ひみつ道具建造ガチャ 作:ピリーン
触れた物体の性質や外見等を逆転させるひみつ道具。
例えば扇風機に触れれば、冷風ではなく温風を出すようになる。
ただし、どのような形で逆転するかはランダムで、先述の扇風機なら温風を出す効果となる場合もあれば、風を吸い込む効果となる場合もある。
もう一度使用すれば元の状態に戻すことが出来る。
「指揮官。この海域はこちらの編成がよろしいかと」
「……そうだな」
部屋で書類を眺めている二人の男女。
一人は言わずもがな、この母港を仕切る指揮官である。
そしてもう一人は、彼が秘書艦として選んだKAN-SENだ。
「よし、今回も彼女に……」
「いえ、燃料効率を考えれば、彼女の方が適していると思います」
「あー、確かに。それにしても本当に優秀だな……」
「そんな、指揮官程ではございませんよ」
指揮官が発案した編成に対し、秘書艦は的確な助言でサポートする。
これほど有能な秘書は、全KAN-SENの中でもまずいないだろう。
彼女は正しく母港一デキる女と言っても良い程だ。
「ならこれでどうだ?」
「少々お待ちを。ふむ……どこを取っても完璧です。流石は指揮官ですね」
「いや、君が手伝ってくれたお陰だよ」
「そう仰っていただければ光栄です」
一見、有能なKAN-SENが指揮官の補佐をしていると思うかもしれない。
しかし、この部屋は非常に混沌としており、見る者によっては、あまりの衝撃に卒倒するレベルだろう。
それもそのはず。何せ……
「ありがとう、
「どういたしまして」
指揮官の補佐を務めるKAN-SENは、スーツを着て眼鏡をかけた有能秘書と化しているサンディエゴであり……
「ふぅ~っ♡ ふぅ~っ♡」
指揮官が座る
どうしてこうなってしまったかと言うと、話は一時間前へと遡る。
※※※※※※※※※※※※
「……あ、アベコンベ?」
アホな思い付きにより、偶然にもひみつ道具を建造してしまった指揮官。
彼の手に握られていたのはアベコンベ。触れた物を何でも逆転させてしまう道具だ。
しかし、この道具は『ドラえもん』の原作でもドラえもんとのび太が使い道に困っていた。
そう。他の便利な道具と違い、どういった用途で使用すべきかが不明な道具なのだ。
(いや、こんな物が出て来ても困るんだが……何に使えって言うんだよ)
不埒なことが出来ると期待した矢先にこれである。
この道具では、KAN-SEN達と性行為までもつれ込ませることはまず不可能だろう。
それだけに、指揮官のテンションは一気に最底辺まで落ち切っていた。
(アニメで聞いたことのある効果音が鳴った時はワクワクしたのに……俺の興奮を返せよ……)
指揮官はトボトボと自室に戻ろうとした。
彼はせめて、この道具をどう使うかを一人でじっくり考えることにしたのだ。
しかし、こういう時に限って誰かと出会ってしまうものである。
「あら? そこにいるのは私の子豚ちゃんではありませんか♪」
「うげっ」
軽巡洋艦・エイジャックスである。
彼女は言うまでも無くサディストの気があり、どちらにも属さない指揮官にとっては相性が悪い相手なのだ。
しかし、これまでは欲望を抑えそれなりに仕事をこなしてきた彼は、彼女に一定の信頼を寄せられている。
彼女は彼を自分の
「『うげっ』とは失礼ですわね。もう少し可愛い反応をしてくれても良いのに」
「……今はそんな気分じゃないんだよ」
「今は、ですか……そう言いいながら、一向に私の気持ちに答えてくれませんよね?」
「当たり前だろ。俺は別にSでもMでも無いし」
指揮官は既にエイジャックスとまともな会話をする気が無く、早く自室に戻りたいと考えていた。
しかし彼女がそれを妨害するかのように会話を続けようとする。
