この作品には、ヒロインの年齢設定がございません。
島が見えるとナミが言って、それに1番驚いたのは恐らくずっと見張りをしていた息子だ。ナミが言う迄その島は、見張りを含めた誰にも〝見えていなかった〟のだから。
だとするならこりゃァ……。該当しそうな唯一の島を思い出した俺は、今の所異変の見当たらないナミに視線を向ける。
海兵の心優しき少女。正義を恥ずかしげも無く背負い、それが矛盾では無いように見えるからこそ、そんな暖かな所から引きずり出した自分が憎くさえ思えちまう。
それでも、欲しかったのだ。俺に向けられた甘やかなその視線も、美しい容姿も、気高く優しい心も……。
出逢った日を思い起こすと同時に自嘲しつつ、俺はナミの見付けた島に船を向けさせた。これは、抗えば何があるか分からねェからな。
「船を泊めたら息子達は全員待機、誰もモビーを降りるんじゃねェぞ!」
俺の言葉に不思議そうな顔をしながらも、逆らう事の無い息子達に笑いふと視線をナミに戻せば、何処か苦しそうな呼吸をしている。……やはり、ナミが呼ばれているのか。
そのままモビーを泊めるのとどちらが早いかと言うタイミングで飛び出すナミを、息子達は必死に呼び止めるが今回は仕方ねェ。即座に、誰も追い掛けるなと命じてナミの帰りを待つ。
……さて、誰を抱いて帰ってくるのだろう。信頼しているマルコか、甘えられるサッチか、目に入れても痛くないと言いたげなエースか、実家にいる姉や母親なのだろうか。
これで赤髪の小僧だったら部屋に閉じ込めて、そいつを構えないように抱き潰してやると内心で呟いていた時、ナミが小さな物を抱いて帰って来るのが見えた。その表情は微かな憂いを帯びていて、何か問題でもあるのかと思いつつも、声すら掛けられなくなる自分に絶望する。
何が世界最強の男だと、自嘲したくなるのはこんな時だ。愛しい恋人の表情1つでこんなにも乱されちまう。
「ニューゲート……あのね、2年くらい前に、その……」
言葉を向けられて漸く俺はナミの憂い顔について理解する。そりゃそうかと、内心で笑いながらナミにそっと手を伸ばして、可能な限り優しく抱き上げればその声が止む。
「ソイツは俺と似てるのか?」
「え?……うん」
まさか、俺を最愛の存在としてくれてるとはな。その現実が泣きそうになる程に嬉しく、狂おしい程にナミが愛しくなる。
これ以上俺を虜にして、お前ェはいったいどうしようってんだろうな。そう思った時、フワリと蜜柑の香りが辺りに漂って来た事で、少し冷静になる。
「……俺の〝息子〟じゃァねェよ。そいつァ、俺だ」
「へ?」
余程想定外だったらしい。その瞳を大きく見開いたナミは、妙な声を出して暫し放心した。
その後脳が活動を始めたようで、音にはせず唇の動きだけでまさかと呟いてから、自らの腕の中にいる金髪のそれと俺を交互に見た。そして、罪悪感を漲らせた瞳を向けるから、気にするなと笑ってやる。
「寧ろ、礼を言いたい気分だ。……それ程までに俺を愛してくれてるとは、思わなかった」
「ニューゲート、でも、ほら……皆の〝親父〟なんだから、この島にそれが影響してる可能性だっ「それはねェよ。〝呼ばれた女〟に愛されなくちゃいけねェんだから、他の人間の想いが反映される事は有り得ねェ」」
俺が言葉を遮り言えば、ナミはその顔を赤く染めて俯いた。それから胸に抱いている俺に擬態した植物に、寂しそうな視線を向ける。
それは余命宣告を受けた家族に向けるようなものにも思えて、何をそんなに嘆いているのかと考える。今は俺の女だが、海兵という職業がこれ程似合う女もそうはいねェだろう。
「なら、君とは3日しか1緒に居られないのね」
「なんだ、知ってたのか」
「ニューゲートの言葉を聞いて、この島の特徴を確認したから分かったのよ。……
「オハラが残した書籍の1つだな」
