もうすぐナミの誕生日だと言う事には気付いていた。だからこそ、現在モビーを縄張りの中でも特に栄えてる島へと向けている。
俺としては、今年は2人だけでナミの誕生日を祝ってやりたいと願っている。去年は誕生日を知らなかった為に、何もしてやれなかったからな。
その上で、誕生日に欲しい物があるかと誕生日を知った日に問い掛けたら、困ったような顔で〝今が幸せ過ぎるから何もいらない〟と宣いやがったのを思い出す。これは是が非でものんびりと2人だけで過ごしつつ、ナミを甘やかしてやりたいと思ってもおかしくはねェだろう。
だからと言って俺に金がある訳でなし、さてどうするか。ナミは俺と2人で過ごせるならそれだけで幸せとか言いそうだが、それは流石にまずかろうと思う。
そんな事になれば、俺がナミを貰う事になっちまうのは目に見えている。……まァ、ナミが可愛すぎるのにも、多大なる問題はあるだろうがな。
俺が求めれば、何でもしてくれちまうんだから、あんまり溺れさせてくれるなよと内心でつのる。そうしたくなる位に、自らの容姿がどれ程男を惹き付けるかも知らず無防備に笑うナミを相手に、俺は年甲斐も無く溺れているのだ。
「島が見えたぞー!」
息子達の声が聞こえる。それに反応して軽く酒瓶を上げれば、マルコから咎めるような視線を向けられた。
「なんだ、マルコ。今日はまだ2本しか呑んでねェぞ」
「やっと治ってきた所なんだ、無理はしないでくれよぃ」
「……心配かけちまって悪いな」
俺の言葉に小さく舌打ちしてから、困ったように笑うマルコの頭を軽く撫でれば、耳を赤くしながらも顔は平常通りを装う。器用なもんだとそれに笑いながら、聞こえて来た歌声に反応してゆっくりと立ち上がっていた。
優しい歌声が波音をバックに響き渡る。ナミが歌えばナースは動きを止めて微笑み、息子達は今日の天候は問題なさそうだと安堵の息をもらすのだ。
モビーの1角に作られた蜜柑畑で、楽しそうに蜜柑の世話をしながらナミは歌う。その姿に俺を忘れて抵抗していたナミも可愛かったと、そんな事をふと思い出して瞳を細めつつそれを眺める。
だが、あの日から変わらずに首にしている鈴がナミの動きに合わせて鳴る方が、俺としては良い収穫だ。それに、抵抗されるのを無理矢理ってのは……基本的には趣味じゃねェからな。
蜜柑の世話をしているからなのか、帰りたいのかと、もう帰してやる事は出来ない今、その歌の意味を深読みしちまう。歌声が止むのと、蜜柑の世話を終えるのは同時だったようで、そっとその小さな体を抱き上げれば甘えたようにナミの方から擦り寄ってきた。
「帰りたくなったか?」
「何処に?」
ナミが振り向いた事で、チリンと鳴る鈴の音に惹かれるように、その小さな体を潰さない事に注意しながら唇を塞ぐ。強く重ねた唇の隙間で心地良さそうにするのは、相性がいいからだけではないだろう。
「あ……」
堪らす小さく喘ぐナミを気にせず、俺は舌を深く差し入れる。俺の動きに反応するナミは、そっと自らも舌を動かし始めた。
このまま部屋に連れて行って、閉じ込めちまえたら……そんな事を思いながら奥深く迄舌を差込み、ナミの舌を絡め取り、舐め回し、果実のように甘い蜜をたっぷりと味わう。夢中で貪っていると、ナミの苦しそうな声が聞こえて、微かに唇を離した。
それに息をついたのを確認してから、何かをその唇が紡ぐより早く再び唇を重ねる。強く舌を吸ってやれば、ナミもそれに倣う。
何も知らなかったナミに、イケナイ事も含めて全て教えたのは俺だからな。当然キスも、俺の教えに従順だ。
それでもナミは女なのだ。唇の隙間で、ナミは器用に言葉を確かに紡ぐ。
「……ばかね……」
「ん?」
「私の帰る場所は、ここだけよ」
優しくも儚いその笑みに、そんな若い身空でそんな顔してんじゃねェと強く抱き締める。勿論体を砕かない程度には加減してるが、それでも相当苦しいらしい。
その苦しそうな顔が色っぽく見えた時点で、俺はどうやら、今すぐにでもナミが欲しいらしいと認識する。苦しくなる程に、ナミを手放せなくなっていると自覚して、苦笑しちまう。
