか?」
「いや、そんなことは……」
まるで全て見透かしているかのような瞳でじっと見つめてくる由衣夏。
見せるべきだろうか――今まで描き上げた作品の数々を。
「良かったら今、見せてくれませんか。これまで描いた湊さんのヌード絵を」
「ああ、分かった」
俺は承諾すると、持って来ていた鞄から黒いスケッチブックを取り出し、由衣夏に渡した。
「この中にヌード絵が描かれている」
「見せていただきますね」
パラパラとページを捲り、真剣な様子で絵を見始めた。
「あ……うわ……す、すごい。これ、澪さんですか?」
由衣夏は始業式の日に描いた澪のページを開いていた。
「ああ、そうだ」
「本物そっくりですね……これは桃子ちゃんかな。あ、これは陽毬さんだ」
由衣夏は今までのヌードデッサンモデルを挙げていった。
「展示会の絵と比べてどうかな?」
自分の絵の出来について由衣夏に尋ねると、由衣夏は顎に手を乗せ、しばらくの間考え込んだ。
「そうですね……個人的にはですけど、湊さんの絵の方がすごいと思います」
由衣夏から良い評価を貰い、思わず飛び上がりそうであった。彼女に褒めてもらえるとこんなに嬉しいとは自分でも驚きである。
「本当に?」
「はい。なんというかその……絵の一枚一枚に信念みたいなのが込められているようなそんな気がしますね……って、私がこんなこと言っても説得力無いですよね」
「いや、そんなことはない。そう言ってもらえて本当に嬉しいよ」
その後も隈なくじっくりと展示会の絵を見て回った。他の人が描いたヌード絵を見ていると、次の作品に対するインスピレーションが湧いてくるようであった。
全ての作品を見終えた後、文京シビックセンターを後にした。
「湊さん、この後どうします?」
「そうだな……」
一緒にお昼ご飯と言いたいところであるが、それにはまだ時間が早い。
「あの、良かったら私の家に来ませんか?」
「由衣夏さんの家に?」
「はい」
由衣夏は頷いた。由衣夏の家か……どんな家なのか少し気になるが、これまでの流れとして俺を家に誘ってくるとしたら目的はヌードデッサンなのではないかと思わず勘ぐってしまう。
「いきなり家に行くのはちょっとな……それに親御さんとかいるんじゃないのか?」
「いえ。今日は出かけてます」
だめだこれ、フラグである。家に到着すると絶対に「ヌードデッサンしてくれませんか?」と誘われるやつだ。
一応、言っておくが由衣夏に対して、ヌードデッサンをするのが嫌なわけではない。
むしろ、とてもしたいとすら思っているのがだが、なぜか申し訳なさのようなものを感じて頭が由衣夏のヌードデッサンを拒んでいる。
こんなことは初めてだ。
「実は湊さんに見てもらいたいものがあるんです。だめでしょうか?」
由衣夏は悲しそうな目で見つめてきた。断る気満々だったのだが、しょうがない。
「分かった。行くよ」
そう答えると、由衣夏はとても嬉しそうに微笑んだ。
「あ、ありがとうございます!」
こうして、俺は由衣夏の家に向かうことになった。
後楽園駅の乗り、四谷三丁目駅で降りた。そこから歩いて住宅街へと入る。
十分ほど歩いていたが、由衣夏が立ち止まった。
「ここが私の家です」
俺の前にそびえ立つモダンな色使いの家は陽毬の家ほどではないがかなり大きく、煙突が付いているのが特徴であった。
「立派な家だな」
「そんなことありませんよ。それじゃ、早速入りましょう」
由衣夏は家の扉を開け中に入り、俺も続くように靴を脱いで家の中に入る。
案内されたのは大きめのテーブル、大型テレビ、白いソファーなどが置かれているリビングであった。
テーブルの奥にはキッチンが設けられており、自宅で使っているよりも大きめな冷蔵庫が目に止まった。
由衣夏は冷蔵庫からお茶を取り出し、コップに注ぎ、テーブルに置いた。
「良かったらどうぞ」
「ああ、ありがとう。それで見せたいものっていうのは」
「今、部屋から持ってきます。ちょっと待っていてください」
由衣夏はそう言い残し、リビンクから出ていった。
由衣夏の部屋か……どういう部屋なんだろうか。勝手な想像だが、アニメグッズとかたくさん置いてありそうな気がする。
しばらく待っていたが由衣夏は中々戻ってこなかった。
「まだかな……」
すると、リビングの扉が開いた。扉の先に目を向けると、パソコンを持った由衣夏がいた。
しかし、それだけではない。
なぜか由衣夏はスクール水着になっている。
恥ずかしいのか顔をうつむかせ、サラサラとした亜麻色の髪を弄っている。
胸こそ控えめであるが、スクール水着から伸びる長い健康的な脚が艶かしかった。
「な、なんだその格好……」
「陽毬さんがスクール水着を着れば喜ぶんじゃないかって言っていたので……」
何言っているんだ。あの人は……俺がスク水が好きだなんて一言でも言っていたか?
いや、そう言えば以前、LINEで『君はどんな水着が好きなんだ?』と訊かれて、『特にありませんが、強いて言えばスク水ですかね』って返した気がする。
くそ、俺のアホ……どうせならマイクロビキニって答えておけば……っていかんいかん! 何考えてるんだ俺は。
「そうか。全くあの人は……」
「嫌でしたか?」
「そういうわけじゃ無いさ。それで、このパソコンの中に見せたいものがあるのか?」
「はい!」
由衣夏はパソコンを開いた。画面には『三姉妹とのドキドキ共同生活!』というタイトルが出ていた。
「これは……ゲーム?」
「はい! 軽く私の方でゲームのプロタイプを作ってみました! 音声データとか画像データとかは昔作ったゲームのデータを入れてますけど、皆さんの作業が終わったら差し替えて改良していく予定です。ちょっと湊さんにこれをプレイしてもらいたいんですけど、いいですか?」
へぇ……すごいな、すでにある程度ゲームを作り上げているのか。
「ああ、分かった」
俺は早速、由衣夏が作成したゲームを作ることにした。