絵の女性と生身の女性、どちらがいいか? 〜現代のピカソが三次元に恋をするまで〜 作:チャンドラ=グプタ
「あー……湊さん、またバッドエンドを選んでしまいましたか」
由衣夏が呆れたように呟いた。いや、だってこれムズイもん。しょうがないじゃん。
「ま、まぁな……もう一回プレイするよ」
スタート画面からコンティニューし、再びゲームを再開することにした。
高速でボタンを叩き、例の選択肢へと舞い戻る。
――覗きに行きますか? 【行く】【行かない】
勿論、俺は『行かない』を選択する。
――俺は昂ぶる自分の思いを必死に抑え、リビングでスマホを弄りながら桜がシャワーを浴び終わるのを待つことにした。
――待つことおよそ二十分、シャワーを浴び終えた桜がリビングに戻ってきた。身体からほんのりとした湯気が出ている。
『ふー、さっぱりしたぁ……』
――桜は俺の隣に座ってきた。俺が座っているソファーは面積が狭いため、嫌が応にも桜の身体が当たる。
――ボディソープの良い香りが鼻孔を突き、湯気で火照っている桜が艶っぽく見える。このままではまずい。理性が吹っ飛んでしまいそうだ。俺はリビングから離れ、部屋に戻ろうと思った。
『俺、ちょっと部屋に戻るわ』
――ソファーから立ち上がり、その場から立ち去ろうとすると、どういうわけか桜が俺の腕を掴んできた。
『待って。ちょっと座って』
『へ? あ、あぁ……』
――桜に促されるままに、俺は再びソファーに座る。すると桜はちょこんと俺の膝に座り、背中に体重を預けてきた。
――今日の桜はおかしい。いつもならこんなスキンシップ、絶対にしてこない。
『お、おい……どうしたんだよ。桜……』
――桜は顔をこちらに向けた。俺の両手を握りしめ、指を絡めてくる。桜の指……細くてスベスベしていて気持ち良い。
『兄さん、やっぱり優香と何かあったんでしょ?』
『だから、何もないって……』
『嘘だよ絶対……だって、優香すごい嬉しそうだったもん! やっぱり優香と……したの?』
――桜はまっすぐ俺を見つめ、優香としたのか訊いてきた。
――桜の表情、これはやったと確信している表情だ。もはや誤魔化せそうにはない。
『ああ……したよ』
――俺が頷き、認めると俺の膝の上に座っていた桜は立ち上がった。
『そっか……なら、私ともしてよ』
『さ、桜……お前何言ってるんだよ!』
『本気だよ、私は』
――桜は目を瞑り、俺にキスしてきた。突然の出来事で一瞬、自分が何をされたか分からなかった。
『兄さん、私もね。優香と同じくらい、兄さんが好きだよ……』
――桜は自分の思いを告白すると、着ていた服を脱ぎ出した。瞬く間に桜は俺に生まれた姿を披露する。
――この前見た優香の胸よりも小ぶりであるが、桜の胸はあどけなさがあり、情欲を唆られる。
『私の胸……優香のより小さいけどさ……どうかな?』
『うん、俺は桜の胸も好きだよ』
『優香のよりも? 兄さんは大きい方が好き?』
『どちらかと言うと大きい方が好きだけど……桜の胸は優香と同じくらい好きだよ』
『もう兄さんったら、正直なんだから……けど、そんな兄さんも私は好きだよ』
こうして、二人が交わるシーンが陽毬さんの無駄にある表現力により描かれた。
主人公の伊藤真琴は桜とセックスし、無事チャプター2が終了した。
「お疲れ様でした、湊さん。チャプター2どうでした?」
「そうだな……ちょっと主人公すぐ死にすぎじゃないか? これじゃただの死にゲーになるぞ」
「そんなことはありませんよ。このドキドキ感が癖になるんじゃないですか」
言われてみればそうだ。選択肢を選ぶたびに主人公が死ぬんじゃないかと毎回ハラハラさせられる。
「た、確かにそうかもしれないな……それじゃ、チャプター3プレイしてみるか」
「あ、その前に良いですか?」
チャプター3をプレイしようとすると、由衣夏に止められた。今すぐにでもプレイしたいのに一体なんだろうか。
「なんだ?」
「良かったらヌードデッサンしません?」
突然、由衣夏からヌードデッサンの誘いを受け、頭が真っ白になりそうになった。
「は? なんだって?」
「良かったらヌードデッサンしません?」
大事なことだからかなのか由衣夏は全く同じセリフを二回言ってきた。
いや、まぁヌードデッサンの誘いをしてくることはある程度予想していたことではあったのだが。
