俺の体格に合わせて造られているベッドだからだろうが、そこに身を預ける姿が異様に小さく見える。この異空間に迷い込んだような錯覚を与えているのは、俺の愛しい恋人だ。
恋人たるナミはその体に、本来ならば誰が見ても不可能と思われるのにも関わらず、俺が求めれば必ず受け入れる。寧ろ壊すのではないかと怯える俺に対して、大丈夫だからと優しく声を掛けてくる始末だ。
「んァ……はっ……あぁっ!」
可愛く喘ぐ恋人はこうやって俺を常に甘やかす。これで息子達よりも歳下だと言うのだから、女ってなァ分からねェもんだ。
「んっ、ニュー……ゲート?どうしたの?」
「ナミが可愛すぎて、犯り殺しそうだなと考えていただけだ」
応えた俺にナミはそっと手を伸ばす。そして、両手で包み込むように俺の頬に触れると、優しく微笑みを浮かべた。
慈愛に満ちたその表情と、愛しいと伝えて来る眼差しに1生勝てそうもねェなと思わされる。甘いのは性格や考え方ばかりでなく、その香りもだが本人にはそのどれも自覚は無いらしい。
「ニューゲートになら、殺されても本望よ。最期の時まで、愛してね……?」
「これ以上俺を溺れさせたら、ナミの身が持たねェぞ」
「……溺れちゃいなさい。どうせ日が登ればニューゲートは〝親父〟に戻るのだから、今だけは……ね?」
そんな甘やかな言葉に、まいりましたと白旗を掲げてナミの小さな身体に俺の全てをぶつけようと動く。切なげな声で俺の名を呼びながら、けれども恥ずかしそうにそれ以外の声は抑えようとする。
1度、その姿を見た時から、その声を聞き、その戦い方を知った時から、欲しいと思わされたのだ。唇を合わせて、そのあえかな声を聞いた時、触れ合った瞬間に虜にされたのは俺の方だ。
今更俺が手放せる筈もねェんだよなと、普段はその容姿に見合わぬ程に理性の塊であるナミを想う。本能のままに動く事しか許さずにいるのは俺なのに、その姿が淫らだと感じてそれに余計に煽られる。
自分が大人である事を理由に耐えてやろうと思っていたのに、俺が微かにでも不安を抱けばそれに気付いて抱いてと口にする可愛いナミ。あんまり甘やかしてると、本当に俺に抱き潰されて死ぬぞ?
「ぁ……ニュー……ゲートッ!」
「ナミッ」
体力が尽きるその瞬間まで、俺を何処までも甘やかして来る愛しいこの生き物。それを、俺も可能な限り大切にしようと思えばこそ、とりあえず後処理位はしてやらねェとなと、力の入らなくなっているその肢体を抱き上げる。
全てを終えてベッドに戻り、ナミを抱き締めれば恐ろしい程の安眠効果があるのだ。だからこそ余計に、生涯手放せるかと思わされる。
だが……ナミお前ェ、こんな老耄相手で良いのか?と、声に出して問い掛ける事も出来ずにただ心で問い掛ける。声に出して拒絶される事に恐怖する時点で、相当に溺れているのだろう。
そんな風に問い掛けられてるとも知らず、ナミは安心した様子で眠っている。それを見れば起こす事は出来そうもねェなと、しみじみ思いながら、俺もまたつられるように深く眠りに落ちて行く。
翌朝目覚めると俺の動きに合わせてナミも起きたらしいと分かるが……昨夜は少し〝可愛がり過ぎた〟と言うのも分かっているので、もう少し寝てろと声を掛ける。それなのにナミは起きなきゃと、必死に動こうとして見せる。
「真面目だな、ナミは」
「迷惑、掛けたくないもの」
……まだ、んな遠慮してやがるのか。俺に動けなくされたと言えば、誰もナミを責める筈も無いってのに。
その時ドアがノックされマルコが顔を覗かせた。それに合わせて俺から離れようとする恥ずかしがり屋な恋人に、それ以前に何も着てない事を自覚して貰いてェと溜息と共に布団を被せる。
布団ごとナミを抱き締めれば、ナミはキョトンとした顔で俺の顔を覗き込み、首を傾げる。……これは、このままもう1度可愛がって欲しいとか言う話か?
