助けた鳥に拐われて
クーちゃんから受け取った新聞を見て、私は1瞬呼吸を忘れた。そこには1面にこう書かれていたから。
『白髭海賊団に新たなる隊長が選抜!元スペード海賊団船長〝火拳〟のエース!』
そんな記述を見付けた私は、これ迄溜めに溜めていた有休を全て使う形で申請を出した。それには流石のセンゴクさんとおつるさんも顔を顰めてしまう。
けど、私の夢が世界地図を描く事だと知っているから何かあったら連絡するようにと言って送り出してくれたのだ。結局の所、私は随分甘やかされてると思う。
「ナミ、何処から回るつもりだい?」
「海軍本部近海はもう、休みと新人の訓練時に回ったので、それらでは届かない範囲の辺りをと考えています」
「……四皇の縄張りには、入るんじゃないよ。そこはまた何か考えてやるから、四皇の縄張り以外に行くようにするんだよ」
おつるさんの言葉に私は頷いたけど、実は今回は赤髪海賊団の縄張りを回るつもりだったりする。だって、シャンクスの縄張りなら安全だもの。
何かあっても、シャンクスも私なら問題なく笑ってくれると知ってるから、私はそう決断した。それに……白髭海賊団の情報を集めるには、四皇の縄張り内ってのは重要な位置になるもの。
エース……私は、貴方を喪えない。サッチさんを助ける明確な手段は思い付かないけど……何もしないで指くわえてるなんてそんな選択肢だけは存在しないわ。
他の四皇の縄張りでは流石に危険だから、とりあえずは赤髪海賊団の縄張り回って……その後の事は、そこで手に入れた情報次第ね。私は運良くシャンクス達に会えたら、少しは情報交換とか出来るかなぁなんて甘い事も考えてたりする。
そうして海に向かったのは良いけど、サイクロンを躱したら無人島に到着してしまい少し足止めを食らってしまう。……ま、そんなに急いでる訳でも無いしいっかと気持ちはすぐに切り替えたけれど、出鼻をくじかれた感は否めない。
この島も測量した事は無いからついでに測量して来ようと船を泊めた時、海に下半身を浸けて力無く岩に張り付いている男の人を発見して思わず駆け寄った。だって、この人は……!
「大丈夫ですか!?」
肩を叩き、反応が無いので首で脈を取ればとりあえず生きているのは確認出来た。近くに流れ着いていた流木にその体を移動させて、流星錘で落ちないように固定してから流木を引きずって海から離す。
草の生えているところで草が毒系統では無い事を確認してからその体を下ろして、呼吸と脈を確認すれば安定した事がわかる。それでも……少し弱いわね……だとしたら何処かに。
そう思って確認すると、脇腹の所に服にだけ穴があるのを確認してその服を退かす。そこには血は止まっているけど、明らかに傷があって少し体を動かせば貫通してない事が分かってしまう。
……私、医者じゃないし、麻酔とか無いんだけど……放置も出来ないわよね。何せ相手は白髭海賊団の1番隊隊長、不死鳥マルコだ。
仕方無いかととりあえず正義のコートをマルコさんに掛けて、生木だと燃えないから仕方無く落ちている枝を集めて回る。松の木を見付けた瞬間に、松ぼっくりを求めたのはこの場合普通の判断だと思う。
季節が違うから数は無かったけど、とりあえず見付けた松ぼっくり数個と、1抱えにはなる枝を手にマルコさんの元へ戻るとクリマタクトを活用して火を起こす。それから船に戻り鍋を手にしてマルコさんの元へ戻ると、クリマタクトから水を出してそれを沸かした。
沸くまでの間に海辺へ戻り、魚を数匹捕まえると木の枝に刺して火の近くにそれを立てながら弓で兎を捕まえて……近くに小川がないのでクリマタクトで水を出して血抜きをする。それからその兎を捌いていたら、背後から呻き声が聞こえてそちらに意識を向けた。
「ここ、は?」
「赤髪の縄張りにある無人島よ」
「お前ェさんは……?」
そう言ってから自分に掛けられている物を見て、私を見て……溜息を落とした。それから、俺を知らねェのかよぃなんて言うから笑ってしまう。
「知ってるから、助けようとしてるのよ。海楼石が左腹部に埋まってるみたいね」
言いながら肉も食べられるように火の傍に突き立てれば、マルコさんはそういや、腹減ったなんて言うので、もう少し待ってねと声を掛けた。それに対してマルコさんはクスクスと笑い、その笑った事で勝手にダメージを受けて痛がっている。
「何してるのよ。マゾなの?それとも馬鹿なの?」
