絵の女性と生身の女性、どちらがいいか? 〜現代のピカソが三次元に恋をするまで〜 作:チャンドラ=グプタ
「ここが私の家だ」
学校を出てから歩くことおよそ十五分。
俺たちは陽毬の家の前に到着した。
「こ、ここが陽毬さんの家ですか……とても大きいですね」
陽毬の家は平たく言ってとても大きく、まさに豪邸であった。コンクリート建のその家は少し西洋っぽさを感じさせるようなデザインをしていた。
庭はとても広く大きな池があり、池の中では何匹かの金魚が悠々と泳いでいる。
「それじゃ、中に入ろうか」
陽毬は茶色い重量感のある扉を鍵を使うことなくあっさりと開けた。
「陽毬さん、その扉。鍵掛かってないんですか?」
「いや、顔認証で開くんだ」
「へぇ……そうなんですか」
超ハイテクだな。俺は「おじゃまします」と小さく言い、靴を脱いで家の中に上がった。
これほどの豪邸だと、メイドや執事のような人が出迎えてくれるのかと思っていたがそんなことはなかった。
家の中はとても広く、たくさんの部屋があるようであった。
「まずは私の部屋に案内しよう」
二階へと上がり、階段から手前の部屋に入った。
部屋のカーテンは洒落たデザインが施されており、とても豪華そうであった。
陽毬の部屋は思っていたよりかはそこまで広くはなかった。俺の部屋より少し広いくらいだ。
女子の部屋と言えば、可愛らしいものが置かれていそうな印象を勝手に抱いていたが、意外にも陽毬の部屋はあまり物が置かれておらず、部屋は綺麗に片付けられていた。
ちなみに前に澪の家に訪問した時は、あいつの部屋はとても散らかっていて、とても驚いた。
陽毬の部屋を見渡していると、一際目立つものに目がいった。
「すごい立派な書棚ですね」
机のテーブルを挟んで向かい側に木でできた書棚が置かれていた。高さは天井に届きそうなくらい高い。
さらに、書棚の中には難しそうな本が並んでいる。
「そうだろう。私のお気に入りなんだ」
陽毬は得意そうに鼻を鳴らした。
「陽毬さん、読書が好きなんですか?」
「ああ、本を読むのを日課にしてるんだ。それで今日、湊くんを呼んだにも繋がるんだが……実は私、小説を書いているんだ」
「そうなんですか」
適当に相槌を打った。特段驚くことでもない。読書が好きな人なら趣味でそういう行動を取るのも当然だろう。
「ああ、ちょっとこれを見てもらってもいいかな?」
陽毬はなぜか書棚ではなく、机の方へと向かった。
椅子に座り、机の上に置いてあるデスクトップ型のパソコンを起動した。
そこで俺は察することができた。執筆した小説のデータがパソコンの中にあるのだと。
小説と言えば手書きというイメージが先行していたが、よくよく考えてみれば今時手書きで書いている小説家はそうそういないだろう。
「これを少し見て欲しい」
「えっと……『覗いた先にあるもの、それは妹』……これが陽毬さんの書いた小説ですか?」
作者名はシンヤとなっているが、陽毬のペンネームだろうか。
「いや、違う。これは最近、私がハマっている小説だ」
「どうしてこれを俺に?」
「ものすごい小説だからだ。一部分目だけでもいいから是非とも湊くんにも読んで欲しいんだ」
「わ、分かりました」
鬼気迫る表情で陽毬が薦めてくるため、俺は小説を読むことにした。
最初はふとしたキッカケで主人公である兄が妹の着替えを覗くところから始まった。
正直言って、文章は荒削りもいいところであり、俺が普段読んでいるラノベに比べると、比較にもならないくらい完成度は低い。
しかし、文章から並々ならぬほどの妹への狂気的な愛情が伝わってきた。
というかこれ……エロ小説だ。
「どうだった?」
一部分目を読み終えた俺に対し、陽毬が感想を求めてきた。
シスコンではない俺にとってはあまりハマるような内容ではない。
「そう……ですね。作者さんが妹が好きなんだなーっていうのは伝わりました」
感想を述べると、陽毬はがっしりと俺の手を掴んできた。
