田舎のしおいちゃんと深夜の廃校舎でセックスして別れる話 作:大河原大河
僕はいい子だった。
でも僕の性根は腐りきっていた。
だから僕を孤立させたクラスメイトの判断は、結果から見れば正しかったのだ。
あのあと病院に運ばれた僕は、クラスメイトと再会することなく学校を離れた。僕を殴った人のことを訊いてみたら、どうやら学年一位で「かっこいい」彼だったらしく、きっと今頃ヒーローとして持て囃されているのだろうと想像できた。そして僕は散々に罵倒されているに違いない。だとしても、もはや関係のないことなのだけれど。
転校先の学校でも、罪を犯すような人間が居場所を作れるはずがなく、結局はこんな山奥の村で空を見上げている。父が昔住んでいたと聞いたが、住所は知らない。
夜空には月。
聴こえるのは虫の声。
村、集落、そういった表現が適切だった。よく言えば落ち着いた、悪く言えば何もない、周りに広がるのはひたすらに緑の風景。数少ない住人の大半は農業を生業としており、そして老けている。暮らし始めて数ヶ月、同い年どころか、若者といえる年齢の人を見たことがない。
だからこそ、僕はここで暮らしている。
最終的に両親は、学校の変更ではなく関係性の排除を決めた。僕が事件を起こした理由を他者との繋がりにあると断定し、僕を擁護し、僕以外の人間を激情のままに罵倒した。両親の主張は間違っていて、悪いのは僕なのだと思ったけれど、僕の意見は掻き消されるだけだから何も言わずに俯いていた。
クラスメイトというもの自体が必要ない。
学校に所属するだけ無駄。
学友どころか、同年代の知り合いすらも作らなければよい。
そうして選ばれた居場所がこの村。スマートフォンは当然のように機能しない、電波なんてまともに通らない、山に囲まれた集落なのだった。
両親はいない。僕を守るために僕を田舎に送った彼らでも、僕を守るために仕事をやめるというわけにはいかない。父の知人が面倒を見てくれてはいるが、四六時中うちにいるのではなく、三日に一度、様子を見に来る程度だった。
まるで人生の夏休みのような、一人で時間を持て余すだけの日々を数ヶ月。やることもなく、話し相手もおらず、縁側でぼんやり雲が流れる様子を眺めていたら、あっという間に夜になっている。
日が昇っているうちはだいたいそうやって過ごして、暗くなるとようやく食事を作り始めるのが、ここに来てからの習慣だった。食欲はすっかり落ちていて、一日一食が基本になっていた。幸いにも家事は一通り教え込まれていたので、実質的な一人暮らしも無事こなせている。
いい加減見飽きた月から視線を外して、ぐっと背筋を伸ばす。ずっと同じ姿勢で寝ているから、身体が石になりそうだ。
さて台所へと向かおうとしたところで、
僕は遠くに見えるそれに気付いた。
最初は見間違いかと思った。
あるいは僕の欲望が見せた幻なのだろうと思った。
けれどそれはどんどんと近付いてきて、まっすぐにうちを目指していて、近付くほどに自らの存在を主張して、さらにそれはもう一つの恐るべき現実をも備えていると僕に気付かせた。
その人は僕を見つめている。僕はその人を見つめている。互いの興味の対象が互いであることを証明していて、それからその人は僕の五歩先の位置で立ち止まって、
「初めまして」
と言った。
その人は僕がこの村にやってきて初めて見る子供、それも、同い年くらいの女の子だ。快活そうな、人懐っこい雰囲気の笑顔。日に焼けた小麦色の肌。ポニーテールでまとめた髪が風に揺れている。Tシャツ、ショートパンツのラフな格好から伸びる四肢はちょっぴり筋肉質で、運動部なら主力として活躍できそうに見えた。
僕が返したのは沈黙だった。
初めまして、とは返せなかった。
「あーっと、初めまして?」
挨拶が聞こえていないとでも思ったようで、少女は同じ台詞を、今度は尋ねるようなニュアンスで繰り返した。返事を求めているのは明らかだったが、僕はそれでも、言葉を発せずにいた。
驚いていたのだ。
どうしようもないくらいに。
まず、僕と同じくらいの子供がいた、ということ。数ヶ月も暮らしていて一度も見なかったから、てっきり同世代の人間はいないものと思い込んでいた。だというのに、不意打ちでやってきたものだから、驚いてしまった。
けれど、それだけならば、言葉を失うことはなかっただろう。
だから僕がそこまで驚いていたのには、別の理由があった。
それは少女の容姿にまつわる話だ。
彼女は特別美人というわけではない。目立って整った顔立ちというわけでも、興味を引かれるような身体的特徴があるわけでもなかった。
ただ、恐ろしいほどに、似通っていた。
性格も雰囲気も出生も育った環境も違うはずの少女は、あのクラスメイトの女子、僕が欲情したあの女子と、外見だけが同一人物かと疑うほどにそっくりだった。
あの女子が髪をあげたらそのままこの少女になると断言できるほどに。
瓜二つだった。
「……初めまして?」
三度目。
僕はやっとのことで、初めまして、と返すことができた。
それは、胸の高鳴りを悟られないように、掠れた小さな声だったけれども。