人生なんてなァ、慟哭なもんだ。誰にでも平等に訪れるものはただ1つ、死だけだってんだからな。
死は、夢を打ち砕き、命は虚しく散って逝く。そうして散っていった大切な命は、指の数では既に足りない。
だからこそ、生まれた日と言うのは盛大に祝ってやりたい。死という平等に訪れるそれを跳ね除けて、今もまた1年、この場に立っていると言う証明の為に。
いつまでもそうしていたかったが、陸にモビーをつけてしまえば、そうも行かない。後はいつもと同じように息子達が働き始めるが、その合間にそっとナミと抜け出すのが、今回の目標だ。
しかし、海賊船の船長、それも自分の縄張りの島に着いたとあれば、それも簡単では無い。いつもならば息子達が代わりにやってくれる挨拶も、今回は何故かナミと共に受けている。
「噂には聞いていましたが、なんとも美しい奥様ですね」
「あァ、俺の天使だ」
「ニューゲート、阿呆な事言わないで!もう!……改めまして、私ナミと申します。航海士として乗船しておりますが、船長とは夫婦ではごさいません」
船長と呼ばれた事に眉が動く。ほぅ……そうか、確かに結婚はしてなかったな。
何か考えねェと不味いかと今更ながらに思うのは、既にナミが俺の伴侶として世界に知られているからというのもある。ここで違うとナミがいくら否定しても無駄ならば、せめて自信をつけさせる為にもその肩書きが必要か。
それにしてもこの歳で、この若い女に何と言えばいいものか。俺のモノになれと言ったところで、既に俺のモノだと笑うのは目に見えている。
鈍さも相俟って、想いを伝える事の難しさに溜息が落ちる。それでも、俺はナミを名実共に縛り付けたいと願っているんだ。
そんな事を考えつつ、挨拶を繰り返し漸く解放された時に気付く。息子達がナミの為にと、宴の準備を進めている事に。
……だから俺とナミをセットで挨拶させて、モビーから逃がさなかったな?
だとしたら、発案者はイゾウ、サッチ、ハルタの内の誰かだろう。そんな事を考えていたら、ナミが少し疲れたような顔をした。
「どうした?」
「……私、ニューゲートの、妻とかって認識されてるんだなって」
「嫌か」
「ううん。私は嬉しいけど、ニューゲートが困るでしょ。幼女趣味みたいに思われるんじゃない?」
不安そうにその瞳を揺らして、困ったように微笑む。俺を気遣う優しい心に、ナミを海賊に堕とした自分の罪深さを知る。
ナミ程に海軍へと所属する事が、天職に思える存在も珍しい。もしくは何処かで、孤児院のシスターでもやってるのが、きっと似合うだろう。
「男が若い女に手を出すのは何も言われねェし、思われねェよ。だから、ナミが嫌でなければそれで良い」
「ニューゲート……」
不安に揺れるその瞳が綺麗だと思う。何だか随分と長く過ごした気がしていたが、ナミは今日漸く18歳になるのだと気付く。
16歳のナミと出逢い、これ迄何度となく抱いてきたが……そうか、まだ成人さえしてなかったな。それでも、もう嫁に貰って問題はねェ歳になったんだと気付く。
「このまま部屋に連れ帰って閉じ込めたくなると言ったら、どうする?」
「あの……えっと……昨日もだったから、今日は……体力的に、心配だから……優しく、してね?」
「……ナミお前ェ、毎回受け入れるな。たまには拒め」
「無理よ。ニューゲートに望まれるなら、私何でも差し出せるわ」
「差し出すな馬鹿、犯り殺しちまいそうだろうが」
そう言ってナミを抱き締めると、そのタイミングでフォッサが顔を覗かせた。どうやら準備が出来ちまったらしい。
俺は息子達の様子に小さく息を吐き出して、今年の誕生日は仕方ねェかと小さく笑う。来年こそは、2人だけで過したいが……今年は家族全員に祝われてみてもいいかも知れねぇな。
Happy Birthday ナミ。お前が産まれた特別な日を、家族全員が喜んでるんだとそっと男は囁いた。
家族に祝われる合間に、男が他には聞こえないようにそっと女に唇を寄せる。そうして夜は2人だけで甘い時を過ごすぞと宣言されては、女に拒否権なんてある筈も無い。