「そうだろう! やはり私は君が見込んだ通りの人間だ。白状しよう! 私も妹が大好きなんだ! 妹は神が作り出した最高傑作! そうは思わないか?」
陽毬は興奮した様子で息がかかりそうなくらいな距離まで顔を近づけてきた。
「えっと……陽毬さんには妹がいるんですか?」
「いやいない。だが、私は妹を愛している! 私はこの小説を見て、理想の妹を作り上げようと思ったんだ。湊くんに頼みたいのは小説の挿絵なんだが、協力してもらえるかな?」
興奮した様子で息がかかりそうなくらいの距離まで顔を近づけてきた。
というか陽毬さん、妹がいないのか。言っておくが、別にガッカリしているわけではない。
「えっと……しょ、小説の挿絵ですか?」
「ああ。勿論、それ相応の対価は払う。お金でもなんなら私の身体でも良いぞ」
イタズラっぽく陽毬はウィンクしてきた。
「か、身体って……とりあえず分かりました。協力したら澪との件は黙秘してくれるんですね?」
「ああ、約束しよう」
思ったよりやばい話ではなくて良かった。心の底から安堵していた時だった。
「ところで湊くん。君には妹がいるかい?」
急に陽毬は妹の有無を訊いてきた。それも真剣そうな表情で。
「え、えぇ……いますけど……」
正直に妹がいることを告げると、陽毬は嬉しそうに口角を上げた。
「ほう……君の妹は可愛いのかな?」
な、なんだこの質問は。
「普通だと思います」
「写真は持ってるかい?」
「いえ、特には」
これは本当のことである。決して嘘ではない。まぁ、スケッチブックには妹の裸体が描かれてはいるが。
すると、陽毬は手を差し出した。
「な、なんですか。陽毬さん?」
「あのスケッチブックを見せてくれ。澪に見せた黒いスケッチブックを」
「ど、どうしてですか?」
「これはあくまで勘だが……君のスケッチブックには妹さんのヌードデッサンが描かれているのではないかと思ってね」
まじかこいつ。名探偵コ◯ンかよ。
「か、描いてませんよ。そんなの」
「そうか、とりあえず見せてくれるかな?」
「い、家に忘れてきました!」
「では一応、鞄の中を見せてもらおうか」
陽毬は俺の鞄の中を漁りだした。
「ちょ、ちょっと陽毬さん!」
陽毬はすぐに黒いスケッチブックを見つけてしまい、パラパラとスケッチブックを閲覧した。
あるページの部分を食い入るように陽毬は見つめた。
「お、おぉ……す、すごいな……うへへへ……」
目を爛々と輝かせながらスケッチブックを見つめる陽毬の表情はまさに肉食獣そのものであった。
「な、なぁ湊くん。この子、君の妹なのかい? 美咲って書いてあるが。顔立ちとか、どことなく君に似ているな」
陽毬はスケッチブックを俺に見せてきた。ページの端っこ部分に日付と美咲という文字が書いてある。
俺はヌードデッサンを書く際、いつもデッサンした日付とモデルの名前を書いている。
「は、はい。そうです……」
もはや嘘を隠し通すのを難しいと考えた俺は正直に答えた。
「し、しかし……とんでもない兵器(おっぱい)を持っているな君の妹さんは。私もそれなりに大きい方だとは思うのだが……上には上がいるんだな」
確かに陽毬もなかなか立派なサイズのものを持ってはいたが、美咲には及ばない。
なにせGだからな。
「あの、陽毬さん。妹に何かする気ですか?」
俺は別にシスコンではないが、美咲が何かされるのを黙って見ているほど薄情な兄ではない。
「いや、何もしないよ。安心してくれ」
安心できねぇな。この人。
後で美咲にはオレンジ色の髪で切れ目の人に会ったら注意するよう伝えておくか。
「そうですか。ならいいですけど」
「それで、今日はせっかく来てもらったし良かったら私を描いていくかい?」
「えっと……描いていくというのはぬ、ヌードデッサンということでしょうか?」
正直、その言葉を家に案内された時から期待していた。
「ああ、そうだ。どうする?」
「……お願いします」
こうして、俺は陽毬のヌードデッサンをすることになった。