「酷い二択もあったもんだねぃ。んな事より、海兵が海賊拾って世話してて良いのかよぃ」
「質問に質問で返さないのよ。……赤髪の縄張りに白髭海賊団ってのは、良くないからね。……治療は自分で出来る?私医者じゃないし近くの島は赤髪のナワバリだし、それ出ると海軍の地域だから……」
私の言葉にマルコさんは大丈夫だと言って、火を借りると言うと当然のように体を起こして自前の剣を炙り始めるから、焼酎を投げ渡す。……美味しいやつなんだから、感謝してよね。
「良いのかよぃ?」
「変な感染症にでもなられたら、困るわ」
「ついでに、呑んでも?」
そう言うマルコさんの瞳が輝いているのを見たら、なんか可愛く思えてしまった。……私もこのお酒好きだし、私が逆の立場なら同じ事を言ったと思うから気持ちも分かる。
「……傷が治ったら食事しながら、少しなら呑んでも良いわよ。私も呑むから全部とかは許さないわ」
私の言葉に了解と言ったマルコさんは嬉しそうで、そのまま慣れた手つきで治療を開始した。けど、その治療が明らかに手抜きというか、雑というか……見ていて痛い。
本人も多少痛そうな表情ではあるけど、多分海楼石が取れたら治るからとかそんな所じゃないかしらね。確かに治るって分かってて、自分が怪我しただけならそうなるかなと、そう思ってしまうけど……貴方の家族は、知ったら悲しむんじゃない?
言葉にしないでいる癖に、白髭海賊団のメンバーに会ったら、言いつけてやるんだからと心でそれに付け足してしまう。そんな事を考えてる間にパン生地が出来たので、それを粘土遊びで作る細長い蛇みたいな形に作るのがこれの大前提。
その細長い生地を綺麗に洗った生木に巻き付けて、魚や肉と同じように火のそばに立てる。全体に焦げ色がつくと食べられる、簡易的なパン作りである。
木の実とかがあればジャム作ってそれ塗って食べるんだけど、無いものは仕方無い。
「……サバイバルでパンが出るとは思わなかったよぃ」
「薄力粉で作ってるから、そんなに食べ慣れた感じのじゃないわよ。強力粉使うとこのやり方だと、中が焼けるのに時間かかるのよね」
「海兵さんがこんな事に慣れてるとはなぃ」
「……長く生きてりゃ色々知ってるもんよ。捻りパンって言う、サバイバル時によく使われる調理法なのよ」
話をしている間に海楼石を取ったようで、腹部には青い炎があり既にその痕跡すら無い。それが、少し羨ましい。
……傷跡が遺ると、ベルメールさんを筆頭に皆が異様に気にするからなぁ。そっと自らの左肩に触れて、家族と呼べる人達を思い浮かべて、それから自嘲する。
「能力の事も知ってたか」
「不死鳥マルコでしょ。〝正義〟を背負ってて知らなかったら、流石に不味いわ。それよりどうぞ、焼けたのから食べて」
そうして2人でパンと肉と魚というある意味で豪華、ある意味で乏しい食事を済ませると先程の酒も飲み尽くした頃に、私は立ち上がった。今度こそ測量して、次の島に行かなきゃ。
「何処へ?」
「ん?測量して来ようと思って。1応それを理由に、本部から出てきたからね」
「……お前ェ、名は?」
「あら、名乗ってなかった?私の名前はナミよ」
名乗った瞬間マルコさんの表情が驚きに彩られるから、どうしたのかなと思う。それにしても、無事で良かったわと、傷の消えた腹部を見て思ってしまう辺りは、海兵失格だろうな。
何だかんだ他愛ない話をしてるけど、私はやっぱり白髭海賊団に憧れてる所はあるし、その中でも優しさの権化みたいなマルコさんの事はイメージでしか無い所もあると分かってて、好きだなと思うから。少しミーハーだなと自分でも分かってるけどね。
「ナミ?……エースを、知ってたりするかぃ?」
「幼馴染よ」
私の言葉にマルコさんは少し黙ると、面白いもんだねぃと呟き、海軍の隠されし宝石はエースの幼馴染件姉貴分で、手紙の送り主だねぃ?と聞かれた私は咄嗟に知らないフリで逃げようとした。けれども回復したマルコさんに勝てる筈も無く、簡単に抑え込まれてしまう。
「やだ!離して……!」
「力ずくってのは、趣味じゃねェが……ねぃ?折角知り合ったんだ、どうだい、今夜このままってのは」
「お断りよ!離して!」
マルコさんは私のそれを無視して、草の上に私を押し倒している状態で、服の中に手を入れて来て事に及ぼうとしてくる。それを必死に抵抗していたら、途中でマルコさんが動きを止めた。
「……ナミ、お前ェ、未経験か」
何故分かった。そして、それなら辞めてくれるのかな?
