田舎のしおいちゃんと深夜の廃校舎でセックスして別れる話 作:大河原大河
01
彼女が何かと戦っていることを僕は知っている。
彼女が戦争と呼ばれるものに加担していることを知っている。
人ではない何かを殺していることを知っている。
しかし、僕はそういった彼女の姿を知らない。
僕が知っているのは、僕と一緒に過ごしているときの彼女だけ。僕は僕の知らない彼女を知ろうとは思わない。
だって知ってしまったら────
湧き上がる欲望を抑えきれなくなってしまう。
02
「成績が学年で上から二番目だから」という、冗談みたいな理由でクラスメイトに虐められていた。一番成績が良い人は「かっこいいから」というこれまた冗談みたいな理由で皆から受け入れられていたが、僕はそうはいかなかった。
担任教師と両親はクラスにおける僕の扱いを問題視して、しかし、とった行動はそれぞれに極端だった。前者は僕の存在を完全に無視し、いじめという問題そのものをなかったことにしようと目論んだ。後者はいじめが発生する環境に対して過剰な拒否反応を示し、僕をクラスから引き剥がそうとした。いい子の僕は、親の言うことに従ってその学校を立ち去ることになった。
教師はもとより、クラスメイトのほとんどが僕の転校に好意的だった。そんな彼らと縁を切ることに抵抗はなかったけれど、唯一心残りだったのは、とある女子のことだ。話し相手もおらず、ぼんやりと宙を眺めるような彼女。教室の中で当然のように孤立していて、僕はそんな彼女のことをじっと見つめている。話したことは一度もなかった。
目立って整った顔立ちというわけではない。興味を引かれるような身体的特徴があるわけでもない。ただ、僕の視線を拒絶しないからと見つめていたものが、いつしか好意にと変化していた。
僕はいい子だった。決して何者にも逆らわず、指示されたことを真面目に取り組み、教わったとおりに実践する。教室の雰囲気が僕を否定するのなら、黙ってそれを受け入れる。両親が僕の環境を変えてあげたいならば、好きなように動いてもらう。
僕はいい子だった。
でも完璧じゃなかった。
本当は自分を拒絶する雰囲気に抗いたかった。皆と仲良くしたかった。自分の欲求を素直に吐き出して、友達になってほしいと叫びたかった。けれど、僕にそんな度胸はなくて、空気を打ち破るだけの力もなかった。ここで僕が泣き喚いたところで、同調圧力が僕とクラスメイトの関係を絶つのは明白だ。
だから、せめて。
僕は、僕と同じくらい教室で浮いた彼女と親しくなりたかった。
関係性を構築できそうなクラスメイトが彼女しか見つからなかった悲しい事実を、好意という形に変換して、行動に結びつけた。
転校直前、最後の登校日。僕は朝早くにやってきて、彼女の机に手紙を忍ばせた。「放課後二人で話しませんか」という内容だ。きっと孤立している者同士、応じてくれるはずと信じた。
「何の用?」
体育館裏。指定した場所に向かうと、彼女は既に待っていた。
僕は友達になりたいことを伝えた。
「嫌」
一蹴された。予想外の返答に戸惑う。
「だって、気持ち悪いもの」
気持ち悪い。
気持ち悪い。
気持ち悪い。
彼女の言葉が三度脳内を駆け巡った。
フリーズした僕に追撃をかけるように、彼女は「あなたみたいな人とは絶対に友達になりたくない」と言った。
どうしてそんなことを言うのか。理由を教えてほしい。
「いつも私のことを見てるでしょ」
頷いた。知られていたことに驚きはしなかった。
「どこ見てるか、普通に分かるから。太股とか胸とか、やらしい顔で見てたの、自分で気付いてないよね。そういうところが気持ち悪い」
だから友達になんて決してなりたくない、と再度、強調した。
彼女の辛辣な言葉を聞いて────僕は、確信した。
僕は彼女と親しくなりたかった。でも、親しくなるとは一体どういうことを指しているのだろう。親しくなるということの具体性が、僕の思考からは抜け落ちていた。単なる仲間、お友達、そういった関係になれば満たされると思っていた感情は、実際はより上位のものであると確信した。
僕は彼女の腕を掴んだ。
陶器みたいに白くて、すぐ壊れてしまいそうなほど細い腕。
「何するの……、っ!」
抵抗しようとした少女の身体を引き寄せて、唇を重ねた。
逃がさないよう、そのまま強く抱擁する。
すぐに唇を噛まれた。口の中に温かな液体が流れ込んでくる。鉄の味がする。熱い。とても痛む。それでも口づけを続ける。
友達になるだけでは満たされない。
肥大化した僕の好意は、彼女の身体を求めている。
彼女を縛り付けていた手を、少しだけ緩めて、全身を撫で回す。
腰。
尻。
腿。
肩。
首。
首に手をかけて、そのまま押し倒す。体育館裏、雑草の生い茂る汚れた地面。地面に彼女を押しつける。喉を押さえつける。気道を塞ぐ。
身動きの取れない彼女。
苦しげに僕の手をのけようともがく姿は、酷く官能的だ。
僕を引き剥がせないと判断したらしい彼女は、拳を振るってきた。頬に当たる。切れた唇に響く、が喉から手は離さない。脚も暴れている。押さえ込む。
か弱い。
弱い女の眼は、しかし強い感情を放っている。
嫌悪、憎悪、悪感情────ゆえに生じる、快感。
僕を嫌う人間を支配下に置いているという状況。彼女のすべてを僕が握っているという感覚。欲望のままに振舞うことができる全能感。それらが、どうしようもないほどに僕を昂らせている。
呼吸を絶たれた彼女の目がひっくり返る。小刻みに痙攣しているのは、意識を失いかけているか、あるいは既に失われているか。
首から手を離す。すでに抵抗はない。
制服を剥ぎ取る。
上半身から、順序良く、少しずつ。まるで儀式。
素肌が露わになるごとに息が荒くなっていく。
動悸が激しくなる。
下半身。
服を剥いで、剥ぎきって、そうして下着に触れる。
異性の下着だ。
僕はひどく興奮している。
音が遠ざかっていく。
視界にのみ意識が向けられ、他のことがどうでもよくなる。
好意を持っている女が、目の前で下着姿を晒している。
耐えられない。
耐えるつもりもない。
女が目覚める気配はない。
震える指で、女の股と自分の股とを露出する。
僕は女の身体を求めている。
欲望のままに女の身体を求めるのは、どれほどに喜ばしいことだろう。
どれほどの快楽だろう。
彼女にあてがい、そして、
突如として頭を殴りつけられた。
僕は意識を失った。