※この作品はR-18です。

海軍パロシリーズ   作:夢枕 七変化

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渇きside

 七武海加入の誘いを断り、俺が無謀とわかっていても挑みかかったのは血の繋がりが俺を束縛し続ける男のライバルだった存在。この男に勝てれば、過去を克服できると……俺はそう信じていた。

 けれども実際拳を合わせる事さえさせて貰えず、どう足掻いても勝てないとわかった時、仲間達を巻き込めないと判断してそれを逃がした。そんな俺に手を差し伸べた温かなそれを拒み、なのに結局俺はそいつに拾われちまう。

 治療されて、食事も与えられて……そんな事をしてるなら寝首かいてやると襲い掛かり、呑気に過ごしてる時に隙を見て襲い掛かり、酒呑んでる所へ殴り込みをかける。卑怯でもなんでも、倒せれば良かったんだ。

 認めたくなかったのは、その温もりを俺は知ってる気がしたから。受け入れたくなかったのは、それを受け入れたら俺の中にある何かが壊れちまう気がしたからだ。

 そんな時、船が大きく揺れた。何かと戦ってるのだと気付いて、それでもならばチャンスだと斧を両手にシッカリと持って挑みかかった俺を、見てもくれねェ。

 俺は視線さえ向けられないままに、羽虫を落とす勢いで軽くあしらわれちまう。それが何でか、寂しさに近いと気付いた時……自分が許せなくて暴れたくなった。

 どうして届かない。こんなにも近くに居るのに。

 何が足りない。こんな風に情けをかけられるなんて、耐えられねェよ……!!

 力が抜けて、このまま死ぬのかと思ったが……それならそれで構わなかった。だが、もしまた助けられたなら、意識が戻った時何度でも挑んでやると心に誓う。

 あんな奴と、愛しいと思える存在が……同じような眼差しを向けて来てる事を認めたくなかった。認めたら、俺が1人で戦って来た多くのものが崩れ落ちるような、そんな気がしてたんだ。

 その時、誰かの腕が俺に巻き付いた。それが妙に細く感じて、まさかナースの腕だろうかと考えたのは当然だと思う。

 海面に顔を出して、それにより呼吸ができるようになれば夢に何度も描いた少女の姿があった。長い独特の色合いの髪も、潮と蜜柑の香りも、可愛いその顔立ちも……全てがナミにしか思えない。

 余りにも似てる気がして、アイツをナミだと思い込んじまってるとかか。そんなにまで俺は、壊れかけてんのかと考えて……それは無いと思い至る。

 流石にアイツも海まで助けには来られね……って、来られたら助けに来ると思ってる事に気付く。それくらい、その懐が大きく暖かい事を俺は認識しちまってるんだ。

 違うのは、この香りと細さからも分かる。でも、そうなるとこれは単なる俺の妄想の産物なんだろうか。

 混乱とも驚いてるとも言えない感情に振り回されてる間に引き上げられて、甲板の上で俺を抱き締めている細いその身体に、夢でも願望でも無いらしいと漸く理解する。だけどもし、本当にナミなのだとしたら、どういう事なんだ。

 震える声は、期待からか、恐怖からか。もし、本物ならどうか……俺の震えに、弱さに気付かないで欲しい。

 

 「……ナミ?」

 「あ、エース起きたの?」

 「あァ……って、待て。なんでナミがここに?」

 

 変わらない。あの頃と何も。

 優しい微笑み。愛しい温もり。

 

 「白髭海賊団と、戦う意志は無いよって話をする為に来たのよ」

 「そっか……って待てよ!そうじゃねェ!」

 

 戦うってなんだよ。いや、ナミは戦えば恐ろしく強かったけどよ!!