「つれませんわねぇ……でも、その方がいじめ甲斐がありますわ♪」
「生憎、そういう趣味は無いんでね。それじゃ」
「ちょっと! そこまで露骨に避けられるのは不愉快なのだけれど!」
「うるさいな……はいはい俺はお前の子豚ちゃんですよ~っと。これで良いか?」
「良い訳無いでしょう!? 愛が込められていません!」
「そりゃ込めてないからな」
指揮官が会話を切ろうとすると、すかさずエイジャックスが繋ぎ止める。
もう既にお分かりかと思うが、彼女は素直では無いだけで彼に好意を抱いているのだ。
故に、少しでも意中の人と話したいという想いで、何とか彼と一緒に過ごす時間を増やそうとしている。
尤も、普段の言動が言動なので、彼には苦手意識を持たれており、女性としての好意は一切抱かれていない。
無論、彼にだって好きになる相手を選ぶ権利があり、苦手意識を持つ相手を好きにならなければならない決まり等無いのだが。
「どうしてですかっ! 私の子豚ちゃんになれるチャンスなんてもう来ないかもしれないんですよ!?」
「別にいらんわ。何度も言うがそういう趣味は無いんだって」
「だったら私が目覚めさせてあげますわ! ですから……」
(しつこいな……こちとら変な道具を掴まされてイラついてるってのに。この際だからこいつに使ってやろうか)
指揮官は手元に握られたアベコンベを隠しつつ、無言でエイジャックスに近付く。
当然、彼女は彼が自分の言っていたことに本気となってくれたのかと思い……
「えっ、し、指揮官? もしかして、私の子豚ちゃんになってくれる気に……!」
「んな訳無いだろ」
「ひうっ!?」
アベコンベでエイジャックスに軽く触れる。
すると彼女は先程までとは打って変わって大人しくなる。
「…………」
(急に静かになったな……もしかして、うるさい性格が物静かな性格になったとか?)
そう分析する指揮官。しかしエイジャックスは大人しくなったのでは無い。
むしろ、自身が抱いていた
彼を熱い瞳で見つめる彼女。そしてゆっくりと口を開き……
「……指揮官」
「ん?」
「私を貴方の子豚ちゃんにしてええええぇぇぇぇっ!!」
「ファッ!?」
とんでもない爆弾発言をかますエイジャックス。
そう。アベコンベの効果により、サディストだった彼女はマゾヒストへと変貌を遂げたのだ。
「いや何言ってんだお前!?」
「ですから私をっ! 貴方の子豚ちゃんに……いえ、豚にして下さい!」
「悪化してるし!?」
「貴方を子豚にしたいだなんて、私はなんて愚かなことを……どうか! この卑しき豚に罰を下さいませ!」
「それ
「お願いします! どうか私に罰をおおおおぉぉぉぉっ!!」
「うわわわっ!? こ、こんな所で土下座なんかするな! 落ち着け! 一旦落ち着けええええぇぇぇぇっ!!」
※※※※※※※※※※※※
「どうぞっ! この私を椅子としてお使い下さいっ!!」
(結局連れて帰る羽目になってしまった……)
廊下で土下座し続けるエイジャックスを放置しておく訳にもいかず、指揮官は渋々彼女を自室へ連れて行った。
そして部屋に着くや否や、彼女は四つん這いの姿勢となり、彼に対し「座って下さい」と悲願し出した。
「あぁっ! 豚の分際で椅子になろうだなんて、私としたことが……やはり足拭きマットとして」
(これ、ほっといたらどんどんエスカレートしていくやつだよな……また土下座されたらめんどくさいし、ここは……)
自分で蒔いた種とはいえ、半ば呆れ果てた顔でエイジャックスを見つめる指揮官。
だが、ドMと化した彼女には、彼の冷たい視線はご褒美であり……
(ふあぁっ♡ 指揮官から蔑んだ目で見られてるっ! ゴミを見るような目で見られてますわぁっ!)