4つの海に住む者から見れば、嘘としか思えない記録が残されているその本は、この海で生きる者には常識となる事実が書かれている。書くだけでなく読む事も多いナミは、だが読んだ物をだいたい覚えているらしい。
「そうね……クロバー博士やニコ・オルビアさんを喪ったのは、世界規模で見て大いなる損失だと思うわ。それでも、今の時代に懸命に繋いでくれた……」
紡がれた言葉に、政府の側に居た筈なのにと思わなくもねェ。だがそれよりも、オハラが世界から消しさられた時には、まだナミは生まれてねェだろうと本気で思わされたが、それもまた言葉には出来なかった。
そのまま本の話から今目の前にいる植物の話に移行して、俺とナミがソレをどう扱うべきかと真剣に議論を交わす事となっていた。そうしていたら、いつの間にやら俺の隣にナミが寛げるような空間が用意されていた為に、オイオイと息子達に視線を向ける。
それに気付いたナミが、その空間目指して俺の腕から逃げようとするのを慌てて押さえ込んだ。その時植物が布から手を出して、俺に殴りかかって来たのには驚かされたが……同時に楽しくもなる。
「お?俺と戦うか?」
「うー!」
「俺ァ弱い者虐めは趣味じゃねェ。それとな、ナミが欲しいのはよくわかるが、俺ァナミを誰にもやるつもりはねェぞ。……ナミは、俺の女だ」
「ちょっ!子供相手に何言ってんのよ!?」
焦った様子を見せるナミに、だがコイツは俺だからなと思えば気が気じゃねェ。〝今の俺〟の気質でも危険だが、若いと言うか幼い頃の俺の気質ならナミに何をするかそれこそ分かったもんじゃねェからな。
愛に飢えている息子達の気持ちが分かるのは、俺自身が愛に飢えて居たからだ。今、俺は息子達から望んでいた以上の幸福を貰っている。
それでも……まだ何処かにあった巨大な穴。それをナミが埋めているのだから、奪われるつもりはねェし、どうしたって失う恐怖は付き纏う。
「ナミは、俺の女だ。違ったか?」
「それは、そうだけど……!たった3日なんだから、この子を優先しても良いじゃない!」
俺の言葉に対して、全身が真っ赤に染まった状態にありながら必死に意見を紡ぐナミは、既に母親の顔になっている。それを確認しちまえば、これ以上俺の女を奪わせてなるものかと思っちまう。
俺が近くにいる時は、俺の女だと自覚してもらいてェところだ。俺だけを見ていろと、言いそうになる。
「たっただと?俺には長過ぎる時間だ。……ナミ」
そう言って唇を重ねようとした時、息子達からは咳払いが、植物からは物理的な攻撃を受けた。だが、とりあえずそれらを全て無視して唇を合わせる。
堪能するには足りないが、仕方ねェかと僅かな時で解放してやる。だというのに、ナミは真っ赤な顔で俺を睨み付けると植物を抱いたままスルりと逃げて行くのだから切ないな。
「ニューゲートの馬鹿!少しは恥じらえー!」
そう言って逃げる先は、食堂か寝室なのだから可愛いもんだ。そう思って喉の奥で笑っていれば、マルコから呆れた視線を向けられちまう。
「親父、あんま苛めんなよぃ」
「可愛くてついな。……それよりマルコ、3日後の事だが、ナミ無しでも航海出来るか?」
「まァ、問題はねェ筈だよぃ」
「ナミは、3日後は使い物にならねェから頼むな」
俺の言葉に首を傾げたマルコは、直後に納得した様子で頷いた。ナミは、この島に呼ばれるだけの事はある甘さでもって、必要以上に苦しむだろうからな。
サッチに宥められて戻って来たナミが、俺の近くに用意された空間で植物を愛でる姿を視界に収めつつ、俺には長くてつらい3日になりそうだと溜息を落とした。せめてその別れが、ナミにとって苦痛以外の何かになってくれる事を願いながら。
その植物はナミの前では、可愛い姿を見せていた。息子達もナース達もナミと植物がいるその光景に癒され、暇があれば纏わりついている。
だが、1度ナミが傍から離れるやいなや、植物は殺気を振り撒き近付くなとばかりに威嚇を始める。その様子に思わず天を仰いだ俺はおかしいのだろうか。