「どうした?」
理性を総動員させてマルコに視線を向けて問いかければ、マルコが赤髪の坊主が来ると言い出した。追い返せと言う訳にもいかねェかと思った時、ナミが赤髪のそれに反応を見せた。
「知ってるのか?」
「えぇ、幼い頃にお世話になってたの。私から見たら、兄みたいな人達よ」
……そうか〝兄〟のような〝人達〟か。だとしたら、船に乗っていたと考えるのが無難だな。
海兵が海賊の船に居たとあれば……。いや、海軍側は知らねェんだな。
先日発行されたナミの手配書は初回でありながら〝1億ベリー〟である代わりに〝生け捕りのみ〟だ。どうあっても、海軍はナミを取り戻したいらしい。
……帰りたいなんぞと言われては困ると、蜜柑の入った籠を持って笑う写真を使われている手配書は隠してある。そうしてことナミに関しては、驚く程に臆病な自分を思い知る。
「マルコ、いつ来るって?」
「昼過ぎには到着すると思うよぃ」
「……仕方ねェな」
隠す訳にも行かねェし、ナミも知ったからには会いてェだろう。そう思うから、嫌だと思いながらもそれに蓋をして溜息を落とすに留める。
それでも何処にも行くなよという想いを込めて1度抱き締めると、相変わらずキョトンとしているナミがいて毒気を抜かれる。そうして俺がベッドを降りると着いてこようとするので、それを止める。
「まだそこにいろ」
「ニューゲート?」
「俺以外に肌を見せるな」
それにより裸であると認識し、真っ赤になったナミは明らかに食べ頃だと思うんだがな。ここで貪れば、恐らくは何時もは温厚なマルコでも怒り出すだろう。
マルコは俺を宥めようとするが、その内容はいつの間にかナミがここの家族として受け入れられ始めた事を意味するものに変わっている。エースの姉として優しく世話を焼き、俺の傍ではただ照れて赤くなるばかりで初心な少女のような姿を見せるナミ。
それでいて天候に何かあればキリッとした歴戦の戦士を思わせる雰囲気で指示を飛ばし、本当の戦いになれば息子達を躊躇い無くただ庇う。攻撃しに行く事等ほぼねェが、それは自己申告で聞いているから問題にならねェ。
……寧ろ戦いの時は引っ込んでいて欲しい。何かあれば俺が暴れるぞ。
そんな事を考えながら布団の中に服を入れる。俺の付けた跡が見えるそれを渡したのは、赤髪の小僧を警戒してのものだ。
……牽制になれば良いんだがな。
マルコはナミに無理させるなと言うが、ナミは無理をさせられている自覚も無い様子で首を傾げて見せる。それに対してマルコが寝てねェ事を指摘すると、顔を赤くして身動きを取れなくなるのだから、愛しくなって何がおかしいだろうか。
「……確かに、そりゃァ俺の責任だな。だがな、マルコ」
言葉を途中で止めるとマルコは俺に視線を向けて来る。その表情が少し幼くて、やはり息子達は可愛いと思わされる。
「ナミが可愛すぎるのと、何でも受け容れて俺を甘やかすのが悪ィとは思わねェか?」
マルコはそれを受けて、ポヤンとした顔で俺を見ているナミと悪戯に笑う俺を交互に見てから、馬鹿ップルと言い捨てて出て行った。……可笑しいな、ナミは俺の女だからお前らにはお袋枠だろうに。
そう思って笑った時、ナミは穏やかに微笑んだ。こんな些細なやり取りでさえ、幸せだとでも言うかのように。
「……ナミは、確かに俺を甘やかし過ぎだな」
「それは、ニューゲートが私を甘やかすから、それを返してるだけよ」
なんだ、この可愛い生き物は。そう想いナミを見つめれば、ナミもまた見つめ返して来る。
「ナミ……」
「ニューゲート……」
自然と互いに手を伸ばしたその時、サッチが呼びに来た。毎朝毎朝邪魔しに来るんだから困った息子だよと笑えば、逆だろ!?と騒がれた。
食堂に入ると同時にエースの世話を焼くナミを眺めていれば、ハルタに叱られたが今日は勘弁してくれ。余裕なんざねェんだからよ。
それを誤魔化す為にナミを呼べばテコテコと寄ってくるそれは、本当に無防備で……。夜の艶やかな姿と、今の無邪気な姿のどちらが本当の姿なんだかな?