結果、エイジャックスはより一層発情してしまうこととなった。
流石に指揮官はそこまで軽蔑の意を込めてはいないのだが、そんなことを彼女が知る由も無い。
「……分かった。座れば良いんだな?」
「は、はいぃっ!」
(これ以上面倒事を起こさせない為だ……心を鬼にしろ、俺……!)
「んぅっ♡」
指揮官はゆっくりとエイジャックスに腰掛ける。
柔らかくて小さな体に尻を乗せるという行為に、彼は一瞬だけ罪悪感を抱く。
しかし彼女の恍惚な表情を見た瞬間、彼のそのような考えはどこかに消え去った。
「わ、私っ! 指揮官の椅子として使われてますわぁっ!」
(うわぁこいつマジで喜んでるよ……)
目を輝かせながら感激するエイジャクスの姿に、指揮官は思わずドン引きする。
彼にサディストの気があれば、ここでそのまま行為にもつれ込んだのかもしれない。
しかし、どちらでも無い彼にとっては、この光景に興奮するのは到底無理な話なのだ。
(もう一度アベコンベを使えば元に戻るとは思うが、そうするとまた子豚子豚うるさいし……)
(あぁっ、し、指揮官のお尻が背中を圧迫して……! これほど素晴らしいご褒美は他にありませんわぁ……!)
このような光景を誰かに見られでもしたら、間違いなくややこしいことになるだろう。
しかし、先程も述べたが、得てしてこういう時に限って誰かがやって来るものである。
「し・き・かぁ~ん! 暇なら私と一緒にカラオケでも行かな~い?」
(まためんどくさそうな奴が来た!!)
バカ三銃士の一人でお馴染み、サンディエゴである。
青葉やグリッドレイが来るよりはマシだが、彼女は彼女でこの光景を見たら大騒ぎすること間違い無しである。
そして声高らかに喚きながら母港中を駆け回ってしまえば、恐らく指揮官はあらぬ疑いをかけられてしまうことだろう。
「あっ、もしかして仕事中……な訳ないよね~? 最近暇だ暇だって言ってたし~」
(まずい! 近付かれたらエイジャックスが椅子になってることがバレる!)
慌てた指揮官は咄嗟にアベコンベを握りしめ、何を思ったのかサンディエゴの頭に触れてしまった。
「あうっ!?」
「え? あっ、しまった! つい……」
(あっ、指揮官が私から離れて……もっと座って欲しいのに……)
「…………」
「……えっと、サンディエゴ?」
先程のエイジャックスと同様、急に黙り込むサンディエゴ。
すると、いつもの明るい笑顔からは想像もつかないような、真剣な表情となり……
「指揮官の前であるにも関わらず、はしたない格好で訪問してしまい申し訳ございません。すぐに着替えて参りますので」
「は?」
低く平坦な声でそう言ったサンディエゴは、そのまあ部屋を立ち去った。
そして数分もしない内に、身支度を整えたらしい彼女が戻って来る。
「お待たせ致しました。こちらでよろしいでしょうか?」
(す、スーツに眼鏡!? それに髪の毛を後ろに纏めてるし!? 誰だよコイツ!?)
黒いスーツはいかにも仕事が出来そうな印象を感じさせ、四角い眼鏡はまるで賢そうな印象を抱かせる。
後ろに括りつけられた赤い髪は、書類仕事から出撃まで、どのような状況でも一切視界の邪魔とならない工夫がなされている。
そう。アベコンベの効果により、自他共に認める馬鹿だったサンディエゴは頭脳明晰な天才へと変貌を遂げたのだ。
「指揮官。どうやら貴方はアベコンベによりマゾヒストとなってしまったエイジャックスの扱いに困っていらっしゃるようですね」
「なっ……ど、どうして分かった?」
「いえ、指揮官の右手に握られている物を見れば、ひみつ道具の知識がある者なら誰もがその結論に至るはずです。そして何より、机の裏側からエイジャックスの甘い吐息が聞こえます」
「し、指揮官……もう一度私に座って下さぁい……♡」
(やべぇ……まさかサンディエゴが、俺のうっかりでここまでの天才になるなんて……!)
