「勇者様。あそこにあるのが帝都で最も大きな陰毛屋です」
そう言って振り返るメイドさんの顔は真剣そのもので、俺は一瞬自分の耳がおかしくなってしまったのではないかと疑った。
「す、すみません。今、何屋さんって言いましたか?」
「陰毛屋です」
「え?い、いんも、え?」
「陰毛屋」
「もう一度お願いします」
「……なるほど。勇者様は女性に卑猥な単語を言わせたいタイプの人でしたか」
「ち、違う!」
どうやら聞き間違いではないらしい。
不本意極まりない誤解をされてしまった為、これ以上は聞き返さない事にする。
それにしてもゴミでも見る様な目を向けられた事に納得がいかない。
往来で突然その卑猥な単語を口にしたのはメイドさんだった気がするのだが……。
「えーっとメイドさん。俺は確か帝都の重要な場所を案内して貰ってた筈ですよね?」
「はい。陛下からもその様に指示を受けています」
「ですよね。実際、役所や銀行、病院なんかを案内していただきましたしね」
「その鳥頭でちゃんと覚えていましたか。褒めて差し上げます」
「いや、うん……」
半日行動を共にして、このメイドさんの毒舌にもいい加減慣れて来た。
無表情から繰り出される容赦ない言葉をなんとか受け流す。
「それで、陰毛屋ですか……」
「役所、銀行、病院と来たら次は陰毛屋です」
「なるほど。この国に召喚されて1週間ですが、急にこれからやっていけるか不安になって来ました」
「会話中ずっと、お店から出てくる客の商品袋を凝視している勇者様なら大丈夫かと」
「な、なんのことでしょう!?」
いや、まあ凝視したけどね。
貴族ぽいおっさんが陰毛屋からニヤニヤしながら出て来たら、何買ったんだろって気になっちゃうだろ、普通。
「その反応……。まさかバレていないと思っていたのですか?」
「い、いいでしょ別に!」
「まあ、勇者様がこの国の事に興味を持ってくださるなら私としても嬉しいですけど」
全然嬉しくなさそうにジト目で睨んでくるメイドさん。
その顔はめちゃくちゃ可愛いけど『勇者様はむっつりスケベ』みたいな噂がたたないか不安だ。
まあ、噂とか流す様な人には見えないが。
「そ、それで……陰毛屋って結局どういうお店なんですかね?」
名前から想像出来てしまうが、一応訊ねておく。
もしかしたら割と真面目なお店なのかも知れないしな。
「その名の通りですよ。ここには大陸で名の通った女性達の下の毛が売られています」
「想像通りでしたか」
「……一応言っておきますが私はこのお店が好きではありません」
「えー、ならなんで案内したんですか」
予想外なメイドさんの告白に、俺の中に疑問符が浮かぶ。
「陛下から言われているからですよ。それに、この世界の事を知って頂く為に必要な場所という理由もあります」
「陰毛屋が、ねぇ」
「お店の前で話していても仕方ありませんので、中に入りましょう」
躊躇なく扉を開けて入店していくメイドさんを慌てて追いかける。
「おおっ……!」
店の中に広がる光景に思わず感嘆の声を出してしまった。
壁や棚に展示されている無数のケース。
その中には黒、茶、赤、青、金様々な色の毛が入っていた。
メイドさんの話が正しければアレらは全て女性の下の毛なのか。
そのケースの側には小さな写真が置かれていた。
「メイドさん。あの写真はもしかして……」
「はい。側にある毛の持ち主の写真です」
「マジかっ……」
近くの棚にある写真に目を向ける。
天真爛漫な笑顔の少女は貴族の娘か何かなのだろう。
ピンク色のドレスを着ており、まるで天使の様に美しい。
その顔を脳内に記憶しながら、視線を横にずらすと、そこにはケースに入れられた毛の束が置かれていた。
写真の少女の髪と同じ水色をしたその毛は、彼女の大切な場所に生えていた陰毛なのだ。
この天使の様な少女は、どういう状況でかオマンコの毛を剃られてしまったのだろう。
頭の中でこの陰毛を生やした彼女の裸体を想像する。
穢れなき身体に薄っすらと生えていた毛は、彼女の大切な場所を隠す最後の砦だった筈だ。
彼女はその陰毛を掴まれ、カミソリか何かでジョリジョリと剃られてしまったのだ。
