夜中にこっそりとベッドを抜け出した子猫に気付かなかったフリをして、寝たフリをしつつ様子を見ていれば何故か赤い衣装に身を包み始める。数日前からコソコソと何かしているのは気付いていたが、そのコソコソと用意していた物を白の大きな袋に詰め込んでナミはよしと1人呟くと部屋を出て行った。
ナミはいったい……1人で何してやがるんだかなァ?
こんな事で使うのもどうかと思いながらも、見聞色の覇気を用いて様子を見ていれば寝てる息子達の枕元に箱を1つ1つ置いて歩くナミがいた。大部屋から順番に回るそれに、まさか約1600人以上いる船員全員にそれをやるつもりかと思えば少しばかり心配にもなる。
部屋の衣装ケースをそっと開ければ、まだまだ中には大量の箱があり、それぞれにメッセージカードまで付けてある。適当に手を伸ばして触れた箱のメッセージカードを開いてみると、ナミの文字で『Merry Christmas.Father Christmasからの贈り物よ。気に入らない贈り物だったら、他の人と交換してね』と書かれている。
どうやら全員に合わせた物を配っているのでは無いと分かり、少しホッとする。ナミならば全員に合わせて、何か用意するとかといった事も平然と行いそうだからな。
カードをそっと元に戻してケースの蓋を閉めようとした時、明らかに他とは違う16個の箱を見つければ、隊長達には個別で用意したのだと分かる。その更に奥に際立って変わった箱を見つければ、見なかった事にする他無さそうでそっと蓋を閉める。
その時ナミが帰って来て、起きている俺に驚いた顔をしてから少し恥ずかしそうに顔を赤らめた。……恥ずかしがる位なら、そんな素足晒した姿で歩き回るなと言いそうになるのを耐えれば、小さく起こしてごめんねなんぞと言い始める。
……確かにナミが傍を離れたから目覚めたが、それはナミが悪い訳じゃねェだろうに。そう思いながらも手招けば、ナミは何の衒いも無く近付いてくる。
それをそっと抱き込めば、驚いたような顔をした後で微笑みを浮かべたナミは、俺にそっと擦り寄ってくる。それから悪戯な笑みを浮かべて、手伝ってくれる?なんて言い出す。
だが俺が動けば皆起きちまうだろと笑えば、確かに!なんて笑ってから、胸元から何時もの武器を取り出す。それにしても、その武器を仕舞う場所はいかがなものだかな?
「寒くない格好で、甲板でプレゼント預かっててくれたりしない?」
「あァ、やりたい事は分かった。それなら、手伝ってやれそうだ」
俺を隠してみせると笑うナミにある意味無敵だなと思って笑えば、皆が寝てる間に配り終えて見せるわと笑う。泥棒を長くやってたんだもの、やれる筈よと言うナミは珍しく年相応に見える。
それから本当に俺の姿を消して、ナミは舞うように大部屋から順に回って行く。人数の多い所から順に配り、手持ちのプレゼントが無くなると俺がそれをナミに投げ渡して続きを配ると言うやり方だ。
それ故にプレゼントを取りに戻らない分早く終わると笑うナミは、無邪気な顔をしている。本当にそれにより起きる者が居ないこの技術は、素晴らしいものがあるな。
ナース達にも分け隔てなく配り終えてから、各隊の隊長の部屋に侵入して行く。1応ナース達の分は、男達とは内容を変えてあるらしい。
その配る為に忍び込む手腕は筆舌に尽くしがたい程に見事なもので、小さな物音でも飛び起きるような息子達を誰1人最後迄起こす事無く、無事に配り終えて見せた。1番厄介そうなのは起きていて部屋に居なかったのも成功の理由にはなるだろうが、それでも敵に回せば地味に厄介だなと思わされる。
マルコは見張りで、サッチは料理を仕込んでいる筈だ。確かサッチが作っているのは、このプレゼントを配ってる理由となるイベントに合わせた料理だと聞いている。
やり終えたらしいナミがお待たせと言って帰って来ると、俺に触れて不思議そうな顔をする。触れて来たナミが妙に冷たい。
「どうした?」
「なんで動き回ってた私より、寒空でじっとしてたニューゲートの方が暖かいの?おかしい」
「鍛え方が違うからな」
「鍛え方!?鍛えると体温上がるの!?」
まァ……理屈上体温は上がるな。とは思うが目を白黒させているナミが可笑しくて、それを伝え損ねる。
だが、俺は兎も角このまま甲板で過ごせばナミが風邪をひくと思い、抱き上げて部屋に戻ればナミは俺にもプレゼントがあるのだと言って笑った。その笑顔が穏やかで優しいものだったから、つい揶揄ってやりたくなる。
だからその耳元でそっと、お前がプレゼントだろうと言いながらその体をくすぐれば体を素直に反応させて、声を必死に耐えるのだから俺を惑わす天才だとしか思えねェ。……それにしても、本当にこの衣装は宜しくねェな。
「違う、もん。ちゃんと、ニューゲート、に……プレゼントがあって……やぁっ!」
「ナミより良いものなんか、思い浮かばねェけどな?」
先にその存在を知ってしまっていた事を隠す為に、暫しナミを指先で翻弄すれば体をビクビクと反応させて、熱い吐息をもらす。それにより、俺の方が余裕を奪われそうになる。
「ニューゲートッ!」
俺の名を呼ぶ、ナミの声。それに煽られそうになって仕方なく解放すれば、乱れた呼吸と乱れた衣装で俺を恨めしそうに見て来る。
「ニューゲートの、いじめっ子!全く、何が気に入らなかったのよ?」
服を整えながら深呼吸して俺に問い掛けるナミは、普段通りに戻ってるように見える。それでも、ほんのり色付いているその耳が先程乱れていたのが幻ではないと伝えて来るが。
「気に入らねェのは、その衣装だな。いつも言ってるだろ、俺以外に素肌を見せるな」
「だって、クリスマスだし」
なんだその意味のわからない理由は。そう思って溜息を落とせば、ナミは少し嬉しそうに笑ってヤキモチ?なんて聞いてくる。
「悪いか?俺はナミが愛しくてたまらねェんだよ」
「……っ!それは、ずるい。ニューゲートにそんな事言われたら、私が勝てる筈ないじゃない」
「ん?」
「私は、ニューゲートに溺れてるんだから……」
どっちが狡いんだかな?