眼鏡の位置を指で整える様は、まるで蒼龍が目の前にいると錯覚してしまう。
しかし指揮官の眼前に立っている凛々しい女性は、紛れも無くあのサンディエゴなのだ。
「差し出がましくて申し訳ございませんが、私から一つ提案があります」
「て、提案?」
「この場合、エイジャクスを放置すれば指揮官に対する欲求がエスカレートすると考えられます。そこで逆転の発想として、可能な範囲で彼女の願望を叶えてあげるのです」
「願望って……」
「エイジャックス。貴女は指揮官にどうして欲しいのですか? もちろん性的な行為はいけませんが、一歩手前までの行為であれば問題無いでしょう」
「身動きが取れないよう身体を縛って下さい! あっ、目隠しもしていただけると嬉しいですわ……あぁっ! 豚の分際でこのようなことを言って申し訳ございません! ですからこの豚にお仕置きをぉ……!」
「なるほど。指揮官、今からエイジャックスの部屋に向かい、縄と目隠しとギャグボールを持って参ります。後は貴方が彼女の欲求通りにすれば、しばらくは大人しくなるはずです。そしてその間に、本日の仕事を片付けてしまいましょう。私もお手伝い致しますから」
「……マジかよ」
※※※※※※※※※※※※
こうして時間軸は現在へと戻る。
天才となったサンディエゴにサポートされつつ、指揮官はエイジャックスに座りながら、今までで一番と言えるであろう出来栄えで仕事を終えることが出来た。
「ところで指揮官。そのアベコンベはどうなさるおつもりですか?」
「これか? さて、どうしたもんかな……良いことしようにも悪用しようにも、上手く活用出来る気がしないんだよな」
「ふぅーっ! ふぅーっ!」
「こいつは涎垂らしまくりながら鼻息荒くしてるし、お前はお前で不気味なくらい頭良くて冷静だし、現時点でカオスだよカオス」
「ふむ……折角ですし、他のKAN-SENに使ってみてはいかがですか?」
「天才だと思った俺が間違ってた。やっぱお前馬鹿だわ」
「いえ、逆転の発想です。原作でものび太が明言していますが、色々と使用していけば、いずれは理想的な反転効果を得られると思いますよ? 何より問題が起こったとしても、再度使用すれば即座に元の状態へと戻せますし」
「……前言撤回。お前は馬鹿じゃない。天才ではあるが、
「その通りでございます。アベコンベ等という
ニヤリと笑うサンディエゴに、同じくニヤリと笑う指揮官。
アベコンベの逆転効果はランダムであり、どのような形で逆転するかは使用してみなければ分からない。
その為、彼女の場合は頭脳こそ逆転しているが、
「……よし。そういうことなら、ちょっとだけ羽目を外すか」
「お供します。指揮官のミスや失敗は私が全力でフォロー致しますので、存分にお使い下さい」
「ひ、ひひふぁん……♡」
「こいつはどうする?」
「放置で良いでしょう。訓練されたマゾヒストには、放置プレイもご褒美です」
「だな。よし、早速犠牲……じゃなくて実験台を探しに行くか!」
「ふふっ……久々に、母港で待機するだけの退屈な日々から解放されそうです♪」
アベコンベを握り締め、指揮官とサンディエゴは歩き出す。
拘束され、彼が離れたことさえ気づかず発情し続けるエイジャックスは部屋に放置される。
彼らの悪ふざけにより、果たして何人の犠牲……もとい実験台となるKAN-SEN達が出てしまうのだろうか……
あえてエイジャクスをドMにしてみた。ついでにサンディエゴを天才(でも本質はそのまま)にしてみた。