絵の女性と生身の女性、どちらがいいか? 〜現代のピカソが三次元に恋をするまで〜 作:チャンドラ=グプタ
澪とヌードスケッチした日の夜。
――放課後屋上に来てもらえますか?
桃子からLINEでこんなメッセージが届いた。
俺はこのメッセージを見て察した。
これはおそらく、俺に告白するつもりであると。
桃子が俺に対し、好意を抱いているのは薄々気づいていた。
しかし桃子が告白してきたとしても、俺はキッパリと断るつもりである。
三次元よりリアルの女性の方が好きな男なんかよりも、もっと良い人がいるはずである。
今日のお昼休み、桃子は俺の元ヘはやって来なかった。
そしてあっという間に放課後が訪れた。俺は意を決して屋上へと向かった。
告白を断らなければと考えると、階段を登る足が重くなっていくようであった。
扉を開けると、落下防止用フェンスの前に桃子が立っていたのが見えた。
屋上から吹き込む風によって、桃子のピンク色の髪がなびいている。
「お疲れ様です。先輩」
「ああ、今日は屋上に呼び出してどうしたんだ?」
桃子がしばらくの間何かを言おうとするのを躊躇った後、口を開いた。
「実は私、見てたんです!」
「み、見てたって何をだ……」
俺は嫌な予感がした。まさか、桃子のやつ。
「先輩が澪先輩とヌードデッサンしていたのをです」
俺は過呼吸が起こるのではないかというくらい心臓が激しく鼓動した。桃子のやつ……見ていたのか。
陽毬以外にも弱みを握られてしまったことになる。
「桃子。お前、見ていたのか……」
終わった。俺はそう覚悟した。
「先輩はああいうのが好きなんですか?」
「あ、ああいうのって?」
「ヌードデッサンですよ」
「ああ、好きだ……」
ドン引きされてしまうかもしれない。そんな覚悟で桃子に伝えた。
俺は下手に嘘をつくよりも、正直に言った方が桃子も納得してくれるのではないかと考えた。
「そうなんですか」
桃子は表情を変えないまま、相槌を打った。
「し、ショックだったか? やっぱりこんなの気持ち悪いよな」
「いえ」
あっさりと桃子は否定した。もっと侮蔑の態度を取ってくるものだと思い込んでいた。
意外と俺の周りの女子生徒は懐が広い人が多いのかもしれない。
「本当か?」
「はい。倉庫に隠してある先輩の絵、見させてもらいましたけど先輩のヌードデッサンの絵……超感動しました!」
急に桃子は興奮したように俺に差し迫り、手を握ってきた。桃子の滑らかな手の感触を感じた。
「ありがとう。桃子はこういうの気持ち悪いって思わないんだな」
「勿論です! それにしても、澪先輩って結構あるんですね。これは負けているかもしれません……」
桃子はしかめっ面しながら自身の胸を触りだした。
「それで……今日、呼んだのは俺がヌードデッサンを好きなことを確かめるためなのか?」
てっきり俺は桃子が俺に対し、告白するものばかりだと思い込んでいた。
「いえ、違います。単刀直入に言います。私をモデルにしてヌードデッサンを描いてください!」
桃子は澪と同様にヌードデッサンのモデルにするよう頼んできた。
「ど、どうしてそうなるんだ?」
「だって、先輩みたいな超天才にモデルにしてもらえるなんてすごく光栄なことじゃないですか! ちなみに先輩に拒否権はありませんよ。何故ならば澪さんとヌードデッサンをしていた記録はバッチリこのスマホに保存してあります! ついでに家のパソコンにも保存しています。バックアップもしているので消去しようとも何度でも蘇ります。そう。ラ◯ュタのように!」
「蘇らなかったけどな」
バ◯スなんて叫んでもデータは消えないだろう。正直、俺にデメリットはないから良いのだが。むしろヌードデッサンさせてくれるなんて、ありがたい話である。
「俺は構わないけど……いいのか? ヌードデッサンということは俺にその……裸体を見られるというわけだが」
「構いません! 先輩には私の身体の隅々まで見てもらいたいくらいです! 先輩には……この意味が分かりますよね?」
「えっとつまり……」
「付き合ってください。先輩!」
結局そうくるのか。ならば仕方ない。
「悪いがそれはできない」
俺が桃子からの告白を断ると、彼女はとてもショックそうに顔を強張らせた。
「ど、どうしてですか!」