辞めてくれるなら素直に認めるけど……。違うなら答えたくない。
「どうでもいいでしょ。もうやめて、私は1応マルコさんの命の恩人に該当する筈でしょ?そんな相手に何してんのよ。恩を仇で返すつもり?」
「俺に〝抱かれる〟のは〝ご褒美〟としちゃ破格だと言われる事も多いんだがねぃ?」
「私は嫌よ!気安く触らな……ぁ……」
言葉の途中で体にマルコさんが刺激を与えて来て、自分の出した声に唇を噛む。……どうして、反応してんのよ、私の体は……!
「……敏感なのに、ねぃ?」
「んっ……ふぁ……!やめっ……!」
言葉の途中で弱い所を刺激され続けて体だけが勝手に反応すれば、マルコさんは楽しそうに指先で私を面白そうにに弄ぶ。好きでも無い相手で、しかも外で初めてとか、そんなの嫌!
「ゃ……だ!助けて……おつるさん、シャンクス、ベック!」
「…………いま、なんて?」
ピタリと動きを止めたマルコさんは妙なものを見るような目で私を見てから、これは手強そうだと言いつつ笑ったと思ったら、続けて悪かったと言って……私に当身をした。それにより意識が落ちた私は、次に目覚めた時その揺れ方から船の中にいる事が分かり溜息を落とす。
どうやら誘拐されたらしい。ここは、どこ?
辺りを見て……もしやと思う。確かにエースの事があるから多少情報は欲しいけど、白髭海賊団に乗り込むなんてそんなつもりはなかったのよ!?
「目覚めたか。手荒にして悪かったねぃ」
「本当よ。……それで、何が目的?海軍と戦争したいって言うなら「ナミが欲しい」」
言葉を遮られて伝えられたそれに、どうしたらいいのか分からなくなる。何を言われたのか、理解出来ない。
「ナミを抱きたい。俺の女になれ」
「……へ?」
「まァ……断ったら、この部屋から出すつもりはねェけどなぃ」
「……は?」
「こんにちは、可愛い女海兵さん。俺はお前ェさんを捕らえた、海賊の……男だ」
マルコさんは色気を振り撒きつつ、そう言って笑った。そこに来て漸く、海賊に女海兵が捕まったのだというわかりやすい現実を理解して、巫山戯るなと叫んだけど……マルコさんは笑うばかり。
「今はまだ、無理強いはしねェよぃ。早くその気になって欲しいところだがなぃ」
「嫌よ!私、おつるさんの所に帰るんだから!」
「海賊が、自ら腕の中に落ちてきた宝石を持ち主に返すかよぃ。言ったろ、無理強いは趣味じゃねェって。……その気になって、俺の恋人になったら、部屋からは出してやるよぃ」
その後恋人とやらになるその日まで、本当に部屋から出すつもりがないのだと思い知らされる事となるとは、思ってもみなかった。それでも、何か危害を加えて来るでもないマルコさんに、次第に心を開いて行ったのは間違いようのない真実。
こうして私の、マルコさんによる甘い軟禁生活が始まったのだった。まさかの、共に部屋で過ごすようになったその日の内から書類仕事を共に手伝う事になったのは、想定外ではあったけれども。