「どうして突然」
「そろそろゲームをプレイしてインスピレーションが浮かんできたところなんじゃないですか? 今ならすごいヌード絵が描ける気がしませんか?」
確かに由衣夏の言う通りである。
ゲームをプレイしたおかげで、どんな構図の絵を描くべきか、次から次へと案が思い浮かんできた。
「まぁ……そうだな。だが、断らせてもらう」
俺が断ると、由衣夏はキョトンとした表情を見せる。
「ど、どうしてですか?」
「さぁな……俺にもよく分からん」
おかしい話であるが、俺は由衣夏をモデルにヌードデッサンをしたいという気持ちが全く起こらなかった。
こんなことは生まれて初めてだ。
「なんですか、それ……おかしいですよ」
「おかしい……まぁ、そうだな。俺はおかしいんだよ。生身の人間より自分が描いた女性の方に心惹かれる……そんな頭のおかしい人間なんだ」
だからこそ俺は亡くなった母親から異端児扱いされたのである。
普通の絵を描いている限り、俺を認めてくれる人間は少なからずいるだろうが、俺の本性を知れば多くの人間が俺から離れていくことだろう。
「すみません、そんなつもりで言ったわけじゃないです。ただ、私をデッサンしたくないって言うのがちょっと悔しかったっていうか……やっぱり私に魅力がないからですか?」
「いや、そういうわけじゃない」
俺は由衣夏に魅力を感じている。おそらく、澪や陽毬、そして明梨よりも。
それなのに由衣夏をモデルにヌードデッサンしたくないと思っている。
その理由は恐らく――
「悪いが理由は今は言えない」
はっきり由衣夏に告げると、彼女は少し呆れたように微笑みノートパソコンを閉じた。
「分かりました。では、理由を話せる時が来たらその時はちゃんと話してくださいね。あと、このノートパソコンをお貸ししますので続きは家でプレイしてみてください」
「ああ。ありがとう由衣夏」
俺は由衣夏からノートパソコンを受け取り、彼女の家を後にした。
真っ直ぐ帰宅し、早速部屋で由衣夏から借りたノートパソコンを起動する。
今からチャプター3をプレイする。しかし、今まさにゲームをプレイしようとした時、ドアの方から『コンコン』とノック音が聞こえてきた。
ドアを開けると、明梨が立っていた。明梨はダボっとした可愛らしい猫がプリントされたTシャツを着ており、Tシャツの胸の隙間から豊満な胸の谷間がはっきりと見える。明梨のやつ、ノーブラか。
「どうした?」
「お兄ちゃん。さっき、父さんから電話があってさ、来週の土曜日に帰ってくるってさ」
「マジか……」
前にも少し説明したが、俺たちの父親は海外赴任している。帰ってくるのは年に二、三回ほどであるが、この時期に帰ってくるのは珍しい。
「うん。ちゃんと家を掃除しておけって言ってたよ」
「そうか。分かった。それじゃ、後で掃除するから明梨も手伝ってくれるか?」
「勿論良いよ。私、勉強してるから掃除する時になったら声掛けてね!」
「了解」
明梨のやつ勉強とは偉いな。俺も二年生だしそろそろ勉強の方も頑張らないとな。
そう心の中で思いつつも、とりあえず今はゲームをプレイすることにした。
ゲーム画面に部屋の背景と主人公である伊藤真琴のイラストが映り出した。
――桜との出来事からおよそ一週間が経過した。今日は日曜日。俺は部屋で漫画を読みながらくつろいでいた。
――すると、扉の方からノック音が聞こえ、扉を開けると外には麻衣子が立っていた。
『おお、麻衣子か。どうしたんだ?』
『ちょっと、部屋の中に入ってもいい?』
『え? あ、あぁ……』
――俺は麻衣子を部屋の中に入れた。麻衣子は俺の部屋に入ると真っ先に俺が使っているベッドに座り込んだ。
『それで、どうしたんだ?』
『ちょっとベッド借りるね』
――なんと麻衣子はそのままベッドの中に潜り込んだ。
『お、おい……麻衣子……』
『えへへへ……お兄ちゃんの匂いがする……』
――麻衣子は悦に浸ったような表情でクンクンと掛け布団の匂いを嗅ぎ始めた。
『お兄ちゃんもベッドの中に入ってきてよ』
『え?』
『久々にお兄ちゃんと一緒に寝たいなぁ……いいでしょ?』
――甘えるような声でおねだりしてきた。ドクンと心臓が大きく鼓動する。
――選択してください。 【一緒に寝る】【一緒に寝ない】
また選択肢か……だが、もう間違えることはない。この主人公になりきって選択するだけだ。