あァ、間違いなく俺だ。そう思わされる事も少なく無くて、ナミに俺はこんなにも依存してるのかと思えば切なくもなる。
「ニューゲート、見て!」
「ん?」
「双葉に蕾が出来たの!可愛いわね」
……俺とよく似た小さな植物の頭に生えていた双葉に、花の蕾が出来ているのを確認すれば確かに〝花〟は可愛いとは思う。だが……気に入らねェ。
ナミと共にいる植物は文字通り頭に花を咲かせていて、ナミに甘えて、甘やかされておきながら俺には敵対心を向けるのがまた気に食わねェ。これが俺の実子でもきっとその行為だけは気に入らねェだろうなと思えばこそ、自分の狭量さに自嘲しちまうのも無理からぬ事だろう。
「ニューゲート?」
不安そうに俺を見上げる小さな恋人を軽く撫でて、なんと言えば良いだろうかと考えちまう。夜も俺がナミに手を出そうとする度に泣かれたんじゃ、気に入るなんてできる筈もねェ。
「俺のナミを奪う生物だと思うと、可愛くねェな」
「な、に……言って……」
プスプスと音が聞こえそうな程に茹だっているナミを見て、やはり愛しいと思う。歳の差も、立場の違いも、体格差さえ乗り越えてナミは俺の女として傍に居てくれてるってのにな。
「本気だ」
「そこは、冗談って言う所でしょ!?」
そんな会話を繰り返しながら過ごした3日が過ぎて、とうとう別れの日が訪れた。息子達は気を使ってか、俺以外の誰もそれに立ち合わない事に決めたらしい。
だが、代わりにと植物に変じる姿だけは見ておきたいと言われて映像電伝虫を託された。なので、仕方なくそれを手に森の奥へと進んで行く。
優しく植物に笑いかけるナミは、だがその瞳が泣いている事に気付いているだろうか。俺の前で迄強がるなと言いそうになり、植物の為に耐えているのだと気が付く。
俺がいくら求めても、得られないと諦めるしかなかった母親からの愛情。それを充分すぎる程に貰った植物は、健康そのものという風情だ。
木漏れ日の中を進み到着した陽だまりの中で、ナミの手を離れた植物は1度俺に強い視線を向けて来た。その眼差しが、泣かせるなよと言っているようで、なんとも言えない気持ちにさせられる。
震える声で、精一杯の笑顔で、ナミは植物との別れに耐えている。強くて、優しい女だと静かに息を吐き出すしか出来ない己が疎ましく感じる程だ。
笑顔で手を振る植物に電伝虫を向ければ、その状態のままで光に包まれ、植物にしか見えない物へとその姿を変じてしまう。面影さえ残されていないそれを見て、ナミが崩れ落ちれば、俺は映像電伝虫を片付けてからナミの元へと歩み寄った。
「よく、耐えたな」
「っ……!……ぅ……ト!」
俺の名を呼ぼうとして失敗したらしいナミを抱き締めて、こうなると分かっていた。だが実際にその姿を見れば、それがまた切ないなとも思う。
ナミはどうして、こんなにも愛情に満ちているのか。これでは、どんな所で生きるにしても生きづらいだろうにな。
「好きなだけ泣け。今は、俺だけだ」
声を上げて泣く事を忘れた小さな生き物は、大粒の涙を流しながら俺に縋るように抱き着いている。強がりで甘くて、それでいてプライドの高いナミだからこそ、泣ける相手である自分に少しホッとしちまう。
俺にできる精一杯の優しさでナミを抱き締めて、己のコートでナミを世界から隠してやる。涙が枯れるまで付き合ってやろうと決めて。
だが本物の子供はナミにどれ程の負担となるかと考えて躊躇しつつ、その心をどうしたら守れるだろうかと頭を悩ませる事になった。
後にこの島は、宝玉の書いた手記によりカップル達で溢れかえる有名な観光地になるのだが、それはまだ、誰も知らない小さなこぼれ話。
この先このキャラクターは不定期更新となりますので、予めご了承ください。
このキャラクターにこの先追加される作品は、全てこの作品より手前に挿入されます。