俺の城に海兵の女将校たるナミを捕らえて、半月程が経った。だが、両腕を固定したままでは日常生活もままならぬと言われれば、それもそうかと解放してやるしかない。
その後もナミは逃げようとはせず、ただ大人しく城内に留まっている。その為、気晴らしになればと変装させた上で戦乱の国へとナミを伴い共に汗を流した。
しかし、睡眠時間等をとる間も無い戦場にて、ナミは悲しそうな顔をしながらも民間人を見付けては保護し、逃げ道を作り……しっかりと海兵の職務を果たして行く。戦う姿は血や泥に塗れても美しく、誇るべきだと思った俺は間違いではないだろう。
だがそれも3日を過ぎた頃には様子が変わる。俺の胸ぐらを掴み、いい加減にしてと叫んだナミは身体は無傷だが、どうやら精神が疲弊していた様子だ。
誰も本当の意味では傷付けず、民間人を庇いながら寝ずの3日だと気付けば、致し方ないかと内心で頷き、戦乱のその国を後にした。この程度の我儘なら、大人として聞き入れてやるべきだろう。
船の中でシャワーを使った後、泥のように眠るナミに、俺も流石に悪かったかと気付く。明日はナミの望むように過ごさせてやろうと心に決めて、治安の良さそうな島へと船を進めた。
俺達と渡り合うのが常である兵隊では無く、内勤だと言っていたのも今更思い出したのだ。だがそれにしては、随分立派に戦えていたがな。
翌朝ナミにやりたい事を聞けば、1人で買物に行きたいと言われてしまう。買った物は全て俺の城に届けさせる事を条件にそれを許せば、嬉しそうな顔で笑ったナミが1人で船を降りて行く。
その背を見送り、だが、金を渡していなかったと気付き追い掛けるもその様子があまりにも楽しそうで隠れてついて行くしか出来ぬ己に気付く。豆を睨んでいたかと思えば、肉や米を選び、衣類の店に入ったかと思えば今度は妙な着ぐるみを購入する。
コロコロと表情を変えながら多くの物を購入しているが、必要な物は俺に言えば揃えるといつも言っているのに、何故こう有り得ぬ程買い込むのか。そして、その金はどうしているのかと思う。
それにしても、逃げ出す素振りは見せぬな。……もし、そのような素振りがあれば、地下牢に監禁する予定であったのだが……。
その時買物を終えてナミが戻ろうとするのが分かれば、俺は慌てて船へと帰る。それからそう経たぬ内に姿を見せたナミが、笑顔で言った。
「ただいま、ミホーク」
「……お帰り。ナミ」
その言葉が妙に気恥ずかしく、妙に嬉しく思えた時点でどうやら俺は相当に毒されているらしい。船内に入って行くその姿を見送り、そろそろ本気で耐えられそうもないと自覚する。
元々興味があった。欲しかったから、手を伸ばして連れ去ったのだ。
捕らえて見れば、恐ろしく無垢であり、無邪気。だが、戦えぬと言われていた事が謎にしか思えぬ程に戦えており、何よりもその心が美しい。
時と共に魅惑的になる肉体に、踊らされる。飢えて、餓えていく己を自覚し、壊す前に俺のモノになれと強く思う。
素直に城まで共に帰って来たナミは、買った物が届くのを今か今かと待ち受けていて、その間暇なのか楽器を奏でたりして時を過ごす。そしてふと立ち上がると、食事の支度を始めるのだ。
これは、この城の中では自由にしていろと言った直後から始まった習慣で、楽器を鳴らし、食事を作り、掃除をして、ニュースクーと戯れる。欲しい物は言えば揃えると言ってやれば、食材やら野菜の種、果実の苗木等を求めるばかりだ。
逃げ出そうとする素振りは無く、ただ時折困ったような顔で空を見上げるだけ。逃げるだけ無駄とわかっているからかも知れぬが、期待したくなる。
俺の元に居続けても良いと、そう思ってくれてるのではないのかと。そんな俺の気持ちを知らず、ナミは夜になるとお休みなさいと微笑み部屋に戻る。
俺の使っていたところの他は、基本的に何も手付かずだった為に、ナミに与えたその部屋も元王妃か姫の部屋だっただろうが、埃まみれであった。にも関わらず、今ではこの城でもっとも美しい部屋へと変わっている。