そんな言葉を俺に向けながら、いつも通りに振る舞うナミに翻弄されるのは俺の方だ。そんな俺に無邪気な笑顔で差し出してきたそれを受け取れば、迷う事無くその中身を確認する。
中には西の海の銘酒がこれでもかと詰め込まれており、流石に言葉を失う。どれも貴重な物で、既に手に入らないとされてる物まである。
どうやって手にしたのかと驚き視線を向けると、先程までとは違う妖艶な笑みを浮かべてクスクスと笑う。惑わされそうだ、この魔女に……。
「この酒は……」
「ニューゲートの、故郷のお酒でしょ?調べて集めておいたのよ。でも、各1本ずつしか用意出来なかったわ。だから……呑むのは私と1緒に、半分こよ」
「そりゃァ俺へのプレゼントと言えるのか?グラララララ!」
俺が笑えばナミは当然でしょ?と言うと俺の腕に絡み付いてくる。そして、俺を見上げて悠然と微笑んだ。
「そのプレゼントは、私もセットなんだから。私無しじゃプレゼントが完成しないのよ」
「……んな事言ってると、ナミが持たねェぞ」
「そこは、ニューゲートが加減してくれればいいだけじゃない」
できるか、そんな事。小悪魔の要素の強い子兎を殺さねェようにするだけで、俺には精一杯だってのに。
そんな俺の思考には全く気付かない様子で、ナミは俺に甘えるようにその頭を俺の腕にもたれさせる。それから、少し寂しそうな声で言葉を紡ぐ。
「クリスマスなんて、ずっとやって無かったから……少しはしゃぎすぎたわ。……でも、皆喜んでくれるかしら。本当はね、靴下の中にプレゼントを入れるのが習わしの筈なのよ。でも、皆クリスマス自体を知らないから、枕元に置いてみたの」
「……皆、全員とはいかねェが、大半はクリスマスを知ってるぞ」
「え?」
「大切な家族が出した新作だ。皆出来るだけ目を通してるから、そのイベント自体は知ってる筈だ。だから朝になれば大騒ぎだろうぜ」
「大切な……家族?だって、私は元海兵で……」
「ンなこたァ、もう誰も気にしちゃいねェよ!ナミは俺の愛する女で、この船の大切な家族だ」
俺の言葉にナミは少し涙ぐんで、それからありがとうと呟いた。その若さで何を抱えて生きてるのかと思わなくもねェ。
だが、そんな事を考えてボーッとしていた俺の腕を抱くその力が、僅かに強くなっているのに気付き視線を向ける。すると、穏やかな眼差しで俺を見上げているナミがいた。
「朝になれば、皆の〝親父〟に戻っちゃうなら、今だけは私の〝彼氏〟として……クリスマスの前夜祭を共に過ごしてくれる?」
「皆の〝親父〟である事も、ナミの〝恋人〟である事も、辞めてる瞬間はねェぞ?だが……今は、俺がこの可愛いサンタを独占してェと思ってるんだが、どうだ?」
「ふふ、甘やかすのが上手ね。愛してるわ、ニューゲート」
「俺もだ、ナミ」
どちらからともなく触れ合う唇に、熱く甘い吐息に溺れているのはどちらなのか。それはどちらにも恐らく判断は出来ない。
Merry Christmas……恋人達の幸せな夜に、幸多からん事を。互いに身を重ね合う2人の上では、天使の羽のような雪が舞っていたが、互いしか見えない恋人達にはそんな物はどうでもいい事だろう。