 そう思って顔をあげた時、俺の額にナミの額が押し付けられた。昔から、熱を測る時ナミはこうする。

 心配そうに俺を見て、海水飲んじゃった?なんて見当違いな事を言ってる。賢いのに、馬鹿な、俺の初恋の女。

 小首を傾げて、俺を見る。その身体に纏う香りと同じく、髪の色までその果物だ。

 ……渇いていくのは、心か、身体か、それとも魂か。喉が恐ろしく渇いていて、そんな時目の前に瑞々しい果物があるような感覚。

 

 「エース?」

 「……あァ、うん、ナミだな」

 「嗚呼!そうね、お互い大きくなったわね。エースが青年っぽくなってて私も驚いたわ」

 

 納得した!とでも言うように、ナミは笑う。それもそうだけど、そうじゃねェ。

 ガキの頃と違って、豊満に育ってる果実を普通に俺に押し付けて、その自覚さえ無い。穏やかに微笑む様子は、昔から中身が変わってない事を示している。

 

 「……それもだけどよ、てかナミは中身が何も変わってねェよ。変わらなさ過ぎだよ。……いや待てそうじゃねェ、それ以前にだ!ナミなんで正義のマント……ジジイから借りたとかか?」

 「阿呆か!いくらガープさんでも貸さないわよ!私、海軍本部大佐です」

 

 キリッという文字が見えそうな様子を見せるナミだけどよ。なんで、海軍なんだよ!!

 俺達が海賊になるのはわかってた筈なのに。もう、俺達を愛してないのか!?

 もしも愛しているなら、今度は俺達との関係がナミを苦しめる。……ナミは、俺の親父が誰か、知らないんだろうけどよ。

 それでも、どうしてと脳内で繰り返す。その怒りと焦りで声が自然とでかくなっちまう。

 

 「赤髪のシャンクスとあんだけ仲良くしてて、どうして海兵なんだよ!?寧ろなんで、シャンクスの船から降りてんだよ!?」

 「エース、お姉ちゃんも生きてるからね、色々あったのよ。エースの活躍は新聞で見て、ガープさんとお煎餅食べながら喜んでたのよ」

 

 突っ込み所が多過ぎて、何を言えばいいのか分からない。何が、お姉ちゃん……だ、このスットコドッコイ!!

 そう叫びたくなる位のボケの癖して。そもそもだ、海軍本部で海兵が海賊の活躍喜びながら煎餅食べてるってどうなんだよ!?

 ニコニコと本当に嬉しそうに笑う姿。本気で俺を愛しそうに見詰めるその眼差し。

 ……勝てる気がしねェ。毒気が抜かれるような、妙な気恥しさを感じるような……そんな変な気分。

 

 「海兵が海賊の活躍喜ぶなよ……」

 

 なんか、怒りと混乱を超えて脱力しちまう。その上、ジジイとナミがお茶飲んでるその姿が見えた気がした。

 その時笑い転げる白髭が見えて、苛々したのは当然だろう。……何、笑ってんだよ!!

 

 「白髭さん?」

 「いやァ、珍しいもんを見たな。小娘、エースの知り合いか?」

 「はい、エースは私の義兄弟と言うか幼馴染というかで、私が姉の位置に該当します。弟がご迷惑をおかけし「挨拶する事はねェ!俺は、あいつをぶっ倒すんだ!」」

 

 呑気に挨拶するナミの言葉を遮って、俺は力強く宣言した。なのにナミはそんな俺に、呆れてますって感じの態度と視線を向けて来る。

 アホの子なの?って視線だけで言われる。言葉にされるより、異様に伝わるそれに顔を赤くしたらナミは困ったように笑うから、俺は能力の制御が出来なくなって文字通り燃え上がった。

 その瞬間、俺の股間に走る激痛。思わずそこを押さえて呻きながら崩れ落ちた俺に、周りが静かになったのが分かる。

 なんで、俺、火なのに……。ナミって、どうなって……?

 痛みに俺が呻いてる間に挨拶を終えたナミは、颯爽とその場を去ろうとする。それを慌てて背後から抱き締めて阻害すれば、幼子に言うようにナミは言葉を向けて来た。

 

 「エース、いい子でね。私は帰るから」

 「帰すかよ!ナミは、俺と……」

 「どうやって1緒にいるつもりなの?」

 「え?」

 

 俺は船長で、だから、ナミは俺の部屋に居てくれたらそれで良いだろ。そう思ってナミを見れば、その時優しいだけの姉じゃないと思い出させる鋭い視線が俺を貫いた。

 そうだ、俺が惚れたのは甘くて優しいだけの弱い女じゃない。俺よりも強いのに、傷付けない事を選べる女なんだ。

 