怨念渦巻く怨嗟の声が響きそうな暗い古城から、天使の様な女が顔を覗かせ、歌声を響かせていればその内隠しきれなくなる時も来るかも知れん。だからと言って奥深くに閉じ込めては、あの笑顔を失うかもとも思えて溜息が落ちる。
月を相手に傾けていたグラスを空けると、そっと窓を閉めてベッドへと潜り込むが、今夜も深くは眠れそうもない。仕方ないかと諦め、数日に1度行っているナミのベッドに入り込むそれを行えば、寝っているナミは起きる事が無かった。
蜜柑の香りを感じながら眠りに落ちて、朝になるとナミの悲鳴で目覚める。それが何とも良い眠りを与えてくるのだから、この行為を辞められそうもない。
「な、なんでまた!ミホークが1緒に寝てるの!?」
「昨夜は寒かった」
「……熱があるとか?」
俺の返事に、心配そうにか問い掛けてくるナミに、このお人好しめがと内心で思いながら額と額を当然のように合わせてくるそれを受け入れる。それから熱はもうないみたいねと優しく微笑まれては、何も言えなくもなろうと言うもの。
海兵として生きるのに、これ程似合の者もそうは居ないだろう。民間人や女子供を庇う姿も、誰にでも無防備に微笑むこの姿も、素なのだと分かるからこそ余計にそう思わされる。
それでいて、戦う時の強さと美しさは尋常では無く、俺は心を縛られて行く。そんな俺にナミは首を傾げた。
「ナミ、今日の朝食は何だ?」
「調子悪いんでしょ?なら、軽い物にしとく?それなら「なんでも良いが、昨日買った物が届いている」」
「え!?なら、恵方巻き食べられる?縁起物だから食べて欲しいのよ」
「ナミが作る物に間違いはない。楽しみにしている」
俺の言葉にナミは少し恥ずかしそうに笑うと、頑張るわなんて言ってベッドを降りる。そのままシャワーを浴びに行くのを見送り、何故こうも無防備で安眠効果の高い存在なのかと思わされながら、本当に届いた荷物を受け取りに出た。
ナミが出て来た時には材料が揃っており、嬉しそうに支度をするそれを眺める。さて、どうすればナミを壊さずに得られるだろうか。
楽しそうに巻物を作り俺の前に並べて行く。そして、西南西を向いて、無言のまま丸ごと1本、口を離さずに食べきるのが習わしよ!!等と笑うそれに、ナミもやれと言って並んで座るとそれを開始する。
俺が食べきってもまだナミの方は半分程残っており、必死で食べる姿がリスのようだと思える。そんな事を思いながら別な太巻きを適当に切りながら食べて待てば、どれを食べても味は良いなと思う。
「……た、食べきった、わよ!」
「そうか。……ナミ、ほら」
小さく切った太巻きを言葉と共に押し込めば、もぐもぐと口を動かすそれに素直なものだと小さく笑う。そして、飲み込んだのを確認してから、その腰を抱いて唇を重ねれば目を白黒させる様子が伝わる。
「……んっ……ゃ……!」
無垢な身体、純粋な微笑み、優しく穏やかな気性。勘違いした男ではなく、させたナミに罪があろう。
「ナミ、俺の女となれ。そろそろ俺とて、限界だ」
「な、にを……」
「時間は充分にやっただろう。俺の女として……生きる決断をしろ」
限界だと思った。この芳醇な香りを振りまくナミを食したい。
「意味が、分から……「ナミを抱きたい。拒むなら、犯す。壊れても辞めてはやれぬ」」
「ミホーク!?それ、私の拒否権はど「主に拒否権はない。俺を受入れ、大切に抱かれるか……拒み、死ぬ迄犯されるか、好きな方を選べ」」
「そん、な……」
震えるナミは何処か頼りなく、いつも以上に頼りなげに見える。それは、俺の気持ちに比例してそう見えるのだろうか。
傷付けたい訳では無い。ただ、この女が欲しいのだ。
「ナミを恋慕っている。俺は、ナミを所望する」
俺の言葉にナミは顔を赤く染めると、あえかな声で優しくしてと伝えて来た。それを受けて俺は承知したと言って、部屋へと運び込む。
微かに震えるそれが、諦めから受け入れただけだと示されてる気がして、苦しくなる。俺を見て俺を感じろと、まだ無垢であるとも知らずに俺はナミを押え込む。
鬼は外、福は内。外に溢れる悪意と言う鬼から、俺が全力で護ってやるから……その身を差し出せとその首筋に噛み付いた。