「俺はな……生身の女性より二次元の女性の方に興味が強いからだ」
「キモオタということでしょうか?」
「いや」
今の発言は全オタクの方々を敵に回すぞ。
ややこしいかも知れないが、俺はアニメやゲームの萌え絵にはそれほど性的興味を感じない。
どちらかと言えば、モナリザとかああいうリアルっぽい絵に性的興味を感じる。モナリザを例に上げたため一応言っておくが、俺は手フェチではない。
「俺はなんていうかその……普通の女性よりも自分で描いた女性の裸体の方が好きというかその……」
うまく説明しようとしたが、言葉に詰まってしまった。
「先輩。好きな人がいるから断るという訳ではないんですね?」
「ああ、まぁな」
「ならいずれ振り向かせて見せます!」
堂々と宣言する桃子に対して男らしさを感じた。
「随分、堂々と宣言するんだな」
「はい。それじゃ早速今日、ヌードデッサンしましょう」
「え、今日?」
「そうです。部活が終わって誰もいなくなったらやりましょう。構いませんよね?」
「いや、昨日も桃子に見られていたし、できるなら今後は学校以外の場所でヌードデッサンをしたい」
またヌードデッサンしているところを他の生徒に見られたら、今度こそえらいことになる。
「そうですか。では仕方がありませんね。ヌードデッサンをするのに良い場所があるので今日はそこに案内します。放課後、校門の前に待っていてもらえますか」
「わ、分かった……」
今日はバイトもないので俺は承諾した。桃子とヌードデッサンができる。
そう考えたら正直心が踊った。
放課後、校門の前で桃子がやってくるのを待つことにした。すると、突然スマホが『ブルル』と振動した。
桃子からだろうか?
スマホを確認するとLINEの送信者は陽毬からであった。
――小説の挿絵の件で今週の土曜日相談したいことがある。午前十時この場所で待ち合わせお願いしていいだろうか。
小説が完成したのだろうか。添付されているURLを確認すると、学校から五百メートルほど離れた場所にある喫茶店が表示された。
俺は『了解しました』と陽毬に返信した。
「せんぱーい!」
桃子の声がし顔を上げると、彼女が走って俺のところに駆け寄って来ていた。
「先輩、お待たせしました。待ちましたか?」
「いや、大丈夫だ」
「良かったです。それじゃ、行きましょうか!」
「ああ」
こうして俺はヌードデッサンを描くための場所に向かったと思ったのだが……
「先輩、どっちがいいと思いますか?」
ランジェリーショップにて、桃子は下着を両手に持ち、どっちの下着がいいか俺に訊いてきた。
右手に持っているのは黒を基調とした布地の面積が少ないセクシーな下着で、左手に持っているのはピンクを基調とした可愛らしいデザインも下着であった。
まるできこりの泉のようだ……いや、ちょっと違うか。
「そうだな。そっちの方が俺的には好みだな」
俺はピンクの下着を指差した。桃子のカラーリング的にもピッタリであると思った。
「えー! ちょっとこれ、幼くないですか?」
じゃあ訊くなよ。そう思ったがここはグッと堪えておくことにした。すると、何故か桃子はジト目で俺を見つめた。
「な、なんだよ……」
「先輩って結構、経験ありそうですよね。普通の男子だったら、『えっとこ、ここここ……こっちの方がいいかな……』って下着から顔を背けながら反応するものなのに。先輩ってもしかして結構、ヤ◯チンだったりするんですか?」
「ち、違うぞ」
俺は即否定した。たまに美咲さんや明梨の下着選びに付き合うことがある。そのため、ある意味ランジェリーショップには慣れていた。
結局、桃子はピンクの下着を購入した。お店を出た後、俺たちは最寄駅へと向かった。
「なぁ、桃子。ヌードデッサンができる場所ってどこにあるんだ? まさか家ってわけじゃないよな?」
「違いますよ。秋葉原にあります!」
秋葉原だと? 俺もラジオ会館やアニメイトよく行くが、自由に使えるアトリエのような場所が秋葉原に存在したのか。
「秋葉原……そこにヌードデッサンできるところがあるのか」
「はい! ですがまずは私と電気街を巡ってください!」
「分かった」
山手線の電車に揺すられながら秋葉原を目指した。結構久しぶりに秋葉原に行くため、ちょっとワクワクするな。