 「エースは今1人で船もない。ここに居候でしょ。海軍にも入らないでしょうし、エースが白髭さんに勝てる筈ないもの」

 「なん、だと!?」

 

 勝てる筈無いと言われた事で、カッと頭に血が上る。そんな俺の怒号にも、ナミは欠片も臆さないで言葉を続ける。

 凛とした空気。鋭い視線。

 これは、確かに昔から持ってる。俺達が何かやって叱られる時、ナミはいつもこんな様子だった。

 冷静な判断力と、多過ぎる知識。高過ぎる決断力と、揺るがないその気高さ。

 

 「今のエースには、絶対勝てない。実力不足に加えて冷静さも無い。その状態で明らかに普通なら敵となるべき私を抱えて、どうやって戦うつもりなの?今のエースは〝元スペード海賊団の船長〟でしかないのよ」

 

 言われてから漸く、俺は今は1人なのだと思い知らされる。俺の仲間達は、今どこでどうしているだろうか。

 やっと思い至ったそれにより身体から力が抜けて、ナミの身体を這うようにしながら甲板に膝をつく。すると心配そうに、困ったような顔で振り向き、俺の頭を撫でるかどうするかと手が泳ぎ出した。

 その直後、白髭がナミをその手に捕らえちまう。なのにナミはそれを気にした様子も見せないで、小首を傾げている。

 それから僅かな会話をしたと思ったら、白髭が悪戯に笑う。俺の姉としか名乗らないナミを、楽しそうに撫でながら。

 少し幼い顔で、無防備に見上げるそれは信頼でもしているように見える。俺に向けられた事の無い種類の視線。

 ナミを見ていた俺に、白髭は言う。揶揄いを盛大に含んだ声で。

 

 「……エース、お前の姉希少種だな。貰っても良いか?」

 

 良い訳が、あるかァー!!

 そう思って攻撃を仕掛けるけど、簡単にいなされて俺はまた海へと戻って行く。俺に手を伸ばすナミが、落下の直前に見えたけど……多分押さえられて助けには来られないだろう事も、何となく理解していた。

 戻された船の上で、もう少しここにご厄介になる事にしたわと微笑むナミが現れたのは、どんな奇跡だろうか。だが、そんな事をしても俺はお前の生命、必ず奪ってやるからな……!!

 そう思って白髭を睨みあげる俺を白髭は面倒そうに見て来るし、ナミは呆れを隠さない。だから俺は今日もまた、何度目になるか分からない奇襲を仕掛けて返り討ちに合っていた。

 その後俺が白髭海賊団に正式に加入するに至れば、仲間達もこの船に居るのだと教えられた。そうして再会した俺達が抱きしめ合う姿を、ナミは海軍のコートを片付けて、真っ白なスーツに身を包んだ状態で微笑ましそうに眺める。

 そう言えばナミは普段どうしているのか。そう思って観察すれば、そつ無く全ての事をしている姿が目に付く。

 失敗と言う言葉を知らないのか、完璧に雑務でも何でもこなす姿に白髭海賊団のメンバーも含め言葉が出ない。普段はナースの部屋で過ごしているらしいが、ナースの仕事を手伝いたいと言う事もなく、任された仕事だけを完璧にこなしていく。

 ただ、困ってたりすると助言したりはしてるようで、間違いなく航海士、測量士、操舵手、医療補助の知識や経験があると話してる〝兄達〟がいる。俺はナミは知らなくて、でも昔から優秀だったしなんでも知ってたし、何でもできたよなと思い返す。

 それをボソボソと兄貴達に伝えれば、頭を撫でて聞いてやるよなんて笑ってくれるのだから、俺はもう、ここから離れるなんてできないだろう。ただ、今まではずっと先頭に居たのに、突然1番下の扱いをされてる事だけが、少し慣れないけどな。

 俺は今、優しい温もりに包まれて、微温湯の中を漂うような心持ちで過ごしている。俺の渇きは、日々少しずつ、潤って消えゆこうとしていた。

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