俺の元に来ると幸せそうに、安心したように体から力を抜くのが分かり……その状態で声をかけて来る。
「ニュー……白髭さん、あのね」
「……2人の時じゃなくても、名前で呼んで構わねェよ。既に知らねェ奴は1人もいねェんだ」
「でも……」
「どうした?」
俯いたナミに声をかければ、項まで赤く染めたナミが照れた様子を隠しもせずに言う。少しだけ震えた声で、体格差もあり、上目遣いで。
「なんか、恥ずかしいんだもの」
「……ナミ、お前男を煽る天才か?」
思わず唸るように言えば、息子達も納得した様子で頷いているのがわかる。ナミは俺をどうしたいんだ。
「何のこと!?」
驚いた様子で顔を上げて、無防備に唇まで開いているからその唇を堪能する。声だけは抑えたナミに、このまま部屋に連れ帰りたくなるのを耐えるが、誰1人それを褒めてはくれねェ。
食事を終えたナミは、航海士としての仕事を自然とはじめる。それは呼吸をするように自然に、当然のように行われてそれに俺達は既に何度も助けられている。
海の向こうから赤髪の小僧の船が見えて来たが、ナミは海に夢中で他には意識を向けない。海から視線を外したと思ったら、空を見上げて恐らくは問題なしと判断したのだろうか、いつもの様に部屋に戻ろうとして、動きを止めた。
……気付いたか。気付かずに部屋に入ったら、喜びそうな本でも渡して、さり気無く会わせずにおきたかったんだがな。
船を見れば懐かしそうにその瞳を細めて、微かにそれを潤ませる。何かあれば対処できるよう隣に行けば、ナミの視線が俺に向けられた。
それだけで随分気持ちが楽になるってんだから、溺れるにも程があらァなと自嘲的に思う。それでも、今更どうにも出来ねェ。
少し会話をしてみても、ナミは本当にあの小僧の船にいるヤツらを慕っている様子で……そちらに行きたいと、言われる事を無意識のうちに覚悟した。だが同時に、手放せるのかと自分に問い掛ける。
その時ナミが突然、震えながら俺に飛び付いてきた。俺が消える事を恐るように。
ひとりにしないでと、無言で訴えて来る。……その直後に小僧が乗り込んできても、気付いている筈のナミが俺から離れようとしない。
それが嬉しくて、宥めるように言葉を口にすれば、悲痛な声と顔で傍にいてと哀願される。……ダメだ、手放せる筈がねェ。
思わずそれを口にしてみれば、嬉しそうに離さないでと言うナミ。不安が霧散するような気がした。
「……ナミを
言葉を口にした時、息子達は次々と倒れている最中で、波の音まで響いていた為にナミにそれは届かなかったらしい。申し訳無さそうに言うナミに、気にするなと声をかければ明らかに気にしながらも小さく頷いた。
その後1瞬の早業で、小僧がナミを抱き締め離さなくなった。その会話の途中聞き捨てならねェ言葉があり、俺が口を挟めば小僧が1丁前に殺気立ちやがる。
「白髭……お前……」
「なんだ?兄として許せねェってか?」
……おいおい、待てよナミ。小僧はお前ェに惚れてるじゃねェか。
そう思うが口には出さねェ。気付いてねェなら、そのままにさせた方が良い。
「……色々と、無理があるだろ。ナミを返して貰おうか」
「アホンダラァ!ナミは俺の女だ、返せとは聞き捨てならねェ」
俺と小僧が睨み合う中で、ナミが俺の元に駆け寄ってくる。それを抱き止め、そのまま抱きあげれば嬉しそうに笑うナミに、本当に良いのかと思う。
「ナミは良いのか?」
「何が?」
キョトンとした顔で首を傾げる子兎……ならぬ恋人のナミ。頭を思わず撫でつつ、不安を吐露すれば不思議そうに俺の事を最愛の人だと平然と言い放つ。
その癖その直後に、俺や息子達を案じて落ち込んだ様子を見せるから……涙に震える声を響かせるから、悪かったとその体を抱き締める。俺の覚悟が、足りてなかったんだな。
だがな、遺す側の気持ちにもなってくれよナミ。俺の方が明らかに残りの時間は短ェだろうが、そうなったら、その先ナミが苦しまない事だけ……幸福を願う事だけは分かってくれ。
「ナミは、納得して傍に居るんだな?」
小僧が確認するように問いかければ、当然頷くと思っていたナミがそれを否定した。だが、明らかに俺から離れようともしない。
意味が分からねェとばかりに視線を向けるものと、意味にいち早く気付いて笑う者に別れた。そんな中で凛としたナミの声が響く。
「私は、納得してるんじゃないわよ」
それから僅かな間を置いて、微笑んだ。その微笑みは神々しい程に、煌めいている。
「私は〝納得〟しているんじゃなくて〝望んで〟ここに居るの。だから多分、そろそろ恐ろしい額の手配書が出回ると思うわ……」
そういや、手配書見せてなかったな。……故意に。
その後のやり取りで、小僧の所の副官が俺に問い掛けてきた。それに素直に答えれば、そいつはナミに〝兄として〟の言葉を残した。
だがそれが、いつかその時がきたら引き取ると俺に伝えたのだと言う事くらい、嫌でもわかる。鼻ったれ共がァ……。
だが言葉を向けられたナミがそれに嬉しそうに笑い、微かに涙を浮かべるからその顔を他に見せたくなくて抱き寄せる。不思議そうにするが、抵抗しないナミに言葉を囁けば、真っ赤になって甘えてくる。
息子達はそれを微笑ましそうに、小僧は切なそうにそれを見て居たが、ナミはそれに気付く気配を見せはしない。……今夜は、優しく抱いてやろうと心で呟いたが、本当に優しくできたかは当人達しか預かり知らぬ所である。