羞恥で顔を赤く染める彼女。
露わになる幼い割れ目。
…………やべぇ。
陰毛屋マジやべぇわ。
「変態勇者様。夢中になっているところすみませんが話をしてもよろしいですか?」
「だ、誰が変態勇者ですか!」
「違うのですか?小さな女の子の陰毛に夢中になっていた様ですけど」
……否定出来ない。
14.5歳くらいの子の陰毛で妄想した分後ろめたさを感じてしまう。
せめて隣の20歳くらいのお姉さんの陰毛にしておけばよかったか。
「……それを言ったら、こんな卑猥なお店に男を連れて来たメイドさんは変態メイドですよ」
「『……グスッ……私は嫌だと言ったのです……でも勇者様が……「美少女メイドと陰毛屋に入るのが昔からの夢だったんだ」と言って無理矢理……うぅっ……私は穢されてしまいました』……どうですか?」
「…………何ですかそれ」
「勇者様を衛兵に突き出す際の演技の練習ですが」
「事実無根!!昔からの夢どころか陰毛屋なんてモノが存在する事を今さっき知りましたよ俺!!」
「可憐なメイドと不細工な勇者様。果たしてどちらの言い分を衛兵達は信じるでしょうか」
「な、なんて人だ……」
このメイド最低だな。
特に、さり気なく俺を不細工呼ばわりして心に大ダメージ与えてくるあたりとかタチが悪すぎる。
自分で言ってる通りこのメイドさんマジで美少女だから、余計に傷付いた。
「まあ冗談はこれくらいにして大事な話をしましょうか」
「はあ。それでなんの話でしょうか」
「何故陰毛屋があるのか、についてです」
「え?そういう性癖の人が多いからじゃないんですか?」
「確かにそれもあります。ですが、ここは仮にも国営。真面目な理由もちゃんとあるのです」
国営だったのかよ、ここ。
銀行、病院に続いて案内された理由それか。
しかし、陰毛を売るちゃんとした理由ねぇ……なんだろ。
考えても分からない為、メイドさんに続きを促す。
「それでどんな理由でしょうか」
「勇者様は知らないでしょうがこの大陸では戦争が絶えず起きています。この帝国も現在三つの国と戦争中ですよ」
「勇者として召喚されたのも戦争の為だとは聞いていますよ。ですが、それ程ですか……なんて言うか恐ろしいですね」
一見平和そうに見えるが多くの人が戦場に駆り出されているんだろうな。
この瞬間も何人もの人が死んでいる筈だ。
俺がその様に考えて暗い気持ちになっているのを見たメイドさんは「安心してください」と言って驚きの事実を口にした。
「ここ数年の戦争による死者は4人だけです。それも落馬などの事故が原因ですね」
「え?どういう事ですか」
「そこに陰毛が関わってくるのですよ」
メイドさん曰く、この世界にはいくつか戦争についての特別なルールがあるらしい。
それは長い戦乱の中で生まれた暗黙の了解であり、大陸にある全ての国で共通の決まりだ。
そして、その中でも特に重要な物が2つある。
1つが『陰毛を剃られた相手に二度と敵対してはいけない』と言うもの。
もう1つが『敵にイかされたら、その人の奴隷にならなければならない』と言うものだ。
「陰毛を剃られる、と言うことは完全に身動きが取れず殺されて当然の状態だった、と言うことです。それを剃毛だけで済まされるのですから二度と敵対しないのは誇りのある人間なら当然です」
「うーん、なるほど」
「絶頂したら奴隷に、というのも簡単なことです。絶頂はつまり身体が屈したと言う事ですからね」
分かるような分からないような。
「でも、絶頂だけで奴隷になった人なんて信用ならなくないですか?」
「確かに昔はそうでした。ですが今、敵に絶頂させられながら奴隷にならないような人がいれば、敵味方問わず軽蔑されるでしょう」
やはり今一理解に苦しむな。
だけど、日本でも戦場で一々名乗りをあげたり、
「あ、と言うことは、この陰毛屋で売られているのって戦争で敵から剃った陰毛って事ですか?」
「はい。その通りです。ここにあるのは帝国が倒してきた敵将達の陰毛。品揃えの多さは帝国の強さの証明でもあるのです」
そう言ったメイドさんの顔は、無表情でありながらどこか誇らしげに見えた。